LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 28、ハートフル・フラワー(前編)

 

1、 

   例の石は、既に強大なエネルギーを蓄えてしまった模様です。

   必死に追っていますが、そう簡単には捕えられません・・・。

   操られているエディさんの身も、心配です。

   はい・・・、はい。でも今度こそは。

   ・・・大丈夫です、また連絡します。それでは・・・。

   ミツオ「おーい、ソフィー!」

   パーマンバッチのスイッチを切ったソフィは、その声に気付いて振り向いた。

   たった今、ロリーナへの報告を終えたところだ。

   定期的に、現状をバード星本部で待機しているロリーナに伝える必要があるのだ。

   ロン「いくら探しても、だーれも居ないぜ。小さな村のようだけど、こんなに家はあるのにな。」

   ソフィ「そうですか。一体、どうなっているのでしょう・・・。」

   ここはバード星近くの小惑星群の一つ。

   石が蓄えたエネルギーを探知機を頼りに追ってきたのだが、着いたその村は閑散としていて、

   人一人見当たらないのだった。

   そう広くない村だが、幾つか存在する家屋は、まだ生活の匂いが感じられ、最近まで誰かが

   住んでいたと考えられる。

   しかし、ミツオとロンが円盤が着陸した近くを探してみても、住民は見つけられなかった。

   ミツオ「でも不思議なことに、この村はちょっと荒れてるんだ。家の屋根が壊れていたり、

   畑が荒らされていたり・・・。」

   ソフィ「ここにエディさんが居ることは確かなのですが・・・。この村が石に襲われたとは

   前回の事例から見ても考え難いですね。それにしては、被害が小さいというか・・・。」

   先日の惑星で目にした、石によって破壊された村と比べても、ここの被害は大したことがない。

   三人が頭を悩ませていると、向こうの方からルーシャ、ラナ、フェリオが駆けてきた。

   何やらただならぬ表情を浮かべて。

   ルーシャ「ちょっと、こっち来てよ!人は沢山見つけたんだけど・・・!」

   ソフィたちがルーシャの案内のもと駆けつけると、そこには一つの大きな建物があった。

   木造の一階建てはかなり古く、所々壁の板もはがれてしまっている。

   目の前に大きな入口はあるが、とても静かで人が大勢いるようには思えない。

   ロン「なんだ?この建物・・・。」

   ラナ「いいから、こっち来て。」

   彼らは建物のすぐ横の庭に回ると、そこにあった窓から、背伸びをして中を覗いた。

   そしてソフィたちは驚いた。

   ソフィ「こ、これは・・・。」

   そこには、何もない広い広い部屋に仰向けで横になっている、大勢の人々の姿があった。

   それぞれの下に薄い毛布が一枚だけ敷かれ、床に詰めるようにして寝かされている。

   ミツオ「みんなでお昼寝してるのかな・・・?」

   ルーシャ「そんなわけないでしょっ。みんな顔色が悪いし、もしかして、

   ここは病院とかじゃ・・・。」

   「何をやっているんだい?」

   突然、横から聞きなれない声がした。ミツオたちが驚いて振り返ると、

   一人の青年が、こちらを向いて立っていた。

   後ろで長い髪を一つでくくり、丈の長い白衣のようなものを着ている。

   ソフィ「あ、あの、怪しい者じゃないんです。村に誰も居ないようだったので、探していたら

   ここを見つけて・・・。」

   「君たちは、この村の外からやってきたのかい?だったら、早く帰った方がいい。

   ここに長居してはいけない。」

   そう彼は険しい表情を浮かべた。

   決して感じの悪い青年ではないのだが、その顔は少々怖かった。

   ルーシャ「やはり、ここは病院なんですか?どうして、ここの他には人が居ないんですか?」

   「いいから、さっさと村を出ていきなさい!」

   彼が突然発した大声に、ルーシャたちはビクッと肩を震わせた。

   それだけ言うと、青年は背を向け、建物の中に入って行ってしまった。

   ロン「な、なんだ?そんなに怒鳴ることないじゃないか・・・。」

   ミツオ「ソフィ、円盤に戻ろうか?」

   ソフィ「そんなわけにも、いきませんよ・・・。」

   彼女はポケットから、石の探知機を取り出した。スイッチは切ってある。

   ソフィ「エディさんがこの星にいるのなら、負の感情が充満している、この病院を狙ってくる

   可能性が高いです。ここで張り込みをしていれば、近くに現れるかもしれません。」

   ラナ「態々張り込まなくても、その探知機を使って、エディのいる場所を割り出せばいいじゃない。」

   ソフィ「それが、既に石のエネルギーは強大なものとなっていて。ここで探知機を作動させると

   メーターの針が吹っ切れて、壊れてしまうかもしれないんです。」

   その言葉に、彼らは驚いた。 

   もう、ストーンのパワーは、それほどまで蓄えられていたのか・・・。

   ソフィ「この星でも逃がしてしまったら、もう後はありません。それほどのパワーがあれば、

   バード星の中心都市を破壊することが出来るでしょうからね。」

   ラナ「そ、そんなこと!エディにさせるものですか!・・・この星で、絶対に石を止めなくては

   いけないのね。」

   ソフィは頷いた。皆の顔が、決意と不安に色を染める。

   もう事態はそれほどまでに進展してしまっていたのか・・・。

   ルーシャ「だったら、この病院で手伝いながら、エディとファラを見つけましょうよ!

   パーマンとしても、こんなに沢山の病人を放っておけないわ!」

   フェリオ「えぇっ、ぼくらが看病なんて出来るかな?」

   ロン「やるっきゃないぜ!」

   ロンの言葉に、ミツオたちは力強く頷いた。

 2、

   彼らは建物の正面に戻ると、入口の扉を開けて、中に入った。

   そこには机や椅子、キッチンなどが置かれていて、その奥にまた、小さな扉があった。

   その扉を開けると、たった一つの奥行きのある広い部屋に、大勢の人が寝かされている姿が

   目に入る。

   人と人の間の小さな隙間を渡り歩き、先ほどの青年が病人一人一人の前に座り込んでいる。

   そして、何やら語りかけていた。

   「大丈夫だよ、君は強い。もっと自分に自信を持つんだ。大丈夫・・・。」

   語り掛ける以外は、薬も何も与えていない。そんな作業を、ただひたすら続けていた。 

   ミツオたちは疑問に思う。

   ミツオ「あれだけで治るのかな?薬は飲ませないの?」

   すると青年はミツオたちに気が付き、慌ててこちらへ駆けてきた。

   「き、君たち!用がないなら、早く出ていきなさいと言っただろう・・・。」

   ルーシャ「あの、あたし達も力になりたいんです!こんなに大勢の人たちが苦しんでいるのに、

   放っておけません!」

   それを聞いて、青年は驚きの表情をした。

   「・・・もしかして、見習いの看護師か何か?救援に来てくれたのか?」

   ロン「いやぁーそういう訳でもないけど、オレら困っている人の味方だから。

   必ず、あなたの役に立ってみせますよ!」

   胸を張って言うロンを見て、青年はしばらく戸惑った様子だったが、やがて静かにほほ笑んだ。

   「・・・まぁ、とにかく話をしよう。お茶でも出すよ。」

   彼らはそこを出て、小さな部屋に招かれた。ここは、医師たちが生活する待機室だ。

   テーブル、ソファー、医療に関する本や資料が置いてある。

   腰かけたミツオたちに、青年は飲み物を差し出す。

   「ぼくはハンネス。まだ成り立てだけど、医者をやっているんだ。」

   ソフィ「ハンネスさん。ここには、あなた一人しか居ないのですか?他に医者らしい人も

   いないようですが・・・。」

   ハンネス「あぁ・・・、実はそうなんだ。」

   それを聞いて驚いた。あんなに沢山の患者がいるのに対し、医者はたった一人。

   一人であれだけの人数を診ているというのか。

   ハンネス「以前は、ぼくの他にも数人の医師はいたんだけどね。皆、出て行ってしまった・・・。

   ここにいる患者は、ぼく達の力ではどうしようもなくて。

   いや、それ以上に、自分も同じ病にかかってしまうのが怖くて、逃げ出したんだ。」

   ルーシャ「ここにいる人たち、みんなが同じ病気?一体、どういう病気なのですか?」

   ハンネス「ぼくにも、よくわからない。他ではあまり知られていない感染症なんだ。」

   ハンネスの話によると、その病はここ数か月で一気に村全体に広がったという。

   最初は一見、風邪のような症状が見られるだけなのだが、

   それが悪化すると急性の免疫力低下症状が現れ、様々な合併症により、最終的には死に至る

   場合があるのだ。

   ハンネス「この手の病はたまに聞くが、ここの患者がかかっている病の特徴は何といっても、

   その人の感情に作用することだ。」

   ミツオ「か、感情っ・・・!?」

   ハンネス「ウイルスは、感情を引き起こす脳科学的メカニズムを刺激し、人の心の奥に眠っている

   暗く辛い感情を引っ張り起こすんだ。   

   病は気からって言葉は知っているかい?実は心と体は深く関連し合っている。

   鬱な感情によりストレスが極度にたまると、体は弱り、免疫力が低下していく。」

   この感染症は、驚くほど感染力が高く、短期であっという間に拡散し発病する。

   ここにいる人々はそれぞれ、誰もが持っている暗い思いを引き出され、悪夢に苦しんでいると

   いうのだ。

   ソフィ「治す方法はないんですか?」

   ハンネス「ここにいた医者は患者を放置して去ってしまったし、ぼく一人じゃなかなか研究が

   進められないんだ。薬も開発されていないから、ぼくに出来ることは、ただ皆を励ますしか

   ないんだよ。」

   心に強い希望を持てば、病は改善される。

   しかし、一度折れてしまった気持ちは、なかなか立て直せない。

   ハンネス「驚異の感染力に恐れ、もっと大きな村の優秀な医師たちに協力を頼んでも断られた。

   それどころか、この村を完全に隔離し、村人が外に出ることを禁止したんだ。

   感染を免れた村人たちは病を恐れ、密かにどこかへ逃げ出してしまったのさ。」

   フェリオ「だから、探しても、誰もいなかったんだ・・・。」

   感染症が流行する前、この村では隣村との争いが起こり、村人たちは疲弊していた。

   それが、この病をここまで広げる一因となったのだ。

   ハンネス「だから、君たちも無理にとは言わない。もし、今の話を聞いて戸惑ったのなら、

   早くこの村を出て・・・。」   

   ルーシャ「でも、ハンネスさんは一人でも、患者さんたちを救いたいのでしょう?一人でやるよりは

   あたしたちが居た方が、少しは仕事が楽になるかもしれません!」

   ハンネスは驚いた。

   こんな話をすれば、当然病を恐れ、逃げ出すと考えていたのだ。

   しかし、ルーシャたちの目は真っ直ぐで、真剣な光を灯していた。

   ミツオ「パーマンとして、困っている人たちを放っておけないよ!」

   ラナ「あの石っころにとっては、これ以上にない美味しい餌でしょうし。ここにいれば、

   向こうから、やってくるかもしれないしね~。」

   ハンネスは少々戸惑った。

   この子たちの安全は保障できない。後悔することになるかもしれない。

   ルーシャ「ハンネスさん、お願いです!手伝わせてください!」

   しかし、彼女達の気持ちはハンネスにしっかり伝わってきた。

   確かに最近、これだけの仕事量を自分一人でやることに重荷を感じずにはいられなかった。

   この子たちが居てくれたら・・・救援をいつだって自分は待っていたではないか。

   ハンネス「あぁ・・・わかった。でも、その前に一つ確認しておきたいんだ。」

   彼もまっすぐ、ミツオたちを見つめた。

   ハンネス「君たちは強い心を持っているかい?決して病に負けない、悩みなど吹き飛ばせるほど、

   前向きな心を備えているかい?生半端な覚悟じゃ、君たちまで餌食になってしまうよ。」

   ルーシャ「大丈夫です!どんなに暗い気持ちにも、絶対にふさぎ込んだりしませんから!」

   ミツオ「そうだよ!ぼくに心配事なんて、何一つないさ!」

   それを聞いて、ハンネスは満足そうに頷いた。

   ハンネス「よし。じゃぁ、早速今日から頼むよ。」

   それを聞いて、ルーシャは嬉しそうに笑った。

   気が付いていなかった。

   その後ろで、ハンネスの言葉に思わず不安な思いを抱えてしまった人がいたことに。

   自分の心の強さを、信じ切ることが出来なかった人が居たことに。

 3、

       ミツオたちは何人かに分かれ、ハンネスに支持された仕事を行った。

   近くの小川で水を汲み、濡らしたタオルを患者に配る。

   シーツ、毛布を回収し、水洗いをする。

   そして、ハンネスと一緒に隣村まで食料を調達に。隣とは言っても、この村から歩いて一時間程

   かかってしまう。

   ソフィ「ハンネスさんは、毎日これだけの仕事を一人でこなしていたんですね。」

   ロン「凄いよなぁ。よっぽど、心が強いんだな。」

   ソフィとロンは、川から汲んできた水でシーツを洗いながら、呟いた。

   ロン「今頃、レモンの奴何やっているんだろな。正直、患者たちの負の感情を吸い取られたら、  

   敵うかどうかなぁ。」

   フェリオ「・・・・。」

   シーツを洗っていたフェリオの手が止まった。ソフィとロンも、それに気づいて振り向く。

   彼の表情はどことなく沈んでいた。

   ソフィ「フェリオさん?どうしましたか?」

   フェリオ「あっ、いや・・・大丈夫だよ。ちょっと、ファラのことが気になって。」

   ロン「駄目だぜ~、フェリオ!暗い気持ちでいると、病に餌食にされるぞ!」

   ほほ笑みながら「大丈夫さ。」と返したフェリオだが、内心は不安で胸がいっぱいだった。

   - ファラ、どうして戻ってきてくれないんだ。

   ぼくなんかより、エディさんと居た方が楽しいのかな・・・。

   あの石に騙されているのかも?ぼくは、どうしたらいいんだ・・・。

   いや、わかっている。こんな気持ちになってはダメだとわかっている。

   でも、ハンネスさんの言葉のせいで、余計に意識せずにはいられなくなって・・・。

   ロン「フェッ、フェリオ!本当に大丈夫か!?」

   急に咳き込み始めたフェリオに、ソフィとロンは慌てて駆け寄った。

   胸が苦しい。熱い。ぼくはどうなってしまうんだ・・・。

   ソフィ「フェリオさん!・・・すごい熱が・・・。」

   彼女はフェリオの額に手をあてた。とんでもない熱さだ。

   ロン「ま、まさか・・・フェリオの奴、感染して・・・!?」

   ソフィ「ロン!急いで、病院に運びますよ!」

   緊迫した表情でソフィが叫んだ。ロンはぐったりとしたフェリオを抱えると、

   病院の中へ駆けだした。

   ハンネス「大変だ!治療室はもういっぱいなんだけど、こっちの待機室を使ってよ。」

   ハンネスが先ほどお茶を飲んだ部屋に連れていくと、毛布を出して、フェリオを寝かせた。

   頬に赤みを帯び、額に汗が滲んでいる。

   苦しそうなフェリオを見て、ソフィとロンは心配を隠せなかった。

   ロン「そんな・・・フェリオ・・・。」

   ハンネス「彼の世話はぼくが看るよ。もう日が暮れてきたし、他の皆も集めて休憩してくれ。

   今日の仕事はひとまず、これで終わろう。」

   その夜ミツオたちは、フェリオが寝かされた部屋から一つの仕切りで隔てた部屋で、

   食事をとった。

   ルーシャ「みんな、笑いなさいよ!大丈夫、フェリオはきっと治るから!あたしたちが暗い気持ちに

   負けちゃ駄目なんだからね。」

   ルーシャはニッコリとほほ笑んだ。フェリオに対する心配を、心の奥に閉じ込めて。

   ミツオたちも笑う。

   ロン「だーれも暗い気持ちになんて、なってねぇよ!フェリオも皆も、絶対にオレたちが

   助けてやるんだから!」

   ハンネス「さぁ、明日も早いしもう寝よう。毛布を用意したから、寝心地はよくないと思うけど

   使ってくれ。」

   その日は、狭い部屋で雑魚寝した。

   楽しい夢を見よう。不安な気持ちに負けるものか。

   ぼくたちは、きっと、きっと、大丈夫・・・。

   ラナ「エディ・・・。」

  

   

   ここはどこ?

   真っ暗で何も見えない。ぼく以外、誰もいない。不安で怖くてたまらない。

   誰でもいいから、早く出てきてよ・・・。

   - お兄ちゃん?

   背後から声がした。振り向かなくたってわかる。ずーっと一緒だった、ファラの声だ。

   あぁ、会いたかった。

   その笑顔、温かさ、何一つ変わっていない。

   随分怖い夢を見ていた気がする。ファラが離れていっちゃうなんて、やっぱり嘘だっ・・・

   - お兄ちゃんって、わたしが居なくちゃ何も出来ないの?

   え・・・?

   聞いたこともないようなファラの冷たい声。冷たい目。

   - お兄ちゃんに料理の才能なんて無いんだよ。宇宙料理コンテストで優勝できたのは、

    あたしがお兄ちゃんの分まで頑張ったからなんだから。

   あぁ・・・知っている。胸が苦しくなるほど、そんなことわかってる。

   お父さんも皆も、結局期待していたのはファラにだけなんだ。

   ぼくなんて・・・、ぼくのことなんて誰も見ていない。認めてくれない。

   - もういいよ、お兄ちゃん。さようなら。

   行かないで、行かないでよ。ファラは、ぼくにとって、たった一つの光なのに・・・。

   

 4、

   エディは最初、遠い存在だった。

   可愛い女の子たちに、いつも囲まれて。あたしの事なんて、始めは見てもくれなかったでしょ?

   それから行動を共にするようになって、一緒にいる時間は増えたけど、

   あたしはエディの特別になれたのかな?

   今だって、あたしは眼中にない?むしろ、しつこすぎて、うんざりしてる?

   だから離れていってしまったの?

   お願い、戻ってきてよ。なんでもするから。お願い・・・。

   - ラナ、何回言わせるんだ。ぼくの運命の相手は、ソフィちゃんだよ。

   あぁ、そうか。そうよね。どうせ、あたしなんか・・・。

   - もうやめてくれよ。ぼくとソフィちゃんとの間を邪魔しないでくれ。

   あたしは邪魔者なの?

   嫌だよ・・・、そんな風に言わないでよ。昔から、あたしにはエディだけしか居ないのに・・・。

   戻ってきてよ・・・。

  

   ミツオ「・・・ラナ!ラナ!」

   翌朝。

   ミツオたちはラナの周りに集まり、必死に声をかけていた。

   ラナの顔は赤みを帯び、息苦しそうに蹲っている。

   ハンネスはラナの容態を診て、険しい表情を浮かべた。

   ハンネス「彼女を、フェリオくんが寝ている部屋に移動しよう。皆はひとまず外へ出て。」

   ハンネスがラナを抱えて移動するのを見て、ミツオたちも渋々外へ出た。

   思わず顔が曇る。

   彼らは建物の前で腰を下ろした。

   ソフィ「たった一日で、フェリオさんとラナさんが・・・。この病の感染力を、少々侮って

   いたようです・・・。」

   ミツオ「二人とも、エディとファラのことが心配だっただろうからね。治そうにも、薬が開発

   されていないんじゃ、どうしようも・・・。」

   しばらく沈黙が続いた。

   淀んだ空気に耐えかねず、ルーシャは立ち上がった。

   ルーシャ「そんなことないわ!必ず治療法はあるはずよ!二人を見捨てはしないわ。」

   ソフィ「バード星に連絡してみましたが、この病はこの惑星特有のようで、治療法の開発には

   まだ時間がかかるそうです。それまで持ち堪えてくれるか・・・。」

   するとルーシャはそのまま、病院の中へ駆けだした。

   ミツオ「ルーシャ!」

   中では、ハンネスがラナを寝かし終わった後だった。

   ハンネスはルーシャに気付く。

   ハンネス「ラナちゃんは、今寝かせてきたよ。何とかしてあげられたらいいんだけど・・・。」

   ルーシャ「・・・すみません。あたし、考えが浅はかだったのかもしれません。

   あたし達なら大丈夫って高を括って・・・二人を辛い目にあわせて。」

   するとハンネスはいきなりルーシャの両頬を手でつねった。

   ルーシャ「いたたたた・・・っ!」

   ハンネス「ほらほら笑って。そんな顔してると、君まで負けちゃうぞ。」

   そうハンネスは笑顔を浮かべた。ルーシャは思わず、その笑顔にみとれてしまった。

   なんて、心の強い人なんだろう。

   この人は凄い人だ。この人の助けになりたい・・・。

   ルーシャ「あたし、絶対負けません!今日も張り切って、お手伝いさせてください!」

   ハンネスは笑って頷いた。

   ソフィ「さぁ、今日はわたしがご飯を作りますよ。美味しいご飯を食べれば、少しは気持ちが

   明るくなりますよね。」

   ソフィは隣村に分けてもらった乏しい材料を並べて、下準備を始めた。

   その横で、ミツオとロンは大量の食器を水洗いする。

   ロン「ミツオ、明るくいこうぜ!あんな病気なんかに、負けるなよ!」

   ミツオ「当たり前さ!ぼくは何にも悩んでないんだから、勝てる気しかしないね。」

   ロン「まぁ、お前は心配事とかないだろうなー・・・。」

   カチャカチャと、皿同士が擦れる音が響く。

   皿を洗いながら、ミツオはロンの顔をそっと覗き込んだ。

   ミツオ「あのさ、ロン。本当にロンは大丈夫だよね?」

   彼は、以前ロンが兄について話してくれた内容を覚えていた。

   そのことで、ロンが心に暗い思いを抱えていないか、ずっと気になっていたのだ。

   しかし、ロンはパッと明るい笑顔を見せる。

   ロン「大丈夫に決まってるだろ。変な心配するなよ~。」

   ミツオ「・・・そうだよね。ロンは強いからね!」

   ミツオは安堵した。ロンなら絶対に大丈夫、そう信じることが出来た。

   一方、ロンも自分の心に言い聞かせた。

   - わかってる、平気さ。・・・大丈夫。

   ソフィ(フェリオさんもラナさんも、大切な人を強く心配していたんですね。)

   調味料で味付けをしながら、ソフィは考える。

   心配事か・・・。

   そういえば、わたしにも色々ありますね。ミネルダのパーマンのこととか、チームのこととか。

   でも、一番は何と言っても、・・・ミツオさんとパー子さんとのこと。

   あまり気にしてないふりはしてたんですけど、心のなかでは、ふと考えてしまうことが

   よくあります。

   でも、わかってる。あの二人の間には入れない。

   わかっているのに、諦めたくない。

   何でだろう・・・今まで、男性に対してこんな思いを抱いたことなどなかったのに。

   だったら、何でミツオさんなの?

   パー子さんという存在がいて、最初から勝ち目なんてないのに、何で好きになんてなっちゃったの?

   こんなの負け戦じゃないですか・・・。

   ダメだとわかっているのに、ドキドキさせられる、こっちの身にもなってくださいよ・・・。

   ソフィ「・・・・あっ。」

   そこまで考えて、ソフィはハッとした。

   思わず、心の奥に隠しておいた悩みを、自分で引っ張り出してしまっていた。

   慌てて気持ちを抑えようとするが、それに逆らうように、重い感情が彼女を支配していく。

   体が熱くなり、意識がもうろうとしてきた。

   ミツオとロンが慌てて駆けつけてきた様子を最後まで捉えることが出来ず、

   ソフィは気を失った。

 5、

        ミツオ「フェリオ、ラナ、ソフィ・・・。」

   病院の待機室で寝かされた三人を見ながら、ミツオは静かに呟いた。

   ミツオ、ロン、ルーシャは心配を隠し通すことが出来ない。

   自分たちの浅はかな考えが、仲間を苦しめることになってしまった。胸が痛い。

   ロン「これだけの短期間で感染するなんて・・・。ただものじゃないな、この病気・・。」

   ルーシャ「ハンネスさん!本当に・・・本当に治す方法はないんですか?」

   ハンネスは三人を診ながら黙っていたが、やがて小さく呟いた。

   ハンネス「実は・・・一つだけ心あたりがある。」

   それを聞いて、ルーシャの瞳に光が戻った。ミツオとロンも、思わず笑顔を見せる。

   ルーシャ「教えてください!三人を・・・助けたいの。」

   ハンネス「心当たりといっても、本当に微かな記憶なのだが・・・。」

   ハンネスは医者の資格を取る以前、研修として一度この病院に訪れたことがあった。

   当時は感染症も流行しておらず、ここにも数人の医師がいたのだが。

   ハンネスは滞在中、時間潰しがてら、ここの医療書物を読み漁っていた。その中の一冊に、

   この感染症に非常によく似た症状の病の記録が綴られていた覚えがあるのだ。

   たった一度目にしただけで、記憶も曖昧なのだが・・・。

   ハンネス「それで、その書物を探してみようとしたのだが、ここには大量の本があってね。

   患者の世話もあり、なかなか全ての本に手が回らないんだ。」

   それを聞いて、ミツオたちは希望を持てた。

   もし、その本を見つけることが出来たら、仲間はもちろん、この病に苦しんでいるすべての人を

   助けることができる治療法がわかるかもしれない。

   ミツオ、ロン、ルーシャは互いの顔を見て、頷き合った。

   ルーシャ「ハンネスさん。あたしたちが、その本を探します。きっと、治療法を見つけて

   みせます。」

   ハンネス「しかし、僕の記憶は本当に曖昧で・・・そんな本が本当にあったのかも保証できない。

   仮に見つかったとしても、全く異なる病気かもしれない。」

   ミツオ「それでも探します!絶対に、ぼくたちの大切な仲間を救いたいんだよ。」

   この子たちも、病に負けない強い思いを持っている・・・ハンネスはそう感じた。

   今まで一人で仕事をこなしてきたハンネスにとって、ミツオたちの支援は有難かった。

   ハンネス「あぁ・・・じゃぁ、頼むよ。この部屋にある本は、全て目を通したんだ。だが、病院の

   建物の裏に、物置小屋があってね。書庫になっているんだけど、その中の本は多すぎて、まだ

   手がつけられていない。そこを探してくれないか。」

   ルーシャ「わかりました。その本について、他に覚えていることはありますか?

   表紙の色とか・・・。」

   ハンネス「表紙は覚えていないな・・・。あっ、そういえば、扉絵に花畑の絵が描いてあったのが、

   印象的で、なんとなく覚えているよ。」

   ミツオたちは頷くと、早速書庫へ行こうと外へ飛び出した。

   絶対に見つけ出さなくてはいけない。

   ソフィ、フェリオ、ラナの三人を救うために。苦しんでいる人々を救うために。

   そんな決意を胸に空を見上げると、なんと一つの小さなロケットが見えた。

   そのロケットはこちらに向かって、急降下してくる。

   ロン「な、なんだ!?あのロケット!」

   ロンたちは慌てて後ろに下がると、そのロケットは乱暴にもすぐ目の前に着陸した。

   勢いよく開いたハッチから飛び出してきたのは、

   黄色の髪に、青いバンダナを巻いた、小柄な少年だった。

   ミツオ「マ、マーカス・・・!?」

   マーカス「やぁ、みんな!お久しぶりー!」

   マーカス「全く、ひどいよねぇ。ぼくを置いて、ストーンを追いに行っちゃうなんて。」

   彼はロリーナからミツオたちの居場所を聞き、バード星のレンタルロケットで追ってきたという。

   仲間外れにされたマーカスは、かなり不機嫌そうにぼやいた。

   ルーシャ「ごめん、ごめん。だって出発の時、あなた、いなくなっちゃうんですもの。」

   マーカス「あれ?そうだったっけ?まぁ、とにかく、ここからはぼくも協力するよ。

   なかなか頼りになると思うよ。」

   ロンは「そうかね~?」とマーカスを罵ったが、相変わらず些細なことを気にしないマーカスは、

   ロンの言葉を聞き流す。

   マーカス「で?今はどうなってるの?石に乗っ取られたっていう、エディさんはどこに?」

   

   エディ「一体どうしたっていうんだよ・・・。しっかりしろよ!」

   そのころ、エディは急に倒れたファラの前で大いに困惑していた。

   かなり前にこの惑星に着いたのだが、それからしばらくして、ファラの具合がおかしくなったのだ。

   二人は村とはかなり離れた、人気のない森の中にいた。

   ファラは苦しそうに横になっている。

   エディ「風邪・・・にしては、熱が高すぎる・・・。人間の病なんて、ぼくにはどうすれば

   いいのかわからない・・・。」

   ・・・いや、ちょっと待てよ。何で、こんな奴の心配をしているんだ。

   役に立たなくなったなら、捨て置けばいいじゃないか。

   なんで、人間なんかのために、ぼくが考え込む必要があるんだ・・・。

   ファラ「お兄ちゃん・・・。」

   だが、辛そうなファラをそのまま残して去るにも、何故か気が引けた。

   エディ(本当、どうしたんだろう、ぼくは・・・。こんな奴、どうだっていいのに。)

   ー  あなたの心に闇があるなら、あたしが何とかしてあげるから。

      ・・・独りがいいなんて、寂しいことを思わないで。

   あいつの笑顔が、心配そうな顔が頭から離れない。

   ・・・まぁ、いいだろう。食事係がいなくなっては、ぼくも困る。

   自分のためにも、こいつは何とか助けてやらないと。

   でも、どうやって・・・?

   ミツオたちも、この星に来ているのだろうか・・・?

   

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