LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 流れ星のように

 

 

   ― ぼく、流れ星になるよ。みんなに幸福を与える、流れ星に・・・。

 

 

     空は青く澄んでいて、暖かな風がカーテンを静かに揺らしている。

   オレは・・・、ロン・フランクはPBハウスの中のマイルームを、久しぶりに掃除していた。

   ソフィに怒られたんだ。

   四人の中で、一番部屋が散らかっているのはオレだってね。さっさと片付けろってさ。

   はい、はい。わかりました・・・。

   渋々とオレは、部屋の中を片付ける。確かに散らかっている。

   ミツオの部屋はどうだろう?覗いてみたら、オレよりは片付いていた・・・。

   仕方ないね、真面目にやるか。

   オレは、まず床に散らばっている物をクローゼットの中やら机の上やらにのせる。

   その後、机の上を整頓。グシャッとなっているベッドも整える。

   さて、次は本棚かな・・・。オレは、バード星で使っていた参考書なんかを本棚から出し、床に置いた。

   奥の方に、随分ほこりがたまってる。前に掃除したのは、いつだっけ?

   そして・・・。

   オレは一冊の本に目が留まった。

   その本だけは、横倒しになっていた他の本とは違い、本棚の隅に大切そうに立ててあった。

   オレは、その本を手に取る。そう厚さはないが、かなり古くなっている。

   端が破れているのは、何度も何度も読み返した証拠だ。

   所々、擦り切れてしまっている表紙には流れ星の絵・・・。  

   星に目、口が付き、棒のような手足が伸びている。そう、幼児向けの絵本だ。

   オレは、それをそっと抱きしめた。

   『流れ星のナッちゃん』

   この絵本は、オレの宝物。小さい頃から、ずっとずっと大切にしてきた。

   今でも、時々本棚から出しては繰り返し読んでいる。

   だって、これはオレの夢であり、死んじゃったお兄ちゃんの形見でもあるんだから・・・。

   

 1、

  

   あれは、オレが四歳・・・、お兄ちゃんが七歳の頃だった。

   オレたちフランク一家は、アリルネという星で平和に楽しく暮らしていた。

   家族は父、母、兄、オレの四人家族。とても仲が良かった。

   夕食は父の帰りを待って、必ず四人一緒に食べた。そして、オレは家族に今日あった出来事を話す。

   皆、笑って聞いてくれた。幸せだった。

   オレのお兄ちゃん、ルイス・フランクはとても優しい人だった。

   いつもオレのそばにいて、遊んでくれた。

   しかしお兄ちゃんは小さい頃、病におかされ入退院を繰り返していた時期があったそうだ。

   退院した後のお兄ちゃんも、あまり体が丈夫な方ではなく、

   体調を崩して学校を休むことが度々あった。

   ロン「ねぇ、お兄ちゃん。外へ遊びに行こうよ。ねぇ。」

   ルイス「ロンは本当に元気だな。よし、行こうか。」

   オレは幼い頃から、外へ出るのが好きだった。家の中でじっとしているより、外で駆け回った方が楽しい。

   だから今でも、よく散歩に出て近くの空を飛び回っている。

   ミネルダの青空は、本当にきれいで心地よいから。

   ・・・と、話を戻そう。

   オレはお兄ちゃんの手を引っ張って、家の外に出た。

   しばらく歩いていたら、前方からいくつかの人影が近づいてくる。学校でお兄ちゃんが親しくしている、友達だ。

   体格がガッシリした男子が、お兄ちゃんの姿を見付けて声をかけた。

   「やぁ、ルイス。今から空き地に遊びに行くが、お前も来るか?」

   ルイス「あぁ・・・、ごめん。今日は弟と約束があるから。」

   お兄ちゃんは、いつもオレを優先してくれた。お兄ちゃんがそう言って断る度に、オレはつい嬉しくなった。

   オレたちが散歩に出るとき、目的地はいつも決まっている。

   家から少し離れたところにある、大きな公園だ。その公園には小高い丘があり、芝生に寝転がりながら

   空を見上げるのが好きだった。

   オレたち二人は、その芝生の上に倒れ込んだ。オレはお兄ちゃんに向かって、手をのばす。

   オレの小さな手を、お兄ちゃんは優しく握ってくれた。

   オレはそのまま、眠ってしまうことが多かった。帰りは大抵、お兄ちゃんの背中で揺られながら家に帰った。

 

 2、

 

   ある日、お兄ちゃんは学校の帰りに買ってきた絵本をオレにくれた。

   まだ四歳だったオレは、字が少ししか読めなかった。

   だから、お兄ちゃんが読んでくれた。二人でソファに座り、お兄ちゃんが買ってきた絵本を開いた。

   ルイス「流れ星のナッちゃん、という絵本なんだ。ロンもこれで、字が読めるようにしようね。」

   ロン「うん。」

   お兄ちゃんはオレがうなずいたのを確認すると、その絵本を読み始めた。

   さすがに幼児向けなので、字や絵が大きい。オレは、その絵を覗き込んだ。

   ルイス「あるところに、ひとつの流れ星がありました・・・。」

 

    その流れ星の名前は、ナッちゃんといいました。

   ナッちゃんは宇宙を旅して、人が住む星を見つけると、彼が持つ不思議なパワーで

   人々に幸せを与えました・・・―

 

   ロン「ねぇ、お兄ちゃん。流れ星のナッちゃんって本当にいるの?」

   全てを読み終えたとき、オレはお兄ちゃんにそう聞いた。

   お兄ちゃんは少し考えてから、

   ルイス「いるよ。世の中には沢山ね。ナッちゃんには、誰でもなれるんだ。ロンも、きっとなれるよ。」

   と、言った。

   ロン「本当!?ぼくもナッちゃんに、なれるの?」

   ルイス「勿論だよ。困っている人を見付けたら、迷わず救いの手をさしのべてあげるんだ。何よりも、人が喜ぶことを

        一番に考えるんだ。それが出来たら、誰でも流れ星になれるんだ。」

   ロン「じゃぁ、ぼく、流れ星になる!みんなを、幸せにしてあげる!」

   そう言うオレの目は、本当に輝いていた。小さな瞳には、希望が満ちていた。

   

   それから、何度も何度もお兄ちゃんに絵本を読んでとせがんだ。

   お兄ちゃんは、何度も何度も読んでくれた。

   お兄ちゃんが学校に行って家にいないときは、一人で絵だけを見ていた。

   ママにも頼んで、読んでもらった。

   いつの間にか、一人で字まで読めるようになっていた。一日に、十回は絵本を繰り返し読んだ。

   その度に、流れ星になると強く自分に言い聞かせた。

 

 3、

 

   ある日の朝。

   オレたち家族は、いつも通り四人でテーブルを囲み、朝ご飯を食べていた。

   ママの作る料理は何でも美味しい。皆、残さず食べる。

   ママ「ねぇ、ルイス。ご飯、食べないの?」

   しかし、その日は違った。

   お兄ちゃんの皿にのったご飯は、まだ手が付けられていなかった。

   ルイス「ちょっと・・・今、食欲がなくて。」

   ママ「どうしたの?体調でも悪いの?」

   お兄ちゃんは首を横に振った。

   ルイス「大丈夫、大丈夫。もう学校に行かなくちゃ。」

   そう言うとお兄ちゃんは立ち上がり、玄関に置いてあるスクールカバンを持って外へ出て行った。

   隣に座ってご飯を食べるオレには、お兄ちゃんの顔色が優れていないことがわかっていた。

   ママ「本当に大丈夫かしらね・・・。」

   パパ「医者にも、無理はしないようにと言われているしな。帰ったら、病院に連れて行くか?」

   ママ「それもいいけど・・・、もう少し様子を見ましょう。」

   オレも少々心配したが、深くは考えていなかった。

   ロン「ママー、飲み物おかわり!」

   ママ「あぁ、はいはい。ちょっと待ってね。」

   ママは話を中断し、オレのコップを持っておかわりをついできてくれた。

   オレは朝ご飯を食べ終わると、早速、絵本を取りだして読んでいた。

 

4、

 

      午後になると、お兄ちゃんが帰ってきた。

   ドアが開く音を聞くと同時に、オレは玄関に駆けだした。

   ロン「お兄ちゃん、おかえりー!」

   オレはお兄ちゃんに抱きついた。

   ルイス「ただいま、ロン。」

   お兄ちゃんはいつも通り、笑顔を返してくれる。

   ロン「ねぇ、今日も公園行こうよ。帰ってくるの、ずっと待ってたんだよ。」

   ルイス「え・・・、公園?ごめん、ロン。今日はやめよう。」

   ロン「えー!なんで!」

   オレはだだをこねはじめる。

   ロン「やだやだやだ!一緒に行こうよ!なんで駄目なの!」

   ルイス「ロン・・・。」

   ロン「ねぇ、お兄ちゃん!行こうってばぁ!」

   すると、お兄ちゃんは困った顔から、いつも通りの笑顔に戻った。

   ルイス「わかった。ロンのお願いはなんでもきくって、前に約束したもんね。行こう。」

   ロン「やったぁー!」

   オレはさらに勢いよくお兄ちゃんに抱きつく。お兄ちゃんの体が揺れた。

   ルイス「痛いよ、ロン〜。」

   ロン「エヘヘッ!」

   オレは小さく舌を出して、お兄ちゃんの手を引き玄関の外へ連れ出した。

   そして、いつもの公園へ向かう。今日の空は灰色で染まっていた。

   ロン「ねぇ、もっと急いでよ。」

   オレはもっと強引に、お兄ちゃんの手を引っ張る。

   ルイス「ロン、雨が降りそうだよ。」

   ロン「大丈夫だって。」

   しばらくして、公園についた。

   オレは手をはなし、小高い丘に向かって駆け出す。

   そして、やわらかい芝生の上に寝転がった。走ってきたため荒くなった息を整える。

   ロン「お兄ちゃん、やっほっ〜!」

   オレは立ち上がり、公園の入り口あたりに見えるお兄ちゃんに手を振った。

     お兄ちゃんが手を振り返したのを見ると、オレは丘を走り降りていく。

   ・・・と、途中で足をすべらせ転んでしまった。

   膝から、血がにじみでている。幼いオレは声を上げて泣きだした。

   それを見て、お兄ちゃんは慌てて駆け寄った。

   ルイス「ロン、大丈夫!?」

   ロン「お兄ちゃぁん・・・、痛いよぉ。」

   ルイス「ぼくが、おんぶしていくから。」

   お兄ちゃんは泣きわめくオレを背負い、よろよろと立ち上がった。

   ルイス「雨だ・・・。」

   空から、雨が降り出した。あっという間に激しくなる。

   お兄ちゃんは走って、家まで向かった。

   その足がいつもと違い、何だか頼りなくフラフラとしている。

   ロン「・・・お兄ちゃん。大丈夫?」

   ルイス「何が?」

   ロン「・・・何でもない。」

   オレはお兄ちゃんに背中に揺られ、冷たい雨を浴びていた。

 

   家に帰ると二人の雨に濡れた姿を見て、ママが急いでバスタオルを持ってきた。

   ママ「まぁ、まぁ、こんなに濡れちゃって!大丈夫だった?」

   オレはママに擦り剥いたところを消毒してもらった。

   ロン「あのね、公園についてしばらくしたら、急に雨が降ってきてね。お兄ちゃんにおんぶしてもらったんだよ。」

   ママ「そう。ルイスはもう体をふいた?風邪をひくし、今からお風呂に入る?」

   ルイス「うん・・・、やめとくよ。」

   そういうと、お兄ちゃんは自分の部屋に戻っていった。

   オレは濡れた体をふき終わると、いつもの絵本を持ってお兄ちゃんを追いかけていった。

   部屋のドアを開けると、お兄ちゃんは学習椅子に座り背を向けていた。

   オレは明るく話しかける。

   ロン「お兄ちゃん!絵本、読んで。」

   お兄ちゃんは、ゆっくりこちらに顔を向けた。

   ルイス「ごめん、ロン。今は無理だよ。ちょっと、体調が・・・。」

   ロン「読んでよ〜。」

   オレはふくれっ面をする。

   ルイス「ごめん、また後で。」

   ロン「お兄ちゃん、今日は断ってばかりだよ。お兄ちゃんはぼくの言うこと、何でも聞いてくれるんじゃなかったの?」

   ルイスは力の無い瞳でこちらを見ている。

   ロン「ねぇ、読んでってばぁ!」

   ルイス「・・・本当に、今は無理なんだ。わかってよ。」

   それを聞くと、オレはお兄ちゃんに向かってあかんべいをした。

   ロン「ふんっだ!ぼくの言うこと聞いてくれないお兄ちゃんなんて、大嫌いだよ!」

   そういうと、オレは部屋のドアを勢いよく閉めた。

   

   本当にオレは我が儘だ。

   何で・・・、何であんなことを言っちゃったんだろう・・・。

 

5、

 

    オレは目を覚ました。

   外を見ると、もうすっかり暗くなっている。

   お兄ちゃんの部屋から飛び出した後、昼寝をしていたんだ。

   オレは目をこすり、リビングを見渡す。この時間なら親がいるはずなのに、

   今は誰の姿も見えず、家はひっそりとしている。

   ロン「ママ、パパ。お兄ちゃん・・・?」

   孤独感に襲われて泣きそうになったとき、玄関のドアが開く音がした。

   それはパパだった。

   ロン「パパ!」

   パパ「あぁ、ロン。そろそろ起きる頃だと思って、帰ってきたんだ。」

   オレはパパの顔を見て、安心した。

   ロン「ねぇ、みんなでどこへ行ってたの?」

   するとパパはオレの肩をつかんでかがみ、目線の高さを合わせた。

   パパ「お兄ちゃんが体調を崩しちゃってね。病院に行ってきたんだ。」

   ロン「え・・・!?お兄ちゃん・・・、大丈夫なの?」

   パパ「勿論。今、お医者さんに診てもらっているから。」

   オレは小さくうなずいた。

   それからパパは夕食を作ってくれていたが、途中で一本の電話が入った。

   パパ「えっ・・・!何だって!」

   そばで絵本を読んでいたオレは、その声の大きさに少し驚いた。

   パパ「わかった。すぐ行く。」

     彼は慌ただしく電話を切ると、なべの火を止め、戸締まりの確認をしはじめた。

   ロン「パパ、どうしたの?」

   パパ「パパは今から病院に行くから。ロンも一緒に来なさい。」

   ロン「病院に?」

   パパ「そうだ。早く!」

   オレはよくわからないまま車に乗ると、パパの運転で病院へ向かった。

   四歳のオレには、病院というものは少し怖かった。

   パパの手に引かれて、病院の廊下を走り抜けていく。

   そして、ママの姿を見付けた。

   ロン「ママ!」

   ママ「あぁ、ロンも連れてきたのね。」

   ママは廊下に置かれているソファの上に座っていた。

     目の前の扉が開き、医者らしい人が出てくる。

   「お父様、いらっしゃいましたか。さぁ、こちらへ。」

   そう言って医者はオレたちを部屋の中に入れた。

   よくわからない機械が沢山置いてある。オレは物珍しさに、きょろきょろとしていた。

   パパとママの顔が何だか険しい。

   何がはじまるのだろう。

   「精密検査の結果、ルイスくんは・・・。」

   病名を含め多くのことは幼いオレには難しすぎて、ハッキリと覚えてはいない。

   しかし、こういうことだった。

   以前に治療した病気が再発したという。

   この病気は再発すると、治すのが大変困難になるらしい。

   もしかしたら・・・命にかかわるかもしれない。

   今日、走りながら雨に濡れて帰ってきた後、ママが部屋を覗いたとき、ルイスの異変に気付き、 

   慌てて病院へ運び込んだようだ。

   オレはお兄ちゃんが大変な病気になってしまったことだけはわかった。

   「我々医者一同、全力を尽くします。」

   ママが泣いている。

   パパも悲しそうな顔をしている。

   医者の説明が終わり、部屋を出た後もオレは親になかなか話しかけられなかった。

   

   オレはパパの運転で家に帰った。

   ママは病院に残っているという。

   会わせてもらえなかったが、お兄ちゃんは大丈夫なのだろうか?

   もし・・・死んじゃったら・・・。

   ロン「ねぇ、パパ?」

   オレは家に着いた後、黙っていたパパに話しかけた。

   ロン「お兄ちゃん・・・治るよね?」

   パパはしばらく間を置いた後、大きくうなずいた。

   パパ「勿論だよ。お兄ちゃんはロンをおいて、どこかに行ったりしないよ。」

   ロン「・・・うん。」

 

   しかし、そうはいかなかった。

   それから幾月か経って・・・。

   「全力を尽くしましたが、残念ながら・・・。」

   あの時のあの部屋で。医者は静かにそう告げた。

   その言葉を聞いた瞬間、パパまでも崩れ落ちた。ママは、手を顔を覆い、肩を震わせている。

   オレはわからなかった。

   何でそんなに悲しんでいるの?残念ながらって・・・どういう意味?

   しかし、何か悪いことなんだと感じた。

   

   ― お兄ちゃんは、どうなったの?

 

   ママとパパに聞こうと思ったが、とても聞けそうにない状況だった。

   それから医師は、何やら訳のわからない事をママとパパに話し始めた。

   オレは、全くわからずに、ただ不安そうな表情を浮かべていた。

   

   ― お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうなったの?助かったの?元気になったの・・・?

   

   それから、医師の話を聞き終わったママとパパは部屋を出た。

   オレは、少し落ち着いた二人に聞いた。

   ロン「ねぇ、お医者さんは何を言ってたの?残念ながらって、どういうこと?

      お兄ちゃんは、どうなったの?早く、会いたいよ・・・。」

   すると、ママはオレの方を向いて屈んだ。優しく肩に手を置いた。

   ママ「お兄ちゃんはね、神様のもとへ召されたのよ・・・。」

   ロン「神様?」

   キョトンとしているオレを見て、パパは静かにこう言った。

   パパ「ルイスは、死んだんだよ。」

   ・・・・。

   ママの頬に、大粒の涙が流れた。

 

   ― 死んだ。お兄ちゃんが・・・。死んだ・・・?

   

   ロン「何で、どうして?・・・嘘だ、そんなの嘘だぁ!」

   オレは叫んだ。しかし、ママは泣き止まない。パパは、首を横に振るばかりだ。

   ロン「嘘でしょ、冗談でしょ?ねぇ、本当のこと言ってよ!ねぇ!」

   パパ「止めるんだ!」

   ロン「・・・っ!」

   ・・・オレは、ひるんだ。パパは、黙って顔を伏せた。

   ロン「そんな・・・。」

 

   嘘だ、お兄ちゃんが死んだなんて・・・。

 

   ロン「嘘・・・だ。」

 

   どうして、お兄ちゃんは死んだの?何で?

   あんなに優しいお兄ちゃんが・・・。大好きなお兄ちゃんが・・・。

   どうして、死ななくちゃならないの?

 

   オレは声高く泣きわめいた。現実を、理解したのだ。

 

   そして、もう二度と会えないお兄ちゃんの笑顔を思い浮かべながら、自分を責めた。

   幼い心に、絶望が巣くった。

 

 6、

 

   それから、フランク一家は三人家族となった。

   いつまでも悲しんでいたって、ルイスは戻っては来ないし、それを望みはしない。

   そういう考えで、両親はなるべく明るく振る舞おうと努力している姿がみえた。

   その日は、お兄ちゃんの命日だったので、家族そろって墓参りに行った。

   お兄ちゃんのお墓は大きくはないが、ママが暇がある度に花を供えに行っていたので、綺麗ではあった。

   その日もママは、持ってきた花と古い花を取り替えていたっけ。

   オレたちは墓の前に立ち、静かに目を閉じた。

   ここにお兄ちゃんが眠っている・・・、永遠の眠りについている・・・。

   その時もまだ・・・信じられなかった。信じたくなかった・・・―

 

   あの時、オレが強引に公園へ連れ出したのが悪かったんだ。

   雨まで降ってきて・・・、オレを背負いながらお兄ちゃんを走らせて。

    どうして、体調が悪かったお兄ちゃんを気配ってあげられなかった?

   オレにもっと、優しさがあれば・・・。あんな、我が儘を言って。

 

   しかも。

   オレがお兄ちゃんに、最後に言った言葉は・・・。

 

   ― ぼくの言うこと聞いてくれないお兄ちゃんなんて、大嫌いだよ!

   

   大嫌いだよ!

 

   最低だ・・・。

   何で・・・、何で!何であんなこと言ったんだよ!

   本当は大好きなのに。この世で一番、誰よりも大切な人なんだ。

   お兄ちゃんはその言葉を聞いて、どう思った?

   嘘なんだよ、そんなの。ねぇ、お兄ちゃん・・・。聞いてよ・・・。

   会って謝りたい。

   大好きだって言いたい。悔やんでも悔やみきれない・・・。

 

   ロン「流れ星のナッちゃん・・・。」

   オレはお兄ちゃんからもらった本を強く抱きしめた。

   お兄ちゃんはいつだって、オレの頼みを聞いてくれたじゃないか。

   何回も何回も読んでくれた。これのおかげで、字も覚えた。

   人を幸せにしたいとも・・・―

   ロン「幸せ・・・に?」

   オレは絵本を開いた。人々が、ナッちゃんに笑顔で手を振っているページを見る。

 

   ― ねぇ、お兄ちゃん。流れ星のナッちゃんって本当にいるの?

   ― いるよ。世の中には沢山ね。ナッちゃんには、誰でもなれるんだ。ロンも、きっとなれるよ。

       ― 本当!?ぼくもナッちゃんに、なれるの?

   ― 勿論だよ。困っている人を見付けたら、迷わず救いの手をさしのべてあげるんだ。何よりも、人が喜ぶことを

      一番に考えるんだ。それが出来たら、誰でも流れ星になれるんだ。

   

   ― じゃぁ、ぼく、流れ星になる!みんなを、幸せにしてあげる!

 

   ロン「流れ星に・・・。」

 

   そうだ。ぼくは流れ星になろう。人々に幸せを与える流れ星になろう。

   お兄ちゃんと約束したんだ。

   ロン「お兄ちゃん、見ててよ。必ず、なってみせるから・・・。」

   オレは絵本を強く抱きしめた。

   あれは空耳だったのだろうか?

   その時、どこからか「頑張れよ。」というお兄ちゃんの声が聞こえたような気がしたのだ。

 

7、

 

   ロン「ラミー、急いで怪我人を病院に運ぶんだ!オレは、この落磐を処理する。」

   ラミー「わかったわ。」

   緑のマスク、青いマントを身につけた少年がいる。

   彼は落ちてきた岩をどかし、下敷きになっているバスから人々を救い出した。

   周りに人集りができている。その中の一人の男が、こう呟いた。

   「これが近頃、話題のパーマンか。まだ子供なのに、無償で人のためにつくすなんて誰にでもできることじゃ

    ないよな。」

   そう・・・。オレはパーマン1号に任命された。

   ある日、突然バードマンと名乗る宇宙人が現れ、オレにパーマンセットを手渡したのだ。

   パーマンの仕事は、決して楽ではない。

   苦しいことや辛いことは、沢山経験してきた。その中には、泣いてしまうほど悲しい出来事もある。

   今までそれを乗り越えることができたのは、いつも一緒にいてくれる仲間のおかげだった。

   パーマン2号。

   ラミーだ。赤いマスクに、緑のマント。そそっかしくて放っておけないけど、人の良い優しい子だ。

   ラミー「ロン、全員病院に運んだわ。そっちは大丈夫?」

   ロン「あぁ、これで終わりだ!」

   オレがパーマンに選ばれたのは、偶然だろうか?

   もしかしたら、天国のお兄ちゃんのおかげかもしれない。

   お兄ちゃんは、いつでもオレを見守っていてくれるんだろう。パーマンになったことは、夢への第一歩なんだ。

 

   そしてオレは見事に最優秀パーマンに選ばれ、バード星に次期バードマン候補として留学することになった。

   そこでも、多くの仲間に出会った。

   ミツオ、ルーシャ、ソフィという親友もできた。

   オレにとってバードマンになるということは、流れ星になるということなんだ。

   沢山の人に幸福を与えるんだ。宇宙の平和を守るんだ。

 

   お兄ちゃん、見ていてね。

   もうすぐ流れ星になるからね・・・―

 

   だから、

   いつまでもオレを見守っていてよね・・・―

 

 

   

   ソフィ「ロン!・・・ロン!」

   耳元でソフィの声がした。オレは慌てて、ベッドから飛び起きる。

   ロン「うわぁ、ソフィ!」

   ソフィ「全く・・・、静かだから真面目に掃除しているかと思ったらこれですね。ベッドに寝転んで、読書ですか。」

   ロン「あ・・・、いや。すみません。」

   彼女はため息をついて、部屋を見渡す。

   ソフィ「まだ片付いていないですね。すぐにやらないと、今夜の夕食はロンだけ抜きですからね。」

   ロン「はぁい!今やりま〜す!」

   オレは絵本を大切に本棚にしまうと、まずは床に置かれた本を片付けることからはじめた。

 

 
 
 
 
 

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