LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 9、Shall We Dance? 

 

  1、

 

    地球からミネルダに帰宅した、翌日。

   ミツオはネオに呼び出され、高速道路の事故処理を手伝っていた。

   ネオ「ふぅ〜、やっと終わった。疲れたなぁ。」

   マリンカ「お洋服が汚れちゃったわ。クリーニングに出さないと。」

   ミツオ「マリンカって、服が汚れる度にクリーニングしているの?」

   三人は警官からの礼を断って、現場を去った。

   警官「立派だな、パーマン達は。何の得にもならないのに、平和のために一生懸命になって。」

 

   マリンカ「ねぇ、さっきのお菓子詰め合わせを断ったのは、何だか惜しかったんじゃない?」

   空の上で。

   さきほど警官が勧めた、礼の品を思い出しながらマリンカが言った。

   ミツオ「パーマンは、お礼をもらっちゃいけないんだよ。」

   ネオ「我慢しなよ、マリンカ。後でぼくの家においで。おばさんからもらった、ケーキがあるよ。」

   マリンカ「本当?行く、行く。」

   彼女がご機嫌になったのを見て、ネオはホッと息をもらした。

   ネオ「そう言えば、ミツオくん。家族旅行は楽しかった?」

   ミツオ「旅行?」

   そういえば、地球に帰ることを家族旅行だって誤魔化したっけな・・・。

   ミツオ「あぁ、うん。」

   マリンカ「どこへ行ったの?お土産は?」

   ミツオ「どこでもいいだろ。お土産は・・・、忘れちゃった。」

   すると、またマリンカは膨れたようだった。

   ネオが「ケーキ。」と呟くと、彼女は「わかってるわよ。」と、笑顔を見せる。

   そして、ネオの家が見えると、彼はマリンカを引き連れて降りていった。

   ネオ「ミツオくんもどう?」

   ミツオ「あぁ、ぼくはいいよ。お疲れ様。」

   ネオとマリンカと別れると、ミツオはアロディーテに向かってスピードを速めた。

 

   しばらく飛ぶと、アロディーテが見えてきた。

   それと同時に、上空から見慣れた円盤が下降してきた。PBハウスに向かっているようだった。

   ミツオは大陸に着地する。円盤も、その横で音を立てて着陸した。

   ハッチが開き、ロリーナが出てきた。

   ロリーナ「あら、ミツオくん。いつもご苦労様。アレイスに行ってたの?」

   ミツオ「こんにちは。事故処理をしてきたところです。」

   ロリーナ「そう、精が出るわね。」

   ミツオ「いやぁ。さぁ、どうぞ。」

   ミツオはハウスの玄関を開けて、中に彼女を招き入れた。キッチンでは、ソフィが昼食の準備をしていた。

   ロンとルーシャはソファに座り、テレビを見ていたが、こちらに気が付いたようだ。

   ルーシャ「お帰り。ロリーナさんも一緒?」

   ロリーナ「こんにちは。変わったことはなさそうね。」

   ソフィはテーブルの上に皿を並べる。今日はクリームシチューのようだ。

   ソフィ「お昼が出来ました。ロリーナさんも、いかがですか。」

   ロリーナ「おいしそうね。遠慮なくいただくわ。」

   ミツオもパー着を外して、椅子に腰掛けた。美味しそうな香りが、部屋中に漂っている。

   テレビを見ていた二人もスイッチを切り、席についた。

   音楽が流れ出す。12時を知らせるために、時計から流れる音楽だ。

   ソフィ「では、いただきます。」

   5人は、スプーンを手にした。ソフィの作る料理は、何でも美味しい。

   だが、ほとんど地球料理だ。

   ロン「地球の食べ物にも慣れたけど、たまには母星の料理も食べてみたくなるんだよな。」

   シチューを口にしながら、ロンが呟いた。

   ソフィ「仕方ないですよ、ここは地球を模範にした星ですもの。地球の材料しか、手に入れることができないんです。」

   書店などで売られているレシピは、地球で作られる料理に似たものばかりだ。

   ソフィも、すっかり覚えている。

   ソフィ「今度は、わたしの星の料理でも作りましょうか。似たような材料で、何とかなるかもしれません。」

   ロリーナ「それにしても、本当に美味しいわ。腕を上げたわね、ソフィちゃん。」

   残り少なくなったシチューを飲み干して、ロリーナは皿を置いた。

   ルーシャ「ロリーナさん、今日はどうしたんですか?昨日会ったばかりですよね。何か急用ですか?」

   ロリーナ「あぁ、そうだったわ。今日はあなた達をPB倶楽部に誘いに来たのよ。」

   するとロリーナは、一通の招待状のようなものを取りだした。

   ロン「PB倶楽部って、何だ?」

   ロリーナ「架空惑星で実技テストを行っているPB達が集まって、より良い宇宙を目指すために会議をするのよ。

         その他にもゲームをしたり、パーティーをしたりと、結構楽しいものよ。こっちに来てから、他のPBと話す機

         会なんてなくなったでしょ。」

   ミツオ「へぇ、楽しそうだね。」

   ロリーナ「バード星本部が提供しているの。ふれあいの場を設け、PB達が意見やアイデアを出し合い、お互いを高めていく

         のが目的よ。参加、不参加は自由。どうする?」

   4人は顔を見合わせた。決まっている・・・−

   ルーシャ「勿論、参加します。」

   ロリーナ「そう言うと思ったわ。じゃぁ、早速本部に報告してくるわね。第一回目の集まりは、明後日の午前よ。

         その日は各グループのリーダーだけが参加するの。」

   ミツオ「え、ぼく達は駄目なんですか?」

   ロリーナ「リーダーがこれからの活動内容の会議を行うのよ。行き帰りは、私が円盤で送っていくわ。会場は、架空惑星ルーバよ。」

   ロリーナはソフィを見た。彼女は小さくうなずく。

   ソフィ「わかりました。」

   ロリーナ「じゃぁ、私はこれで。これから仕事があるしね。詳しいことは、明日お知らせするわ。」

   彼女は「ごちそうさまでした。」と言うと、円盤で帰って行った。

 

 2、

   

   翌朝、PBハウスにロリーナからのメッセージが届いた。

   PB倶楽部のことを詳しく紹介した、パンフレットのようなものも同封されていた。

   ソフィはそれを開く。

   ★ ★

   《PB倶楽部 第一回活動内容》

   架空惑星ルーバにて、開催。各グループのリーダーの出席とする。

   ・・・(略)・・・

   PB達のふれあいの場を設け、互いに意見交換を行うことで、より平和な宇宙を目指す。

   提供 バード星PB管理局本部

   ★ ★ 

   ソフィ「これからの活動内容についての会議・・・。そう難しいことでは、なさそうですね。」

   大まかなことはロリーナが説明してくれている。ソフィはパンフレットを閉じて、机に置いた。

   

   そして、また一つ夜を越した。

   朝早く、ロリーナの円盤がアロディーテに着陸する。倶楽部に出席するソフィを迎えに来たのだ。

   ソフィはPBハウスの外に出た。いつもの制服姿に、小さなバックを手から提げている。

   中身はメモや筆記用具だ。

   彼女に向かって、ロリーナが手招きしている。

   それを見て、ソフィは見送りに来たミツオ達の方を振り向いた。

   ソフィ「では行ってきます。お昼には帰れそうですから。」

   ロン「でないと困るぜ。オレ達三人とも、まともに料理できないんだから。」

   ルーシャ「羨ましいわ〜。あたしも行きたかったな。」

   ソフィ「二回目からは、一緒に来られますよ。」

   そう言うと、ソフィはロリーナの円盤の中に乗り込んだ。上昇していく機体の中で、こちらに手を振るミツオ達を見る。

   大地が遠くなっていく中、ロリーナは円盤を操縦した。

   ロリーナ「さぁ、もうすぐワープに入るわよ。」

   そして、目の前は超空間に切り替わった。

 

   ワープを抜けると、窓から一つの惑星が見えた。青い星だ。

   これがルーバなのだろう。

   円盤は、徐々に大地に近づいていく。しばらくすると、ソフィは一つの小さな島を発見した。

   広い海の中にポツンと、存在している。緑が豊かで、美しい島だ。

   そこには大きな白い建物が一つだけ建っていた。その大きさは、かなりのものだ。

   それを囲むように並べられた、多数の円盤。倶楽部に参加するPB達のものだろう。

   その中に、ロリーナの円盤も着陸した。

   ロリーナ「さぁ、降りて。この建物が会場よ。この星には、関係者以外の人は住んでいないのよ。倶楽部の会場のための星なの。」

   そう言うと、ロリーナは会場に向かって進み出した。ソフィも後に続いた。

   間近にみるほど、迫力を増すこの建物。

   玄関の自動ドアが開くと、二人は中に進んだ。中のつくりも豪華だ。

   絨毯、シャンデリア、大型テレビは、一流ホテルを思わせる。

   ロビーのような所には、大勢のPBやバードマン達が集まっていた。

   ロリーナはエレベーターに乗り込んで、5階のボタンを押した。ソフィはこの建物が何階まであるか確認しようとしたが

   途中で5階についてしまった。

   二人でエレベーターから降りる。そこは、会議室のようなところだった。

   広いテーブルが中央に置かれ、サイドの椅子には大勢の人達が腰掛けている。

   その中の一つに、ソフィは勧められた。

   ロリーナ「もうすぐ、会議が始まるはずよ。終わる頃に迎えに来るからね。」

   ソフィ「わかりました。ありがとうございます。」

       そう言うと、ロリーナはエレベーターまで戻り、↓ボタンを押した。

   しばらくして、エレベーターの扉が開く。その中には、少年少女の二人が乗っていた。

   彼らはそこから降りてロリーナとすれ違い、こちらに進んでくる。

   しばらくして、ロリーナを乗せたエレベーターの扉が閉まった。

   PBと考えられる少年、少女。ソフィの視線が少年に釘付けになった。

   すると、そちらもソフィに気が付いたようで、軽く手を振ってきた。ソフィは慌てて視線をそらす。

   しかし遅かったようだ。彼は、ソフィの隣の椅子に腰を下ろした。

   少年「隣、いいかな?」

   既に、座っているのに・・・。

   ソフィ「えぇ、どうぞ。」

   ソフィは笑顔を作った。そして、彼を見つめる。

   整えられた、グリーンの髪。海のように透き通るブルーの瞳。その瞳の中に、ソフィは吸い込まれてしまいそうだった。

   一言でいうと、『美形』だ。ソフィが今までに見たこともないほどだった。

   彼もまた、ソフィを見つめている。すると、満足そうな笑みを浮かべた。

   少年「やっと見付けた・・・。」

   彼は小さな声で呟いた。ソフィには、聞こえなかったようだ。

   少年「君は、どの架空惑星から来たの?ぼくは、ミカリスからさ。」

   ソフィ「ミネルダですけど・・・。」

   少年「へぇ、頭文字が一緒だね。」

   ソフィは微笑した。

   エディ「ぼくはエディ・ロット。エディって呼んで。君の名前は?」

   ソフィ「ソフィ。ソフィ・アイリスです。」

   エディ「へぇ、ソフィちゃんか・・・。君、可愛いね。」

   ソフィは驚いた。エディは微笑みながら、こちらを見つめている。

   彼のブルーの瞳の中には、自分の姿が映されている。顔を合わせているのが、急に恥ずかしくなった。

   エディ「名前、似てるよね。ソフィとエディって。」

   ソフィ「そうですかね・・・。」

   エディ「そうだよ。担当惑星の名前まで似ているし、なんだか運命感じるよね。」

   ・・・・?

   ソフィ「は?」

   エディ「感じる!君こそ、ぼくの運命の人だ!」

   ・・・・えぇ!?

   ソフィ「えっ、あの・・・。」

   少女「ちょっと、エディ!」

   すると、エディの隣の椅子に座っていた少女が、我慢できないというように立ち上がった。

   そして、エディとソフィの間に割ってはいる。その表情は、眉がつり上がり、ビリビリとしていた。

   少女「黙って聞いていれば・・・。何が運命の人よ!あたしは、どうなるのよ!」

   エディ「ラナ、落ち着いて。」

   少女「これが落ち着いて、いられますか!ナンパしてんじゃないわよ!」

   エディ「ナンパなんて、人聞きの悪い・・・。」

   ラナの呼ばれた少女は、ソフィの方を睨んだ。ソフィはひるむ。

   彼女は空色の髪に、緑の瞳。そして薄黄色のカチューシャを身につけている。

   ラナ「あなた、ソフィって言うんでしょう。勘違いしないでね。彼は冗談で言ってるのよ。」

   ソフィ「はぁ・・・。」

   ・・・最初から、誰も本気にしていない。

   エディ「冗談じゃないよ、ぼくは長年探し求めていた理想の女の子を見付けたんだ。可愛くて、おしとやかで、少し控え

        目で・・・。そんな子を、ぼくは夢見ていたんだから。」

   ・・・・。

   ― 初対面でいきなりそんなこと言われても、何と反応すれば良いのか・・・。 

   エディ「それよりラナ、君はここに居たら駄目だよ。リーダーでもないんだから。」

   すると、ラナはおとなしくなった。それを見て、エディは安心する。

   ソフィ「ラナさんは、リーダーではないんですか?」

   エディ「ぼくたち同じ星で、テストしているんだけど、一緒に行きたいってうるさいんだ。ほら、もう会議が始まるよ。」

   エディは、エレベーターを指さした。

   同時に、天井のスピーカーから会議開始のアナウンスが流れた。

   仕方なく、ラナは部屋を後にする。「エディ、あまり変な事しないでよね。」と、言い残して。

   彼女はかなり動揺しているように、ソフィには見えた。

   しばらくすると、エレベーターから一人のバードマンが入ってきた。

   この人を中心に、PB倶楽部の活動は進められていく。そう、パンフレットに書いてあったのをソフィは思い出した。

   そのバードマンは、中央の椅子の前まで来た。

   視線が自分に集まるのを確認すると、ようやく口を開く。

   バードM「ようこそ、PB倶楽部へ。」

   まずはあいさつ。倶楽部活動を行う、目的。各星リーダーの自己紹介を済ませ、その後、今後の活動についての会議

   が行われた。   

   エディは途中で何度もソフィに話しかけたが、彼女はあいまいな返事を返すだけだ。

   ソフィは、会議で話し合われたことをメモに取った。

   第二回目の活動は、パーティーに決まった。まずは、PB同士がふれあうことだ。

   場所は、この建物(PB倶楽部会場)だ。

   12階に、大ホールがあるという。そこで、ダンスや料理を楽しみながらPB達の仲を深めていくのだ。

   時は、4日後。衣装は自由。

   エディ「ねぇ、ソフィちゃん。ぼくと一緒に踊らない?」

   ソフィ「・・・考えときます。」

   それでもソフィは、笑顔を返した。

   それから細かな事が決められた後、会議は幕を閉じた。

   エディとソフィが一階のロビーまで降りてくると(勿論エディが強引に、ソフィの手を取って)、ソファーで待っていたラナ

   が慌てて駆け寄ってきた。

   ラナ「エディ、ようやく終わったのね。どうだった?」

   そう言いながら、ラナはソフィを冷たい視線で睨んだ。

   エディ「二回目の活動はダンスパーティーだよ。4日後にね。」

   ラナ「ダンス?エディ、あたしと踊りましょう。」

   すると、エディはソフィを見た。

   エディ「悪いんだけど、ソフィちゃんと約束したんだ。」

   ソフィ「まだ決まったわけじゃありませんよ。エディさんは、ラナさんと踊ったらどうですか?」

   エディ「エディでいいのに。」

   それを聞いたラナは、エディの腕を強く引っ張った。

   ラナ「あたしと踊りましょうよ!今、約束したわよ。」

   エディ「強引だよ。」

        ソフィ「わたしは他の人を探しますから。お構いなく。」

   そう言うと、ソフィは逃げるように会場の外に出た。ロリーナの円盤を探す。

   ちょうど、ルーバに到着したようだ。彼女はロリーナに円盤のハッチを開けてもらい、慌てて乗り込んだ。

   ― もう、もう・・・!ビックリした。

   エディはその円盤が飛び立つのを見送り、息をこぼす。

   エディ「ソフィちゃんて、本当に素敵だよね。ぼくの理想通りの子だ。絶対ぼくのものにしてみせるよ。」

   ラナ「もう、エディのバカ!あたしとは、バード星に留学した時からの付き合いのくせにー!」

   

 3、

 

   ルーシャ「ねぇ、ソフィ。似合うかしら?」

   ダンスパーティー当日。ルーシャは着こなしたパーティードレスの裾を持ち上げ、ソフィに見せた。

   ソフィも衣装に着替え終わると、鏡の前で髪を整えた。

   ソフィ「気合いが入りすぎているんじゃないですか?こんなドレス・・・。」

   ルーシャ「このくらいはしなくちゃ、素敵な男が寄ってこないわよ。ソフィ、似合っているじゃない。」

   ソフィ「そうですかね・・・。」

   桃色を基調としたソフィのドレス。ソフィはエディを思い浮かべた。

   ― また何か言われそうですね・・・。

   ルーシャは青のドレスの裾を振り回して、ご機嫌そうだった。

   身支度を整えると、二人はミツオとロンが着替えているミツオの部屋に移動した。

   ドアを開けると、タキシード姿のミツオとロンが見えた。二人はこちらに気づき、慌てて後ろを向いた。

   ルーシャ「何を照れてるのよ。二人とも格好いいわよ!」

   ロン「ったく、もぉ−!どうして、タキシードなんか着なくちゃならないんだ!」

   ルーシャ「パーティーだもの。それこそ、男の正装よ。」

   ミツオとロンは、静かに前を向き直した。彼らは二人のドレス姿に、目が釘付けになる。

   ルーシャ「似合う?」

   ロン「う〜ん・・・、ソフィは似合う。」

   爆発しそうなルーシャの怒りを、ソフィは何とか宥めた。

   ミツオ「それにしても、こんな格好するのは初めてだよ。今、日本ではダンスパーティーなんて、滅多にやらないからね。」

   ルーシャ「そうなの?あたしの星では、盛んに行われていたわ。」

   ソフィ「文化の違いですよね。」

   ミツオは自分のタキシード姿を鏡に映した。似合っているのか、複雑な気持ちだ。

   だが、少しだけ胸が弾んでいた。

   ルーシャ「さぁ、忘れ物はない?そろそろ、ロリーナさんの円盤が到着するはずよ。」

   そう言うと、彼女に続いてミツオとソフィも部屋を出た。だが、ロンがなかなか出てこない。

   ルーシャは部屋に戻ると、隅で座り込んでいるロンの腕を力強く引いた。

   ルーシャ「何やってんのよ!早くしなさいよ。」

   ロン「こんな姿、嫌だよ。いつもの制服で行きたい・・・。」

   ルーシャ「門前払い、食わされるわよ。大丈夫、とってもカッコイイから。」

   すると、ロンは顔を上げた。ルーシャは微笑む。

   ロンは自分の姿をもう一度確認すると、ルーシャと共にPBハウスを出た。

   もうロリーナの円盤は、アロディーテに着陸していた。

   ロリーナ「まぁ。ロンくん、ルーシャちゃん。似合ってるわね。」

   二人の姿を見て、ロリーナは言った。そして、五人はPB倶楽部会場に向かった。

 

     今日の会場の雰囲気は、ソフィが前に来たときとは違っていた。

   ロビーには、パーティードレスを着飾ったPBやバードマンの姿がある。

   初めて来た三人は、この建物の大きさに、やはり驚いていた。

   ロリーナ「ここの12階だったわね。もう始まっているはずよ。」

   五人はエレベーターに乗った。静かに、上昇していく。

   しばらくして、エレベーターがわずかに揺れるとドアが左右に開いた。

   ミツオ達はロリーナの後に続いて、エレベーターを降りる。広い廊下をしばらく歩き、大きな扉の前まで来ると、ロリー

   ナはそれを両手で開けた。

   ミツオ「わぁ・・・。」

   ミツオは思わず声をこぼした。

   目の前には、一目では見渡せない広いダンス会場が広がっていた。PB達が音楽に合わせ、男女同士手を取り合っ

   て踊っている。中央のテーブルには、何とも豪華な料理が並んでいた。

   ミツオ「何か、地球の昔の外国にタイムスリップしたみたい・・・。」

   ルーシャ「素敵、こんなに豪華なダンスパーティーは始めてよ!」

   ソフィ「本当ですね。」

   ミツオは料理を見付けると、それを目指して駆け寄っていった。

   会場中に漂う美味しそうな香りに、我慢できない。ミツオはホットケーキのようなものを見付けると、皿に取って頬張った。

   ミツオ「うわ〜、美味しい!最高だ。」

   それを見て、呆れるルーシャ、ソフィ、ロリーナ。それを見たロンも、ミツオの方に駆けだした。

   ロン「オレの星の料理が沢山!うわぁ〜、懐かしいな。」

   彼も皿を取り、目の前に並べられた料理に次々と手を出していった。

   同時にため息をこぼす、女達。

   ルーシャ(ダンスどころじゃないわね・・・。)

   

   エディ「ソフィちゃーん!」

   すると、向こうの方から美声が聞こえてきた。ルーシャとロリーナは、ソフィに視線を移す。 

   そして駆け寄ってきたタキシード姿の美少年をも、確認した。

   エディだ。彼はソフィの手を取った。

   エディ「ぼくと踊っていただけませんか?」

   ルーシャとロリーナの冷たい視線、エディの期待と喜びに溢れた視線が彼女を襲う。

   ソフィは、とりあえず手を引っ込めた。

   ラナ「エディ!」

   すると、今度はラナが駆け寄ってきた。引きずってきたパーティードレスを整え、エディの腕を取る。

   ラナ「エディ!まだ、あたしとのダンスの途中よ。」   

   エディ「続きは後にしてよ。こんなに可愛いソフィちゃんをフリーにしておくと、大勢の男が寄ってきて厄介なことになるからね。」

   ラナ「エディのバカ!」

   ソフィはその場から離れようとしたが、ルーシャに肩をつかまれた。

   ルーシャ「どういうこと?説明してよ。あの美少年は誰?」

   ソフィ「・・・・。」

   エディ「ソフィちゃん、ぼくと一緒に!」

   ラナ「エディの相手は、あたしだけなんだから!」

   ルーシャ「ソフィ!」

   その様子を見たロリーナは、巻き込まれないように会場を後にした。

   エディ「約束したよね。さぁ、次の曲が始まるから。」

   すると、エディはソフィの腕を抱え込んだ。

   ソフィ「エ、エディさん!放してくださいよ・・・!」

   悲痛なソフィの叫びは、パンを頬張っていたロンの耳に入った。彼女の方を見てみると、見知らぬ男がソフィを襲って

   いる(ように見えた)。

   ロン「フォフィ(ソフィ)!?」

   ロンは慌てて彼女に近寄ると、片手でエディを突き放した。エディは突然やって来たロンに、驚いていたが、すぐに冷

   静さを取り戻した。

   ロン「フォイ、オファエ!ファニ、ヤッフェフゥンファヨ〜!」

   エディ「・・・すまないが、共宙語で話してくれないか?」

   するとロンは口の中のパンを、慌てて呑み込んだ。

   ロン「おい、お前!何、やってるんだよ〜!」

   エディ「何って、ダンスに誘おうとしただけじゃないか。ねぇ、ソフィちゃん。」

   エディにそう言われ、ソフィは視線をそらす。

   ロン「ソフィが嫌がっているだろう。誰だか知らねぇけど、ソフィに変なことするなよな。」

   エディ「・・・そう言う君は、誰?」

   彼は厳しく痛々しい目つきで、ロンを睨んだ。しかし、ロンはそんな睨みにも動じない。

   ロン「オレは、ロン。ロン・フランク。」

   エディ「ぼくはエディ・ロット。ソフィちゃんの彼氏になるんだ。」

   ソフィ「なりません。」

   会話を聞いていたソフィが、キッパリと否定した。

   エディ「意外に、強気だね。でも、そんなところも可愛いな。」

   ソフィは言葉をつまらせた。

   エディ「それにしても、君みたいな奴がソフィちゃんとね・・・。悪いけど、釣り合わないな。」

   ロン「・・・?」

   エディ「その左手に持っているもの。」

   ロンは、自分の左手を見た。パーティー料理が、皿に山盛りに積まれている。ロンは慌てて、背中に隠した。

   エディ「残念だけど、ソフィちゃんはぼくのものにする。君から奪い取ってみせるよ。」

   ロン「ちょっと待った!別に、ソフィはオレのものじゃないし・・・。」

   ルーシャ(ソフィは、ミツオくんのものにする予定なのに。)

   ルーシャは、何も気付かず豪華料理を楽しんでいるミツオを見て、深いため息をついた。

   ロン「でも、ソフィが嫌がるなら容赦しないぞ。」

   エディ「いいとも。全力で戦おう。」

   妙な雰囲気になってきたのを見て、ラナとルーシャは首をすくめる。

   その間に、ソフィはどこかへ避難していた。

   ラナ「ねぇ。話が済んだなら、あたしと一緒に踊りましょう。」

   二人の間に割り込んで、ラナはエディに笑顔を向けた。

   エディ「えっ、でも。」

   ラナ「いいから。」

   そう言うと、ラナはエディを引っ張って二人から離れた。これ以上、厄介なことになったら困るからだ。

   残されたロンとルーシャは、顔を見合わせる。

   ルーシャ「あそこまで必死になることないでしょ。ロンって、ソフィに気があるの?」

   ロン「ま、まさか!冗談きついぜ。あれは・・・、その。物の弾みと言うか・・・。」

   ルーシャ「わかったわよ。ねぇ、あたしと踊らない?」

   すると、ロンは浮かない顔をした。

   ロン「無理だよ。踊り方がよくわからない。」

   ルーシャ「ロンの星には、ダンスパーティーはなかったの?」

   ロン「あるけど、余り出席したことがないんだ。」

   しかし、ルーシャはロンの手を握った。

   ルーシャ「安心しなさい。あたしがサポートしてあげるから。ね?」

   ロン「・・・。」

   今まで流れていた曲が終わり、次の曲へと移り変わった。

  

   ラナ「ねぇ、あんなこと言っちゃって。本気なの?本当にソフィちゃんに一目惚れしたの?」

   ダンスを踊りながら、ラナはエディに尋ねた。

   彼はうなずく。

   エディ「勿論だよ」

   ラナ「・・・。」

   彼女は突然足を止めた。エディの手を放すと、「のどが渇いたから、飲み物を持ってくるね。」と言いその場を離れた。

   ラナが飲料コーナーに来ると、ココアを汲んでいたソフィに気が付いた。

   ラナ「ここにいたの、ソフィ。」

   するとソフィもラナに気が付き、ココアの入ったコップをテーブルに置いた。

   

   ラナ「あたし達、バード星に留学してすぐに知り合ったの。」

   会場の隅で。

   ラナとソフィは壁にもたれながら、さっき汲んできた飲み物を飲んでいた。

   ラナ「留学一日目。あたしは食堂で、ジュースをこぼして困っていたの。その時、エディは親切にハンカチを出して

   拭くのを手伝ってくれた。一目惚れしたわ。同じグループになったときは、本当に嬉しかった。

   でもエディは格好良いから、あたしの他にも沢山の女の子が寄ってきたわ。

   ソフィは知らないわよね?ずっとクラスが違ったものね。

   あたしはエディに振り向いてもらえるように、頑張った。でも、彼はちっとも、あたしに興味を示さない。

   いつも言ってたわ。

   運命の相手が早く見つからないか。ぼくのハートを揺さぶる、素敵な人が現れないかって。

   やっと見付けたのね。ソフィちゃんを・・・。」

   ソフィ「・・・。」

   ラナ「あたしなんか、どうせ美人じゃないし理想の女の子じゃないのよね。今までずっと、そばにいたのに。」

   ソフィ「そんなことないですよ。ラナさんはエディさんの色々な面を知っているんでしょう?エディさんも、わたしより

       ラナさんと一緒にいた方が良いのに。」

   ラナ「そういう人なのよ、エディは・・・。」

   ソフィは、黙り込んだ。

   ラナ「でも、エディのことが好きなのには変わりないわ。絶対に、振り向かせてみせる。あなたなんかよりも、あたしの

      方が、ずっとエディのことを知っているんだから。」

   そう言うと、ラナはエディのもとへと走っていった。

   ソフィは空になったコップの中に、そっと息を吹き込んだ。

   ミツオ「どうしたの。」

   ソフィは顔を上げた。ミツオが目の前に立っている。

   ソフィ「いえ、何でもないんです・・・。ミツオさんは、誰かと踊りましたか?」

   ミツオ「エヘヘ、まだ・・・。食べるのに必死になっていたら、いつの間にか、みんなの姿が見えなくなってさ。

       ようやくソフィを見付けたんだ。」

   ソフィ「そうですか・・・。」

   彼女はコップをゴミ箱に捨てると、ドレスの裾を持ち上げて一礼した。

   ソフィ「一緒に踊っていただけますか?」

   ミツオ「えっ、ぼくと?・・・自信はないけど、ソフィがそう言うなら。」

   彼の笑顔を見て、ソフィの心が落ち着いた。

   − 本当は、男から誘うものなのに・・・。

   と、心の中で密かに呟きながらも。

 

   ルーシャ「痛いっ!ちょっと、足を踏まないでって言っているでしょう!」

   ロン「ルーシャが、強く引っ張りすぎるんだよ!」

   ワン、ツー。ワン、ツー・・・。

   ルーシャのつま先が、軽やかにステップを踏む。しかし、上手く踊れないのはロンの所為だ。

   ルーシャ「ほら、右足出して。・・・もう、違うってば!」

   ロン「うるさいなぁ。慣れてないって、言ってるだろ。こういうの苦手なの。」

   すると、ロンは足を止めた。

   ルーシャ「練習しなくちゃ、上手くならないわよ。」

   ロン「でも、周りを見てみろよ。」

   そう言われ、ルーシャも動きを止める。二人の周りで踊っている人が、こちらを見て小さく笑っていた。

   しかし彼女と目が合い、慌てて顔を伏せている。

   ルーシャ「失礼しちゃうわね。」

   ロン「もう止めよう。なんだか、自分たちが惨めに思えてくる・・・。」

   仕方なく、ルーシャもその場を離れた。

 

   『もうすぐ、終了のお時間です。』

   約3時間が経過し、アナウンスが流れた。PB達も、踊り疲れた感じがある。

   ミツオ達も、エレベーターの前に集合した。

   勿論、エディとラナも一緒だ。

   エディ「今日はソフィちゃんと踊れなくて残念だったよ。ラナが、放してくれないんだ。」

   ラナ「エディに寄ってくる女の子を退治するのに、忙しかったわよ。」

   ラナは鼻を鳴らす。するとルーシャが、何かに気付いたようで彼らに問いかけた。

   ルーシャ「あれ、あなた達の仲間はいないの?4人で1グループでしょう。」

   エディ「たぶん、どこかで楽しく踊っているさ。」

   見知らぬ二人を見て、ミツオはこっそりとロンに尋ねる。

   ミツオ「ねぇ。この子達、誰?」

   ロン「あぁ、ミツオは知らなかったか。エディだよ。ソフィのことを好きらしいんだ。そして、エディのお守り役であるラナ。」

   彼の声のトーンが、いつもより低い。

   ミツオ「好き?ソフィを・・・。へぇ。」

   エディは、ソフィに手を出した。

   エディ「またの機会に、是非。」

   ソフィ「・・・・。」

   ソフィが仕方なしにエディの手を取ろうとすると、ラナが彼の手を力強く引っ張った。

   ラナ「さぁ、帰りましょうね。皆さん、さようなら。」

   エディ「ちょっと、ラナ!あっ、ロンくん。ぼくの知らない間に、ソフィちゃんをいじめたりするなよ。」

   ロン「誰が!」

   ラナ「はいはい、お話は終わりだからね。」

   喚くエディを連れて、ラナはエレベーターに駆け込んでいった。

   その様子を見て、ミツオは思った。

   − 女は恐ろしい・・・。

   

   それからロリーナの円盤で、ミツオ達はミネルダに戻った。

   夕食を食べながら、雑談を交わす。

   ミツオ「うわ〜、ハンバーグだ。美味しいねぇ、これ。」

   ロン「あんなに食べたのに、まだ入るのかよ。」

   ルーシャ「それにしてもさ。エディって子、変わってるよね。出会ってすぐのソフィに、あんなに夢中になるなんて。」

   ソフィ「その話はやめてくださいよ・・・。」

   ミツオ「一目見て、キザな奴って思ったよ。」

   ルーシャ「ロン、どうする?ボヤボヤしてると、ソフィを取られちゃうわよ。」

   ロン「・・・な、何でオレに言うんだよ。なぁ、ミツオ。どうする?」

   ミツオ「えっ。ぼくに聞かれても・・・。あまり、状況がわからないんですけど。」

   ソフィ「もう、やめてください!」

   そう叫んで、ソフィはミツオの方に視線を移した。

   彼は、何でもないように笑っている。顔を伏せると、フォークをテーブルに置いた。

   ソフィ「ごちそうさまでした。」

   そして自分の部屋に入って、鍵を閉めた。窓ガラスを開け、夜空を見上げる。

   

   困りますよ、わたし。

   わたしが好きなのは、ミツオくんなのに・・・。

   でも、ミツオくんにはパー子さんという恋人がいる。それを知ったときは、悲しかったです・・・。

   顔には出しませんでしたが。グッとこらえていましたが。

   どうせミツオくんとは結ばれないなら、エディさんの気持ちを素直に受け止めるべきですか?

   ラナさんが許さないでしょうけど・・・。

 

   カーテンが風に揺られ、そっとソフィの体を包み込んだ。

   

                 

inserted by FC2 system