LIKE A SHOOTING STAR                       

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

3、抑えられない正義心

 

 

   ― ぼくの夢はみんなが幸せになるための、お手伝いをすることなんだ。

      

   パーマンを任命して、しっかりと管理をすること。

   影ながら、見守ってあげること。

   それが、真の正義なの?

   うん・・・、そうなのかもしれない。でも、何かが違うんだ。

   自分自身が、活躍できなきゃだめなんだ・・・―   

 

 1、

 

   ミツ夫達がミネルダに到着してから、一週間が経とうとしていた。

   新聞やニュースでは、突然現われた謎のヒーローに大騒ぎしている。

   四人はPBハウスの中で、テレビを見ながら朝食をとっていた。

   『昨夜、長い間指名手配されていた凶悪犯がパーマンの活躍により捕らえられました。犯人は40前後の男性で・・・』

   ルーシャ「ふぅん。パーマンも、結構がんばっているのね。」

   紅茶の入ったコップを手にし、ルーシャが言った。

   ソフィの作った朝ご飯は、トースト、ヨーグルトに似たような簡単なものだった。

   時計を見ると、もうすぐ7時を回る。

   ソフィ「はい、朝食タイムは終わり。すぐ二階に移動して、パーマンの行動を管理すること!」

   ロン「早いってば〜。」

   遅く起きてきたロンは、まだ半分も食べていない。

   ルーシャ「寝坊するから、いけないんでしょ。久しぶりに、朝の散歩でもしたら?」

   ロン「昼と夜はよくするけど、朝に散歩したことはないぞ。」

   ルーシャは彼を睨み付けると、駆け足で二階に上がっていった。

   その横で、ミツオはため息・・・。

   ミツオ(寮の部屋は別々だったから良かったものの、これからは一緒の家で暮らすんだから。)

 

   9時。

   ようやく四人全員が、二階にそろった。

   ソフィはモニターをじっと見つめているが、ルーシャとミツオは退屈そうに漫画やお菓子を手にしている。

   ロンは、席から離れて部屋をグルグルと回っていた。

   ルーシャ「何で、そんなことをしているの?」

   ロン「暇だから。」

   一言そう答えると、窓を開けて空を見る。今日は良い天気だ。

   さわやかな風が、スッと横切る。

   ずっとパーマンの姿を見ていたって、特にどうということはない。

   学生の彼らは、教室で静かに授業を受けているところなんだから。

   ロン「なぁ、こんなに晴れているんだから外に出ない? たまには、休憩も必要だって。」

   ソフィ「いつだって休憩中のロンに、そんなことが言えるんですか?」

   ミツオとルーシャまで手を止めて、二人の様子を見物している。

   密かに「がんばれ、ロン!」と、オーラを送っていた。

   ソフィ「どうしてもと言うなら、ご勝手に。カメラが作動しても、知りませんから。」

   ロン「・・・・。」

   こうして見ていると、まるで親子のようだ。

   ミツオとルーシャは、心でつぶやく。

   ソフィ「どうしますか?」

   ロン「今日のところは、遠慮しておきます・・・。」

   当然の結果に、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。

   また、静かな空間が戻ってくる・・・。

 

   しばらくして。

   ミツオ「あれ?」

   パーマン達の様子を観察していたミツオが、突然声を発した。

   三人は振り返る。

   ルーシャ「ミツオ、どうかしたの?」

   ミツオ「いや・・・。」

   画面には、パーマン2号であるマリンカの姿が映っていた。

   ネオはいない。教室の窓から事件が見えて、授業の途中で抜け出してきたんだろうか。

   彼女は道路でエンコしている大きなトラックの前で、ただ呆然と立ちすくんでいるように見えた。

   ミツオ(どうしてトラックを動かさないんだ? 何かあったのな。)

   彼は立ち上がると、ポケットからパーマンセットを取り出してパー着した。

   ミツオ「2号の様子がおかしい。ちょっと、見てくるよ。」

   ロン「あー、ずるいんだ。」

   ミツオ「仕事ですから。」

   文句を言うロンを振り切って、ミツオは外に出た。そして、アレイスに向う。

  

 2、

   

   しばらくすると、前方に止まっているトラックが見えた。

   車通りの多い国道で、後ろには渋滞ができている。

   ミツオ「こりゃ、ヒドイや。マリンカは、何をやっているんだ?」

   空の上から、パーマンマスクを被った少女を探す。

   見ると、トラックの目の前で運転手と何か話しているようだ。

   出て行きたいところだが、バードマンは人に姿を見せられない。仕方なく、空の上からパーマンバッチのスイッチを入れた。

   ミツオ「2号! どうして、トラックを動かさない。皆、困ってるぞ。」

   マリンカ『その声は、バードマンね。』

   スピーカーから、元気の良い声が響いてきた。

   マリンカ『このトラックね、ガソリンが切れちゃったみたいなの。近くにガソリンスタンドが無くて困ってるのよね。』

   ミツオ「キミが、トラックを持ち上げて、邪魔にならないところに移動させればいいじゃないか。」

   マリンカ『えー、出来ないわ! 今日は、お気に入りのワンピースを着ているんだから。汚したくないの。』

   ヘコーッ!

   ミツオ「大勢の人が、迷惑しているんだから!

   マリンカ『あたしがやったんじゃないもの。ガソリンの残量を常に確認しなかった、トラックの運転手が悪いのよ。』

   ・・・・。

   ミツオは何も言えなくなる。

   ― パー子だって、ここまで我侭じゃないのに・・・。

   ミツオ「よく考えて見ろよ。それでも、パーマンか! だいたい仕事に、お気に入りのワンピースを、着てくるほうが悪いんだ。」

   マリンカ『だって、授業中だったし・・・。』

   こんな言い訳。彼女は本当に15歳なのか?

   ミツオは、一瞬疑った。そして、深くため息をつく。

   さて、どうするか・・・。

   マリンカをアテにすることはできない。自分は、姿を見せられない。

   ならば―

   ミツオ「こちら、バードマン。パーマン1号、国道○○線に大急ぎで来てくれ。」

   結局、こうするしかなかった。

 

   ミツオ「ちょっと、ネオ。君が抱えているものは何?」

   それからしばらくして。

   ネオが現場に来てトラックを持ち上げ移動させてくれたのだが、ミツオには気に入らない点が一つあった。

   バッチから彼に話しかける。

   ネオ「どこかでぼくのこと見てるの、バードマン?」

   ミツオ「話をそらさなーい!何で、パーマン活動に態々ペットを連れてくるんだよ!」

   ネオは、プイッチを抱えてやってきたのだ。

   ネオ「なんでって・・・教室に置いてきたら、可哀想だったから。いけないの?」

   ミツオ「いけません!と、いうか、君の学校はペット持って行って叱られないのか・・・。」

   小さな動物を愛するのは良いことだが、パーマン活動に支障が出るなら何とも言えない。

   ミツオ「はぁ・・・。」

   空の上で、大きなため息がこぼれた。

   ネオもだが、洋服が汚れるからとパーマン活動を行わないマリンカの方は大問題だ。

   マリンカの学校が終わった後、ミツオは、こっそりとパトロール中の彼女の後を付ける。

   ミツオ「全く、女の子はやっかいだね。服なんか、どうでもいいじゃないか。」

   制服生活にすっかり慣れてしまったミツオは、何とも思わない。

   マリンカは桃色のスカートをヒラヒラさせながら、空を飛んでいる。

   そして困っているお年寄りを見つけると、ゆっくりと下に降りていった。ミツオも気づかれないように降下する。

   マリンカ「おばあさん、どうかしましたか?」

   すると腰の曲がった老婆は、道路の下水のどぶの中を指さした。

   老婆「ここにお金を落としちゃったんだ。勿体なくってね。」

   マリンカ「・・・・そうですか。それは、それは。」

   彼女は辺りを見回すと、あきらめたようにそのまま飛び立った。

   ミツオ「おい、2号!」

   様子を見ていたミツオは、バッチに向って大声で怒鳴った。

   マリンカ『またバードマン? 今度はなに。』

   ミツオ「なに、じゃないよ。どうしてお金を探してあげないんだよ。手をどぶの中に突っ込めば・・・。」

   マリンカ『そう、それが嫌なのよ!』

   ミツオは、マリンカの大声に驚いてバッチを落としそうになった。

   マリンカ『そんなことしたら、手が汚くなっちゃうでしょう。あたしって、きれい好きなのよね。』

   ミツオ「もう〜! また、いい訳する!」

   ミツオはスイッチを切った。マリンカは首をかしげて、再び飛んでいく。

   ― こりゃ、一から教えなきゃならんな。

   最初から何も説明しなかった、いい加減なバードマンがつぶやいた。

   

   そして。

   「あっ・・・!」

   空を飛んでいた二人が、離れたところで同時に声を上げた。

   下を見ると子供が川で、溺れているのだ。

   昨夜雨が降ったのか、水の流れが速く、とても泳げたものではないらしい。結構、大きな川だ。

   川岸では、二人の男の子が悲鳴のような叫びを上げて彼を追っていた。

   男の子「誰かぁー! 誰か、あいつを助けてぇ!」

   近くに家は見えないし、人通りもない。

   ミツオは駆け出しそうになった足を止め、マリンカを見ていた。

   彼女は動き出しそうにない。

   ミツオ「マリンカァー!」

   マリンカ『だ、だってバードマン。川に入ったら、お洋服が・・・。』

   本当は通信しなくてもいいような近距離にいるのだが、二人とも必死で気が付かない。

   ミツオ「人が溺れているんだぞ、命にかかわるんだぞ。服なんかに、かまっている場合じゃないんだよ!」

   大声で叫びながら、ミツオは溺れている子をじっと見つめていた。

   マリンカ『わかってるけど・・・。今、冬よ? 風邪引いちゃうじゃない!』

   ミツオ「くっ〜!」

   彼女をパーマンに任命したのは間違えだったと感じたが、今更セットを取り上げるわけにもいかない。

   ネオを呼んでいる時間もないだろう。

   ― 何とかしなくちゃ・・・。でも、ぼくはバードマンだし・・・。

   ミツオ「そうだ!」

   ミツオのままで、助けに行けばいい。

   彼は下に降りると、パーマンセットを投げ捨てて川へ飛び込んだ。水しぶきがたつ。

   マリンカ「あー!」

   男の子「あっ!」

   必死で走っていた、二人の男の子も声を上げる。

   ミツオは死に物狂いで手足を動かし、溺れている子供の方へ向った。

   荒れ狂い冷たい水の中で、彼は暗い視界に男の子の腕をとらえ、グッと手を握った。

   ミツオ「よかった!でも、ぼく泳げたっけ?」

   そう思った瞬間、動きが止まった。

   ミツオ「忘れてた! ぼくは、カナヅチだったんだ。」

   突然、体が重くなる。

   さっきまでのように進まなくなり、冷たい水に浸ったせいで意識が朦朧としてきた。

   ミツオ「だ、誰か・・・。助け・・・て・・・。」

   マリンカ「なぁに、あの子。自分で助けに行っておきながら、溺れるなんて!でもあたし・・・!」

   ・・・・・。

   ミツオが気を失ったとき、あたりは急に静まった。

   誰も動かない、話さない。 

   さっきまでうるさかった、水の音までが聞こえないのだ。

   いや、違う・・・。

   時間が止まっていた―。

   

 3、

 

   ミツオ「・・・・。」

   彼は目を覚ました。ここは、どこだろう?

   最初に視界に入ってきたのは、天井だった。

   自分の部屋でベッドに寝ているということに気づくまで、しばらくかかったようだ。

   ロン「気が付いた?」

   聞きなれた声・・・。ロンだ。

   ミツオ「・・・・ぼく、どうなったんだっけ?」

   ロン「川で溺れていたのを、PBハウスのミツオのモニターで見たオレが駆けつけて助けたというわけさ。

   女パーマンは助けに行きそうにもなかったし、一刻を争う事態だったから一旦時間を止めたんだ。さっき解除したけどな。もう大丈夫か?」

   ミツオ「うん、なんとか。ありがと・・・。」

   ロン「全く、オレが見つけなかったらどうなっていたことか・・・。」

   ミツオ「溺れていた子供は? ぼくともう一人、8歳くらいの子がいたでしょ。」

   ロン「その子も無事だよ。」

   溺れていた男の子は、彼が岸まで運んでおいた。気が付いたら、ミツオの姿が消え男の子が岸に上がっていたということに

   マリンカ達は驚いたかもしれないが、仕方が無い。

   彼は安心して、ホッとため息をついた。そして、ロンが聞く。

   ロン「でも、バカだね。冬の川に飛び込むなんて。何か他に考えがなかったの?」

   ミツオ「必死だったんだ。それに・・・マリンカをパーマンにしたのは、間違いだったのかも。」

   元気を無くしたミツオに、ロンは励まそうとする。

   ロン「まぁ、そういうこともあるさ。人間は失敗を繰り返して、成功を得るんだから。」

   ミツオ「・・・ロンにしては、良いこと言うね。」

   そして、何気に今、ぼくの行為とマリンカのことを失敗だって断言したね。

   ロン「オレのお兄ちゃんの、口癖だったんだ。」

   それからミツオは、今回の出来事をロンに話した。

   ロン「ふぅん。マリンカって、そんな子なんだ。」

   ミツオ「ぼく、我慢できなかった。困っている人を見たら、放っておけないから。だから、洋服がどうのこうのと言い訳し

        て助けようとしないマリンカに、腹が立っていたんだよね・・・。」

   ロンには、よくわかっている。

   彼が正義を愛する気持ちは、想像のつかないくらい大きいということを・・・―

   ロン「でも、マリンカもネオって子も、まだパーマンになりたてだから仕方がないよ。そのうち、わかってくれると思うけど。」

   ミツオ「まぁ・・・だといいけど。」

   彼はベッドの布団を右手でギュッと握りしめた。

   ミツオ「もう、嫌だよ。見ているだけのバードマンなんて。ぼく自身が、人の命を救えたら、どんなに気持ちの良いこと

        なんだろ・・・。地球でパーマンやっていた頃のほうが、よっぽど楽しかったな。」

   バードマンを否定しているわけではない。バードマンはパーマンの監視という仕事の他に、

   自分自ら宇宙の悪と戦ったり、未知の世界を調査することだってできるからだ。それは、きっと素晴らしく楽しいことだろう。

   ただ、今の青春期真っ直中のミツオには、監視しているだけというのは、どうしてももどかしかったのだ。

   ロン「ミツオ・・・。」

   ミツオ「もう一度、パーマンになりたい。パーマンセットだって、持っているんだし・・・。持って・・・―。」

   すると突然、ミツオはベッドから体を起こした。

   ミツオ「そうだよ、なればいいんだ! ぼくが、アレイスのパーマン3号になればいいんだよ!」

   ロン「えぇー!」

 

   ソフィ「それ・・・、本気ですか?」

   ベルを鳴らして、ミツオは全員を自分の部屋に集合させた。

   彼の主張を聞くなり、ソフィとルーシャは反論する。

   ソフィ「バードマンがパーマンになんて、なれるわけがないじゃないですか!」

   ルーシャ「そうよ、何を言い出すかと思ったら!」

   ミツオ「ちょっと待って。ぼくの話しを聞いてよ。今、バードマンについてのきまりを著した教科書を読み直してみたんだ

        けど、バードマンはパーマンになれないなんて、書いてないんだよ。」

   ・・・・・。

   二人は言葉につまる。

   ソフィ「でも・・・、そんな例は今まで聞いたことがありません。」

   ミツオ「誰も挑戦したことがないことをやったら、いけないの? そんなこと、バードマンのきまりにあるの?」

   ソフィ「それは・・・。」

   しかし、あまりにも発想が・・・。

   ルーシャ「でも、パーマンを任命するときに青マスクを被って行ったんでしょう? バードマンとパーマン3号が同一人

          物だということが、すぐにわかっちゃうじゃない。」

   ミツオ「あぁ、それなら大丈夫。実はあのとき、お手製のバードマンコスチュームを着ていったんだ。」

   彼は黒いインクのスプレーと、「B」ワッペンが縫い付けられた、グレーのスーツを取り出した。

   三人はあきれて、ものも言えなくなる。

   ロン「・・・ミツオがつくったのか?」

   ミツオ「その通り。バードマンのときに、このコスチュームを着て行けば、パーマン3号と同一人物だということは簡単にはわからないよ。」

   ルーシャ「・・・・。」

   そうかもしれないけど。

   納得しかける二人・・・。しかし、まだ勝負はついていない!

   ソフィ「はい、質問です。バードマンとパーマン3号が同じ場にいなくてはいけないとき、どうするんですか?」

   ミツオ「コピーロボットは・・・。」

   ソフィ「ありません。」

   光のような素早さで、ソフィは言った。

   ミツオ「なら、バードマンはパーマン達にも姿を見せないようにしよう。いつも、バッチで連絡すればいいんだ。実際に、

        今日もそれで乗り切れたしね。」

   ルーシャ「直接会って、相談したいと言うときは?」

   ミツオ「そのときは会おう。個人の相談なら、三人で来る必要はないもんね。いざと言うときは、なんとかごまかすよ。」

   ソフィ「そんないい加減で、いいんでしょうか・・・。」

   しかし、ミツオは本気だ。

   ちょっとやそっとのことで、引きそうにないだろう。

   ミツオ「他、何か質問は?」

   ・・・・。

   必死で何か探そうとする二人。しかし、思い浮かばない。

   ミツオ「決定だね。」

   ルーシャ「でも、ロリーナさんが何と言うか・・・。」

   ミツオ「よし、早速聞いてみよう!」

   彼は、壁に取り付けられたスイッチを押した。

 

   ロリーナ「そうねぇ・・・。」

   数分後、ロリーナはPBハウスに到着した。

   ミツオの主張を聞き、判断に困るロリーナ。

   ロリーナ「わからないわ。確かに、バードマンがパーマンになってはいけないなんて、きまりはないし。あたしは、面白

         い発想だから、是非協力したいんだけど。」

   ミツオ「本当ですか!」

   彼の瞳が輝く。

   ロリーナ「詳しいことは、バード星本部に相談しなくちゃね。でも、あの総監が何というか・・・。とりあえず、これから説

         得しに行ってくるわ。」

   ミツオ「あ、待ってください。」

   ミツオは、出て行こうとしたロリーナを引きとめた。

   ロリーナ「どうしたの?」

   ミツオ「あの、そんなに厳しい総監さんなんですか・・・?」

   少し不安な気持ちになった、ミツオは尋ねる。

   するとロリーナは、笑顔でこう答えた。

   ロリーナ「そうね、かなりの頑固者ね。」

   ミツオ「なら・・・、ぼくがその人を説得してみせます。」

   時の流れが止まったようだった。

   皆、ミツオの言葉に驚き、何も言えない。

   彼女を見つめるミツオの瞳は、力強く輝いている。

   ミツオ「自分の問題なんだがら、ロリーナさんに迷惑はかけられません。それに、総監さんにぼくの気持ちを直接伝え

        たいんです。」

   ・・・・。

   しばらく黙っていたが、ロリーナは折れたように口を開いた。

   ロリーナ「わかったわ。今から出発するから、わたしの宇宙船に乗って。」

   ミツオ「ありがとうございます!」

   ミツオはロリーナに深く頭を下げると、玄関のドアを開けた。外には、いつ見ても迫力を感じさせるロリーナの宇宙船が

   ある。

   ― 何とか説得してみせる。ぼくの気持ちを直接、伝えたいんだ・・・・

   ロン「ミツオ。」

   彼がガッツポーズをとったとき、後ろからロンが肩を叩いた。

   ロン「頑張れよ。」

   ミツオ「・・・うん。勿論だよ!」

   宇宙船の窓から手を振り、ミツオは固い決心を込めた手を握った。

   強風が吹き、三人はPBハウスの壁に叩きつけられる。目の前から飛んでくる草木に目をつぶっていたのだ。

   気が付いたら、宇宙船の姿はなかった。

   

 4、

 

   大地が、徐々に大きくなっていく。

   まだ一週間しか経たないのに、バード星がとても懐かしかった。

   ミツオが乗った宇宙船は、バードマン養成学校を通り過ぎ、大きな建物の前で止まった。

   四角い箱のような形をしているが、ここが実技テスト中であるPB達の先頭に立つ“バード星架空宇宙管理局本部”な

   のだろう。

   ミツオはロリーナの後について、宇宙船を降りた。

   ロリーナ「ついてきて。」

   ミツオは黙ってうなずくと、前へ進んで行く彼女を追った。

   そして一番奥の部屋に辿り着くと、ロリーナはミツオの方を振り返る。

   ロリーナ「ここよ。あたしも応援するから、頑張って。」

   ミツオ「はい・・・。」

   すると、自動的にドアが開けられた。

   中はそこまで広くない。部屋の中央には頑丈な造りでできたデスク。

   そして、大企業の社長が座るようなイスには、太った中年の男性が腰を下ろしていた。

   最初はミツオ達に背中を向けて、ガラス窓の方を見ていたのだが、こちらに気づいてイスを回した。

   総監「カルチャーくんか。何用かな。」

   声も太い。計り知れない威厳を感じる。ミツオは、高鳴っている心臓を何とか抑えようとしていた。

   ― 落ち着け、須羽ミツ夫・・・・。

   ロリーナ「今日は私ではありません。こちらのミツオくんが、総監にお話があるそうです。」

   ミツオ「は、はじめまして。ミツオといいます・・・。」

   総監「・・・・。」

   総監は黙ってミツオを見つめる。彼は視線をずらさないように、必死に歯を食いしばっていた。

   そのとてつもなく強力なオーラに、震えながら・・・。

   ミツオ「あ、あの実は・・・。バードマンが、パーマンになれるのかという・・・。」

   ロリーナ「ミツオくん。」

   後ろでロリーナが声をかける。ミツオは、一度深呼吸をした。

   ミツオ「お話します。」

   それからミツオは、何とか用件を伝えた。総監は、難しい顔をしている。

   総監「なるほど・・・、面白い発想だ。」

   それを聞いたミツオは安心して、そっと胸をなでおろした。

   総監「だが、キミは本当に失敗しないという自信があるのかね?」

   ミツオ「・・・あります。ぼくは、本当に自分自身の力で正義を守りたいんです。この気持ちに、嘘はありません。だから、こうして

   お願いに・・・。」

   総監は彼の話しを黙って聞いている。

   ミツオ「ぼく、自分が任命したパーマン2号を見ているときに思ったんです。やはり、自分自身が困っている人を助けたい。皆が平和に

        暮らせるように頑張りたい。管理しているだけじゃ、ダメなんだ・・・!」

   総監「キミの言いたいことは、よくわかった。」

   ・・・・。

   それからしばらく、沈黙の空間が流れる。

   伝わったのだろうか。

   そして、総監は口を開いた。

   総監「残念だがね、ミツオくん。それは、無理な願いなんだよ。」

   ・・・・。

   ミツオの体が震える。

   ミツオ「そんな・・・。」

   ロリーナ「まってください!実は、私もパーマンの監視をしていて思ったことがあるんです。」

   彼女が口をはさんだ。

   ロリーナ「バード星の、自分たちの手で宇宙の平和を守ろうとする志は素晴らしいことであり、だからこそ私も留学した後に一

   生懸命 勉強して、こうしてバードマンになったわけですが。でも、こちらの勝手な考えで、ある星のパーマンを任命した後は、

   彼らに任せっきり。」

   総監もミツオも静かにその話を聞いている。

   ロリーナ「むしろ、パーマンという責任が重い仕事を、押しつけているようにも思えるんです。しかも、正体がばれたら動物にするなんて

   脅しまでした上で。少なくともそれは彼らの時間と自由を奪い、責任と労働に悩ませることになります。」

   総監「君はバードマンでありながら、何を言っているんだ・・・?」

   ミツオもロリーナが総監に対し、言っていることに驚いている。

   ロリーナ「なのに私たちは、偉そうに彼らを監視しているだけで、その星の悪を自ら取り除こうとはしていない。それって・・・

   どうかと思います。」

   ミツオ「ロリーナさん・・・。」

   ロリーナ「時には、バードマンもパーマンと一緒に活動することが必要だわ。いつもとは言わなくても、難しい事件ならサポートするとか。

   むしろ、それがパーマンを任命した者に対する義務なんです。

   ミツオくんの発想は、それへの第一歩だと思います。総監は・・・どう思われます?」

   バードマンが自らその星で活動する。パーマンと一緒に・・・。

   総監は黙って、彼女の話を聞いていた。ミツオの頬に冷や汗が流れる。

   しばらく沈黙が流れた後、総監がそっと口を開いた。

   総監「・・・やれるかね?」

   ミツオ「えっ?」

   総監「責任を持って、バードマン・・・いや、君達はまだ見習いだが、その身でありながパーマン活動することができるかと

   聞いているんだ。面白い考えだ、カルチャーくんの言うことも最もだな。」

   ロリーナ「総監・・・!」

   総監「いいだろう、ミツオくん。君の要望を受けようじゃないか。PBの世界に新しい歴史をつくろう。」

    ロリーナの表情が、パッと輝いた。

   ミツオは驚きのあまりに、声を出すこともできなくなっている。

   総監「PBがパーマンになって、パーマンを管理する・・・。もしかしたら、ただ上から監視しているよりもパーマン達のことがわかって

   良いのかも知れない。君の活動が良かったら、後に各星のPBを一人ずつ選び出してパーマンに任命しよう。

   そうだな、彼らをSPBと名づけようか。」

   これは“Spy Probation Birdman”の略だ。

   ロリーナは密かに笑った。

   総監「さぁ、これから忙しくなるぞ。カルチャーくんにも色々と手伝ってもらわないとな。」

   ロリーナ「はい。」

   ミツオはしばらく呆然としていたが、ハッと我に返った。

   ミツオ「総監さん・・・、ありがとうございます!」

   彼は深く敬礼した。総監はさっきまでと違い、やわらかな笑みを浮かべている。

   総監「ミツオくん、キミはSPB第1号だ。バードマンについても、一度私を見直してみたいと思っていたんだ。頑張ってくれ。」

   ミツオ「はい!」

   彼の胸は、喜びと期待であふれ出そうだった。

    ロリーナと笑あい、一度礼をしてから部屋を出て行く。その姿を見て、彼はポツリとつぶやいた。

   総監「全く、若い頃の私にそっくりだな。」

    

   5、

 

   ロン「へぇ・・・、SPBか。」

   ミネルダに帰還したミツオの報告を聞き、三人は驚いた。

   ルーシャ「まさか本当に許されちゃうとはね。あたし、落ち込んで帰ってきたミツオに、どう励ましの言葉を送ろうか迷っ

         ていたのよ。」

   ミツオ「残念だが、その必要は無いみたいだね。」

   満面の笑顔を浮かべ、ミツオは答える。

   ソフィ「これからの活躍、期待していますよ。アレイスのパーマン3号。」

   ミツオ「勿論さ! いや〜。これからは二階の管理室で、モニターとにらめっこしなくても済むと思うと、胸が弾むね。」

   そんな彼を、ロンとルーシャは恨めしそうに見ている。

   ルーシャ「ミツオってば、ずるいんだから〜。あたしもパーマンになって、飛び回っていたいわよ。」

   ロン「ホント、ホント。」

   ミツオ「遊ぶためにSPBになったんじゃないよ。平和を守るために、精一杯働くんだ。オーッ!」

   そう叫ぶと、ミツオは窓の外を見た。

   赤々と輝く美しい夕日・・・。まるで、彼を応援しているかのようだ。

 

      ― これからは、ぼくの時代だ。

      また、パーマンとして活躍できる時がやってきたんだ。

      もう我慢しなくてもいい。思い切り、空を飛び回ることができる。

      力の限り、頑張ろう。

      アレイスの平和のために・・・・

 

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