LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 22、アレシウスのユートピア

 

 1、

 

   架空惑星ミカリス。

   エディ、ラナの担当惑星であるこの星に、ロリーナの円盤で、ミツオ達は訪れた。

   ラナから来るように連絡が入ったのだ。

   ロリーナはミツオ達を送り届けると、また帰って行った。

   ロン「エディのことだから、PBハウスを改造してシャトーにでもしているかと思ったけど・・・オレたちの住んでいる

   それと変わらないなぁ。」

   ここは、ミネルダで言うアロデーテと同じく、PBハウスが存在する小さな島。

   するとハウスのドアが開き、中からラナが飛び出てきた。

   ラナ「来てくれたのね、みんな。さぁ、とにかく家に入ってよ。」

   家の中には誰もいなかった。ラナが言うには、同じグループの他の二人は出かけていて留守だそうだ。

   彼らはソファに腰を下ろした。家の中の構造も、ミツオ達が住んでいる家と大した違いはない。

   ソフィ「それで・・・、相談したいことと言うのは、やはりエディさんのことですか?」

   ラナ「ええ・・・。あれから三日も経つのに、エディは一度も帰ってこないし、何の連絡もないの。」

   エディはマーカスに追いかけられ、バード星本部の中を逃げ回っていた。それから、ここにいる誰もが彼を見ていない。

   マーカスにも連絡を入れたが、彼はエディの行方は知らないと言ったそうだ。

   ラナ達はフェリオによる円盤の操縦で、エディより先に架空宇宙に帰ってきてしまったわけであるが・・・。

   ラナ「まだ怒っているのかもしれないわ、エディ。あたしがミュージックプレーヤーを無理に取ろうとして・・・それで

   ついに愛想を尽かして・・・。」

   ルーシャ「大丈夫よ、ラナ!いくらエディでも、怒って帰ってこないなんてことはないわよ。

   そうだ、アルドさんには聞いたの?」

   ラナ「それが、バッチに応答してくれないの。ここのところ、ずっとよ。」

   すると彼らは顔を見合わせた。

   ミツオ「どうしてだろう。・・・バード星で何かあったのかな?」

   ロン「行ってみようぜ!直接、アルドさんたちに話を聞きに行こう。エディの手がかりもつかめるかもしれない。」

   ラナ「でも、エディの円盤があるとは言え、誰も操縦できないでしょ?」

   するとロンはニコッと笑った。

   ロン「マーカスを呼ぶんだ。あいつバード星からロケットレンタルして、特ダネ求め、宇宙を飛び回ってるからな。」

   

   マーカス「全く、人を小間使いみたいに使わないでよね〜。」

   ロン「悪い、悪い。でも助かったぜ、マーカス。」

   マーカスの円盤に乗り、バード星本部に到着した。

   しかし、いつもとは違いどこか慌ただしい様子だ。大勢のバードマンが、ビルに出たり入ったりしている。

   彼らは戸惑ったが、アルドを探さなくては来た意味がない。

   ビルの中に入り、とりあえず例の石の研究室に来てみた。

   ソフィ「ほ、本当に何があったと言うのでしょう・・・。」

   その階は、バードマンでごった返していた。誰もが焦りを顔に浮かべ、走り回っている。しかし、その中にアルドと

   ロリーナを見付けた。二人も、何やらただならぬ様子だ。

   ミツオ「あ、あの・・・ロリーナさん!アルドさん。」

   その声に気付いた二人は、振り返った。

   ロリーナ「ミ、ミツオくん・・・みんなも。どうしたの?」

   ルーシャ「それはこっちの台詞ですよ!ここで何かあったんですか?」

   すると、ロリーナとアルドは更に戸惑った表情を浮かべた。しかし、二人はうなずき合うと、静かに口を開いた。

   アルド「例の石・・・あの黄色の石がね。忽然と消えてしまったんだ。」

   石が消えた!?

   ミツオ達も目を見開いた。底知れぬパワーを秘めた、これからのバード星にとって重要となるストーン。

   ロリーナとアルド等によって研究が進められていたはずだが・・・それが盗まれたのだろうか。

   マーカス「なるほど〜。ここにいるバードマンは、みんな石の行方を探しているってわけですね。これはスクー・・・。」

   ロリーナ「待って、マーカスくん!」

   するとロリーナは慌てて、彼の口をふさいだ。

   ロリーナ「石のことは、あまり公には出来ないの。まだ研究途中だし。特に消えてしまったことは、私たちだけの秘密

   にしてくれないかしら・・・?」

   マーカス「そ、そうですね・・・わかりました。」

   バードマンである彼女にそう強く言われ、流石のマーカスも手を引いた。

   アルド「ぼくは、あっちの方を探してみるよ。誰かが盗ったとは、あまり考えたくないんだけどね・・・。」

   ロリーナ「ええ、お願いするわ。」

   そう言って、アルドはビルの廊下を駆けていった。残されたロリーナは再び険しい表情を浮かべる。

   ロリーナ「あ・・・、そういえば、あなた達は私に何の用だったのかしら?」

   ラナ「そ、そうでした!あの・・・エディを知りませんか?」

   ロリーナ「エディくん?見てないけど・・・。アルドに話は聞いていたけど、まさか反省文を出しに来た日から戻ってない

   とか?」

   ラナは静かにうなずいた。

   ロリーナ「そ、そうだったの・・・。ごめんなさい。私たちも石のことで頭がいっぱいで、スッカリ忘れていたわ。

   でもアルドもそうだけど、私たちはエディくんの行方を知らないのよ。」

   するとラナは泣き出しそうな表情を浮かべた。

   不安だったのだ。エディは、本当に自分に愛想を尽かして出て行ったのか?

   それとも、何か事件に巻き込まれ、帰れなくなってしまったのか。

   嫌な予感ばかりが心をよぎる。

   ロリーナ「わかったわ。私たちが探してみる。そしたら今度は必ず、ミカリスまで送り届けてあげるわよ。」

   ラナ「はい・・・お願いします。」

 

2、

   エディ「やぁ、みんな。どこに行ってたの?」

   ラナ「エッ・・・。」

   ミカリスのPBハウスに戻ってきた彼らは、目を疑った。

   家のソファには、まるで何事もなかったかのように、エディが座っていた。暢気な笑顔を浮かべて。

   ラナ「エディッ!!」

   彼女は彼に駆け寄った。紛れもなく、エディ本人だ。

   ラナ「ちょっと!今までどこに行ってたのよ!何の連絡も無しに!あたしが・・・あたしが、どれだけ心配したか、

   わからないの!?」

   エディ「まぁまぁ落ち着きなよ。ちょっと、その辺を散歩してただけだから。」

   ラナ「散歩って・・・。」

   しかしラナは怒りの反面、安堵していた。エディが戻ってきてくれた、それだけで十分だった。

   ロン「全く、人騒がせな奴だ。ラナの奴、相当心配していたんだからな。ちゃんと、お礼を言えよ。」

   ラナは涙目でエディを見つめていた。彼もまた、そんな彼女をジッと見た。

   ― 誰なんだ、このうるさい女は・・・。

   エディ「ふーん・・・そうか。君はぼくのことが・・・。」

   独り言のように呟き、エディはニヤッと笑みを浮かべた。ラナは思わず体を震わせた。

   ラナ(なっ・・・何!?)

   ジッと自分を見るエディ。そんな彼に、ラナは少しの恐怖を感じた。何故だか、わからない。

   でも、妙な気持ちだった。

   エディとは長い間、一緒に居たが、こんな気分になったのは初めてだった。ただ、違和感だけを感じた。

   そんなラナを見て、エディは悪戯っぽく笑って歩み寄り、彼女の耳元で静かにささやいた。

   ラナ「え・・・!?」

   エディはスッと横を通りすぎ、自分の部屋へ入っていった。彼女は目を見開いていた。

   え・・・なんで?どうして、あんなことを・・・。

   ― 好きだよ、ラナ。

   違う・・・。エディじゃない・・・あれは・・・。

   ルーシャ「ラ、ラナ?」

   ラナ「好きだよって・・・、確かにエディはそう言ったの。あたしに向かって・・・。」

   ロン「えっ!そ、それホントか!?」   

   ラナは小さくうなずいた。ミツオ達も信じられないと言った目で、エディが入っていった部屋を見ている。

   ラナ「でも・・・でも、どうしてかな。全然、嬉しくなかった。何だか、いつものエディと違う気がするの・・・。

   どこがどうとか、ハッキリはわからないけど・・・。」

   そう言うと、ラナはエディの後を追って、その部屋に入っていった。

  

   「やぁ〜こんにちは!エディさんは居る?」

   その時。PBハウスのドアが開き、人が入ってきた。彼らは一斉にそちらを振り向く。

   そこに居たのは、フェリオとファラだった。

   フェリオ「今晩の夕食はぼく達が作るからさ、材料を貸してくれないかな?練習しすぎて、切らしちゃって・・・。」

   ミツオ「フェリオ・・・、ファラ・・・。」

   ファラ「あれ?みんな、どうしたの?」

  

 

   ラナ「ねぇ・・・、あれは嘘なんでしょ。エディ?」

   エディの部屋で。エディはそこに立ち、黙ってラナを見ている。ラナは続けた。

   ラナ「いつものエディなら、そんなこと言うわけないし・・・。それに、何だか雰囲気がいつもと違う。確かに姿形は

   エディそのものだけど・・・。」

   あなたは・・・一体何?

   エディの顔は険しかった。しばらく何も言わなかった。

   しかし、その重い沈黙を破ったのはエディだった。

   エディ「・・・その通りだよ。大体、ぼくがラナなんかを好きなわけがないじゃないか!ぼくは運命の相手であるソフィちゃ

   んにしか、興味はないさ!」

   そう困ったように笑ったエディに、ラナは驚いた。

   今のエディは、まさしく今までの彼だった。何もおかしなところはなかった。

   まるで、さっきのことは、自分の思い違いだったかのように感じさせるほどに・・・。ラナは安堵した。

   ラナ「も、もう!ビックリしちゃったわよ。からかわないでよね!」

   ― ふう・・・何とか切り抜けたな。いつもの振る舞いを、この少年の記憶を探り再現したわけだが・・・。

   あんなの、単なる気まぐれだったというのに。

   エディ「はいはい。ごめんなさ・・・。」

   えっ・・・?

   すると突然、視界がふらついた。体が立っていられない。エディはバランスを崩して、思わず倒れ込んだ。

   ラナ「エ、エディ!?」

   なんなんだ・・・この感覚は・・・。

 

   ミツオ「それで、エディはお腹が空きすぎて倒れたって訳?」

   テーブルの上には、美味しそうな料理が並べられている。それを一つ一つ、平らげるエディの食欲は勢いを増し、

   次々に皿を空にしていった。

   ファラ「いっぱい作るから、どんどん食べてね!」

   ロン「それにしても、腹減って気を失うまで何も食べなかったのか?人間、食べなきゃ死んじゃうぜ。」

   エディ「え?死ぬのか、腹が減ると・・・。」

   彼は手を止め、不思議そうに顔を上げた。すると、ロンやミツオは呆れた顔をする。

   プライドの高いエディらしくなく、拍子抜けしていた。

   ロン「当たり前だ!飲み食いしなくちゃ、生きていけないだろ。」

   エディ「それって、どれくらいの頻度で・・・?」

   ミツオ「普通は一日に三回だよ。」

   三回!?そんなに頻繁に摂取しなくては、ならないのか。そういえば、三日間、何も取り入れていなかったな。

   確かに人間が食事をする姿は何回も見たが、それは重要な意味があったのか。

   何て不便な体だ・・・人間は。

   ファラ「沢山食べてくれると、作るこっちも嬉しいわ!デザートもあるから、遠慮せずに食べてね。」

   エディ「・・・ふぅん。」

   彼は密かにニヤッと笑った。

 

3、

  

   アルド「そういえば、君はここの生活がそんなに気に入っているの?僕はピンクちゃんが、そんなに悪い奴だとは

   思えないし、外に出してあげられるんだよ?」

   シャンティ「・・・じゃぁ、出してみなさいよ。」

   バード星本部の地下。牢獄の鉄格子越しに、アルドとシャンティが向き合っている。

   その言葉にアルドは首をかしげると、ポケットから牢屋の鍵を取りだして、穴に差し込んだ。

   しかし、どうだろう。普段なら簡単に外れるはずの鍵が、全く合わないのだ。

   アルド「え?どうしてだろう、鍵を間違えたかな。」

   シャンティ「無駄よ。私は出られないの・・・。あなたが力尽くで、鉄格子を壊すことも出来ない。」

   アルド「不思議なことを言うなぁ。いいよ、やってみせよう。」

   そう言うと、アルドは一度階段を上がり、何やら大きな電動ノコギリのようなものを持ってきた。

   アルドは得意げにそれの電源を入れると、鉄格子に刃を当てた。しかし・・・。

   アルド「ど、どうしてなんだ!このハイパーノコギリDX三世で壊せないものなどないのに・・・!」

   何よ、そのネーミングセンス・・・。

   シャンティ「言ったとおりでしょ。あの石が・・・、アレシウスの石が、わたしを出すまいと、鉄格子に力を与えたのよ。」

   アルド「石・・・?あっ、そうだ!君に会いに来たのは、その石のことだった!」

   彼は思い出したように、頭をかいた。

   アルド「いやぁ・・・何だか君とは気が合ってね。・・・まるで他人とは思えなくて。つい本題を忘れてしまったよ。」  

   シャンティ「で、その本題って何なのよ?」

   するとアルドは一つ咳払いをし、真剣な表情を浮かべた。

   アルド「うん・・・。実は、その石が突然消えてしまったんだ。」  

   ・・・・!!シャンティは思わず立ち上がった。消えた?

   ― ついに・・・動き出したのかしら。

   シャンティ「それで?ここに来たって事は、わたしを疑っているのかしら?わたしが盗んだとでも?」

   アルド「いやいや!そんなこと思ってないよ。ただ、何か手がかりはつかめるかなぁ〜って。」

   シャンティはため息をついた。

   シャンティ「消えた・・・と、いうことは、盗まれたという他に、石が誰かに乗り移ったとしか考えられないわ。」

   アルド「え・・・?何?乗り移った・・・?」

   意外な言葉に、アルドは目を見開いた。

   シャンティ「あの石は、自分の意思を持っている。石のままでは動くことはできないけど、誰かの体を借りれば、

   自由に身動きが出来るようになるわ。」

   アルド「へぇ・・・石の意思ねぇ。」

   シャンティ「ダジャレを言っているんじゃないわ。」

   彼女はキッと、アルドを睨んだ。

   シャンティ「わたしの星でも、実際に人に乗り移ってみせたことがあるの。ただ、その意思を保つためにも、あいつが

   持っている力を使うためにも、人の感情エネルギーを蓄えることが必要なの。」

   アルドは黙って、その話を聞いている。

   シャンティ「喜び、希望・・・そして、悲しみ、怒り・・・あらゆる感情が、あいつの動力源となり、それを吸収すればするほど

   奴の力は甚大なものになっていく。放っておくと、あいつは自分の意思で動き・・・この星を破壊しかねないわよ。」

   アルド「なんで・・・そんなことが、わかるんだ・・・?」

   そういうアルドの頬には冷や汗が流れていた。シャンティはうつむいたまま、静かにこう言った。

   シャンティ「それは・・・わたしの星が、そうだったから。」

 

  

   ファラ「ねぇ、見てみて!ビルがとっても高いよ。あっ、あの乗り物かっこいい〜!」

   エディ「おい・・・暴れるなよ。コントロールを失って、落ちるぞ。」

   ここはバード星の中央都市。

   バードマンのみならず、大勢のバード星人が、高いビルディングが建ち並ぶ街中を行き交っている。

   この宇宙でも、高度な文明を誇るバード星。

   道路を、空を・・・さまざまな乗り物がハイスピードで通りすぎてゆく。

   そのハイテクノロジーを空から見下ろしながら、エディとファラは宙に立っていた。

   

   ねぇ、ここには架空の世界しかないのか?わずかながら、君達からは感情エネルギーを感じられるけど・・・、

   ミネルダという星の住民は、まるで無機物のように何も得られなかった。

   ― それは・・・このブルーホールの中一帯は、バードマンを養育するために作られた試験会場みたいなものだから。

      このホールを出た世界には・・・本物の人類が存在している。

   なるほどね。つまり感情エネルギーは、ホールの外でしか集められないということか。

   ― 君は・・・君は一体何なんだ!何を企んでいる?ぼくの体を返せ!

   まぁ、落ち着いて。ちょっと便利だから、借りているだけさ。

   ぼくは人類に復讐をしたい。やられる前にやり返すって言うのかな。全てが終わるまで・・・ぼくの器となってくれ。

 

   この緑髪の少年に乗り移ったせいで、ぼくのわずかに残っていたエネルギーをほとんど使い果たしてしまった。

   だから、少し補充をするためと、ちょっと調べものをするために、ミカリスとかいう、こいつの家に戻ったわけだけど。

   そこで、この女を手に入れた。こいつはどうやら、架空ではなく本物の人間らしい。

   人間の体に移っているときは、食料を取らなければ死んでしまうそうだからね。

   こいつなら、何か作れるだろうと思って。

   みんなが寝静まった夜に、こっそりとこいつを連れ出して、とりあえずホールの外にある

   この大きな惑星に戻ってきたわけさ。この世界は、全て本物らしいからね。

   とりあえず、人類を征服するための力を得るには、ぼくの動力源となる人々の感情を集めないといけないから・・・。

   ぼくは知っている。

   誰かを喜ばせるよりも、悲しませる方が、ずっと簡単だということをね。

   ファラ「ねぇ、エディさん。ここに来て、一体何をするの?」

   エディ「うーん、そうだね・・・。とりあえず・・・。」

   エディは周りを見渡した。そして、気球のようなものが目に入った。

   ファラ「あれは移動手段というよりも、空をのんびりと旅する娯楽を目的とした乗り物なんだって。空気よりも軽い気体を

   風船に詰めて浮力を得ているって、バードマン養成学校に居た頃、お兄ちゃんが言っていたの。」

   エディ「なるほど・・・つまり、あの風船を割れば・・・。」

   彼は人差し指を立てて、その気球に向けた。

   それはすぐには手応えがなく、エディは更に力を入れた。すると、その風船が割れ、気球はすぐさまバランスを崩した。

   エディ「ふぅ・・・、流石に固かったな。」

   ファラ「えっ!え?エ、エディさん、何かしたのっ?」

   破れた気球は、地上目がけて落下していった。ゴンドラには、空の旅を楽しんでいた大勢の人達の姿が。

   彼らは瞬く間に恐怖の表情を浮かべた。叫び声が空に響く。

   エディ「凄い、凄いぞ!集まってくる、負の感情が!力が湧いているようだ・・・!」

   しかし、その時だった。

   地上から何人かの男が、落ちてくる気球を目指して飛び寄り、ゴンドラを支えた。

   ゴンドラから誤って落ちてしまった人々も、その男達によって次々と助けられる。いつの間にか、エディに集まっていた

   エネルギーはスッカリ弱まってしまった。

   ファラ「バード星のバードマンだわ!」

   エディ「な、何だあいつらは・・・!ぼくの・・・このぼくの邪魔をしやがってっ!」

   するとエディは右手を振り上げ、道路を走っていた乗り物をはじき飛ばした。しかし、それも近くに居たバードマンに

   よって、一つ残らず支えられる。

   エディ「この星は・・・高度な文明を持っている。あの星と同じように。こんな所では・・・今のぼくでは無力だ・・・。」

   ファラ「エ、エディさん!」

   突然彼女が声を上げた。見ると、自分達の周りを大勢のバードマンが、武器を手に取り囲んでいた。

   マスク越しの目が、確かに敵意を持ってこちらを睨んでいる。

   エディは思わず後ずさりをした。

   エディ「お、お前らは・・・。」

   「見ていたぞ。どうやってやったかは知らないが、今の騒ぎはお前の仕業だな。テロリストの容疑で、連行する。

   抵抗するようなら、発砲する。」

   ファラ「は・・・発砲!?」

   「待って!!」

   すると、エディの前に一人の少女が立ちはだかった。空色のロングヘアが揺れる。

   それはパー着をしたラナだった。遅れて、ミツオ、ロン、ルーシャ、ソフィ。そして、フェリオも二人を囲むように

   手を広げた。

   ラナ「待って下さい、撃たないで!この人は・・・私のとって大切な人なの!」

   フェリオ「ファラ、大丈夫か!?」

   ファラ「お兄ちゃん・・・!」

   そこへロリーナもやってきた。彼女は彼らを取り囲んだ、バードマンに向かって声を上げる。

   ロリーナ「皆さん、ここは私に任せて下さい!事故に対する早急な対応、ありがとうございました。」

   「あ、あなたは!ロリーナさん・・・!」

   バードマン達はロリーナの言葉に素直に従い、退いていった。

   ミツオ達は胸をなで下ろし、戸惑いながら立ちすくむエディを見た。

   エディ「どうして・・・ここがわかったんだ?」

   ソフィ「マーカスさんに聞いたんです。エディさんが、バード星でおかしな騒動を起こしているって。」

   ルーシャ「あの子、情報を仕入れるの速過ぎよ。恐ろしいわね・・・。」

   ロリーナはエディにゆっくりと近寄った。二人の鋭い視線がぶつかり合う。

   ロリーナ「あなたは・・・あの石よね?私たちが研究をしていた、あの黄金に輝く石・・・。」

   その言葉に誰もが耳を疑った。ロリーナとエディを交互に見つめる。

   ロリーナ「アルドから連絡が入ったの。今の不思議な力・・・、パー着もしていないあなたとファラさんが、こうして宙に

   浮かんでいるのも、おかしいわ。石の意思が、エディくんの体の中に入っているのね。何をするつもりなの?」

   ラナ「・・・・。」

   エディじゃない?何かおかしいとは思ったけど・・・、目の前にいるのは、あたしが知っているエディじゃないの?

   するとエディは不気味に微笑んだ。その時感じたのは、ラナが以前に震えた恐怖と同じだった。

   エディ「人類の征服さ。」

   短く、そして力強く。その言葉は放たれた。

   エディ「そして行く行くは、この星と共に亡ぼしてやる。膨大な感情エネルギーを得て・・・。必ず。」

   ロリーナの表情は険しかった。

   ミツオ達もすぐには理解出来なかったが、今、エディが別のものに乗っ取られ、バード星が破滅の危険性を抱えたと

   いうことは何となくわかった。

   エディ「ぼくは・・・人間が大嫌いだから。」

   ミツオ「え・・・!?」

   そういうと、エディはファラの手をつかみ、パー着をした。そして、空に向かって急上昇する。

   ロリーナ「待ちなさい!」

   フェリオ「ファラ!!」

   しかし、今わずかながら集めたばかりの感情エネルギーと、パーマンマントとの加速は、瞬く間に二人を全員の視界

   から消した。

   今更なす術もなかった。きっともう追いつけない。誰もが沈黙のうちに理解した。

   ラナ「そ、そんなエディ・・・。」

   フェリオ「ファラ・・・!」

   二人はその場に崩れ落ちた。ただ、悲しみと不安にのみ込まれて。

   他の皆も、ただそこに立ちすくむしかなかった。

   ミツオ「あれは・・・もしかして・・・。」

 

 4、

   エディ「しまった!!」

   彼は突然声を上げた。バード星の大気圏を抜け、宇宙空間が広がる。

   エディ「確か、人間は真空の宇宙では生きられないんじゃ・・・!」

   ファラ「大丈夫!このPBの制服は、来ているだけで宇宙服のように真空にも適応してくれるの。高温、高圧、どんな

   環境でも平気なのよ。」

   エディ「そ、そうなのか。良かった・・・。自分が今、人間の体に入っていることを忘れていたよ。」

   彼はパー着を外した。ここまで来れば、ロリーナ達は追ってこないだろう。

   ファラ「ねぇ、あたしはどうすればいいの?これから、どこへ行くの?」

   エディ「君はぼくの食事係をやってもらう。そして、今から行くのはバード星近くの小惑星群。この少年も知らなかった

   みたいだから・・・昨日、あの家で念のために調べておいたんだ。」

   バード星以外で、感情エネルギーを吸収出来そうな星を。

   あそこまで文明の発達した星では、弱い力しか持てない今では、何をしても無力。

   むしろ、先ほどの様に、捕らえられてしまうだろう。

   エディ「だから、比較的、文明の後れた星を探して、そこで感情エネルギーを得るんだ。」

   今のぼくには、そうすること以外に、自分を守る方法を思いつかないのだから・・・。

   

   

   

   ミツオ「やぁ、久しぶりだね。レモン君。」

   ― 君は・・・ミツオ。君の方からぼくを呼ぶなんて、初めてのことだね。

   ここはいつかの黄色の空間。もやもやとして天も地もないここに、ミツオはまた来ていた。

   ミツオ「今日はちょっと聞きたいことがあってさ・・・。単刀直入に言うけど、君はあの石の意思なんじゃないかな・・・?」

   ― ・・・・・。

   ミツオ「あの黄金に輝く綺麗な石。そして・・・、今エディの体に乗り移っている、あの石。」

   ― ・・・そうだよ、よく気が付いたね。

   ミツオ「君の人間を亡ぼすとか、嫌いだとかいう言葉を聞いてね。聞き覚えがあるなぁと思ったんだ。」

   ― そうか・・・。君は、この緑髪の少年の友達らしいね。

   ミツオ「ねぇ、どうしてこんなことをするの?話して欲しいんだけど・・・。」

   ― それは・・・詳しくは、言いたくない。いつかは君にも話すかもしれないけど・・・。

   ミツオ「そうか・・・。ところでエディは?エディ本人は・・・。」

   ― あぁ、彼ならそこにいるよ。

   ミツオは顔を上げた。すると遠くの方に、誰かが座っている。緑の髪が、ここからでも見えた。

   それはエディだと確信した。

   ミツオ「エディ!」

   彼は慌てて駆け寄った。確かにエディだった。彼は小さく膝を抱えて座り込んでいる。

   ミツオ「エディ!ぼくだよ、ミツオだよ。ねぇ、帰ろう。みんな心配しているし。ねぇ、レモン君。エディを返してもらって

   いいよね?」

   エディ「・・・・ミツオ。」

   ― 戻るのかエディ?みんな、お前のことなんか何の心配もしていない。あの笑顔は上っ面だけで、自信過剰で

   嫌みなお前のことなど、何とも思っていないさ。

   ミツオ「なっ・・・!」

   ― それを証拠に、友達なんていなかったんだろ?お前に言い寄ってくる女は、所詮ルックスか金に釣られただけで、

   本当のお前のことなど、何もわかっていない。ただ見栄が欲しさに、お前を利用しようとしているだけだったのさ。

   それは・・・あのラナという娘も同様に。

   ミツオ「何を言っているんだよ、レモンくん!ねぇ、エディもそんなの気にせず・・・。」

   エディ「そうだ・・・確かにその通りだ。どうせ、ぼくなんか・・・ぼくのことなんか、誰一人としてわかろうとしない!」

   ミツオ「馬鹿なこと言うなよ!だって、言ったばかりだよ?ぼくとロンは・・・本当の友達だって!

   それはソフィも、ルーシャも。ラナだって・・・!」

   エディ「うるさいっ!」

   ミツオ「・・・・エディに・・・。エディに何を言ったの?レモン君。」

   ― ぼくは真実を教えたまでさ。あぁ、楽しみだね・・・。人間が絶望に染まる姿。

   ぼくは大きな力を得て、世界を創り直してやるのさ。

   

   ぼくにとっての悲しみがない・・・ぼくを利用する人間なんていない・・ユートピアを。

 

 

 

inserted by FC2 system