LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 27、少女の希望の光

  

   それは、わたし達の希望だった。

   それはいつか、わたし達の星を更なる発展に導くと信じていた。

   でも・・・違った。それが招いたのは、単なる破滅だった。

   シャンティ「この星・・・バード星は、今まさに、わたし達の星と同じ運命を辿ろうとしてい

         る・・・。」

   シャンティは、狭く暗い鉄格子の中で、独り静かにそう呟いた。

   たった一つの石が、全てを消滅させたの。

   そこには、確かにかつて、光り輝く温和な日々があったはずなのに・・・。

1、 

   「わぁ~、見てよ!お父さん、お母さん!すごく綺麗なお花があるよ!」

   1人の少女が、はねるように草原の中を駆け回っていた。

   まだ10歳ほどだろうか。ピンクのロングヘアを揺らし、少女は彼女の両親に温かい笑顔を向けた。   

   「おーい、シャンティ。そんなにはしゃいで、迷子になるなよ!」

   父親が笑顔で言った。母親も、我が子が遊びまわる様子を微笑ましそうに眺めている。

   ここは何年か前の惑星ゾルフ。

   シャンティの家族は、久しぶりに休暇を取って、ピクニックに出かけていた。

   父の名は、エミール・レナール。母の名は、アスナ・レナール。

   シャンティの両親は、この星では有名な科学者で、毎日多忙を極めていた。

   そのせいで、幼いシャンティと出かける時間がなかなか持てず、

   今日は実に数年ぶりの家族旅行なのだ。

   シャンティには、仕事柄なかなか自分に構ってくれない両親が、今はずっとそばに居てくれることがう

   れしかった。

   彼女は楽しそうに草原を駆け回った。すると・・・。

   シャンティ「あれ・・・?なんだろう。」

   彼女が空を見上げると、上空に小さな黄色の光が見えた。

   それはゆっくりと降りてくる。シャンティは好奇心から、その光に駆け寄った。

   やがて、それはシャンティの手の平に静かに落ちた。

   シャンティ「・・・きれーい。なんだろう?宝石かな?」

   それはよく見ると、黄色に光り輝く一つの石だった。幼いシャンティの手の平にもすっぽり収まる

   サイズだ。

   シャンティには、その石がとても幻想的に見えた。言葉では言い表せない美しさだ。

   シャンティ「お父さんとお母さんに見せよう!」

   そう言って、彼女は石を大切そうに持つと、両親の所に駆け寄り、その石を披露した。

   エミール「へぇー、綺麗な石だな。ちょっとお父さんに見せてくれるか?」

   シャンティは父親に石を渡した。エミールはその石をジッと眺め、やがて顔をゆがめた。

   彼の手の中で、石はなお神秘的な光を放つ。

   アスナ「どうしたの、あなた?」

   エミール「アスナ、君も見てくれるか?この石に見覚えは?」

   そうエミールは妻アスナに石を手渡した。アスナはしばらく、石を眺めたが、首を振った。

   アスナ「ないわ・・・。初めて見る石ね。」

   エミール「あぁ・・・。それだけじゃない。小さいのに、ただならぬ力を秘めているような感じ

   が・・・。」

   彼は肩から提げていた鞄から、小さなケースを取り出し、大切そうに石を中に入れた。

   両親はうなずきあうと、シャンティの目線に合わせて身体をかがめた。

   エミール「シャンティ、悪いがピクニックは一旦中止だ。ごめんよ、今度またどこかへ遊びに行こ

   う。」

   それを聞いて、シャンティは顔を曇らせた。

   シャンティ「えー!どうして?久しぶりにお父さんとお母さんと、一緒にゆっくり遊べると思ったの

   に・・・。」

   エミール「本当に悪かった。でも、信じてくれ。父さん達はシャンティのことが大好きなんだから、絶

   対にまた、一緒にここに遊びに来るって。」

   そうエミールは、娘に優しく言い聞かせた。

   幼いながらも、シャンティは両親の科学者としての使命を理解していたつもりだった。

   お父さんとお母さんはすごい人。とっても偉い人。みんなの役に立つことを研究して、この星に貢献し

   ている。

   だから、すごく忙しくて・・・でも、そんな両親はシャンティの誇り。

   シャンティ「うん・・・わかった。」

   両親は優しく微笑むとシャンティの手を引いて、乗ってきた車に戻っていった。

   それからの両親の目は真剣だった。

   エミール「帰ったら早速この石を調べてみよう。きっと・・・この石には何かある。」

   科学者としての長年の経験から言えるカンだった。

   シャンティは手を引かれながら、そっと後ろの草原の方を振り返った。

   温かい日差しが明るく照らし、花が咲き乱れ、鳥が歌う、なんとも平和な世界。

   この時、家族そろって、この場所に再び訪れることなど二度と無いことを、シャンティにはわかるはず

   もなかった。

   家族は二時間ほど車を走らせ、両親の研究室に戻ってきた。

   この星の最先端技術を集積した数多くの大規模な機械が集められ、頭脳明晰な科学者達が日夜研究に

   明け暮れている、エミールの研究所だ。

   とは言っても、現時点でこの星ゾルフの科学力は大したことはなく、人々が住む家もまだ木造建築が主

   流だった。

   ゾルフは宇宙に数多く存在する他の知的生命体と交流関係を持つことを一切拒み、独自の技術だけで

   発展を築き上げた星である。

   そのため、バード星などの高度な文明を持つ星と比べれば、技術面では見劣りしてしまう。

   そんな星の中で、エミールの研究所は様々なハイテク技術を駆使して新製品を生み出してきたため、

   人々から注がれる期待は甚大なものだった。

   エミール「皆、今帰った!早速だが、新たに研究してもらいたいことがある。」

   彼は部下を集めると、その光り輝く石を披露した。科学者達は未知の神秘に、目を輝かせた。

   「レナールさん、これは・・・!?」

   エミール「私の娘が、見つけたんだ。なんと、空から舞い降りてきたらしい。みんな、この石が秘める

   パワーを、何となくでも感じ取れるな。」

   「ええ・・・ええ、わかりますとも!こんな神秘的な雰囲気を醸し出す石は、未だかつて見たこともな

   い!どんな力を持つのか・・・大いに期待が持てますね。」

   アスナは研究所の片隅でシャンティと一緒に、そんな好奇心に満ちた科学者たちの様子を見ていた。

   アスナ「お父さんも皆も、これから忙しくなりそうね。シャンティ、いい子にしててね。」

   シャンティ「うん!わたし、お父さんもお母さんも大好きだもの。がんばってね。」

   シャンティには、新しいことを研究して目を輝かせている両親の姿が、なにより格好良く、

   大好きだったのだ。

   彼女もまた、石の力に期待を持っていた。

   そう、この時点は確かに、その石は希望の石に違いなかったのだ。

2、

   それからシャンティの両親を中心に、着々と石の研究が進められた。

   その石は二人の期待通り、いや、それ以上に甚大なエネルギーを秘めていたのだ。

   研究者たちは、そのエネルギーを石から取り出し、それをもとに様々な新製品を開発することに

   成功した。

   今までの惑星ゾルフでは考えもしなかったほど、強力で効率のよい、高性能な生活用品が

   生み出された。

   石のおかげで、ゾルフは目を見張るような目覚しい速度で発展を遂げ、

   今までの木造建築の建物が打って変わり、都市には超高層ビルが立ち並んだ。

   ほんの数年間の出来事だった。

   研究者たちは、その黄色に光り輝く希望の石を「アレシウスの石」と名づけた。

   アレシウスとは、この星の古い言葉で、「希望」という意味だ。

   しかし、この石が一体何なのか。どこから来たのか、どうやって作られたのかは、解明されないまま

   だった。

   レナール夫妻は以前にもまして多忙な生活を送っていたが、彼らの業績は広く表彰され、

   研究所は希望に満ちていた。

   シャンティはそんな両親の傍ら、研究所の隅で、他の研究者たちにも遊び相手をしてもらいながら、

   研究の様子を眺めて過ごしていた。

   ソーデル「エミールさん、アレシウスの石の力は本当にすばらしい!ゾルフが宇宙でも最高峰の科学技

   術を持つ、先進星になる日も遠くありませんね!」

   彼は研究所の一員、ソーデル。エミールの右腕とも言える存在で、眼鏡が似合う好青年だ。

   彼とエミールは、研究所設立当初からの仲。

   目を輝かせてそう言うソーデルに、エミールは頷いた。

   エミール「あぁ、そうだな。本当に信じられないほどだよ・・・。だが・・・。」

   彼はそこで顔を曇らせた。

   エミール「あまりにも強大な力は、使い方を誤ると、とんでもないことになる。我々がしっかり管理し

   ていれば問題ないが・・・。」

   そうだ。アレシウスの石のことは、あまり公にはしていなかったが、どこからか甚大な力を秘める石の

   秘密は漏れ、様々な闇の組織が裏で、その力を手に入れようと目論んでいた。

   それだけの力があれば、文字通り世界征服だって出来てしまう。

   エミール達はその石を研究室の奥、誰にも見つけられない場所で保管し、高度なセキュリティー技術を

   駆使して、関係者以外は決して何者も、研究所の敷地内には入れなかった。

   しかし、あるとき、研究所に一本の電話が入った。

   なんと、電話の主は国軍の最高指揮官だった。

   エミール達は、彼と数人の彼の部下を、研究所内に招きいれた。

   「この研究所がある甚大な力を隠し持っていることは知っている。そこで頼みがあるのだが、そのエネ

   ルギーを利用して、高性能な軍事兵器を造ってほしい。」

   この発言には、誰もが困惑した。

   国の最高機関にだけは、石の存在を明かしていた。あくまでも、国民の生活の充実のためだ。

   しかし、軍事兵器を造るとなれば話は別。

   エミール(あんな強大な力で殺人兵器を造るだと・・・!?そんなことをしたら、とんでもない事態に

   なることは、目に見えるだろうに・・・!)

   ソーデル「エミールさん、いけません。お断りを・・・。」

   そうソーデルがエミールに囁いたが、国軍の最高指揮官は尚、力強くこちらを見つめている。

   「君たちは知っているかね。近頃、この星の国家間の緊張状態が高まっていることを。

   今現在、多くの先進国が相手よりも優れたものをと兵器の開発に勤しんでいる。

   当然、わが国も敵国に攻められたときに、それを巻き返すほどの強力な兵器が必要なんだ。」

   惑星ゾルフには、百を越える数多の国々が存在する。

   そして、はるか昔から数多の戦争が勃発してきた。今でも、この星の頂点に上り詰めようと、幾つかの

   先進国が、切羽詰って軍事力の増強に力を入れている状態だ。

   「我が国も知らん顔をしているわけにはいかんのだ。何もせねば、遠くない未来に起こる大戦争で

   滅びを待つのみ。」

   エミール「し、しかし、アレシウスの石を使うにはあまりにも危険すぎます!

   あれは、決して戦争に利用してはいけない!・・・下手をすれば、相手を一瞬で全滅・・・。」

   「レナールくん!これは、国の命令なのだ!」

   その後も言い争いは続いたが、一研究所が、国の最高機関に敵うはずもなかった。

   

   間もなく、この国では戦争が始まった。

   隣国が突如攻め込んできたのだ。軍は早速、研究所が石の力を使って開発した兵器を動員した。

   するとどうだろう。

   何千という強国の兵士たちを、たった一日で制圧してしまったのだ。

   これは、レナールたちの予想をはるかに超えていた。

   アレシウスの石が、恐ろしい殺人兵器に加担した瞬間だった。

3、

   あの一件以来、研究所の人々は頭を抱えていた。

   まさか、こんな事態になるとは思ってもみなかった。その気になれば、この国が他の全ての国を服従さ

   せてしまうことすら容易いだろう。

   「やはり、軍に協力してはいけなかったんだ・・・!奴等、きっと更に強力な兵器を要求してくる

   ぞ!」

   「しかし国に逆らえば、俺たちだって、どうなるかわからないじゃないか・・・!」

   そんな研究員達の傍ら、シャンティは光り輝くアレシウスの石をジッと眺めていた。

   シャンティ「うん・・・うん、そっか。それは大変だね。」

   石を相手に独り言をつぶやくシャンティに、アスナは声をかけた。

   アスナ「まぁ、シャンティったら。誰とお話してるの?」

   シャンティ「この石とだよ。大勢の人の役に立てて、うれしかったって言ってるの。」

   この時アスナは彼女の言うことを本気にしてはいなかった。子供時代にはよくあることだ。

   しかし、シャンティはずっと以前から、頻繁に石と何やら話をしているようだった。

   その様子にエミールも気がついた。

   エミール「シャンティ、今日は石と何を話しているんだい?」

   シャンティ「わたしには、よくわからないんだけど、昔はみんなが喜んでくれていたのに、最近は悲し

   そうな顔をしているから気になっているんだって。とんでもないものを造っちゃったみたいで、

   ごめんなさいって・・・。

   ねぇ、お父さん。お父さんは、最近どうして困っているの?」

   この発言にエミールは驚きを隠せなかった。

   まだ小さなシャンティには、例の一件のことは口外していない。

   よって石を兵器に利用したことなど知るはずもない。知っているのは、研究員、国軍、そして・・・石

   自身だ。

   エミール「ねぇ、シャンティ。本当にシャンティは石とお話できるの?」

   シャンティ「うん。石をここに連れて来てから、しばらく経ってからお話できるようになったの。」

   エミールは今も尚、半信半疑だった。

   しかし、シャンティの目は、嘘をついているようには、到底見えなかったのだ。

   そして気がついていた。

   アレシウスの石が、当初よりも少しずつ、少しずつ大きくなっていることを・・・。

   翌日、再び軍の最高指揮官が訪れた。

   研究員たちに緊張が走った。会談の内容は、大方研究員達の予想通りだったのだ。

   「先日の発明品はすばらしかった。今度は、更に高性能なものを作ってほしい。」

   会談室の中で、冷たい空気が流れる。

   長い沈黙の後、立ち上がったのはエミールの右腕、ソーデルだった。

   ソーデル「そんなこと、していいはずがないっ!あなたにはまだわからないんですか!?あの石は、使

   い方を誤れば、恐ろしい殺戮兵器だ!何千もの尊い命を一瞬にして消し去るんだ!

   どうか、お引取りを!」

   その日は大分もめたが、日も落ち国軍は日を改めると言い残し去っていった。

   研究員たちは胸を撫で下ろしたが、その日の夜、研究所の防犯セキュリティーが高い音を上げた。

   何者かが侵入したのだ。

   エミールとアスナ、そして数人の夜警研究員が慌てて駆けつけた。

   最高峰の防犯システムを破った者がいる・・・国軍の一員かと思えば、捕らえたそれは、この星でも悪

   名高い、海外の闇組織の一員だった。

   もはや、アレシウスの石を狙うものは、軍だけではない。他の国の最高機関だけでなく、

   数多の闇組織などにも、石は標的にされていたのだ。

   ソーデル「エミールさん!この石はもはや殺人の道具だ!大量虐殺の兵器だ!下手をすれば、この星全

   体を、一瞬で破壊し尽くすかもしれない。

   こんなもの・・・・この星にあるべき存在ではないんですよ!」

   エミール「じゃぁ・・・どうしろと言うんだ、君は。」

   ソーデル「・・・いっそ、破壊すべきです。」

   最初はそれこそ、希望に満ちた石だった。しかし今では、誰からも恐怖の対象としか見なされていな

   かった。

   シャンティ「悲しんでる、困ってる。この石も・・・。」

   光り輝く石の前で。シャンティはそうつぶやいた。

   強く放たれたその光は、今は少し悲しげにさえ見えた。

   シャンティ「みんな、困ってる。みんなから恐れられているって嘆いてる・・・。かわいそ

   う・・・。」

   エミールはその様子を眺めていた。顔を曇らせて。

   石も感じ取っているのか・・・?この現状を。

   アスナ「ねぇ、あなた。この石・・・、なんだか大きくなっているわよね?」

   最初はシャンティの手のひらに収まるほどのサイズだった。

   しかし、今は誰の目から見ても巨大化している。まるで一つの岩のようだった。

   大きくなるにつれ、そのエネルギーは強大なものへと変化していったのだ。なぜ、こうなるのかはわか

   らない。

   ただ、時間が経てば経つほど、それが危険なものとなるのは目に見えていた。

   その夜も、エミールは研究所に残って夜警を続けていた。

   深夜、研究所には数人の見張りを残して誰も居なくなる。そんな中で、エミールは石の研究室に明かり

   がついているのを見つけた。

   防犯セキュリティーに異常はない。誰か研究員が忘れ物でもしたのだろうか?

   エミールが部屋をのぞくと、そこには目を見張るような光景が。

   なんと、ソーデルが手に巨大なハンマーを持ち、石を前に振りかぶっていたのだ。

   その顔は正気を失っているかのようだった。

   エミールは慌てて研究室内に飛び込んだ。

   エミール「ソーデル!お前、一体何をしているんだっ!」

   その声に気づいたソーデルはこちらを振り向いた。彼は冷静さを失っていた。

   石の黄色い光が顔に反射している。

   ソーデル「エミールさん!この石はもう、ここに存在すべきではない!

   この星を破壊に導く殺人兵器なんだっ!」

   エミール「やめろーっ!」

   止めようと足を一歩大きく踏み出したそのとき。

   アレシウスの石が一瞬、以前にも増して強力な輝きを放ち、視界が見えなくなった。

   ソーデルが持っていたハンマーが彼の手から離れ、宙を舞った。

   エミールが目を開けたとき、視界に広がっていたのは、頭にハンマーが当たり、血だらけになって倒れ

   ている、彼の古くからの相棒の姿だった。

   エミールは今起こった出来事をすぐに信じることもできず、その場で呆然と立ち尽くしていた。

4、

   この出来事があって、研究所はますます困惑に包まれた。

   エミール(ソーデルが誤って、自分でハンマーを・・・?いや、私にはアレシウスの石が自分を壊させ

   まいと、ハンマーを操っているようにも見えた・・・。)

   エミールは石をジッと眺めた。

   シャンティは今も、石に向かって何やら呟いている。エミールはそんなシャンティに声をかけた。

   エミール「シャンティ、今日はこの石はなんて言ってる?」

   シャンティ「うん・・・今日はかなり落ち込んでいるみたい。そして、怒ってる。すごく、すごく怒っ

   てる・・・。」

   彼の背中が震えた。恐怖を感じずにはいられなかった。

   自分を破壊しようとした者の存在に腹を立てているのか。だとすると、やはりあのハンマーは・・・。

   

   その後、エミールは国に直々に呼び出された。

   相手はこの国の大統領だ。話の内容は、大方想像がついた。

   「近いうちに、強国二国が協力して我が国に宣戦布告をするらしい。流石に今のままでは我が国の勝利

   は難しいと言ったところか・・・。だが。」

   エミールも大統領も、相手から一切視線をずらさなかった。

   護衛もいない。二人しかいない部屋の中で、大統領は強くこう言った。

   「君の研究所が開発した兵器があれば、話は別だ。奴等に立ち向かうためには、

   前回よりも強力なものが必要。

   そう・・・、たとえば、核兵器なんかが・・・。」

   エミールは大統領の机を両手で叩いた。反射的だった。顔には汗を浮かべている。

   エミール「大統領っ!よくお考えください!前回のものでも、一瞬で・・・数多の兵士を灰と化した

   とんでもない代物です・・・。あの石を利用して核兵器なんか造ったら・・・。

   敵国だけでなく自国も・・・はたまた、この星全体がっ!」

   「よく考えるのは君のほうだ。核兵器の開発など、多くの国がとっくに取り組んでいる。

   このままだと、我が国は破滅だ。何億という国民が死ぬのだぞ!君はこの国の住人として、この国に貢

   献する義務があるのではないかね!?」

   エミール「しかし・・・しかし、核兵器というのは、あまりにも・・・。」

   「君が気が進まないのなら、私に預けてもらってもいい。国の直轄研究所で独自に開発しよう。

   私もあまり、こういうことは言いたくはなかったのだが・・・。」

   

   エミール「断るというなら、この研究所の全員、国外追放する。・・・まぁ、簡単に言えば、そう言っ

   て大統領は脅してきたよ。」

   研究所に戻って、エミールは大統領との会談の内容を、研究員達に伝えた。

   誰もが絶望の色に顔を染めていた。

   「もうこうなったら、大人しく渡すしかないですよ!大統領の言うことも尤もじゃないですか!確か

   に、二カ国が共同で潰しに来るって言うなら、核兵器でも無い限り、この国は勝てませんよ!」

   「だ、だが、敵国と言ったって、同じ星の仲間じゃないか!何億という同胞を、一瞬で殺害するなん

   て、そんなこと、人として、していいはずもない!」

   研究員達は、それぞれの考えをぶつけ合った。論争は果てしなく、広がっていく。

   アスナは石の前に佇み、そんな様子をジッと眺めていた。

   エミール「アスナ、君はどう思う?我々は、一体どうしたら・・・。」

   そう彼が話しかけても、アスナは返答しなかった。ただ、言い争う研究員達の姿を見ながら、

   そこに立っている。

   彼女の目は普段とは違った。その顔は、今までに見たことも無いほど、真剣で・・・そして恐怖さえ感

   じられた。

   エミール「ア、アスナ・・・?」

   そう彼が伸ばした手を、彼女は勢いよく払いのけた。

   エミールも、その場に居たシャンティも驚きを隠せなかった。

   アスナ「触るな。」

   彼女の口から漏れた言葉は、背筋が凍りつくほど冷たいものだった。

   アスナは足を踏み出し、もめていた研究員達の間に割って入った。

   アスナ「さっきから聞いていれば、お前達はなんて勝手なんだ。ぼくはお前達の役に立とうと善意で

   力を貸してやっていた。しかし、いつからか、ぼくを利用することばかり考えて・・・。

   あげくの果てに、破壊までされそうになった。」

   いつもとはまったく違う彼女の雰囲気に、そこにいる誰もが動揺した。

   皆、言い争うのを止め、目を見開きながら、彼女を伺っていた。

   アスナ「恐ろしい殺戮兵器?そうしたのは、お前達自身だろう。今まで数多の星を回っては様々な人間

   を見てきたが・・・、こんなことは初めてだ。お前達がこんな愚かな種族だというのなら・・・。」

   そう彼女が両手を挙げると、研究室にあった様々な機械がふわっと宙に浮かんだ。

   どれも黄色の光を身にまとって、大型機器が、アスナの手の動きと同調して、重力を遮っている。

   アスナ「ここで、消してしまってもよいだろう!」

   そう言った刹那、その機械たちが研究員目掛けて襲い掛かった。

   皆、声を上げ、研究室の中を逃げ回る。

   エミール「違う、アスナじゃないな!・・・もしかして、お前は・・・!」

   彼がふと目をやると、そこにあったはずの石が忽然と消えていた。

   彼は確信した。今、アスナには石の意思が乗り移っている。

   シャンティの言ったことは本当だったのだ。

   エミール(アレシウスの石には、確かに意思がある!そして、今こうして・・・、アスナの体を借り

   て、私達に自分の言い分を伝えているんだ!)

   シャンティ「お母さん!?ねぇ、お母さん、どうしちゃったの!?」

   エミール「危ない、シャンティ!」

   シャンティの前に、宙に舞ったコンピューターが突進してきた。エミールは横から飛び込み、

   シャンティの体を抱えて、倒れこんだ。

   エミール「今のお母さんは、本当のお母さんじゃないんだ!

   なんとかして、この暴走を止めなくては・・・。」

   エミールは娘を抱えて、部屋の隅に置いてあった消火器を手に取った。

   そして正気を失ったアスナの目の前まできて、力強くレバーを引いたのだ。

   アスナの体が白いガスに包まれる。そのガスが消えて視界が開けた頃、アスナは気を失い、

   その場に倒れていた。

   シャンティ「お母さん・・・!」

   「レナールさん、それは一体・・・?」

   エミール「こういうこともあろうかと、以前から石の効力をかき消す薬品を研究していたんだ。それを

   消火器のケースに入れておいた。まだ実験途中だったのだが・・・、成功してよかったよ。」

   見ると、アレシウスの石はもとの場所へ戻っていた。

   エミールは急いで四角いガラスケースを持ってくると、石の上にスッポリとかぶせてしまった。

   エミール「このガラスケースにも、石のパワーを抑える細工を施している。とりあえず、こうしておけ

   ば、我々に手出しはできまい。石には、申し訳ないような気がするがな・・・。」

   彼らはアスナをベッドに寝かせ、目が覚めるまで介抱した。

   幸いにも、その場に居合わせた人々は軽症ですんだが、この事件は、研究員達にとって、

   新たな発見となった。

   アレシウスの石は、自らのエネルギーを利用して、人間に乗り移ることができる・・・。

   そしてエミールは、アスナを通じて、石の本当の思いをしっかりと聞いてしまったのだ。

   エミール(利用ばかりして・・・か。確かにその通りだ。最初は期待の目が注がれていたにもかかわら

         ず、こちらの都合で恐れられ、破壊までされそうになって・・・。意思があったとしたなら・・・

   さぞかし辛かったんだろうな。)

   しかし、今この手で石を自由の利かないように封じ込めてしまった。

   そうでなければ、こちらがまた何をされるかわからない。

   もう事態は、とりかえしのつかない方向にまで発展してしまっていたのだ・・・。

   - もう嫌だよ。何でこんなことまで、されなくちゃいけないんだ。ぼくが一体、何をしたって

   言うんだよ・・・。

   ここは黄色のもやの空間。

   天も地もなく、シャンティはただそこに浮かんでいた。悲しそうな声が響いてくる。

   シャンティ「そんなに悲しい顔をしないで。お父さんもお母さんも、本当はあなたにこんなことを

   したくはなかったの・・・。」

   - 何を言っているんだ!ぼくを利用している張本人だろう。今度はぼくに何をする気だ?

   自分達の手におえなくなったからって、壊すのか?お前の両親は勝手な人間だ!

   シャンティ「違う!お父さんもお母さんも偉大な人よ!あなたが何か勘違いをしているんじゃ

   ないの?」

   - ふんっ・・・。どうせ、もう人間のことなんて信じられないさ。どいつもこいつも、

   最初からぼくを利用する気だったんだ。人間なんて、最低な種族さ!

   シャンティ「どうして、そんなことを言うの!?わたしの仲間を馬鹿にすると許さないから!」

   - ああ、そうだ許さない!ぼくは許さないぞ・・・!お前達のことを!

5、

   エミール「どうやら、アレシウスの石は、人々の感情をエネルギー源としていたようだな。」

   それから数日後、コンピューターに向かうエミールを取り巻くように、研究員達が集まっていた。

   「感情を・・・!?」

   エミール「あぁ。最初は希望、期待、喜び・・・。そして、恐怖、不安、絶望・・・。

   人の感情はもともとエネルギーを、わずかながら持っている。あの石は、それを最大限にまで

   圧縮して、抽出させることができるんだ。」

   そして、蓄えたエネルギーは使うとなくなる・・・。

   現に、今のアレシウスの石は、以前より二周りくらい小さくなっていた。アスナに乗り移り、

   エネルギーを消費したのだろう。

   エミール「だから放っておいても、人々が日夜感じる思いに、あの石は反応して成長してしまうん

   だろう。少しずつだけどな・・・。それが戦争なんて勃発すれば、星中の恐怖と絶望に、

   石は急速に強大なものになっていくだろう。」

   アスナ「なおさら、戦争のために石を利用してはいけないってことね・・・。」

   エミール「あぁ。だが、国家間の緊張が高まれば、国はなんとしてでも石を手に入れようとする

   だろうな。万が一に備えて、実は皆に造ってほしいものがあるんだ・・・。」

   彼は一枚の大きな紙を広げた。ある建物の設計図だ。

   それはかなりの大きさだった。研究員たちは誰もが目を見張った。

   「これは、もしや・・・!」

   エミール「そうだ。遠くない未来に勃発する大戦争に備えて。皆、力を貸してくれ。」

   エミール「石を持っていかれただって・・・!?」

   それから数週間後の研究室で。エミールとアスナは驚嘆の声を上げた。

   用で少し自宅に戻っている間に、国直轄の研究員達が訪ねてきたらしい。

   彼らは周りを脅し、半ば強制的にアレシウスの石を持っていってしまったそうだ。

   エミールは困惑した。

   「すみません、必死に抵抗したんですが・・・。」

   エミール「いや、気にしないでくれ。無理に阻止しようとした所で、お前達や家族に何をされるか

   わからなかっただろうからな・・・。」

   そうは言いながらも、エミールは動揺を隠せなかった。どうやら、石の情報を保存しておいた

   小型チップまで、持っていかれてしまったらしい。石もケースごと消えている。

   国軍はあの石を利用して、何を作る気なのだろう。あの石が秘めた強大すぎる力を、理解しているのだ

   ろうか。

   アスナ「どうするの、エミール・・・。」

   エミール「無論、止めなくてはいけない。まずは国軍の研究所がどこにあるのか割り出さなくて

   は・・・。その一方で、例のモノの製造も急いでほしい。」

   シャンティ「お父さん、お母さん・・・。」

   二人の娘が、エミールの服の裾をそっと引っ張った。小さな手が震えている。

   シャンティ「何が起きてるの?大丈夫なの・・・?」

   不安がるシャンティを見て、両親はそっと屈み、優しい笑顔を見せた。

   エミール「シャンティは何も心配しなくていいよ。お父さん達が、きっと何とかしてみせるからね。」

   アスナ「全てが終わったら、また皆でピクニックに行きましょう。」

   シャンティ「・・・うん!」

   

   それから数ヵ月後、シャンティは両親の手に引かれ、久々に研究所を出て、

   人気のない山間に連れて行かれた。

   仲間の研究員達も、皆揃っていた。

   全員で外出など今までしたこともない。シャンティはどこに行くのか不思議に思っていた。

   エミールの進む足が止まった。後ろには深い森林。丘になっており、前方からは広い都市が見渡せた。

   数年前は木造建築が主流だった風景は、いまや高層ビルが立ち並んでいる。

   よく見ると、地面に何かの入り口のような蓋が敷いてあった。

   かなり頑丈そうだ。エミールはそこをゆっくりと開けた。

   シャンティは幼い頃に夢みた秘密基地のようで、少しだけ胸を躍らせていた。

   蓋を開けると、そこには地下に降りる階段が。エミールを先頭に、研究員たちはそこへ入っていった。

   何重にも扉を潜り抜け、やっと出たところは、広いホールのような部屋だった。

   地下にこんなものがあるとは、シャンティは驚いた。

   「・・・すばらしい完成度ですね!」

   幾つものドアがあり、またそのドアも長い通路に続いている。かなり大きな建築物のようだ。

   地下ゆえに窓もなく、灯る明かりは電灯だけ。そして、まるで研究室のように大きな機械やモニターが

   あちこちに置かれている。

   「食料も衣類も、十分に仕入れました。モニターから外部の様子を伺うこともできます。」

   エミール「例のものも、準備してあるよな。」

   「はい、こちらの赤いボタンを押しますと、出てくる仕組みになっています。保存状態も完璧です。」

   そう、これは大規模なシェルターだった。

   頑丈な構造になっているため、万が一起こった核戦争にも耐えることができる。

   相当なスペースがあるため、何百人という人々を避難させることができる。

   アレシウスの石を利用した軍事兵器に備えるため、エミール率いる研究員達が日夜設計していたもの

   だった。

   エミール「緊急事態には、街の住民を避難させる。勿論、この国の全員を救えるわけではない・・・。

   だが、人類が一人でも多く生き延びることが重要なのだ。」

   シャンティは広い建物の中を、胸を躍らせながら駆け回っていた。

   しかし、両親の真剣な顔を見て、足を止めた。

   何が始まるの?一体、今は何が起こっているの?あの石が原因・・・・?

   事情はよくわからない。だが、何かとんでもないことが始まるような・・・そんな気がした。

   

   その予感は的中してしまった。

   急に鼓膜が破けるほどの大きな爆発音がし、地面が大きく揺れた。全員、その場に倒れこんだ。

   エミールは慌てて立ち上がると、巨大なモニターのスイッチを入れた。

   そこに映ったのは、先ほどまで外で見えていた高層ビル街から立ち上る炎と煙・・・。

   もしや・・・、その場に居た誰もが直感した。

   「戦争が始まったんだ!」

   ついに強国二カ国が攻め込んできたらしい。

   その後も立て続けに爆発音は続いた。凄まじい攻撃だ。

   あんな爆風を受ければ、ひとたまりもないだろう。

   アスナ「いけないわ!もし国が石を利用した核兵器の開発に成功していたら・・・、

   きっと使ってくるわ!」

   エミール「それだけは止める!」

   そう言って、エミールは出口のほうへ駆け出した。

   アスナ「あなた!国軍の基地へ直接攻め込もうというの!?無茶よ・・・!」

   エミール「そうしなければ、想像もつかないような被害が出るんだぞ!基地の場所は割れている。

   こうなったのも、石の力をしっかりと管理しなかった私の責任なんだ・・・!」

   「レナールさん、私達も行きます!」

   そう言って、エミールと半数ほどの研究員たちはシェルターの外へ駆け出した。

   皆、国軍の基地を目指して走っていく。

   炎が巻き上がり、赤く染まった空の下。

   アスナはシャンティを引き寄せ、震える体でしっかりと抱きしめた。

   シャンティ「お母さん・・・?大丈夫なの?」

   アスナ「ええ・・・大丈夫。ここにいる限り・・・絶対に大丈夫だから・・・。」

   アスナの瞳から零れ落ちた涙が、シャンティの頬に当たった。

   戦争・・・戦いが始まったんだ。

   「アスナさん!我々は住民達を早く助けないと!」

   アスナ「・・・・!そう、そうだったわ・・・。」

   彼女はシャンティから一旦離れると、娘の肩にやさしく手を乗せた。

   アスナ「ごめんね、シャンティ。お母さんは皆と、街の仲間を助けに言ってくるわ。

   大丈夫、必ず戻ってくるから。」

   そうアスナはシャンティに、そして自分にも言い聞かせるように強く言った。

   シャンティ「本当に?本当に戻ってくるよね。お父さんも、お母さんも・・・。」

   アスナ「ええ、絶対に。だから、いい子にして待っててね。・・・でも。」

   彼女は顔を歪めた。

   しかし、唇をかみ締めると、ポケットから小さなスイッチのようなものを取り出し、

   シャンティの手にしっかりと握り締めさせた。

   アスナ「もしも・・・もしも私たちが帰ってこなかったら、このスイッチを押すのよ。

   でもきっと、こんなもの必要ないわ。

   またいつか、皆で楽しく笑いあえる日が来るはずだもの。」

   そういうアスナの瞳は濡れていて、どこか寂しげだった。

   シャンティはぎゅっと、スイッチを握り締め、母に笑顔を見せた。

   シャンティ「うん、信じてる。絶対に帰ってきてね。大好きだよ、お母さん。お父さんも・・・。」

   「アスナさん、早く!」

   アスナは娘の手を一度しっかりと握り締めると、研究員達と一緒にシェルターの外へ出て行った。

   誰もいなくなった。

   シャンティは一人になった。

   シャンティ(でも、それも今だけ・・・。もう少ししたら、みんな帰ってくるんだから!)

   その時、今までに聞いたこともないような激しい音と、強い光、そして衝撃がシャンティの体を襲い、

   彼女の意識は遠のいていった・・・。

6、

   どれくらいの間、気を失っていたのだろう。

   シャンティはゆっくりと目を覚ました。ぼやけていた視界は次第にハッキリと形を成し、

   彼女はやっとのことで体を起こした。

   シャンティが居たのは、あのシェルターの中だった。場所ももと居た場所と変わっていない。

   だが、周りには誰もいなかった。

   ただ大きな機械が正常に音を立てているだけで、そこにはシャンティしかいない。

   シャンティ「・・・何が起こったの?お父さんとお母さんは?」

   シャンティは両親を探しにいこうと、シェルターの出口に手をかけた。長い階段を上へ上へと上り、

   重い扉を何度も何度も開けていく。

   やっと最後の一枚の扉を開けようとしたところで、彼女は思いとどまり、そこに置いてあった

   防護服に体を包んだ。

   息を呑み、ぐっと唇をかみ締めて、重い扉を開けた。

   そこから這い上がって、目の当たりにした光景に、彼女は一瞬目を疑った。

   シャンティ「な、何が・・・あったの・・・?」

   そこには何も無かった。

   丘から見えていた高層ビル街は跡形も無く消え去り、ただ広く焼け爛れた荒野だけが果てしなく

   続いていた。

   後ろを見渡すと、森林も姿を消し、同じく焼け野原が視界に広がる。

   草一本生えていない。生きて動くものが、何もない。

   防護服を着ているために感じないが、地上の温度は何千度にまで上がっていた。

   焼け爛れた大地を一歩、また一歩ゆっくりと踏み出したシャンティは、

   バランスを崩してその場に倒れこんだ。

   顔を上げて見えるのは、ただただ、惑星ゾルフが破壊されつくした、おぞましい光景だったのだ。

   何も言えなかった。胸の奥から熱いものがこみ上げ、シャンティの頬に涙が一滴、流れ落ちた。

   

   すると目の前に、黄色に輝く光が見えた。

   シャンティは立ち上がった。

   シャンティ「アレシウスの・・・石・・・。」

   - なんという光景だ。

   脳内に響くようにして、あきれ果てたような声が聞こえてきた。

   - 自分自身が造った兵器で、自分自身を破壊し尽くすとはね。ぼくの力を最大限にまで抽出しようと

   して、誤射された核兵器は、研究者達の予想をはるかに超えていたようだ。

   まさか・・・星全体を一瞬にして灰と化そうとはね。

   シャンティ「あなたが・・・やったの・・・?」

   - 勘違いしないでくれ。ぼくは何もしてないさ。ただ、この星の人間がぼくの力を利用しようとして

   勝手に・・・。

   シャンティ「許さないっ!!」

   彼女は声を張り上げた。

   シャンティ「返してよ、わたしの両親を!仲間達を!この星のみんなを・・・返してよっ!」

   - 自業自得だろう。愚かな人間は、愚かに滅び行くのが運命だ。

   ぼくは、むしろこの結果に清々するね。

   じゃぁ、君もがんばってくれよ・・・。最後にたった一人だけ残った、可哀想な人間さん。

   それだけ言うと、石の光は瞬く間に上昇し、宇宙の彼方へと消えていった。

   シャンティ「絶対に・・・絶対に許さないわよ・・・。」

   

   シャンティはシェルターの内部に戻ってきた。

   涙がこぼれて止まらない。いまだに現状が信じられない。

   本当にもうわたししかいないの?この星で、たった独りぼっちになってしまったの・・・?

   お父さんもお母さんも・・・死んじゃったの?

   ふと、シャンティはあることを思い出した。母にもらった一つの小さなスイッチ。

   彼女はそれをポケットから出すと、スイッチを押した。

   すると、その指先から、聞きなれた声が脳内に流れ込んできたのだ。

   それは、父エミールのものだった。

   『このスイッチを押したということは、核戦争が勃発し、最悪の事態が起こったということだろう。

   まずは冷静になってくれ。

   そして、我々の星の住民を生かすための最善の策を用意しておいたので、実行してほしい。

   まずはモニターの右横にある、赤いスイッチを押してくれ。

   すると隠しドアが開き、中から密封した試験管に入った、各種のDNAがひとつがいずつ出てくる

   はずだ。

   これには、この星で生息していた様々な生き物の遺伝情報が保存されている。

   一緒に入っている説明書通りに作業すれば、それらをまた生物として、この地に蘇らせることが

   できるのだ。

   勿論、人間代表として、我等研究員全員の遺伝情報も保管されている。

   ただ、この作業を完成させるには、甚大なエネルギー・・・そう、アレシウスの石の力が必要だ。』

   シャンティ「アレシウスの石・・・そのエネルギーがあれば、お父さんもお母さんも・・・

   生き返ることができるの?」

   思ってもみないようなことだった。

   やはり両親はすごい。こんなことまで考えて、用意していたなんて。あの石の力を熟知していたのだ。

   しかし、問題がある。

   アレシウスの石はもうないのだ。再び宇宙へと帰っていき、もうどこにあるのかもわからない。

   こんな少女一人で何ができるというのか。

   シャンティ「いや・・・やらなくちゃいけない。なぜなら、わたしだけが、たった一人のゾルフ星人な

   のだから。」

   彼女はスイッチに保存されていた情報から、シェルター内部のコンピューターをはじめ、

   様々な機械の動かし方を綴った、説明書を探し出した。

   今までこんな大規模な機械を触ったことなどない。

   しかし、それを全て把握し、なおかつ再びゾルフの人々を蘇らせなくてはならない。

   もうシャンティだけしかいないのだ。それが可能なのは。

   なんとシェルター内部には、小型の宇宙船まで収容されていた。これがあれば、アレシウスの石を追う

   ことができる。

   再び手に入れば、お父さん、お母さん・・・皆と再会することができる。

   それは、一人の少女が背負うにはあまりにも過酷な運命であり、重すぎる責任であった。

   しかし愛する人を想う気持ちは、シャンティを変え、その瞳は未来への希望と決意に満ちていた。

   シャンティは部屋の中心に聳え立つと、拳をかたく握り締めた。

   シャンティ「待ってて、みんな。わたしが必ず・・・助け出してみせる!!」

   

   

   それから数年の歳月が流れ、ついにシャンティは小型の宇宙船を引っ張り出し、

   宇宙へと飛び立った。

   両親の研究の記録も参考にし、アレシウスの石を探知する装置を開発し、テレポート機器などの

   必要そうなものを装備した。

   そして長い時間をかけて、やっとバード星付近までたどり着いたのだった。

   孤独な旅を続けるシャンティの瞳の奥には、

   再び両親に両手を握られ、幸せそうに歩く自分の家族の姿が見えていた。

   

   あの幸せな日々を、いつか再び、この手で・・・・。

   

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