LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 19、流れ星キッチン

  

1、  

   広い会場には、まるで激しい戦闘が行われていたのかと疑わせるほど、無惨に食材が床に散らばっている。

   そこに居る人々の瞳は光を失い、脱力感にただその場で座り込んでいた。

   それぞれが想いを込めて作った郷土料理も、天井まで届くようなケーキも、ぐちゃぐちゃに崩れてしまい台無しだ。

   ミツオは名残惜しそうに、散っていった料理を見つめ、ロンやエディ、マーカスは何も言えずにその場に

   呆然と立ち尽くしていた。

   そもそも料理とは何なのか?

   ある時には大切な人のために。またある時には自分へのちょっとした、ご褒美のために・・・。

   間違っても、こんな風に部屋を汚し、悲しみと後悔を生むようなものではないはずだった。

   どうして、このような惨事になったのか?

   少し時間を巻き戻してみよう。

 

 

   ルーシャ「ミツオくん、コムギコは忘れてない?」

   ミツオ「えっと・・・確かロンが持ってきたはずだよ。」

   ミツオ、ロン、ルーシャ、ソフィはPB倶楽部が催される惑星ルーバの駐ロケット場で、ロリーナの円盤から、

   持ってきた食材を降ろしていた。どれもミネルダで事前に用意したものだ。

   ロン「今日ほど、倶楽部を楽しみにしていた日はないぜ!美味しい料理、沢山食べられそうじゃないか!」

   ソフィ「ロン、そんなに食べられるのは審査員だけだと思いますよ?」

   彼女は苦笑いを浮かべながら、食材を抱えた。

   そう、今日は料理コンテストの開催日。同じPBである料理人が、宇宙料理コンテストで優勝したのを祝い、

   実技テスト中の生徒達が料理で腕を競うのだ。

   以前、エディのテーマパークでその味を堪能したことのあるミツオ達にとって、その料理人に会うのを楽しみにせずには

   いられなかった。

   ルーシャ「でも、態々ロリーナさんのロケットに、こんなに食材を積んでもらうことなかったんじゃないかしら?会場に

   準備くらいしてあるでしょ〜。」

   ソフィ「普段、使い慣れている食材の方が良いですよ。今日は頑張りますからね!」

   料理が得意なソフィは、特に気合いが入っているようだ。

   ロリーナ「私も審査員として、あなたたちの料理を食べたかったんだけど・・・バードマンの仕事があるのよ。」

   ロン「またソフィが作ってくれますって。ありがとうございましたー!」

   四人はロリーナを見送り、それぞれ重い食材を抱えて、コンテスト会場の白いビルに入っていった。

   三階にエレベーターで上がり、ミツオは両手が塞がっていたため、肩で押すように大きなドアを開けた。

   広い会場には、机、コンロ、冷蔵庫、電子レンジなどが並べられていて、既に大勢のPBが集まっていた。

   ミツオ「ぼくたちは、どこで作ればいいの?」

   ソフィ「えっと・・・招待状を見ると、右端の方になってますね。あっ、あのテーブルです。」

   彼らがソフィの指さした方向へ歩き出そうとすると、ロンは突然背後から強い衝撃を感じ、バランスを崩して倒れ

   込んだ。持っていた大量の食材が宙を舞い、ドーンと痛々しい音が響き渡る。

   ロン「痛ったあぁぁ・・・っ。」

   ミツオ「ロ、ロン!大丈夫!?」

   「あぁー、ごめんごめん。ちょっと、ぶつかってしまったみたいだね。」

   四人はサッと振り返った。すると、そこには見慣れた緑髪の少年と、空色髪の少女がニヤニヤと笑みを浮かべている。

   ルーシャ「エディ!と、ラナ!」

   二人は上機嫌な顔で、彼らに歩み寄った。

   エディ「か弱いソフィちゃんに、こんな重そうな荷物を持たせたのは、どこの誰だ!ぼくが持ってあげるよ、さぁ。」

   ソフィ「いえ〜、結構ですから・・・。」

   ロン「くぅ〜・・・相変わらず・・・。」

   嫌な奴っ!

   ロンはぶつけた鼻を押さえながら立ち上がると、エディに躊躇なく体をぶつけた。

   言うまでも無く、エディは勢いよく倒れ込む。

   ロン「あぁ〜、ごめんね〜。ふらついちゃった☆」

   エディ「くっ・・・こ、こいつ!ぼくの美しい顔に傷がついたらどうしてくれるんだよ!」

   ロン「美しいだって〜?鏡見たことあるのかよ!『美しい』の意味を辞書で調べてみろ!」

   ルーシャ「まぁまぁまぁ、落ち着いて二人とも。」

   更に勢いが増しそうな二人の争いを止めるべく、ルーシャが間を割って入った。

   ルーシャ「今日は喧嘩をするために、ここに来たわけじゃないでしょ!美味しい料理も作れやしないじゃないの。」

   ソフィ「ルーシャの言う通りですよ。喧嘩なら、この惑星の外でやってください。」

   ソフィにも言われて、流石に二人ともこぶしを下げて大人しくなった。

   ラナもミツオもホッと息をこぼす。・・・しかし。

   ロン「痛ったっ!」

   その時、ポカーンとロンの頭に、どこからともなく何かが飛んできてぶつかったのだ。

   謎のかたい物体に、ロンは再びうずくまって頭を押さえる。床を見ると、コロコロと野菜のようなものが転がっていた。

   ソフィ「エディさんっ!」

   エディ「ま、待った!ぼくは何もしていない!」

   ルーシャ「もはや、言い逃れは出来ないわ!」

   二人がエディを連行しようとした時、向こうから一人の少女がこちらに駆け寄ってきた。

   黒茶色のまとまった髪に、二つの青いリボンが揺れている。赤い瞳の彼女は、床に落ちた食材を拾い上げた。

   「良かったぁ。お父さんに、モッシェルを作るときには必ず隠し味にこれを使いなさいって言われていたから、なくしたら

   お兄ちゃんにフルボッコだったわ!」

   彼らは突然現れたその少女を見つめた。

   ミツオ(何と言うんだろう・・・全体的に、ふわふわしている。)

   皆の視線に気付き、彼女は振り向いた。しばらく彼らを見ていたか、やがてニッコリと微笑みを浮かべる。

   男子は胸に何とも言えないトキメキを感じた。

   ― 天使か・・・!

   「おーい、ファラー!」

   すると、同じ方向から人影が・・・少女がもう一人?いや、走り近づいてきた姿を再度 確認すると、少女によく

   似た少年のようだった。同じようなリボンを一つ、頭に巻いている。

   「ファラ、隠し味は見付かった?ごめんよ、ぼくが落としちゃって。」

   「あったわ、お兄ちゃん。この子、一人で寂しそうに転がっていたの。」

   エディ「あっ、君たちは・・・!」

   彼の声に気付き、二人ともこちらに振り向いた。見れば見るほど、そっくりだ。

   ミツオたちの姿を見た少年は、慌てて薄笑いを浮かべながらこう言った。

   「やぁ、エディさんじゃないですか!この間はどうも〜・・・。」

   ラナ「エディ、この子達を知ってるの?」

   エディ「テーマパークのホテルで、料理を作ってくれた人たちさ。今日のコンテストの主役だろ。」

   こ・・・この人たちが!?

   皆は驚きに染まった瞳で、二人を見た。宇宙に誇る、双子の天才料理人・・・その人が今目の前に!

   フェリオ「はじめまして、ぼくはフェリオです。こっちは、妹のファラ。」

   ファラ「よろしくね。」

   ロン「こ、こちらこそ!あ、あの!料理すっ〜ごく美味しかったです!」

   すると二人は微笑んで、「ありがとう。」と返した。ミツオたちは尊敬の目差しで二人を見上げる。

   そこで、会場全体にアナウンスが流れた。

   『お集まりのPBの皆さん。これから料理コンテストを開催します。』

   集まっていたPB達は手を止め、会場の前方に注目を集める。コンテストの実行委員が、マイクを持ってステージに

   立っていた。

   『今日は各自、料理を作り、その腕を競ってもらいます。作るものは何でもオーケー。制限時間内に完成させて

   ください。その後、審査員であるバードマンが皆さんの料理を審査します。』

   見ると、ステージには何人かのバードマンが席についていた。

   『ここで、宇宙料理コンテストで見事優勝を果たした二人のPBを紹介しましょう。フェリオ・アドリア、ファラ・アドリアさん

   です!』

   ステージの中央に当てられるライト。しかし、そこには人の姿はなかった。それは当たり前。

   だって、フェリオ達はここにいるのだから・・・。

   ラナ「ちょっと・・・、あなた達はあそこにいるべきじゃないの?」

   フェリオ「うわあああ、忘れてたー!ファラ、行くよ!」

   ファラ「待ってお兄ちゃん〜!」

   二人がステージに駆け上がるのを見て、ミツオ達は苦笑いを浮かべた。

        『まぁ・・・と言うわけで、今日見事優勝した班には、双子が作る宇宙一の料理を食べて頂きます! 

   食べられるのは、たった一班だけ!皆さん、頑張って下さいね!』

   すると会場に歓喜の声が上がった。宇宙一の料理・・・、ミツオたちは既に口にしたことはあるが、あの味をもう一度と

   今日までずっと願ってきたのだ。

   ルーシャ「優勝よ、何が何でも優勝よー!」

   エディ「確かに、また食べたい味ではあったな。よし、ラナ。二回も転んだまぬけな奴には負けないように頑張るか。」

   ロン「おい、誰のことだ。」

   アナウンスと共に、PB達の料理コンテストは幕を開けた。

 

2、

   ソフィ「さぁ、それでは、この前打ち合わせで決定したミートドリアを作りましょう!」

   エプロンに着替えた四人は食材を自分のスペースに運び、机の上に並べた。

   ミツオ「ねぇ、前も言ったけどさぁ、ホットケーキの方が美味しいって。」

   ロン「それより、オレの星の流れ星トンチャンカンなんてどうだ?すっごく旨いんだけどなぁ。」

   ルーシャ「何よ、トンチャンカンって・・・。それより、あたしは・・・。」

   言い争う三人の前で、ソフィは勢いよく机を叩いた。一瞬にして、場は静まりかえる。

   ソフィ「皆でミートドリアにしようって決めたじゃないですか。材料も、それしか持ってきていないんですよ。」

   ミツオ「この会場にちょっと用意してあったじゃないか。どうせだったら、皆が好きなものの方が良いよ。」

   ルーシャ「じゃぁいっそのこと、全部混ぜてみるのはどう?名付けて、ホットケーキ風ミートドリア・トンチャンカン風味!」

   ・・・・。

   ロン「おっ、いいなぁ!それ!」

   ミツオ「美味しいものを詰め合わせれば、もっと美味しくなるに決まってるよ。これで優勝間違いなしだ!」

   もう・・・敗北が目に見えます。

 

   ラナ「ねぇ、エディ。何を作るの?」

   彼女達の机の上、そして床は高級食材で並べられ、足の踏み場もない。

   エディ「やっぱり、ぼくくらいになると、作る料理もデラックスじゃなくちゃね。50メートルケーキを作ろうと思うんだ。」

   ラナ「わぁっ、素敵ね!でも、この天井の高さだと50メートルは無理じゃない?」

   彼は上を見上げた。

   エディ「狭い会場だなぁ・・・。まぁ、出来る限りで高くしよう。」

   

   フェリオ「みんなの期待がかかってる!絶対、すっごく、本気でかかってる・・・!」

   双子も与えられたスペースに移動し、菜箸を握った。

   ファラ「お兄ちゃん!緊張しているときは、人をのみ込むと落ち着くんですって。」

   フェリオ「ひ、人をのみ込む・・・?落ち着く気がしないのは、ぼくだけかな・・・。」

   彼は一先ず、ゆっくりと深呼吸をした。自分達の料理が、優勝景品。今までに無いことだ。

   ― みんな、ぼくらの料理のために頑張ってるんだ。

   そう思うと、むやみに心臓がどきどきと高鳴る。

   ― いや、ダメだ!これくらいのことで緊張するなんて・・・。そんなことじゃ、宇宙一の料理店なんか出来ないだろ!

   フェリオ「ファラ、やっぱり落ち着きたい!人を二、三人見繕ってきて!」

   ファラ「どんな料理を作ろうかしら〜。デザートでもいいわね!」

   聞・い・て・な・い・し☆

   フェリオ「・・・・っ!!」

   なっ、なんだ・・・!?

   彼の体に突然、激しい寒気が走った。フェリオは思わず、腕で体を覆う。

   ファラ「お兄ちゃん、どうしたの?」

   フェリオ「いや・・・、何だか嫌な予感が・・・。気のせいだといいんだけど。」

   

   エディ「・・・・っ!」

   カランカラン・・・と、彼が持っていた菜箸が床に落ちた。

   ラナ「エディ、どうかした?」

   エディ「寒気が・・・、何だろう。この感じ、前にも味わった気が・・・。」

   

   コンテスト会場のドアの外で。一人の少年が立っていた。

   黄色の髪に青いバンダナを巻き、手には最新式のバード製カメラ。彼の口角がニッと上がる。

   少年はドアに手をかけた。

 

 3、

   ルーシャ「おかしい・・・。レシピには爆発するなんて書いてなかったわ。」

   コンロにかけた鍋から、もくもくと黒い煙が立っている。見事にパンチパーマと化した三人は咳き込みながら、

   ルーシャを睨んでいた。

   ミツオ「ルーシャが焼くのは任せろっていうから、頼んだのに・・・。」

   ルーシャ「アハハハ・・・、きっとこの料理本が間違っているのよ!これは、欠陥品ね。」

   そう言うと、彼女は持っていた本をゴミ箱に投げ捨てた。

   ロン「失敗すると思って、生地を半分こっちに残しておいて良かったな。そーだ、ちょっとだけ味見を・・・。」

   ボウルの中のクリームを指に取って口に運ぶと、ロンは体を雷が走ったかのような衝撃を感じ、

   思わず床に倒れた。説明しよう。本日、これで三回目である。

   ロン「とても・・・この世のものとは思えない・・・ミネルダの蝉の抜け殻を・・・入れるべきではなか・・・た・・・。」

   ミツオ「ロンーッ!」

   ルーシャ「故人と最後のお別れです。どうぞ、花を・・・。」

   ソフィ「はーい、お遊びはそこまでです。」

   彼女は二回、パンパンと手を叩いた。ミツオ達が好き勝手に混ぜ合わせた、クリーム生地。ちなみに、大福と歯磨き粉

   の隠し味入りだ。とても食べられたものではないことは、食べなくてもわかる。

   ソフィ(わたしが未熟だから・・・もっとしっかり、みんなをまとめていれば、こんなことには・・・!)

   ルーシャ「どうするのよ、時間もかなり経っちゃったし。どうしたら、上手く作れるの?」

   ミツオ「そうだ、双子達にコツを教えてもらおうよ!折角、さっき紹介してもらったんだからさぁ。」

   すると、ルーシャとソフィも顔を輝かせた。

   ルーシャ「そうとなったら、さっそく聞きに行きましょう!」

   ソフィ「いいですか、今度は無茶しないでくださいね。材料も、レシピ通りにですよ!」

   三人は瀕死状態のロンを置いて、双子達のもとへ駆けていった。

   ― みんな・・・、オレのこと忘れてないか・・・?

 

   フェリオ「うーん、そうだな・・・。クリームは、楕円を描くように泡立てると良いんだけど。」

   フェリオとファラも、自分達の料理を作りながら、ミツオ達にアドバイスを教える。

   彼はフライパンで野菜を炒めていた。美味しそうな香りが漂っている。

   ミツオ「凄いなぁ!やっぱり手つきが違うって言うか、これが宇宙一の腕なんだって感じるね!」

   ルーシャ「あたし達なんて、爆発するわ変色するわ、全く上手く行かないものね。」

   大体、三人のせいですけどね・・・。ソフィは心の中で呟く。

   ファラ「大丈夫よっ。ミツオくん達も、頑張ればきっと美味しい料理が作れるよ。一緒に頑張りましょ!」

   彼女のふわっとした温かいオーラが、彼らを包み込んだ。

   なんて、惹かれる笑顔なんだ・・・!

   ミツオ(マジ天使・・・。)

   ソフィ「宇宙一の料理を作る過程を見てみたいものですね。本当に尊敬しちゃいます。」

   フェリオ「そんな・・・、尊敬だなんてとんでもないよ。」

   彼は箸を握っていた手を止めた。

   フェリオ「優勝したと言っても、少年の部でのことだからね。大人には、ぼくらは全く相手にならない。それに宇宙料理

   コンテストとは言え、この宇宙の料理人全てが集まったわけじゃない。」

   彼は真剣な顔で、フライパンを見つめていた。

   フェリオ「特に今回の会場は、銀河の隅の方の惑星だったし。宇宙には、ぼく達よりずっと腕が良い料理人がまだまだ

   沢山いるはずなんだ。だから、こんなに祝ってもらえるのも・・・何だか申し訳ないよ。」

   三人は顔を見合わせた。ファラは微笑んで言う。

   ファラ「でも、お兄ちゃんの料理が美味しいことは確かなのよ。いつか二人で、お父さんのお店をもっともっと繁盛させ

   るんでしょ?わたし達なら絶対出来るわ!」

   ミツオ「お父さんのお店?」

   ファラ「わたし達の家はレストランなの。機会があったら、是非来てね。大好きなお父さんとお兄ちゃんが頑張って、

   経営してきた自慢のお店なのよ。」

   そう、ファラは嬉しそうに話した。フェリオは目を輝かせて、ファラの手を取る。

   フェリオ「なんて、良い子なんだファラは・・・!ちょっと抜けていて天然なところもあるけど、ホント可愛いよ、もうっ!」

   なんというシスコン・・・。

   ミツオ達は密かに思った。

   「そんな仲良しな二人を、是非一緒の写真に収めましょう!さぁ、笑って笑って。チーズ・・・!」

   ピース☆

   と、反射的に声がした方向に向かってVサインを作ったわけだが、そこにいた少年に、フェリオは凍り付いた。

   少年の瞳が満足そうに笑った。

   フェリオ「うわあああっ、出たあああぁっ!」

   フェリオは思わず、ファラの背後に逃げ隠れた。ファラだけは、笑顔を崩さずに前を向いている。

   そう、今カメラで双子をとらえた少年は・・・。

   ルーシャ「あーら、またマーカスじゃない。」

   マーカスはカメラのフォルダを確認しながら、ルーシャに応える。

   マーカス「またとは酷い言いぐさだねー。ほらほら、フェリオとファラの良い笑顔。これは早速記事に・・・。」

   フェリオ「あああああ止めろおおお!変な新聞作らなかっただろうな!大体、あの時は君のせいでぇ〜っ。」

   ソフィやミツオも、呆れたようにため息をついた。

   また何かやったのか、このトラブルメーカーは・・・。

   フェリオ「マーカスのせいで、宇宙料理コンテスト行きの最終便ロケットに乗り遅れてさ!おかげで大遅刻しちゃったん

   だぞ。減点−10は痛かったんだから・・・。」

   マーカス「いやぁ〜、ごめんなさーい。でも、そんなに減点されても優勝だなんて凄いね!あっ、優勝したご感想は?」

   フェリオ「何にもないよ、カメラを向けないでくれよぉ!」

   ソフィはマーカスがメモ帳に、“優勝したが、相手が弱く余裕だったため、特に何も感じられなかった”と書くのを、

   見てしまった。

   マーカスは相変わらず、反省の色が全く見えない。

   そこに、またまた厄介な者が加わった。

   エディ「ねぇ、フェリオ。甘みが上手く出ないんだけど、どうしたら・・・。」

   マーカス「やぁ、エディさんじゃないですか〜!」

   まるで敵を目撃したときの野生動物のような反応だった。

   エディは声を上げると、近くまで付いてきていたラナを盾に、マーカスとの距離を取った。

   エディ「何でお前がまたいるんだよ!答えることは何もなーい!」

   あっ、何もないは禁句・・・。ミツオ達は思う。

   ルーシャ「マーカスに対する、この反応。二人とも極度のマーカス恐怖症と言ったところかしら?」

   フェリオ「エディさん・・・あなたもですか・・・。」

   エディ「フェリオ・・・。」

   二人は手を取り合い、見つめ合う。あぁ、わかり合える友が居ることの嬉しさよ・・・。

   マーカス「まぁまぁ、二人とも。そんなに取材を受けたい気持ちはわかるんだけど、今日はぼくもコンテストに参加する

   ために来たんだからさ。悪いんだけど、また今度にしてよ。」

   「えっ!?」

   エディとフェリオの声が重なり、嬉しさのあまり涙した。

   ソフィ「皆さん、こんなことしている場合じゃありませんよ。私たちもそろそろ、料理を作り直さないと・・・。」

   皆はハッとして、うなずいた。

 

   マーカス「とは言っても、ぼくは全く料理の方は出来なくてさ〜。」

   ルーシャ「だからって、何であたし達の所にいるのよ・・・。」

   レシピをもう一度じっくりと見直し、ソフィの指導の下に混ぜ合わせた食材をかき混ぜながら、ルーシャは不満そうに

   呟いた。先ほど復活したロンも続ける。

   ロン「マーカスがいると、とんでもない事態が起こりそうだからなぁ〜。」

   ミツオ「マーカスも自分の班があるんでしょ?行かなくてもいいの?」

   マーカス「まずは君達にお手本を見せてもらいたくてさ。この食材を使って、どうやったら爆弾を作れるのか。」

   何で知っているんだ・・・!全員は嫌な予感がした。

   ソフィ「では時間がないので、マーカスさんも手伝って下さいね。このタマネギを、みじん切りにしてください。」

   マーカス「はいはい、お任せあれ!」

   そう言って、彼は自信満々に包丁を握った。が、ヘラヘラしていられるのも、つかの間。

   タマネギを切っている彼に、突然激しい目の痛みが襲った。

   マーカス「な、何だよこの食べ物・・・!毒でも染み出してるんじゃないの・・・涙で前が見えな〜い!」

   視界が悪く、手が汗で滲み、思わず彼は持っていた包丁を滑らせてしまった。

   包丁は近くでクリームを泡立てていたルーシャのすぐそばをすり抜け、床に刺さる。

   ルーシャ「きゃあぁぁぁー!ちょっとぉ、おまわりさん!」

   彼女はバランスを崩し、持っていたクリームを放り投げた。それが見事に、ロンの顔面に直撃する。

   ロン「うわあああ、視界が真っ白にっ!誰だよ、こんなイタズラしたの!マーカスだろー!」

   顔に付いたクリームをなめると、彼は近くにあった大根をマーカスに向かって投げつけた。

   マーカス「うわっ、痛ったぁ!よくもやったなぁ〜っ。」

   未だに視界が見えないマーカスは、闇雲に机の上に置いてあったトマトを取ると、前に放り出す。

   それはミツオ達の班を通り抜け、隣で作業をしていたエディの顔にあたった。

   ラナ「きゃあぁ!エディが血だらけ・・・死なないで!!」

   エディ「マーカスだなぁ・・・!」

   フェリオ「エ、エディさん!いくらあなたでも、ファラに食材を投げるなんて、神が許しても、このぼくが許しませんよ!」

   エディ「手元が狂って・・・って、痛いなロン!何の恨みがあって・・・!」

   ファラ「わぁ〜、食材を投げるのって流行ってるの?わたしも入れて〜!」

   いつの間にか騒ぎはあちこちに広がり、気が付くと会場中にさまざまな食材が飛び交っていた。

   折角作っていた料理は崩れ、割れた食器は床に散らばっていた。

   ソフィ「ちょ、ちょっと皆さん!落ち着いて下さい・・・!」

   ミツオ「うわぁ〜折角作ったホットケーキが!よくもやったなぁ〜!」

   ルーシャ「もぉ〜!何なのよ!どうして、こんなことになっちゃったのよぉーっ!」

 

 4、

   アルド「美味しい香りが、廊下まで広がってくるね〜。みんな、一生懸命に料理を作っているんだろうな!」

   アルド・レヴィンはエレベーターを降り、三階のコンテスト会場前の廊下を歩いていた。

   仕事が終わりバード星に戻ったとき、PB倶楽部で料理コンテストを開催していると聞き、審査員として駆けつけたの

   だ。ただ単に、料理を食べたかっただけなのだが。

   ― みんなで協力し合い、一つの作品を作り上げる・・・うん、青春だな!

   アルド「ぼくは双子の宇宙一の料理を食べられるのかな。仕事帰りでお腹も空いてるし、わくわくするねー。

   こんちはー・・・」

   ベシャッ。

   突然、何かが視界全体を遮った。ドアを開けた瞬間、顔面に飛び込んできたのだ。

   何とも不愉快だが、甘い香りが漂っている。アルドは一口それをなめると、パイであることを察した。

   アルド(パイが顔に飛んでくるとは、どうやら会場を間違えたらしい・・・。)

   そう判断して部屋を出て行こうとしたが、よく見るとそこは確かに料理コンテストの会場だった。

   広い会場には、まるで激しい戦闘が行われていたのかと疑わせるほど、無惨に食材が床に散らばっている。

   そこに居る人々の瞳は光を失い、脱力感にただその場で座り込んでいた。

   それぞれが想いを込めて作った郷土料理も、天井まで届くようなケーキも、ぐちゃぐちゃに崩れてしまい台無しだ。

   ミツオは名残惜しそうに、散っていった料理を見つめ、ロンやエディ、マーカスは何も言えずにその場に

   呆然と立ち尽くしていた。

   そもそも料理とは何なのか?

   ある時には大切な人のために、またある時には自分へのちょっとした、ご褒美のために・・・。

   間違っても、こんな風に部屋を汚し、悲しみと後悔を生むようなものではないはずだった。

   どうして、このような惨事になったのか?

   理解できない・・・。

   アルド「やぁ、みんな。何かとても楽しい遊びをしていたみたいだね。」

   彼は顔についたパイを処理しながら、いつもよりトーンの低い声で言った。

   アルド「良かったら、この遊びを最初に考えついた人を教えてくれないかな?」

   彼はにこやかな笑みで、そう言うと、ミツオ、ロン、ルーシャ、ソフィ。そしてエディ、ラナ、フェリオ、ファラは

   一斉にマーカスを指さした。

   マーカスは「えっ!?ぼく」と言わんばかりに戸惑い、彼らをキョロキョロと見ている。

   アルド「よーし、そうかハハハハ!じゃぁ、今の九人はちょっと僕とお話しをしようか!」

   え・・・、ぼくたちも?

   しかしアルドの、どこか暗い笑みにはとても反抗できるようなものではなかった。ゴゴゴゴゴ・・・という効果音が

   聞こえてくるようだ。いつものアルドからは想像できない恐怖を、身体全体で感じた。

   この感覚は、どことなく覚えがある・・・。

   ミツオ(最近のロリーナさんは、アルドさんの影響を受けていたのかも・・・。)

 

   ■

 

   しばらくして、わたしは外へ出た。

   そして、目の前に広がっている光景に、ただ言葉を失ったのだ。

   高度な文明を象徴する高層ビルや、街中にも見られた美しい自然は、跡形もなくなってしまっている。

   代わりに果てしない焼け野原が広がり、草一本でさえ生えていない。まるで、死の世界そのものだ。

   何もない。誰も居ない。

   わたしはこの星で、ただ独りぼっちになったんだ・・・。

   そんなの嫌だ・・・、お父さん・・・お母さん!

   「誰かぁッ・・・!」

   ハッ・・・。

   シャンティは目を開けた。暗い鉄格子の部屋の中。そこに一つだけ置かれたベッドから、ゆっくりと体を起こす。

   額に滲んだ汗を拭い、シャンティは呼吸をととのえた。

   シャンティ「また・・・、あの夢を見たのね・・・。」

   今もそう、彼女は狭い部屋に独りきりだったのだ。

 

   ■

 

   それから九人は一時間ほどアルドの説教を受け、散らかった会場の片付けをさせられた。

   それぞれが投げ合った食材は潰れ、床に机に散乱している。

   そして、反省の作文五枚。

   明日、バード星本部まで行き、アルドに提出しなければならなくなってしまった。

   今回はとんだ倶楽部活動となったのだ。

   ロン「大体、こんなことになったのはマーカスのせいだからな!」

   マーカス「えぇ〜?ぼく何かしたっけ?」

   ソフィ「はいはい、もう喧嘩は沢山ですよ・・・。」

   ラナ「全くだわ・・・。」

   フェリオ「何で、掃除なんかしなくちゃならないんだよお・・・。」

   エディ「ぼくの最高級エプロンが汚れてしまうよ。」

   ルーシャ「文句言わない!全部、自分達の責任でしょ〜?」

   ファラ「こんな料理コンテストもあるのね!流石、宇宙の平和を守るパーマン達がやることだわ。」

   ミツオはフェリオ達が作っていた料理の一部を指ですくうと、「うん!美味しい!」と密かに呟いた。

   

 

 

 

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