LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 20、暗黒の瞬き

  

1、  

   マリンカ「ねぇ、ネオ。あたし、よくよく考えてみたんだけど・・・。」

   ネオの家に遊びに来ていたマリンカは、彼の部屋のベッドの上に座っている。

   食べているのは、ネオに勧められたショートケーキだ。

   マリンカ「あたしたち、ミネルダの他のパーマンに会ったことがないわよね?」

   いつになく真剣なマリンカ。ネオは自分のケーキを口に運びながら、答える。

   ネオ「ん?あ、そうかもね・・・。テレビや新聞ではよく見るけど、実際には。でも、今更どうして?」

   マリンカ「これ!今日の新聞っ!あなた、見なかったの?」

   すると彼女は新聞の切り抜きをポケットから取りだし、ネオに見せた。

   マリンカ「ミネルダ星の優秀パーマンランキング。」

   ネオ「はひっ!?」

   彼は思わず、むせかえった。

   その記事を覗き込むと、『最も優秀なパーマンは誰?ミネルダ星パーマンランキング』という文字。そして、

   各パーマンの顔写真付きの名前が縦に並んでいる。

   マリンカ「やっぱり知らなかった?パーマンのくせに毎日、新聞をチェックしてないの?」

   ネオ「と、時々は見てるよ!時々は・・・。でも、そういうマリンカこそどうなのさ?」   

   マリンカ「あたし?四コマ漫画とテレビ欄しか見たことないわ。」

   威張って言うな!

   どうやらマリンカも、その記事の存在は家族が話していたのを聞いて知ったそうだ。

   ミネルダ星には、アレイス、モイラー、ミュース、オリーブと呼ばれる四つの大きな大陸があり、現在その一つ一つに

   男女一人ずつパーマンが存在する。尤も、ネオとマリンカが担当するアレイスにはミツオを含めて三人のわけだが。

   他のパーマンの活躍はメディアなどを通して、よく耳にするが、それぞれ自然と自分が受け持つ大陸が決まっていたの

   で、ネオたちもアレイス以外には出動したことがなかった。今まで、それほど多くのパーマンを必要とする大きな事件は

   起こらなかったのだ。

   マリンカ「これは新聞社がそれぞれのパーマンが解決した事件数、住民からの支持率、好感度などなどを集計して

   順位付けしたものなんですって。」

   つまり、自分がこの星全体から見てどれだけ世の中に貢献しているかどうかが、一目でわかるのだ。

   ネオ「でも、何だかドキドキするね。ぼく、どれくらい活躍してるのかな!九人中ベスト4に入ってれば十分だけど・・・。」

   マリンカ「何言ってるの?」

   自分の結果に期待するネオに、マリンカは冷淡に言い放った。

   マリンカ「あなた、ビリだからね。」

   ネオ「・・・はい?」

   あなたビリだからねあなたビリだから・・・あなた・・・ビリ・・・―

   ネオ「うえええええ!?」

   彼は手に持っていたフォークを床に落とした。

   ネオ「うっ、うそでしょ!いくら何でもビリなんてっ。ま、まさか・・・。」

   彼はその記事を取って顔に近づけた。確かにその紙の下の方に、『第9位 アレイスのパーマン1号 1743P。』と

   共に、小文字で『落第点。もっと頑張りましょう。』と書かれている。

   ネオ「ら、落第点って酷いよ!ホントにビリじゃないか・・・!ぼ、ぼくこんなに活躍してなかったの・・・?」

   肩を落としてうつむくネオに、マリンカは優しく声をかけた。

   マリンカ「仕方無いわね、ネオ。あなた、目立たないし、のんびりしてるし。世間のスピードについていけてない

   だけなのよ。」

   ネオ「うぅっ・・・。そういうマリンカは?何位だったの?」

   すると彼女はふいに口笛を吹き、明後日の方角を見る。ネオは記事を確認した。

   ネオ「第7位 アレイスのパーマン2号 2031P・・・。」

   マリンカ「この世は理不尽で満ちている・・・どうして、あたしが・・・この、あたしが九人中7位なのよーっ!」

   ネオ「いいじゃないか!ぼくと300P近く差があるよ!?」

   二人は沈黙した。確かに自分たちは、言うほど優秀なパーマンではないことはわかっている。活動中の服をわきまえ

   ろだの、ペットを連れてくるなだの、よくバードマンやミツオに注意されている。

   そのミツオはどうなのだろう?

   見ると、新聞記事には三位という数字と共に輝く『アイレスのパーマン3号』の文字が見えた。

   同じ大陸のパーマン・・・いつも同じように活躍していて、この差はなんだ。

   ― いや、確かにその通りだ・・・。ミツオくんは、一人でも数多の大事件を解決してたもんな。

   彼はいつでも、それこそ自分が学校にいるときでも、たった一人で功績を重ね、地元の新聞でも彼の記事で埋まる日

   が多々あった。

   そして、気になる一位は・・・。

   マリンカ「オリーブのパーマン1号・・・18533P!?二位のオリーブのパーマン2号も、それに大した差をつけず、後を

   追っている・・・。」

   自分とは圧倒的な評価の違いに、彼らはただ呆然とした。そう、勿論彼らにも会ったことはない。

   一体、何をしていればここまで活躍することが出来るのだろう。

   これはいち早く、アレイスパーマンとしての威厳を取り戻さなくてはいけない・・・二人の頬に冷や汗が流れた。

   ネオ「マリンカ・・・。」

   マリンカ「ネオ・・・。」

   二人は手を取り合った。そうだ、ここでやるべきことは、ただひとつ!

   「他のパーマンに負けないように、一つでも多く事件を解決し・・・報道陣にアピールしよう!!」

   彼らの決心は固かったのだ・・・。

 

2、

   窓の外には広大な宇宙空間。もうバード星が見えている。

   昨日のPB倶楽部で、単なる喧嘩で会場中を騒がした大失態をおかしたミツオたちは、アルドの命令通り

   反省文5枚を手に、バード星本部へ向かう最中だった。エディが自身の円盤に皆を乗せ、操縦は普段から慣れている

   マーカスに任せている。

   彼はブツブツと文句を言っていたが、そもそもこの騒動の原因は彼にあると言って良いだろう。

   しかし、円盤の中は緊迫した空気が流れ、誰もが沈黙していた。

   しばらくして、エディがピンクの音楽プレーヤーを持ち、部屋を後にする。

   ドアを閉める音が響き、ラナは顔を伏せた。

   ルーシャ「ね、ねぇ・・・、そんなに気にすることないよ。確かにラナが無理矢理、エディの音楽プレーヤーを取ろうとした

   のは、まずかったかもしれないけど、そんなことで怒るエディもどうかと思うし・・・。」

   彼女が精一杯の慰めの言葉をかける。ミツオとロンは、顔を合わせた。そして、いつかのことを思い出していた。

   ラナ「あれ、エディが昔からずっと大切に持っているプレーヤーだった。でも、あたしには、頼んでもずっと聴かせてくれ

   なかったの。でも・・・エディの気持ちも考えずに我が儘を言った、あたしが悪かったわ。」

   円盤の中で音楽を聴いていたエディの気を引こうと・・・ほんの軽い気持ちだったのだが、そこまであれは大切なもの

   だったのだろうか。一緒に乗っていたフェリオとファラは、よく把握できない状況に困惑していた。

   ソフィ「でも、エディさんだって酷いですよ。ミュージックくらい、ラナさんに聴かせてあげても・・・。」

   ロン「そう言うなって、ソフィ。」

   突然、彼が立ち上がった。

   ロン「あれは確かに、あいつにとって大切なものなんだよ。強引に奪われそうになって、怒るのも無理はない。でも、

   いつかはエディから、その訳を話してくれると思う。・・・それまで、待ってなよラナ。」

   そこまで言って、彼は笑顔を見せた。そしてドアに歩み寄り、部屋を後にする。ミツオも思わず立ち上がり、ロンに

   続いた。円盤の中の部屋に残された女子たちは、顔を見合わせる。

   ラナ「え・・・?ロンたちって、エディの何を知ってるの?」

   それは、あのスペースランドに泊まった初日、暗いホテルの部屋でエディから聞いた話だった。

   

   ロン「いくらなんでも、ちょっと言い過ぎだぞエディ。ラナが不憫だよ。」

   エディ「うん・・・ちょっと反省してるよ。」

   別の部屋に移った男子たちは、それぞれソファやらベッドやらに座って、エディの手の中にあるプレーヤーを見ている。

   ここは円盤の中の、エディ専用の部屋だ。

   ― 何だか変だ・・・。あのスペースランドの旅行の日から、ラナに対して思った以上のことを口走ってしまう。

   変に・・・意識してるからか?ロンの言葉を。

   エディ(ソフィちゃんは運命の相手ではない・・・、ラナのアプローチを自分は悪く思っていない・・・。)

   否定しようとすればするほど、わからなくなる。じゃぁ、結局自分は・・・誰が好きなんだろう?

   何を守ろうとしているんだろう。男としての意地?ベルとの約束に対する・・・、いや、でも・・・。

   ロン「そんな冷たい態度ばっかり取るとさぁ、友達なくすぜ?」

   エディ「・・・ったく、うるさいな。どうせぼくは、もとから友達なんて少ないよ。」

   彼は吐き捨てるように言った。

   エディ「女友達は数え切れないほどいるよ。ファンクラブも出来るほどだし、何も言わなくても勝手に言い寄ってくる。」

   ミツオ「へ、へぇ・・・そう。」

   エディ「でも、何だか同姓からはあまり好かれないみたいでさ。ぼくには、よくわからないんだけど・・・。」

   ロン「いや・・・何となく、わかる気がするぜ。」

   ミツオとロンは苦笑いをした。エディは少しはにかみながら、こう続けた。

   エディ「今思えばほとんど男子の友達っていなかったな。だから・・・キミたちみたいに、一緒に旅行したり、遊んだり、

   自分の過去や悩みなんかを話し合えたりする人が出来たのは初めてなんだ。勝手かもしれないけど・・・そういうのが

   友達って言うんじゃないかと、ぼくは思ってる・・・。」

   思いがけず素直に気持ちを口にしたエディに、二人はしばし驚嘆した。しかし、同時に嬉しさがこみ上げてきた。

   意外だったのだ。エディが、自分たちのことを、そのように思ってくれていたことが。

   ミツオ「勿論!ぼくだって、そう思うよ!最初からエディのこと友達だって思ってたさ。ねぇ、ロン?」

   するとロンは照れたように目をそらした。

   ロン「あっ、当たり前だろ。それ以外に、何だってんだよ・・・。」

   ミツオは満足げに微笑み、エディも背けた顔の影で、すっと口角が上がった。

 

   アルド「はーい、全員分ちゃんとあるね。もう、好き勝手暴れるんじゃないぞ。」

   バード星本部で、彼らの反省文を受けとったアルドは笑顔を見せた。ミツオたちは一安心する。

   エディ「全く、これも全部マーカスのせいだね。やっぱりマーカスがいると、ろくな事にならないよ。」

   マーカス「ぼく、何かしたっけー?まぁ、エディさんのトマトまみれ写真が手に入ったから、結果オーライかなぁ。」

   エディは反射的にマーカスの手に握られた写真を奪い取った。コンテスト中に、飛んできたトマトが顔にあたり、真っ赤

   に汚れたエディが写っている。

   マーカス「今度の特集はこれに決まり!」

   エディ「いやいやいや、この写真を使って何をしようというんだよ!トマトだからな!?変に誤解されないよう、トマトっ

   て書いといてくれよ!と言うか、むしろ記事にしないでくれ!」

   マーカス「いやぁ、でもこれ以外ネタがなくて・・・。むしろ、今から取材に応じてくれてもいいんだけどなぁ?」

   マーカスがニヤッとエディにカメラを向けた。これが彼の必殺技。彼にカメラを向けられると、エディは本能で逃げてしま

   うの。本部のビルの中を走り逃げたエディを、マーカスが追っていく。二人の姿はあっという間に見えなくなった。

   フェリオ「はぁ・・・とんだ時間の浪費になっちゃったよ。ぼくも円盤は操縦できるし、さっさと帰ろうよ。マーカスは

   しつこいし、あれは時間がかかるタイプだね。」

   ミツオ「ぼくも、パトロールの途中だったし。」

   ラナ「で、でもエディを置いていくなんて・・・。まだあたし、仲直りもしてないし・・・。」

   不安げなラナを見て、アルドは笑った。

   アルド「エディくんを見付けたら、僕が君たちの担当惑星へ送り届けてあげるよ。若き少年達の青春を邪魔してはいけ

   ないね・・・。」

   ミツオ「さっきの追いかけっこは、青春って呼べるのかな・・・?」

  

 

   ― 他の仲間も信じてあげて?嫌いだなんて言わないでよ。

   以前言われた、あの子の言葉。えっと確か名前は・・・ミツオといったかな。

   彼はどうして、そこまで他人を信じられるんだろう?いつ裏切られるかわからない、何を考えてるかわからないのに。

   答えは簡単だ。

   彼自身、人に裏切られた経験がないからだろう。だから、良い人間もいるだなんて、甘いことを言えるんだ。

   人間は所詮、人間じゃないか。自分たちが世界を制するに相応しいと思い込む人間。

   ミツオだって、自分が困難な状況に追い詰められれば、仲間がどうとか助け合いがどうとか、言っていられなくなるさ。

   そうだよなぁ・・・。きみに人間の本当の醜さを教えてあげるのも・・・いいんじゃないかな。

   そのためには、まず・・・。

 

3、

   マリンカ「どこかに困っている人は!?」

   ネオ「今のところ、みんな平和そうです!特に異状は見られません!」

   ここはアレイス大陸にある、大手新聞社のビル前。

   パー着したネオとマリンカは、人通りの多い都会の交差点で、助けを求める人を、求めている。

   ここで手柄を立てれば、すぐに報道陣が自分達の活躍を世間にも伝えてくれると考えたのだ。

   全ては・・・ランキングの結果を覆すため!

   ネオ「今日は風が強い・・・はっ、見て下さい!あの男の人を!」

   彼女は彼の指さす方を振り返った。新聞社のビルから出てきた男が持っていた書類が、この強風で

   空中に散ってしまっている。

   マリンカ「なんと都合の良いカモ・・・じゃなかった。ネオ、あの人をすぐにお助けしましょう!」

   ネオ「御意!」

   二人が舞い上がる書類に向かって飛び出した・・・と、同時に反対方向から突然迫り来る人影に衝突したのだ。

   彼らはバランスを失い、地面にたたき付けられた。

   マリンカ「いたたた・・・・もう〜なによ・・・。」

   顔を上げて見たもの・・・それは自分達と同じパー着をした男女だった。

   会ったことがない人だが・・・いや、思い出した。新聞に載っていた、確かモイラー大陸のパーマンたちだ。

   マリンカ(あの男の子が8位・・・、女の子が5位だったかしら。)

   彼らも呆然とこちらを見ていたが、ネオとマリンカは瞬時に理解した。

   この子たちも同じだ。活躍を得ようと、新聞社の前で機会を伺う劣等生パーマン・・・。

   「ハッ・・・ちょ、ちょっとサルダ!ぼけっとしてないで、早く拾って!」

   「あっ、そ、そうだ!」

   すると二人は慌てて立ち上がり、その書類一枚一枚を集め始めた。それに負けまいと、ネオとマリンカも足を動かす。

   唖然としていた新聞社の男も、ハッと我に返り、乱雑に書類を拾い集めるパーマン達に声を上げた。

   「き、君達!その書類は大切な・・・!」

   マリンカ「これで最後!」

   その拾い上げようとした紙の反対側から、モイラーの男パーマンがそれを引っ張った。

   二人の間に火花が散る。

   「その手を離せよ。先に拾ったのは、オレだぜ。」

   マリンカ「あたしに決まってるでしょ。大体、あたしたちがこの人を助けている途中だったんだから邪魔しないでよね。」

   紙を引っ張る力が強くなる。空いた手でお互いが抱えていた他の書類を奪おうと、それは次第に戦闘へと変化した。

   勢い余って紙が次々と破れていく。

   「ちょっと、紙が破れているわよ!サルダ、あたしと代わりなさい!」

   マリンカ「あんた達が引っ張るから・・・ッ!」

   ネオ「ねぇ、三人とも落ち着いっ・・・。」

   「うわああっ!?何をしているんだパーマン!止めてくれ!今すぐ!」 

   慌てて新聞社の社員が、間に割って入った。だが時既に遅し。書類の大半が、無残にも破れてしまっている。

   「これは我が社の企業秘密を書いた、大切な・・・。しゃ、社長に怒られる・・・!」

   マリンカ「あ・・・えっと・・・ごめんなさい!あたしは、あなたを助けるつもりで・・・。」

   「助けも何もあるかっ!パーマンのくせに、どうしてくれるんだよー!」

   冷静になった四人はうつむいた。とんだ失態だ。これでは、活躍どころではない。

   すると、新聞社のビルに取り付けられていたテレビの大画面に、二人のパーマンの姿が映った。

   その男と女は、大勢の新聞記者に囲まれてインタビューを受けている。

   「あれを見なさい。オリーブのパーマンはまた難事件を解決したそうだよ。君達、アレイスやモイラーのパーマンとは

   大違いだね。同じパーマンとして、恥ずかしくないのか。」

   パーマンたちは何も言い返せなかった。

   今の彼らは他人のことよりも、自分のプライドのために動いていた。正義のパーマンとして、あってはならないことだ。

   ネオ「ごめんなさい・・・。ぼくたちも、彼らを見習わなくちゃ。」

 

   

   エディ「はぁ・・・はぁ・・・何とかマーカスを巻いたみたいだ。」

   バード星本部のビルを闇雲に逃げ回っていたエディは、いつの間にか見知らぬ所へ来てしまった。

   ふと横を見ると、「研究室」と書かれたドアが。

   好奇心でそれを開けてみると、暗い部屋の中に一際黄金に輝く石がすぐに目に付いた。

   複雑な機械の間に、はめ込まれるように存在している。

   エディの足が自然とそちらに向き、吸い込まれるように石を見つめた。まるで誘導されているかのようだ。

   ― こっちへ来るのだ、少年。その体、我が器として頂こう・・・。

   エディ「なっ・・・!」

   石が急に強い光を発し、自分の体を包んだかと思うと、彼の意識が次第に遠のいていく。

   狭い視界の中で、確かにエディは自分の体が光輝くのを見た。

 

   それは、眩しいほどの黄金の瞬き・・・、そして暗い暗い光であった。

 

 

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