LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

  

6、地球への帰還

  

 1、

 

   ロリーナ「すぐに出発するから、準備を整えてね。5分以内に!」

   「はーい!」

   4人は返事をすると、各部屋に慌てて入っていった。

   ミツオはクローゼットから大きめのカバンを取りだし、荷物をまとめる。

   ミツオ「服はいいよね。パーマンセットも、持って行こう。他には、えっと・・・。」

   ロリーナ「あと2分、1分59、58・・・。」

   部屋の外で、ロリーナのカウントダウンが聞こえる。ミツオはとりあえず周りにあるものを詰め込み、カバンのチャックを

   閉めた。

   そして、窓の外を見る。今日は雲一つ無い晴天・・・―

   ミツオ「ネオとマリンカ、ぼくがいなくても大丈夫かな・・・。」

 

   ― 平気、平気。あたしたちに、任せといてよ!

   ― お土産忘れずにね!

 

   PBであることを秘密にしているので、本当の事は言えない。

   ミツオは家族と旅行に行くことにしておいた。

   二人は笑ってそう返してくれたが、やはり不安だった。しかし―

   ミツオ「・・・よそう。そんなこと気にしてたら、折角の休暇が台無しだよ。それに、たったの二日間だけだしね。」

   やっと地球に、帰れるんだから―

 

  朝早く、ロリーナがPBハウスを訪れた。

  彼女はバード星本部からの命令で、地球のアフリカに行かなければならないという。

  そこで、ついでだがミツオを日本へ連れて行ってくれるというのだ。(ロン達も、ついてくることになったが・・・。)

  彼らが地球にいられる時間は、2日間。

  帰りは、またロリーナの円盤に乗せてもらう。

 

  ミツオ「みんな、元気にしてるかな・・・。」

  留学5年目で、やっと再会の夢が果たせるのだ。

  ミツオは喜びと期待に溢れた感情を、抑えきれなかった。

  ミツオ「ミッちゃん、さらに可愛くなってるだろうな。カバサブは、相変わらず入れ歯トークで盛り上がってるのかな。

       それと・・・。」

  パー子・・・。

  ミツオ「まず始めに、何て言えばいいんだろう。久しぶりだね、元気かい?・・・これだけじゃ、怒られるかな。」

  ― キミのこと、毎日考えてたよ。

  ― ぼくがいなくて、寂しかっただろ? さぁ、この胸に飛び込んでこい!

  ミツオ「なーぁんて! ぼく、何考えちゃってんだか、もう!」

  自分で妄想して、自分で突っ込むミツオ。

  すると。

  ロリーナ「ミツオくん。もう、とっくに5分を過ぎたわよ。準備は出来た?」

  ミツオ「あっ、え。はい!バッチリです!」

  驚いたミツオは、慌てて舌をかみそうになった。カバンを手に持つと、部屋を後にする。

  外に出ると、ロリーナの円盤の前で3人が彼を待っていた。

  ロン「遅いぞ、ミツオー!」

  ミツオ「ゴメン、ゴメン。じゃぁ、行こうか。」

  全員、円盤に乗り込む。

  4人は席につくと、シートベルトをしめる。ロリーナは、操縦席についた。

  ロリーナ「全員、乗ったわね。では、地球に向けて出発します。」

  ミツオ「はい。」

  彼がうなずいたのを確認すると、ロリーナはレバーを引いた。

  音を立てて、円盤がゆっくりと上昇する。

  ロリーナ「しっかり、つかまっててね!」

  すると―

  体が浮き上がり、たたき付けられているような感覚がした。4人は目をつぶる。

  その感覚はしばらく続いたが、ロリーナの合図でミツオは目を開けた。

  前に広がっていたのは、限りなく広がる宇宙―

  ミツオ「はぁ、これは慣れないな・・・。」

  ルーシャ「ホント。」

  4人はシートベルトを外す。そして、背伸びをし体をひねった。

  ロリーナ「ワープに入るわよ。」

  ロリーナは赤いスイッチを押す。周りは、超空間に切り替わった。

  

  そして・・・。

  しばらくして、ワープを抜けた。また、窓の外に宇宙が広がる。

  ミツオ「あ、あれ!」

  彼は見つけた。

  ― ぼくの故郷・・・。地球。

  ロリーナ「手前に見える星が、ミツオくんの母星である地球よ。」

  4人は窓の外を覗き込む。

  青と緑の美しい星―

  さまざまな生物が共存する、太陽系第三番惑星―  

  この地球こそが、ミツオの故郷・・・―

  ソフィ「ミツオくんは、地球のどの辺りに住んでいるんですか?」

  ミツオ「日本だよ。ここからじゃまだ見えないけど、小さな島国なんだ。とても、良いところだよ・・・。」

  ロリーナの円盤は、順調に日本へ向かっている。

  太平洋、日本海に囲まれた海洋国である日本。そして、日本の首都である東京。円盤は、須羽家の前で着陸した。

  ソフィ「こんなところに降りて、大丈夫なんですか? 人目についたら・・・。」

  ロリーナ「平気よ。地球人には、円盤が見えていないわ。」

  やがて円盤のドアが開き、5人は外に出た。

  青い空、爽やかな風―

  そして、ミツオが見慣れた赤い屋根の一軒屋が、目の前に建っていた。

  「須羽」

  懐かしい表札。懐かしい庭。懐かしい玄関―

  ミツオは、しばらく言葉が出なかった。

  ロリーナ「私はこれで失礼するわ。また迎えに来るからね。」

  そう言うと、ロリーナが乗った円盤は、また空の彼方へ消えていった。

  ルーシャ「はぁ〜、やっぱり外の空気はおいしいわ!」

  ロン「ここがミツオが育った、町か・・・。ほのぼのとしていて、良いところだな。」

  ミツオ「・・・・。」

  たった四年と少しの月日。

  だが、ミツオには、もっと長い間里離れしていたような気がした。

  恐る恐る、玄関のドアを開ける。

  すると―

  ママ「あら、ミツ夫さん? いつの間に外に出たのよ。」

  洗濯カゴを持った、ミツオのママの姿があった。

  昔と変わらない、力強い言葉。今もなお若々しい、美顔・・・―

  ママ「勉強しなくちゃいけないって、言っているじゃない。お友達と遊んでいる場合じゃないでしょ。」

  すると3人は、背筋を伸ばし、とっさに頭を下げた。

  ソフィ「突然、失礼いたしました。今日は、ミツオくんに勉強を教えに来たんです。」

  ママの言葉に合わせ、ソフィが言った。ママは、納得したような表情を浮かべる。

  ママ「しっかりした子ね。じゃぁ、頼みましたよ。ミツ夫さん、今度さぼったりしたら、許しませんからね。」

  ミツオ「・・・・。」

  彼は、ママの顔を見つめていた。ロンは、ミツオの肩をたたく。

  ロン「ミツオ。」

  ミツオ「ママ・・・、懐かしいなぁ。」

  ママ「え?」

  ロンは、慌ててミツオの口をふさぐ。彼女は、不思議そうな顔をした。

  ママ「おかしな子ね。今朝も会ってるじゃないの。」

  ルーシャ「そうでしたよね!もう、ミツオくんたら、寝ぼけないで!さ、勉強しましょう。」

  そう言うと、正気に戻ったミツオを先頭に、4人は階段を駆け上っていった。

  しばらく見ていたママだが、気が付いたように声を上げた。

  ママ「ミツ夫さん、その服どうしたのよ!」

  見慣れない服・・・、バード星の制服のことだ。

  ミツオ「あぁ、コレ? えっと、もらい物!」

  ママ「えっ、ちょっと・・・。」

  

  ― バン!

 

  ミツオは3人が自分の部屋に入ったのを確認すると、力強くドアを閉めた。

  呼吸を安定させると、彼らは顔を上げる。

  コピー「ミツ夫・・・くん?」

  そんな4人の様子を、呆気にとられて見ていた一人の少年がいた。

  学生服を着て、手に鉛筆を持ち、学習椅子に腰掛けている。机の上には、ノートと参考書が広げられていた。

  頭の癖毛、桃色の鼻、そして自分によく似た声・・・。

  ミツオ「コピー・・・。」

  その少年は、間違いなくミツオのコピーだった。

  コピーはゆっくり椅子から立ち上がると、ミツオに近づいてきた。

  二人は顔を見合わせる。

  コピー「ミツ夫くん?キミは、ミツ夫くんなの? ・・・帰ってきたの?」

  するとミツオは、コピーを力強く抱きしめた。

  ミツオ「コピー・・・。そうだよ、ぼくだよ。ミツオだよ・・・。」

  コピー「・・・ミツ夫くん。」

  お互いの温もり・・・。二人は、全身から力が抜けたような感覚がした。

  ミツオ「ぼくは、休暇で地球に来てるんだよ。本当に久しぶりだなぁ。元気かい?勉強は、はかどっているかい?」

  コピー「うん。毎日、楽しくやってるよ。勉強は・・・、まぁ頑張ってるつもりだけど。」

  ミツオはコピーから離れ、机に目をやった。

  小学生の頃と比べ、遙かに多くなった参考書やノート。それは、机の上に載りきらず、床にまで並べられている。

  ミツオ「えっと・・・。コピーは、今いくつ?」

  コピー「高校一年生だよ。地元の、公立高校に何とか合格したんだ。勉強が出来る学校とは言えないけど。」

  コピーは照れたように答えた。ミツオは少し安心する。

  ミツオ「そうか、フリーではないのか。心配だったんだけどな。」

  コピー「でも、勉強が難しくて全然、ついていけないかな。今回のテストの成績を聞いたら、ミツ夫くんもビックリするよ。」

  ミツオ「そんな弱気になるなよ〜。応援してるからさ。」

  ・・・・。

  彼は少し間を置いた。

  コピー「うん・・・。ミツ夫くんの将来のためにも、ぼくが頑張らなくちゃね。迷惑かけちゃうもんね。」

  ・・・・。

  すると、ミツオは黙り込んだ。コピーは首をかしげる。

  コピー「どうしたの?」

  ミツオ「あのね・・・、コピー。」

  ミツオはうつむいたが、再び顔を上げて、言った。

  ミツオ「ぼくは今の実技テストに合格したら、バードマンになるんだ。色々な星を行き来し、いつかは、本当のパーマンを

       自分の手で、任命しなくちゃならないんだ・・・。」

  コピー「うん。」

  ミツオ「すると忙しくなって、地球にも少しの間、寄るくらいしかできなくなっちゃう。バードマンは、バード星で暮らすこと

       になっているからね。ミツ夫に戻って生活するなんて、とても・・・。

       だから、地球での須羽ミツ夫は、コピー。キミだけなんだ。」

  ・・・・。

  コピーは黙り込んだ。

  ミツオ「ぼくは、須羽ミツ夫には戻れない。ミツオ・スワとして、生きていく。あ、これはね、留学最初の頃に皆に合わせた方が混乱を避けら

      れていいって、教師のバードマンにアドバイスされたからなんだけど。何せ、ぼくが地球初めての次期バードマン候補だからね。

      コピー、いやミツ夫くん。キミはもう、コピーロボットなんかじゃない。一人の人間だ。」

  コピー「・・・ちょっと、待ってよ。違う・・・。ぼくはロボットだ。須羽ミツ夫は、キミしかいない!」

  するとミツオは、コピーの肩を優しくたたいた。

  ミツオ「わかってくれよ。最初から、その覚悟の上で、留学したんだから。ぼくは、バードマンにならなくちゃいけないん

       だから。それが―・・・。」

  ミツオは、笑顔を浮かべた。

  ミツオ「ぼくの、夢だから―・・・。」

  ・・・・。

  二人は黙り込んだ。後ろで話を聞いていた三人も、下を向いたまま動かない。

  ミツオ「ごめんよ。久しぶりの再会だったのに、こんなこと言って・・・。」

  するとミツオは立ち上がった。そして、下に降りていく。

  コピー「待って!」

  コピーが呼び止める。ミツオは、振り返った。

  コピー「でも、バードマンを引退したら、戻ってくるんでしょう?高齢になって続けられなくなったら、戻ってこれるでしょう・・・?」       

  『須羽ミツ夫』に・・・戻れるでしょう?

  ミツオは立ち止まって振り返り、笑みを浮かべた。

  ミツオ「そうだね・・・。何十年も、先の話だけどね。」

  そう言うと、彼はまた足を進めた。足音が妙に響く。

  コピーの肩が小刻みに震えている。ルーシャが駆け寄って、彼の背中を支えた。

  コピー「・・・キミたちも?」

  ・・・・。

  コピー「キミたちも、もう母星で暮らすことはできないの? 故郷の自分を・・・捨ててしまったの?」

  ルーシャ「・・・・。」

  何も言えなかった。

  だが、確かにそうだ。自分は、バード星で生活し、任命したパーマンを管理していかなくてはならない。

  これが、バードマンとなる者に定められた運命だった―

  

  ガン子「お兄ちゃんったら、また机を離れて遊んでる!こんなことじゃ、退学になるのも時間の問題よ〜。」

  少し伸びた髪。少し大人びた声。だが、昔の面影は確かに残っていた。

  ミツオは、ガン子を抱きしめる。

  ミツオ「可愛い妹よ! ずっと、ずっと、こうして抱きしめてやりたかったんだー!」

  するとガン子は、気味悪そうに彼の腕を振り払い、台所へ逃げていった。

  ガン子「ママ!お兄ちゃんが、おかしなことするのよ!」

  ミツオ「・・・ガン子も、もう六年生か。大きくなったな。性格は、あまり変わらないが。」

  スコップとバケツを手にし、砂場に向かうガン子の姿が浮かんだ。

  ミツオは笑うと、台所に入る。

  ママ「ミツ夫さん!あれほど言ったのに、またお勉強さぼって!もう、高校生になったんですから、これ以上、親に手を

     焼かせるのは、やめてちょうだい。」

  ミツオ「ごめんなさい。それでママ、パパはいつ頃帰るの?」

  彼女の説教ですら、今のミツオには嬉しいものだ。そして、気になっていたことを口にする。

  ママ「夕方くらいね。そんなこと、わざわざ聞かなくてもわかってるでしょう。いつものことなんだから。」

  ミツオ「・・・まぁね。」

  ママは向き直すと、再びリンゴの皮をむき始めた。

  ガン子はさすがにエプロンの裾にはつかまっていないが、こちらを睨んでいる。

  ミツオは冗談で睨み返すと、また二階に上がった。

  ミツオ「コピー・・・。」

  部屋ではコピーが、また勉強を始めている。

  コピー「頑張るよ、ぼく。立派な大人になってみせるからね。」

  そう言って、コピーはミツオに宣言した。ミツオはうなずくと、床に座っている3人のところへ駆け寄った。

  ミツオ「ごめん、ごめん。楽にしててよ。お茶、貰ってこようか?」

  ルーシャ「気を遣わなくても、いいわよ。それより、ミツオくんの友達や町の中を紹介してくれる?」

  ミツオ「オッケー。」

  するとミツオ達は立ち上がった。

  その会話を聞いたコピーは振り返ったが、また視線を参考書に戻した。

  何か言いたげだったが、ミツオは気が付かなかった―

 

  4人は、一階に降りた。見つからないように声を潜ませていたのに、またガン子に見つかる。

  全く、センサーでも付いているのだろうか。

  ガン子「あぁー、お兄ちゃんったら本当に仕様がないんだから!今度は、友達まで連れて!」

  ミツオは慌ててごまかした。

  ミツオ「ノートがなくなったから、買いに行くんだよ。」

  ガン子「みんなで?」

  4人は、大きくうなずく。

  ガン子「ふーん・・・。それが本当ならいいけどね。」

  ガン子はそっぽを向くと、二階へ上がっていった。その後、彼女は、部屋で勉強しているミツ夫(コピー)に気づき、驚くことになる。

  ミツオは咳払いを一つして、紹介した。

  ミツオ「あれが、ぼくの憎たらしい妹のガン子です。今は、12歳・・・かな。」

  ロン「なるほど・・・。見るからに、憎たらしそうだ。」

  彼は、ミツオの言葉にうなずく。ミツオは微笑した。

 

  ミツオ「さぁ、出発しよう!」

 

2、

 

  4人は外に出た。

  ミツオを先頭に、朝日ヶ丘の町を歩いて行く。

  ロン達は、珍しそうに周りをキョロキョロしながら後に続く。どうやら、彼らの故郷の町並みとは、随分違いがあるようだ。

  しばらく行くと、前方から3つの影が近づいてきた。

  ミツオは足を止める。

  「おい、チケット手に入ったかよ。」

  「勿論ですよ。ちゃんと3人分、取っておきました。」

  「ぼく、ライブ用の団扇を手に入れたんだ。高かったんだぞ。キミ達にも拝ませてやろうか。」

  ・・・カバオくん、サブくん、晴三くん・・・―

  目を大きく見開いて立ち止まったミツオに、3人は気が付いたようだ。

  カバオ「やぁ、ミツ夫じゃないか。どうしたんだ。」

  ・・・久しぶりに聞く声。

  地球で生活する頃は、カバオの声なんて、単なるおかしな声だけにしか聞こえていなかった。

  だが、今は違う。

  サブ「おかしなミツ夫。まぁ、キミがおかしいのは、いつもの事で言うまでもないけど。」

  カバオとサブは、コピーと同じ学生服を着ていた。

  だが晴三だけは私立に進学したらしく、深緑が入った制服に、ネクタイが眩しい。

  晴三「大勢でどこへ行くんだい。見慣れない人もいるけど、ミツ夫の新しい友達か?」

  彼は、どうやらロン、ルーシャ、ソフィのことを言っているらしい。

  ミツ夫「・・・彼らは、同じ高校の仲間なんだ。キミ達こそ、どこへ?」

  声を出すのに、少々時間がかかった。晴三はこたえる。

  晴三「スミレちゃんのCDを買いに行くんだ。」

  カバオ「アリサに負けないように、オレらでスミレちゃん親衛隊をつくったんだよ。」

  サブ「まぁ、そんなわけで、急ぐんだ。また、遊び相手になってやるからね、ミツ夫く〜ん。」

  そう言い残すと、サブ達はミツオの横を走って通り抜けていった。

  ミツオ「なんだい、もう少し話してくれてもいいのに・・・。」

  

  ミチ子「ミツ夫さん?」

  

  ・・・!

  彼はハッとした。この声・・・、振り向かなくてもわかる。

  ミツオ「ミッちゃん・・・。」

  ミチ子「こんにちは。久しぶりね。」

  すると、ミツオは驚いた。

  ミチ子「高校が違うから、なかなか会えないものね。」

  それを聞いて、彼は納得した。ふんわりとした茶髪が、風に揺れている。背は伸びているのだが、どう見ても、今やミツ

  オの方が高かった。

  胸も少し膨らみ、大人びた雰囲気がする。

  ミツオ「そ、そうだね。本当に・・・、久しぶりだよ。」

  すると、ミチ子は不思議そうな顔をした。

  ミチ子「・・・ミツオ夫ん、しばらく会わないうちに雰囲気が変わったわね。少しは、落ち着けたのかしら?」

  ミツオ「ヘコーッ!」

  後ろで話を聞いていた3人も、声を潜めて笑う。

  ミツオ「ミッちゃん・・・。」

  ミチ子「フフ、ごめんなさい。あたし、これから用事があるのよ。じゃぁ、またね。」

  ミツオ「あ、うん。また・・・。」

  ミチ子も、またミツオの横を通り抜ける。ミツオは振り向いて、ミチ子が消えるまで遠くを見つめていた。

 

  ― ミッちゃんも、変わってない・・・。

 

  日常的な会話。だが、いつの間にか、ミツオにとっては、日常ではなくなっている。

  また、彼女と毎日のように話せる日々は来るのだろうか?

  ミツオは、バードマンを出来る限り続けたいと思っている。

  バードマンを引退してからの人生。ミツオも、ミチ子も高齢になっていることだろう。

  老後のお茶飲み友達になれるのだろうか?それともミツオの知らないうちに、二人は離ればなれになってしまうのかも

  しれない。

  それは、コピー次第だ。やはり、須羽ミツ夫の人生をつくっていくのは、コピーだと実感した。

  ソフィ「ミツオさん・・・。」

  ミツオは一つ息をつくと、笑顔をつくる。

  ミツオ「今度は、パーマン仲間を紹介するよ。ぼくは1号だけど、2号、3号、4号がいるんだ。」

  そう言うと、彼はポケットからパーマンバッチを取りだし、スイッチを入れた。

  普段はネオとマリンカにつなぐので、彼らを呼び出すのは4年ぶりだった。

  ミツオ「さぁ、みんなもパー着して。パーマンセットは持ってきているでしょ。」

  4人はそれぞれパー着すると、空高く飛び上がった。

  地上からでは誰がいるのかわからない、雲の上だ。ミツオは辺りを見回す。

  最初に現れたのは、橙色のマスク、空色のマント、バッチ。そう、ブービーだった。

  1号「ブービー!」

  2号「ウキィー!」

  ブービーは、ミツオの腕の中に飛び込んだ。彼も、強く抱きしめる。

  2号「ウィー・・・。」

  1号「久しぶりだなぁ、ブービー。元気にやってたか?」

  ミツオは、ブービーを放した。改めて見ると、ブービーは前よりも大きくなっているようだった。

  4号「1号はーん!」

  すると、西の空からパーヤンが現れた。緑のマスク、青いマント、バッチ・・・―

   1号「パーヤン!」

  4号「何や、ブービーはんからの呼び出しかと思ったら、1号はんやないか。懐かしいなぁ。帰ってきたん?」

  1号「休暇を貰って、遊びに来たんだ。パーヤン、元気そうだね。」

  するとパーヤンは、自慢げに手を腰にあてた。

  彼はさらに背がのび、横幅も広くなっていたが、昔と同じ空色を基調とした服を着ていた。

  4号「最近、パーヤン運送の景気がえぇもんでな。パーマンの活動も、絶好調やで。」

  1号「そうか、よかった。」

  ルーシャ「あなたたちが、ミツオくんのパーマン仲間ね。」

  3人の様子を伺い、ルーシャが言った。

  ソフィ「はじめまして。わたし達、留学先でミツオさんと同じグループなんです。ソフィと申します。」

  彼女は深々と頭を下げる。ブービーもパーヤンも、そちらに注目した。

  ロン「オレは、ロン。はじめまして。」

  ルーシャ「ルーシャです。よろしくね。」

  3人は、ブービー達に右手を出した。皆、それぞれと握手する。

  4号「よろしゅう。わて、パーヤンこと地球のパーマン4号ですねん。このお猿さんは、ブービーといいますねん。」

  2号「ウイー!」

  ロン「本当に動物なんだな。よろしく、ブービー。」

  ミツオはその様子を見ていたが、しばらくして気が付いた。

  足りない―

  1号「パー子・・・! パーヤン、パー子は?」

  まだ赤いマスクに深緑のマント、バッチをパー着した女の子パーマン・・・― パー子の姿がない。

  すると、突然ブービーとパーヤンの顔が曇った。

  4号「そ、それは・・・。」

  急に黙り込む二人。ミツオは多少、驚いた。

  1号「どうしちゃったんだよ。パー子のヤツ、お洋服はどれにしようかしら〜。なんて理由で、遅れてるのかもね。」

  2号「・・・。」

  気まずい雰囲気が漂う。さっきまであんなに晴れていた空に、怪しげな雲が出てきたようだ。

  6人の間に、冷たい風が通り抜ける。

  4号「1号はん・・・、パー子はんはな・・・。」

  1号「いいよ。ぼく、パー子の家に行って呼んでくるから。ちょっと待ってて。」

  するとミツオは、パーヤンの言葉を最後まで聞かず、パー子が住むマンションの方へ飛び出していった。

  パーヤンは、そっとため息をこぼす。ブービーも、哀しげな眼をしていた。

  4号「行ってしもうた・・・。せやけど、ミツ夫はん。パー子はんの家を知ってるんやろうか?」

  ブービーは、首をかしげた。

  4号「とにかく、今一度ミツ夫はんの家に行った方がよさそうやな。彼も、しばらくしたら戻ってくるやろ。」

  ロン達は、よくわからないまま、うなずいた。

  ブービーが道案内をし、彼らは後についていく。ところが、ルーシャは一度振り返り、パーヤンを呼び止めた。

  ルーシャ「パーヤン。」

  彼は、立ち止まる。

  4号「何ですねん、えっとルーシャはんやったな。」

  彼女はうなずくと、晴れない顔でパーヤンを見た。

  他の皆は、二人に気付かずミツオの家に向かっている。

  ルーシャ「ミツオくんとパー子って人の関係を、詳しく聞きたいの。」

 

3、

 

  ミツオは、スミレのマンションまでやって来た。

  留学直前に、パー子の正体はスミレだと判明した。だが、このことを知っているのはミツオとそのコピーだけだ。

  パーヤン達にも、まだ明かされていないはずだ。

  ミツオは窓ガラスを開けようとしたが、一度手を引っ込めた。

  1号(スミレちゃん、仕事じゃないかな。ここにいたら良いな・・・。さぁ、運命の再会だ・・・。)

  彼は大きく深呼吸をして、ガラスを開けた。

  すると、椅子に腰掛けてスケジュール帳を読んでいた少女が、こちらに振り向いた。

  横髪が少し長くなり、前髪を下ろしていた。黄色いカチューシャをした彼女は、星野スミレ。パー子に間違いなかった。

  1号「パー子・・・。」

  彼は部屋に入った。靴を脱いで、床に足をつく。

  スミレは、手帳を机に置いた。

  1号「スミレちゃん。」

  スミレ「あら、パーマン。どうしたの。」

  その返事を聞いて、ミツオは驚いた。

 

  ― え?

 

  運命の再会。4年間離ればなれになっていて、やっと愛しの彼に会えた。なのに、この反応は・・・―

  1号「どうしたのさ、スミレちゃん。何か、反応が薄いみたいで・・・。」

  スミレ「えぇ? おかしなパーマンね。そういえば、ここしばらく見ていない気がするわ。」

   彼は、呆気にとられる。

  1号「やだな・・・パー子。冗談だろ。ぼくだよ、ぼく。」

  スミレ「ぼくって、パーマン1号・・・でしょう。」

  1号「・・・本名は?」

  しかしスミレは、あっけない答えを返しただけだった。

  スミレ「あたし、あなたの正体を知らないのよ。名前なんて、わかるわけがないでしょ。」

  ・・・・。

  1号「悪ふざけにしては、度が過ぎるよ。パー子。」

  スミレ「パー子?あの、パー子さんのこと?あたし、星野スミレよ・・・。」

  ミツオは、固まった。

  芝居が上手いスミレでも、こんなことがあるだろうか。彼は、不安を抱えながら、もう一度尋ねた。

  1号「キミはパー子だろ。パーマン3号。ぼくと一緒に、活躍していたじゃないか。」

  スミレ「・・・パーマン。あなたの言うことがわからないの。説明してくれないかしら。」

  

  ― ・・・違う。彼女は、ふざけてなんかいない。

 

  ミツオは、スミレの瞳を見てそう感じた。だが、信じられない。

  1号「どうして・・・。」

  彼は、窓の外へ飛び出した。体が勝手に動いたのだ。

  訳のわからないまま、ミツオは自宅へ向かって飛んでいた。

 

  何で、どうして!? どうして、ぼくのことを忘れてるの?

  もしかして・・・、彼女は・・・。

 

  

 

  4号「ミツ夫はんとパー子はんの関係を・・・? どないして?」

  ルーシャ「わかるのよ、あたしには。二人は特別な関係だってことがね。」

  パーヤンは、肩をすくめた。ルーシャは頬を緩める。

  4号「あんさん、随分恋について詳しそうやね。何で、わかったんや?」

  ルーシャ「パーマン3号に対するミツオくんの行為を見て、もしやと思ったのよ。普通ならすぐに来るかもしれない人を、態々家まで

  迎えに行ったりしないでしょ。恋のAngelと呼ばれた、あたしだからね。」

  すると彼女は、自慢げに言った。

  ルーシャ「それで、教えてくれるの?くれないの?」

  4号「まぁ・・・、ルーシャはんならええやろ。ミツ夫はんもパー子はんも、許してくれるはずや。」

  それを聞いて、ルーシャは満足そうにうなずいた。

  4号「あれは、わてが小6・・・ミツ夫はん達が5年生の終わりの頃やったかな。パー子はんが、ミツ夫はんに告白したん

     や。結局、返事は聞いとらへんな。まぁ、わてが知らへんだけやろうけど。それからすぐ、ミツ夫はんに留学の話が

     きて・・・。」

 

  ― 留学します。

 

  4号「1号はんの想いを、直接聞いたわけやないけど、二人は両想いに間違いないで。あれほど、最高のカップルが他

     に、おますかいな。」

  ルーシャ「そっか・・・。やっぱり、そうなのね。」

  彼女は、地球に来るまでパー子の存在を知らなかった。そういえば、ミツオと故郷のパーマン仲間の話をした覚えは

  ない。もし、機会があったのなら・・・。

  ― もっと早く、ミツオくんの気持ちに気づけた。

  彼女の頭の中に、ソフィの姿が浮かび上がった。

  4号「ミツ夫はんが留学してからも、わてらは仲良ぉやっとった。せやけど。・・・あれは、つい最近のことやったかな。」

  風が、強まってきたようだ。広い空の上には、たった二人。

  パーヤンとルーシャだけ・・・。

  ルーシャは揺れる髪を押さえながら、次の言葉を待っていた。

  が。

  それを聞いて、彼女は耳を疑った。

  

  4号「パー子はんが姿を消したのは。」

 

 

1

" + __flash__argumentsToXML(arguments,0) + "")); }" fire_event="function () { return eval(instance.CallFunction("" + __flash__argumentsToXML(arguments,0) + "")); }" set_property="function () { return eval(instance.CallFunction("" + __flash__argumentsToXML(arguments,0) + "")); }" get_property="function () { return eval(instance.CallFunction("" + __flash__argumentsToXML(arguments,0) + "")); }">

                 

inserted by FC2 system