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2、生み出せ!ヒーロー伝説

 

 1、
   

   窓の外には、少しずつ大きくなっていく青と緑の星。

   広々とした海の上には、いくつかの大きな大陸。青々とした、清々しい空。

   ミツオたちは、ロリーナの宇宙船の中で声にならない叫びを上げていた。

   ロリーナ「もうすぐ着陸するわ。準備はいい?」

   操縦席から、ロリーナが話しかける。

   四人は、窓から手を放すとうなずいた。

   ルーシャ「自然が美しい星ね。どんな人達が、住んでいるのかしら。」

   荷物を手にし、ルーシャが言う。

   ミツオ「たぶん・・・、良い人ばかりだと思うよ。」

   これは予想というより、願望だった。

   ロン「バード星で勉強していた頃よりは、よっぽど楽しい生活ができるんだろうな。」

   ソフィ「でも、油断は禁物ですよ。架空の星にだって、事件は休む間もなく起きるんですから。」

   四人の話を聞いていた、ロリーナが笑う。

   ロリーナ「さすがソフィちゃんね。」

   しばらくして、宇宙船は人気のない小さな島に降り立った。

   皆はシートベルトを外し、胸を躍らせながら外に飛び出した。

   ミツオ「ふぅ〜・・・。やっぱり、外の空気はおいしいなぁ。」

   ミツオは大きく深呼吸をした。そして、辺りを見回す。

   まず、家は一軒として見かけなかった。この島には、人が住んでいないのだろう。

   緑が豊かで、綺麗な海が囲んでいた。

   そして・・・。

   ルーシャ「あれは何?」

   目の前には、大きな施設のようなものが建っていた。

   白を基調とした、二階建ての建築物だ。

   ロリーナ「ここは、今日からあなたたちが暮らすことになる“PBハウス”よ。」

   少し遅れて降りてきた、ロリーナが言う。

   ソフィ「え? だって、PBハウスは“アロディーテ”という大陸に・・・。」

   確かに、ここは大陸というより一つの島だ。

   ロリーナ「ミネルダは、小さいの。このくらいの面積でも、大陸と呼べるのよ。でもこれはPBのためだけの大陸だから、

   この星の住民は存在を感じることが出来ないわ。」

   なるほどというように、ソフィはうなずく。

   ロリーナ「さぁ、入って。ゆっくり、見物してちょうだい。」

   四人はPBハウスに駆け込んだ。

   入ってすぐに、広々とした部屋がある。

   天井の照明が明るく周りを照らし、窓からは海が見渡せるようになっている。

   その部屋につながっているいくつもの個室も、バード星の寮で生活していた頃に比べると、ずっと快適に暮らせそうだ。

   とは言え、この家もやはりバード星があるように見せかけているだけなのだが。

   驚きの声を上げながら、ミツオ達は二階へ進む。

   そこは、仕事場のようなところだった。

   パーマン達の様子を観察できるように、一人一台、モニターがついた機械が置いてある。

   ロリーナ「このスイッチを押すとね、登録したパーマンの姿を映し出してくれるの。何をしているのか一目でわかるわ。」

   彼女がテーブルに付いているスイッチを押すと、目の前にタッチパネルのようなものが現れた。これで操作するのだろう。

   ミツオ「SFアニメみたいで、かっこいい!」

   ミツオは思い出した。

   まだ地球で活躍していた頃。バードマンが持つ円盤に、モニターがついているのを見つけたことがあった。

   ― そうか。それでいつも、ぼくたちの行動を見張っていたんだ・・・・

   ミツオの体が震える。

   ― ・・・・動物にされなくて、よかった

   ロリーナ「ここで、しっかりパーマンを管理すること。だらけていると、あそこに設置されたカメラが作動し、バード星本部

         から注意を受けるからね。」

   彼女は、天井に取り付けられている防犯カメラのようなものを指差した。

   笑いながらも、厳しい言葉を吐くロリーナに、四人はあいまいな笑顔を浮かべる。

   ロリーナ「機械の使い方についての資料は、ソフィちゃんが持っているから参考にね。他は、生活しているうちに、だん

         だんと理解できると思うわ。」

   ソフィは資料を確認し、うなずく。

   ロリーナ「私は週に一度、ここに寄るつもりだけど、何かあったらこのスイッチを押して。できるだけすぐに、駆け付けるわ。」

   一階の壁にはめられたスイッチを指差すと、彼女は窓を開けた。

   ロリーナ「生活習慣は乱さないように。六時を過ぎても起きないと、ベルが自動で鳴るわ。」

   ロン「え〜っ。寮にいたときと同じ、あのベルですか?」

   ロリーナ「そうよ。特にロンくんは、朝寝坊の常連さんになりそうだしね。」

   ロンは、うつむく。

   ― ここに来てまで、あのうるさいベルに悩まされることになるとは・・・・。

   ロリーナ「この星のお金は、バード星から送られるわ。ただし、無駄遣いできないように月に一度、決められた分だけ。

         料理は自分達で作ってちょうだい。材料も、この星のどこかで買ってきてね。」

   三人はソフィを見た。

   任せたぞ!というオーラが、ソフィを襲う。

   ソフィ「・・・・わかっています。」

   ロリーナ「他に、何か質問は?」

   ・・・・。

   ロリーナ「大丈夫みたいね。なら、私はこれで。色々と、忙しいから・・・。あ、あとね。」

   彼女は四人に顔を向き直してから、続けた。

     ロリーナ「この実技テストは、今回から初めて実施されるものなのよ。バード星のバードマンまたはパーマン管理局本部で、

   話し合われた結果、今までの留学パーマン達は折角4年間も知識を積んでも、実践に弱くて生かし切れていないって。

    だから、私はこんなテスト受けていないの。羨ましいわ。」

    ミツオ「そうだったんですか?実技テストはぼくたちが初めてってわけかぁ。ラッキーなような、アンラッキーのような。」

   ソフィ「ラッキーですよ、ミツ夫くん。そのおかけで、わたし達はまだ一緒にいられるんですから。」

    そうだ、その通りだ!彼らは笑った。

    ロリーナ「じゃぁ、これも本番だと思って気を抜かずに頑張ってね。」

   ソフィ「ありがとうございました。」

   四人は一礼すると、空の彼方に消えていく宇宙船を最後まで見送った。

   

 2、

 

   ソフィ「さて・・・―」

   部屋でくつろいでいた三人を引っ張り出し、ソフィは二階に集めた。

   ここは、これから会議室としても使っていく予定だ。調度、部屋の中央に大きなテーブルがある。

 

   それから四人は、個室の中からマイルームを決めた。

   早速荷物を整えよう・・・と思っていたとき、急に天井からけたたましいベルの音が鳴り響いたのだ。

   取り付けられている壁のスイッチを押せば、全部屋にベルを鳴らすことができる。

   無理矢理、集合させられた三人は不機嫌そうだ。

   ソフィ「今から、パーマン配置についての会議を行います。」

   すると、たちまちブーイング。

   ロン「そんなの、明日でいいじゃないか。最初の一日目くらい、部屋でのんびりさせてくれたって・・・!」

   ミツオ「そうだ、そうだ!」

   ルーシャ「そんなに焦ることなんて、ないわ。」

   ― バンッ!

   ソフィは、思い切り机をたたく。

   ソフィ「明日からじゃ遅いんです! わたしたちがこんなことをやっているうちにも、この星のあちこちで事件が起こって

       いるんですから。」

   ・・・・・。

   三人は何も言えなくなる。満足そうに、ソフィはうなずいた。

   ソフィ「では、始めましょう。」

 

   ソフィ「まず、この星の構造を見てください。」

   部屋についていた大スクリーンに、ミネルダの地図を映し出し、彼女は言った。

   ソフィ「このように、四つの大きな大陸、そして小さな大陸とで構成されていることがわかりますね。」

   ミツオ達は、軽く相槌を打つ。

   大きな大陸にはそれぞれ、アレイス、モイラー、ミュース、オリーブという呼び名がある。

   アロディーテは、小さな大陸の一つだろう。

   ソフィ「まず、パーマンはバランスよく置かなければなりません。一部に固めたり、一人ひとりの距離が遠過ぎたら、パ

       ーマンにとって大変でしょう。」

   ルーシャ「なら、全ての大陸に三人くらい配置すればいいんじゃないの?」

   ソフィ「いえ、パーマンセットを無料でもらえるのは4個までで、それ以上はバードマンの負担となります。あまり多くつ

       くり過ぎても、費用が足りなくなりますね・・・。」

   ミツオは驚いた。それで、地球には四人しかパーマンがいなかったのだ。

   ミツオ(つまりバードマンは、自分でお金を出さなかったのか・・・。ケッチー!)

   ― 日本の東京に三人も置くなんて、何にも考えていなかったんだな・・・。

   ロン「そういえば、聞いたことがあるな。随分昔は、パーマンセット代は無料だったんだよ。それで、あるバードマンが

      パーマンをつくりすぎて、工場は大幅な赤字になったとか・・・。」

   それからしばらく、パーマンセット作成は中止となったらしい。

   ソフィ「バードマンの仕事で給料はもらえますが、一ヶ月分でやっとパーマンセット2つ。と、言ったところでしょうか。」

   ミツオ「なら、大きな大陸に一人ずつは?」

   ルーシャ「それは、パーマンが大変よ。」

   ロン「三人は多いかな。大陸は4つだから、パーマンセットが12個いるよ。」

   ・・・・・。

   思ってもみなかった。パーマン配置が、こんなに難しいことだなんて。

   ソフィ「せいぜい、二人くらいじゃないですか?」

   ミツオ「小さな大陸は、どうするの?」

   ソフィ「それは、大きな大陸に住むパーマンにひとっ飛びしてもらって・・・。」

   ミツオは納得する。

   ロン「二人のパーマンは、近い地域に住むほうがいいんじゃないか? 色々と、相談できるだろうし。」

   ルーシャ「あら、そんなことならバッチで・・・・。」

   中々、話が尽きない。

   最初は嫌がっていた三人も、すっかり夢中になっていた。

   そして、深夜0時を回った頃。

   ソフィ「今までの意見を、整理します。」

   疲れ果てたミツオ達は、テーブルの上にだらりと手を伸ばしていた。

   まとめた結果は、こうだ。

 

   ・ 大きな4つの大陸に二人ずつ、パーマンを配置する。

   ・ 小さな大陸で起きた事件は、近くの大陸に住むパーマンに解決してもらう。

   ・ 二人のパーマンは、男女とする。

   ・ 大陸の中央に、固めて配置する。

   ・ PBは一人ずつ、担当の大陸を決める。

    ミツオ:アレイス ロン:モイラー ルーシャ:ミュース ソフィ:オリーブ

   ・ 年齢は11〜18。

 

   ソフィ「それでは明日から、早速パーマンを任命しにそれぞれの大陸に向ってもらいます。」

   本日2度目のブーイングの嵐がおこった。

   ミツオ「明日からだなんて、そんな!」

   ルーシャ「もう少し、ゆとりを持って生活しましょう!」

   ― バンッ!

   ソフィ「・・・・わかりましたね?」

   ・・・・・。

   三人は、またおずおずと一階へ降りた。

 

 3、

 

   ― ジリリリリリ・・・・

   ミツオ「うわぁ!」

   莫大なベルの音が、ミツオを襲った。彼は慌てて飛び起き、ベッドから落っこちる。

   ミツオ「いったぁ・・・・。」

   ぶつけた頭をなでながら、時計を見た。6時10分だ。

   すっかり、油断していたらしい。

   ミツオは制服に着替えると、ボサボサに寝癖が付いた髪をくしでとかした。

   まだバードマンのコスチュームはもらえないため、学校と同じ制服で生活するのだ。

   彼が選んだ部屋は、地球に住んでいたころの自分の部屋と、どことなく似ている。

   ここのほうが豪華なのだが、ブルーのカーペット、ベージュの壁紙。

   大きなガラス窓がついているところも、ミツオは自分の部屋を思い出して落ち着いた。

   やっと身だしなみを整えると、ドアを開けてリビングに入る。

   ルーシャ「あ、おはよう。ミツオくん。」

   既にルーシャとソフィはテーブルを囲み、朝食をとっていた。勿論、ソフィが作ったものだ。

   ミツオも空いているイスに座り、食パンをとる。

   ミツオ「ロンは?」

   ソフィ「まだです。ベルが鳴っているはずなんですけどね・・・。」

   あの大きな騒音も、防音装置がついているため、ここまで聞こえてこない。

   ミツオ「ちょっと、様子を見てこようか。」

   彼は紅茶の入ったコップを置くと、ロンの部屋を覗きに行った。

   ミツオ「・・・・・。」

   あきれた・・・・。

   ベルが鳴っているのに、まだロンはベッドで丸くなっている。

   ミツオは耳を押さえると、ロンの体を揺すった。

   ミツオ「ロン、ロンってば。早く、起きてよ・・・・。」

   ロン「・・・・。」

   しばらくすると、やっとロンは目を覚ました。

   ロン「・・・・あれ、ミツオ。わ、わわわわ!」

   彼は飛び起きると、マクラをミツオに向って投げつけた。

   ミツオ「いったあー!」

   ロン「お前、最低だな! 寝起きを襲うなんて、それでもPBかよ!」

   ミツオ「ぼくは、キミを起こしに来ただけだぁ!」

   ルーシャとソフィは、ガヤガヤと騒いでいる二人にあきれて、朝ご飯を片付けてしまった・・・。

 

   そして。

   ソフィ「今から出発します。パーマンの素質を持った人を、探し出してくださいね。」

   もうとっくに太陽は、真上に位置していた。

   二人のケンカのせいで、出発予定時間を大幅に上回ったのだ。

   ソフィ「制限時間は今日の夕方まで。ざっと6時間です。そもそも、こんなに遅れたのは・・・・。」

   ルーシャ「ミツオとロンのせい。」

   申し訳なさそうに、二人はうつむく。

   ミツオ(そもそも、制限時間なんて必要なのか…。)

   ソフィ「早く正確に任命するのは、大切なことです。それぞれ、責任を持って行動してください。では、解散!」

   四人は二つのパーマンセットを手にすると、パー着をして担当する大陸に向った。

   ※架空のパーマンセットは、無料。今朝、ソフィが申告をし、ロリーナから送ってもらったものである。

        しかし、ミツオは三人が行ってしまったことを確認すると、一度PBハウスに戻った。

    そして自分の部屋でスプレーを取り出すと、マスクを外して黒く染めた。

   次にクローゼットに閉まっておいた、お手製のバードマンコスチュームを着用する。

   ミツオ「これで、バッチリ。」

   鏡を見て、満足そうな笑顔を浮かべた。

   ミツオはできるだけ、同年齢の男女をパーマンに選びたかった。そのほうが、親しみを感じやすいからだ。

   しかし、仮にも自分はバードマン。

   ― パーマンと同じコスチュームなんて、偉大さを表現出来ないよ!

   そこで、三人に隠しながら、こうしてバードマンに変身する準備を整えていたのだ。

   ミツオ(ソフィに見つかったら、取り上げられちゃうもんね。)

   ミツオはアレイスに向って飛び立った。

   ミツオ(円盤は、我慢しよう。)

   

   アレイス大陸の中央部。

   空からパッと見たところ、東京のようなところだ。高いビルが、いくつも顔を出している。

   自動車や道行く人で賑わっている。話に聞いたとおり、確かに自分の同じような人間がこの星の支配者らしい。

   制限時間は、あと5時間半・・・。

   それまでに、二人のパーマンを選ばなければならない。

   ミツオ(ぼくは、偶然出会ったり、バッチに当たったりした人をパーマンになんてしないのだ。)

   しかし、あの出会いがなければ今の自分はなかった・・・。

   そんな気持ちもあるが、やはりパーマンとしての能力に優れた人材を選び出したかった。

   ミツオ「この、須羽ミツ夫の名にかけてもね!」

   ミツオは胸を張ると、辺りを見回した。都心を出て、住宅街を訪れる。

   公園や道路で、小さな子供達が楽しそうに遊んでいた。

   ミツオ「正義感に溢れた子は、どこにいるのかな〜?」

   額に手をあてて探していると、どこからか声が聞こえてきた。

   男の子の声だ。小さな子では、ないだろう。

   ― 今、助けに行くよ・・・ 待っててね・・・

   風に乗って、かすかだが耳に届いてくる。

   ミツオ「チャンス! パーマン候補、発見。」

   ミツオは声がする方を目指す。

   しばらく行くと、家は少なくなり原っぱのようなところに出た。

   道路の下に広がっているのだが、斜面がとても高くて急だ。

   そして、一人の男の子を見つけた。道の上でうつ伏せになり、まるで身投げをするかのよう・・・。

   ミツオ「な、何をやっているんだ。あの子は・・・。」

   男の子「プイッチ、大丈夫? もう少しで助かるよ!」

   よく見ると斜面に突き出た木の枝に、奇妙な生き物がぶらさがっていた。

   きっと、足を滑らせ落ちてしまったのだろう。

   男の子は、助けようと必死に手を伸ばしていた。

   男の子「あとちょっと・・・・、くっ・・・・。」 

   そのとき、男の子の靴がズルリと滑った。

   男の子「わあぁぁ!」

   ミツオ「危ない!」

   ミツオは衝動的に駆け出すと、落ちていく男の子と生き物を受け止めた。

   男の子「・・・・。」

   彼は目を閉じて、グッタリとしていた。ミツオは、ゆっくりと揺り動かす。

   ミツオ「ねえ、キミ。大丈夫?」

   男の子「・・・・。」

   しばらくすると、男の子は目を開けた。ミツオは安心したように、ため息をこぼす。

   ミツオ「よかった。あんなことしたら、危ないよ。」

   男の子「プイッチ・・・、プイッチは?」

   ミツオ「あの生き物のこと? それなら、ほら。」

   ミツオは抱えたその生物を男の子の前に、差し出した。橙色のもふもふしている触感だ。

   それを見ると、彼の顔がパッと輝いた。

   男の子「プイッチ! 無事だったんだ。・・・・ありがとうございます。」

   一見、彼は大人しそうな子だった。

   青い髪を風になびかせ、プイッチと呼ばれたそれを大事そうに抱えている。

   そして。

   ― おかしなスタイルをした子だな・・・・しかも、空を飛んでいるなんて。

   ミツ夫を見て心の中で、そうつぶやいていた。  

   当然ミツオは何も気づかず、彼の発見に満足している。

   ミツオ「それ、キミのペット?」

   男の子「はい・・・、そうですけど。」

   ミツオ「名前は何ていうの。年齢、職業は?」

   見知らぬ人に突然尋ねられ、男の子は慌てながらもこう答えた。

   男の子「ネオといいます。15歳で、学生・・・。」

   ミツオ「15歳!」

   ミツオは一度咳払いをすると、腰に手をあてて話し始める。

   ミツオ「キミは生き物の命を大切にしようとする、優しい心を持っている。正義感も強いだろう。よって、パーマン1号に

        任命する!」

   ・・・・・?

   ネオはキョトンとしていた。

   ミツオ「ハハハ、何が起きたのかわからないって顔してるね。大丈夫、これから説明するから。まず、ぼ・・・・私の名は

        バードマンという。宇宙の中心、バード星からやって来た超人だ。我々は優れた頭脳と体力で平和を守り続け

        てきたのだが、何分宇宙は広い。そこで、人間の住んでいる星に・・・・パーマンを置くことにしたのだよ!」  

   自分がバードマンに言われたことを思い出しながら、ミツオは続ける。

   そして、ポケットから丸めたパーマンセットを取り出した。

   ミツオ「このマスクを被れば力は6600倍、骨の硬さはダイヤモンド以上にもなる。マントは着れば最高時速119キロ

   で空を飛べるんだ。バッチはトランシーバーになっているから、仲間との連絡に使いなさい。

          あと、パーマンの正体は絶対に秘密だ。もし話したら、変身銃で動物に変えてしまうから、そのつもりで。

    キミはパーマンに変身して、宇宙とミネルダ星の平和をしっかり守ってくれたまえ。わかったね?」

   ・・・・。

   ネオ「ぼくを、からかっているんですか?それとも特撮映画の撮影?」

   ミツオ「・・・・。」

   いつか、自分が言った言葉だ。

   ミツオ「・・・・わかってないね。」

   ミツオは心の中でヘコると、パーマンセットを広げて無理矢理、彼をパー着させた。

   ネオ「わっ、何をするんですか!」

   ミツオ「ほら、行け!」

   彼はパーマン1号の腕をつかむと、空に向って放り出した。

   ネオ「わわわわ・・・! ぼ、ぼく、飛んでる〜!」

   こうしてミツオは無事に(やや強引に)、最初のパーマンを任命することができたのだ。

 

   続いてパーマン2号を選ばなければならない。

   一人で飛び回っているネオを置いて、ミツオは再び住宅街に戻った。

   ミツオ「さて、今度は女パーマンだ。」

   下を見下ろしていると、一人の女の子が目に入った。

   買い物カゴをぶらさげているところを見ると、おつかい帰りだろう。

   年も、ネオと同じ15歳くらいだ。

   ミツオ「家の手伝いとは、結構なこと。あの子が、ぼくを呼んでいる!」

   ミツオはフワフワと、下に降り立つ。

   近くで見ると、とても可愛らしい子だ。二つでくくったピンクの髪に、緑の丸いアクセサリーが光る。オシャレ好きのようだ。

   ミツオ「あの子に、決めよう!」

   そう叫んだところで、ミツオは手を口にあてた。いい加減な選び方はしないと、心で誓ったのだ。

   ミツオ「仕方が無い。良いところを見せてもらってからにしよう。」

   小さな声でつぶやくと、また空に飛び上がる。そして、見つからないように彼女の後をつけた。

   これといって、何事もない。ただ平然と住宅街を歩いてく。   

   ミツオ「何か事件があればな。例えば泣いている子供がいて、あの子が救いの手を差し伸べるとか・・・。」

   調度そのとき、向こうから飴を持った小さな子供がやって来た。

   パチンッと、指を鳴らすミツオ。

   ミツオ(これだ。)

   彼は女の子に気づかれないよう、ゆっくりと後ろに回ると、サッと飴を取り上げた。

   突然目の前から消えた飴に驚き、女の子は泣き出す。

   ミツオ「やったぁー!」

   しかし・・・。

   ミツオが目をつけていた女の子は、何も気づかずに先へ進んでしまっていた。

   ミツオ「あちゃ〜、しまった。」

   彼はまた、女の子を追う。

   ミツオ「彼女の目の前に、困っている人を連れていかなくちゃならないな。」

   そして、また周りを見渡した。

   横で、老婆が通り過ぎる。

   ミツオ「ちょっと、失礼しますね〜・・・・。」

   同じように後ろへ回り、今度は眼鏡をとった。彼女は、慌てる。

   ミツオ「いいぞ、いいぞ。女の子の目の前に・・・。」

   しかし老婆は、女の子とは逆の方向へヨロヨロと歩き始めたではないか。

   ミツオ「困るんだよね〜。」

   ミツオはため息をついて、老婆の目の前に降り立った。

   ミツオ「あの〜、反対方向に進むと良いことがありますよ。」

   老婆「えぇ?」

   じれったい彼女の腕をつかみ、ミツオは案内しようとする。

   ミツオ「こっちです。」

   老婆「た、助けてっ。誰かぁ来てぇ、誘拐される〜!」

   ミツオ「えぇー!」

   するとあちこちの家から、大人が飛び出してきた。

   「あっ、あそこだ。こらー!」

   ミツオ「ま、待ってください。ぼくは誘拐犯じゃありません〜。」

   「おかしな格好をして、怪しい奴め!」

   ミツオは老婆の手を放すと、慌てて空へ逃げる。

   ミツオ「全く、ひどい目にあった。あれ、女の子は・・・。」

   見ると、彼女は自分の家に入ろうとしていた。

   今、帰られては困る。

   ミツオは木の枝をつかむと、玄関のドアに向って投げた。

   女の子「キャッ!」

   突然飛んできた木の枝に驚き、彼女は腰を抜かす。

   ミツオ「それ、それ!」

   次々とドアに向って投げられる枝。女の子は呆然としながら、それを見ていた。

   すると・・・・。

   家の前を通りかかった小さな男の子の風船に、枝が命中したのだ。

   パンッと音がして、割れる風船。

   女の子「た、大変だわ。」

   彼女は泣き出した男の子に駆け寄ると、優しく頭をなでた。

   女の子「大丈夫よ。風船くらい、お姉ちゃんが買ってあげるわ。泣かなくてもいいのよ。」

   ミツオ「さすが、ぼくの見込んだ子だ! パーマン2号は、彼女に決定。」

   女の子が男の子と別れ部屋に入ると、ミツオは窓から顔を出す。

   勉強の真っ最中らしい。彼は、ますます感心した。

   ミツオ「キミ、優しい子なんだってね。」

   彼女は驚き、振り返る。黒いマスク、Bと書かれたグレーのスーツ。

   あきらかに、不審者だ。

   女の子「キャーァ!」

   ミツオ「ち、ちょっと待って。ぼくは、怪しいものじゃないよ。」

   女の子「十分、怪しいわよ! 急に女の子の部屋に入って来てっ。」

   ヘコーッ! 

   ミツオ「まぁ、とにかく話しを聞いてよ。ぼくは、バードマン。キミたちの言葉で言えば、超人だね。」

   ・・・・?

   女の子は、キョトンとしている。ネオのときと、同じように。  

   ミツオ「見せてもらったよ。キミが泣いている子供に、風船を買ってあげるところをね。そういう優しい子を、ぼくは探し

        ていたんだ。キミを、パーマン2号に任命しよう!」

   女の子「・・・わかったわ。」

   物分りの良さに、ミツオは感心した。

   女の子「これ、テレビか何かでしょう。最近はやりの“ドッキリカメラ”かしら。」

   ミツオ「・・・・。」

   また、どこかで聞いたような言葉だ。

   ミツオ「えっと、簡単に説明するとだね。ぼくたちバードマンは、宇宙の平和を守り続けてきたのだが・・・―。」

   ミツオは、そこで話を止めた。

   ネオにも同じことを言ったのだ。二度も説明するのは、面倒くさい。

   ミツオ「まぁ、いいや。このパーマンセットを渡すから、バッチでパーマン1号を呼ぶといい。詳しいことは彼に聞いて。」

   女の子「え?」

   小さく丸めたセットをポケットから出し、ミツオは彼女に手渡して窓から出ようとした。

   ミツオ「あ、そうそう。キミ、名前は? 年齢と職業も言いなさい。」

   女の子「あたし、マリンカ。15歳で、学生だけど・・・。」

   ミツオ「あぁ、よかった。ネオと同じだね。」

   ・・・・。

   マリンカは、あきれたように聞いている。

   マリンカ「よくわからないけど、とりあえずネオって子に聞けばいいの? この、バッチで?」

   ミツオ「そういうこと。」

   彼はVサインをおくると、時計を見た。もう6時を過ぎているではないか。  

   ミツオ「わぁ! また、ソフィに怒られる〜。」

   慌てて出て行く超人を、マリンカは不思議そうに見送っていた。

   マリンカ「そういえば、あたしのいとこのアル、あれから一人でおうちに帰れたかしら。送った方が良かったかな。」

 

 4、

   

   ミツオはPBハウスに戻った。

   既に三人は、二階の会議室に集まっている。彼は上に行く前に、自分の部屋でバードマンの格好から制服に着替えた。

   ソフィ「遅かったですね。」

   ミツオは苦笑いを浮かべて、席についた。

   マスクの色を落とすのに時間がかかり、もうとっくに7時を上回っていたのだ。外は暗い。

   ソフィ「全員集まったので、パーマンについて報告していただきます。」

   彼女はメモ帳を取り出すと、ペンを持った。

   ソフィ「まず、パーマンは男女一人ずつ。これについては?」

   三人「大丈夫で〜す。」

   ミツオ達は手を挙げる。

   ソフィ「そして、二人は近くに住んでいる・・・。」

   三人「問題ありません。」

   ソフィ「11〜18歳。年齢制限は?」

   ミツオ「ぼくは、15歳の男女を選んだよ。」

   ルーシャ「右に同じ。」

   ロン「オレのところも、そのくらいかな。」

   ソフィ「・・・良いでしょう。」

   そう言うと、ソフィはメモを切り取り、ポケットにしまった。

   ソフィ「次に、任命したパーマンの名前、特徴などを説明していただきます。」

   ミツオ「アレイスのパーマン1号は、ネオという15歳の少年です。青色の髪で、大人しそうな印象だったかな。プイッチ

       と呼ばれる、奇妙な生き物を飼っています。」

   プイッチは、この星の生物なのだろう。

   ミツオ「パーマン2号は、マリンカという同年齢の少女。桃色の髪を、左右で結んでいます。泣いている見知らぬ子供を見つける

        と放っておけない、心優しい子かな。」

   ソフィ「わかりました。ロンは?」

   ロン「オレがモイラーで選んだパーマンは・・・・。」

   ソフィは四人が任命したパーマンのメモをとり終わると、立ち上がった。

   ソフィ「皆、お疲れ様でした。これからは休む間もなく、パーマンの管理に励んでくださいね。そして、この星の平和を

       守り続けること。あと、もう一つお話があります。」

   ― まだ終わらないのか・・・

   そんなつぶやきも、ソフィの前では言えない。

   ソフィ「事件は前も言った通り、あちこちで数え切れないほど起こります。その全てを、パーマンが発見できるとは限り

       ません。そこで、わたしたちも事件を探し、パーマンに伝えるようにしようと思います。」

   ロン「・・・・大変そうだな。」

   ソフィ「平和を保つためです。既に、アレイスで怪事件が起こっています。」

   その言葉を聞いて、半分眠っていたミツオが反応した。

   ミツオ「アレイスで?」

   ソフィ「ついさっき、一人の奇妙な格好の男が老婆を誘拐しようとしたそうです。犯人は、まだ捕まっていません。他にも、突然空から

       木の枝が降ってきたり、飴が目の前から消えたり・・・。」

   ルーシャ「へぇ。おかしなことも、あるのね。」

   ロン「パーマンたちは今日、任命されたばかりだからな。事件を解決するのは難しいだろうし、ここはオレたちが・・・。」

   ・・・・。

   ミツオは慌てて、三人を止めた。

   ロン「何をするんだ、ミツオ。」 

   ミツオ「い、いいよ。そのくらいの事件なら、ぼく一人で片付けちゃうから!」

   ソフィ「でも・・・。」

   ミツオ「大丈夫だってば!」

   まさかその事件の犯人がミツオだなんて、三人は思いもしなかった。

 

   ミツオが始めて任命したパーマン、ネオとマリンカ。

   豊かな海と自然に包まれたこの星で、二人は平和のために活躍する。

   しかし、最初は失敗や我が儘ばかり。

   我慢できなくなったミツオは、パーマンセットを手にとり、アレイスに向う。

   ― ただ見ているだけじゃ嫌なんだ・・・―!

   パーマン3号の正体とは?

 

 

 

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