LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 16、戦慄の人生ゲーム(後編)

 

 1、   

   フェリオ「ここまで・・・逃げれば・・・もう大丈夫。」

   彼は荒い息を整えた。

   ここはスペース人生ゲームがあるドームのどこかであるが、フェリオたちには、それがわかっていない。

   普通の客は立ち入らないような、人気のない、ある廊下に二人は立っていた。

   マーカスから必死で逃げるうちに、気が付いたら、こんなところに来てしまったのだ。

   ファラ「お兄ちゃん、大丈夫?」

   フェリオ「なんとかね・・・。それにしても、本当にしつこかったなぁマーカスって子。今からロケットに乗れば、

   コンテストに間に合うかな。」

   マーカス「多分、大丈夫だと思うよ。」

   ・・・・。

   フェリオ「・・・・。」

   マーカス「全く、二人は本当に鬼ごっこが好きなんだねぇ。そういうことは、取材終わってからにしてほしいけど。」

   ファラ「凄いわ、マーカスさん。お兄ちゃんがどこに逃げても、逃さないのね。」

   そういうファラは少しだけ楽しそうだ。

   マーカス「まぁ、プロだからね。」

   彼も得意げに答える。しかし、フェリオはそんな気分ではない。早くしないと、宇宙港からコンテスト会場がある惑星

   行きのロケットが出てしまうのだ。こんな奴に構っている場合ではない。

   フェリオ「あのさ、マーカス・・・。」

   マーカス「あっ、やっと取材に応じてくれる気になったの?聞きたいことは山ほどあるんだけど。まず・・・。」

   それから再び、彼の一方的な機関銃攻撃。

   ― 少しでも答えてやれば、追ってこなくなるかな。いや、それとも調子に乗って、もっとエスカレートするかな・・・。

   ぺらぺらとマーカスの口は止まらない。

   ― でも、ぼくは知っている。マーカスは自作の新聞を学校だけじゃなく、街でも配り歩いてた。

      もしかしたら、宇宙の各星にも巻き散らかしているかも・・・。

   そうなると・・・、自分達について都合が悪い、間違ったことを書かれた記事が出回るのは非常にまずい。

   フェリオ(ぼくは、今までお父さんの店の繁盛のために、数え切れないほどの努力をしてきた。

   それを、マーカスなんかに、水の泡にされてたまるか・・・。)

   フェリオはファラの手をつかむと、廊下を再び走り出した。

   マーカス「だからぁ!鬼ごっこは後で、好きなだけ付き合ってあげるから!」   

   フェリオ「鬼ごっこなんかじゃなーい!」

   ファラ「鬼ごっこよりも、かくれんぼをやりましょうよっ。」

   二人は闇雲にどこだかわからない廊下を走り回った。マーカスは、執念深く追ってくる。

   そんな三人を、一つのスウィーシーが見付けた。

   「あれっ、何ですかあの三人は。ここは関係者以外立ち入り禁止の、管理室だと言うのに。

   廊下を走り回って迷惑をかけるお客様は、出て行ってもらいます!」

   その瞬間、三人の体がパッとその場から消えた。

   「あっ・・・しまった。間違ったところに瞬間移動させてしまったかも。」

   「わあっ!」

   ガチャッという音がして、三人はある機械の上に落ちた。

   気が付くと、それは廊下ではなく、ある部屋みたいであった。壁には多くのモニター、そして複雑な機械。

   モニターには、宇宙空間でプレー真っ最中の、人生ゲームプレーヤーの姿が、それぞれ映し出されていたが、

   三人が機械の上に落ちた瞬間、彼らの目の前にあったモニターの一つがプツッと切れて、真っ暗な画面になっていた。

   フェリオ「な・・・なんだ、ここは。」

   マーカス「どうやら、ここのスペース人生ゲームの管理室みたいだね。」

   彼が部屋を見渡して言った。

   ファラ「スペース人生ゲーム?」

   マーカス「なんだ、君たちここがどこだか知らずに入ってたの?」

   フェリオ「そ・・・そんなことより、何でぼくたち突然こんなところに来たんだ!?それに、今下敷きにしている機械の

   ようなもの・・・バチバチしているけど、もしかして壊れちゃったんじゃ・・・。」

   三人は慌てて、その上から降りた。彼らが落ちてきた衝撃で、機械は変形し嫌な音を立てていた。

   マーカス「うーん・・・どうやら、今プレーしているゲーム盤のどれかを管理している機械が、壊れちゃったみたいだね。」

   フェリオ「落ち着いている場合!?」

   彼は部屋を見渡した。近くに係員は一人。しかも、鼾をかいて椅子に座ったまま眠っている。

   マーカス「監視は一人か。まぁ、システムが完璧だから充分なんだろうね〜。こういうことでも起きない限り。」

   ファラ「あの男性、あたしたちがあれだけ大きな音を立てて落ちても、起きなかったのね。すごいわ。」

   フェリオ「感心してないで・・・逃げようファラ!」

   彼は必死の表情でファラに言った。

   ファラ「あら、お兄ちゃん。こんな時に逃げるのは、一番いけないことよ。」

   フェリオ「宇宙的料理人が、勝手にこんなところに入り込んで、しかも機械を壊しちゃったなんて知られる方が

   もっとまずいよ!だいたい、ぼくたちは早くコンテスト会場に行かなくてはいけないんだ!

   はやく、あいつが起きないうちに・・・!」

   すると、部屋が赤く光り出した。『侵入者あり、侵入者あり・・・』という声が、スピーカーから聞こえてきた。

   フェリオ「まずいっ、見付かった!早く行こう!」

   マーカス「あっ、待って下さいよ〜。」

   ファラ「何だか、逃げてばかりねぇ。」

   

   それから数々のイベントをのりこえて。

   気が付いたら、皆スタート地点からかなり進んでいるようだった。早くゴールしたい一心だった。

   予想以上の恐ろしい出来事に疲れていたのだ。

   エディ「こんなゲーム、後でお父さんに言って廃止してもらうよ・・・。」

   ラナは隣で苦笑いした。

   ラナ「さぁ、ダーツを投げましょう。どっちがやる?」

   エディ「ラナに託すよ。」

   彼女はうなずいて、ルーレットにダーツを投げた。

   その時だった。全てのマス目からバチバチッと火花が散った。ウィーン・・・と機械のような音が、どこからか

   聞こえてくる。

   ミツオ「な、なんだ・・・!?」

   ラナがダーツを投げたルーレットがゆっくりと止まった。

   ラナ「5だわ。」

   エディとラナは5マス進んだ。

   そして・・・止まった先に待っていた運命とは・・・―

   エディ「妻が宇宙怪物に捕らわれる・・・?」

   ラナ「きゃああー!」

   エディはハッとマス目から顔を上げた。気が付くと、隣にいたはずのラナがいない。

   ふと前を見ると、宙に浮いた恐ろしいモンスターの姿があった。映画でしか見たことがない、巨大で

   身の毛もよだつような顔をした怪物。大きな牙が鋭く光っている。

   その手につかまれていたのは・・・。

   エディ「ラナッ!」

   怪物の光る目が、ラナを見つめている。今にも彼女を食べそうな勢いだ。

   ラナ「エディ−!」

   エディ「おいっ、どうしたら助けられるんだ!」

   エディは自分の緑のスウィーシーをつかんだ。冷や汗が流れる。

   「お、おかしいです。このイベントは、通常現れないはず・・・。」

   スウィーシーが焦ったような表情を浮かべていた。

   エディ「・・・なんだ、どういうことだ!?」

   「ガリガリバーの冒険の事実に基づいて設定したイベントの一つだったのですが、あの怪獣ロボットが凶暴すぎて

   命の危険もあったため、随分前に外されたんです。だから、そのマス目が現れるなんて、今はありえないんです。」

   エディ「ありえないマス目が、どうして現れたんだ・・・っ?」

   しかしスウィーシーは首をかしげた。

   「わかりません・・・。管理システムに何か異状が起きたとしか思えません。」

   ― まさか・・・。ロット社が運営するスペースランドだぞ。そんなこと・・・。

   エディ「・・・助ける方法はあるのかい?」

   彼は恐る恐る聞いた。

   「ここからちょうど15マス進んだところに、この危機を脱するためのマス目があります。そこに止まることですね。」

   エディ「15マス・・・。」

   「ただ相手は腹ぺこの宇宙怪物。そう長くは待てません。3ターンで、決めて下さい。」

   エディ「たったの3ターン・・・!?」

   3ターンで、ピッタリ15マス目に止まらなくてはいけない。そうしないと・・・。

   ラナはあの怪物に食べられてしまう。

       エディ「・・・ラナ。」

   「ラナさんを助けられるのは、夫であるあなただけです。あなたに彼女の運命はかかっています。」

   ミツオ「あの怪物・・・本当に3ターンも待ってくれるの?今にも噛みつきそう・・・。」

   モンスターは笑みを浮かべながら、舌なめずりをしていた。

   エディ「ミツオくん、次はキミの番だろ!早く終わらせてくれ!」

   ミツオ「そ、そうだね。ロン、気分は大丈夫?」

   ロン「あの怪物に比べたら、全然平気だよ・・・。」

   彼は笑った。

   そして、エディのターン。彼はダーツを片手にラナの方を見た。不安に押しつぶされそうな表情・・・。

   絶対にこの3ターンで決めないと・・・。

   エディ「6・・・だ。」

   エディは6マス進んだ。残り、9マス。

   「このイベントが発生している間は、マスに止まっても他のイベントはおこりません。ちょうど15マス目に止まることに

   専念してください。」

   それから、次のターンでエディは8マス進んだ。

   そして残り・・・1!

   エディ「1・・・!1を出さなきゃ、ラナは・・・。」

   怪物はもう我慢の限界のようだ。ラナを食べたくて、うずうずしている。

   彼女は依然と、恐ろしいモンスターの手の中。

   ― 怖い・・・凄く怖くて頭がどうにかなりそう。助けて・・・エディ!

   エディの心臓がドキドキで爆発しそうだ。さっきから、手の震えがとまらない。

   自分の右手に、人の生死がかかっていると思うと、泣きたくてたまらなくなった。しかし、逃げることは許されない。

   自分の助けを待っている人がいる・・・。

   ― ぼくならできる・・・。落ち着け。

   エディ「・・・いくぞ!」

   彼はビュッとダーツをルーレットに投げつけた。皆、息をのんだ。

   怪物の手のなかで、ラナは祈った。止まるルーレット。ダーツがあたった数字とは・・・。

   エディ「・・・1。」

   「おめでとうございます!」

   彼が安心して思わず座り込もうとしたとき、スウィーシーが口をはさんだ。

   「おっと、安心するのはまだ早いですよ。」

   1マス進んだ先に現れたのは、アニメで見るような剣と盾。エディは目を瞬きさせた。

   「さぁ、勇者。これを取って、怪物と戦うのです。愛する妻を助けるために。」

   エディ「戦うって・・・ぼくが?あの怪物と!?」

   「それしか、彼女を助ける術はありませんよ。」

   エディはためらった。

   ― そんなの無理だ・・・。あんな巨大なモンスターに、ぼくなんかが勝てるわけがないじゃないか。

   モンスターがギョロリとした目で、こちらを見た。彼の体が震える。

   エディ「そ・・・そうだ!リタイアだ・・・。」

   彼はスウィーシーに言った。

   エディ「おい、ぼくはリタイアする!ペアになっているラナも、ゲームを終われるはずだろうっ?」

   「それが・・・。」

   スウィーシーはうつむいた。

   「それが、システムの不具合でリタイアが出来ない状態でして・・・。原因は、私にはわかりません。」

   エディ「な・・・なんだって!」

   ― もう駄目だ・・・。もう・・・。

   エディ「ぼくには・・・出来ないよ。」

   ソフィ「いくじなしっ!」

   すると、離れたマス目にいたソフィが声を上げた。エディは驚いて振り向く。

   ソフィ「お前、ラナを助けたくねぇのかよ!男だろ!なに、弱音吐いてやがんだよ!」

   エディ「・・・ソフィちゃん。」

   ソフィ「やってもないのに、諦めてんじゃねぇよっ!あいつはお前が来るのを待ってんだよ!お前だけなんだろ、

   ラナを救えるのは!」

        ― あ・・・・。

   そう言われて、エディは覚悟を決め剣と盾を取った。そうだった。自分しか・・・ラナは助けられない。

   するとエディの体が、怪物の前へと浮かび上がった。

   宇宙モンスターがこちらに気が付き、黄色く光る目を向けてきた。近くで見ると、その巨大さに圧倒される。

   こちらを見つめるラナの顔が、ハッキリとわかった。

   ― ガリガリバーとかいう海賊は、こいつを倒して妻を助けることができたのだろうか?

   いや・・・どうであれ。やるしかないっ!

   彼は剣を構え、怪物に飛びかかった。怪物は吠えて威嚇をすると、ラナを手に持ったまま、こちらに向かってくる。

   その迫力に怖じけつきそうになったが、エディはさらに高く盾を構えた。

   勝負は・・・この一発にかかっている!

   エディ「ラナを・・・返せーっ!」

   彼は目を閉じて、闇雲に突っ込んだ。手に確かな手応えを覚え、それから辺りが眩しく光り輝いた。

   エディの意識が遠のいていった・・・―

 

 2、

 

   ラナ「エディ・・・エディ!」

   エディはふと目を覚ました。気が付くと、ラナが自分の体を支え、心配そうに顔を覗き込んでいる。

   彼の意識が戻ると、ラナはギュッとエディを抱きしめた。

   ラナ「良かった・・・エディ。」

   彼は自分の体を見た。剣も盾も消えている。あの怪物の姿もなかった。

   二人は、最初に「妻が宇宙怪物に捕らわれる」と書かれていたマスの上にいた。

   エディ「ぼく・・・勝ったの?」

   ロン「かっこよかったぜー、エディ!」

   遠くでロンが手を振っていた。皆、こちらに拍手や歓声を贈っている。

   エディは安心して息を漏らした。

   エディ「はぁ・・・良かった。」

   ラナ「ありがとう、エディ。あたしのために・・・、あたしを・・・守ってくれて。」

   するとエディは彼女から顔をそらした。

   エディ「別にラナのためじゃないよ。ゲームだからね、仕方無くやったんだよ。」

   それでもラナは満足そうに笑っていた。

   

   「全く、バード星の時バードマン候補ともあろう者たちが、勝手に侵入した上に、管理室の機械を壊すなんて!」

   その頃。

   係員に発見されたマーカス、フェリオ、ファラは正座をさせられ、説教を受けていた。

   「不幸か幸いか、そのステージのゲームをプレイされているのは、ロット社の息子エディ様だ。

   システムは復旧したが、不具合が起きて混乱されたはずだ。後で理由を話しておかないと・・・。」

   マーカス「へぇー!エディがここに来ていたんだ。ちょっと取材に・・・。」

   「駄目だっ!」

   立ち上がり、駆け出そうとしたマーカスの腕を取り、係員の男性は凄い剣幕でどなりつけた。

   「これ以上、お客様に迷惑をかけることは決して許さん!早くこのテーマパークから出て行きなさい!」

   フェリオ「言われなくたって、すぐに出て行くよ。」

   彼は小さな声でつぶやいた。

   フェリオ「ファラ、もう時間がないよ!今すぐコンテスト会場に・・・。」

   ファラ「そ、それがお兄ちゃん・・・。」

   彼女は言いにくそうに、上目遣いでフェリオを見た。

   ファラ「もうとっくに、コンテスト会場がある惑星行きのロケットの最終便は出てしまったの・・・。」

   フェリオ「・・・・。」

   それを聞いて、フェリオは凍り付いたのだった。

 

   戦慄の人生ゲームが始まってから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

   ミツオ「あ・・・、あと5マス・・・。」

   数々のイベントに、スッカリ精神的にも体力的にも疲れ果ててしまったミツオとロン・・・しかし、彼らの2マス先には

   『ゴール』と書かれた光り輝くマスが確かにあったのだった。

   「ついにここまで来ましたね。システムの不具合も復旧したようですし、あと一息ですよ。」

   エディ「結局、今は無いはずの、あの怪獣のマスはどうして現れたんだ・・・。あとで調べておかないと。」

   6人の中で、一番進んでいるのがミツオとロンだった。

   最もゴールから離れているルーシャは、二人の位置からでは姿を確認できない。

   ミツオたちがルーレットを回す番だ。

   ミツオ「ロン、一気に5を決めてよ。さっさと、こんなゲーム終わらせよう!」

   ロン「よっし、見てろよ。」

   彼は力を振り絞って、ダーツを投げつけた。止まった数字は・・・。

   ミツオ「さ・・・3?」

   あと2マス。

   「おぉっ、お二人さん。これはラッキーなマスに止まりましたね!」

   スウィーシーの言葉と同時に、突然ミツオとロンのマスに、4人が現れた。

   ルーシャ、ソフィ、エディ、ラナが瞬間移動して、ここにプレーヤー全員が集まったのだ。皆、目を見張った。

   ラナ「な、なに!どういうこと?」

   「このマスに止まると、プレーヤー全員を同じ場所に集めることができるんです。無論、全員がセットになります。」

   エディ「じゃぁ、皆あと2マスで終われるってことか。」

   「ラッキー!」と、ラナはエディの手を取って笑った。

   「さぁ、ルーレットで2を出してゲームクリアを狙いましょう。代表1名がダーツを投げて下さい。」

   ロン「よーし、じゃぁまたオレがやるぜ!今度こそゴールしてやる!」

   皆、ロンに声援を送った。

   長かった苦難の時も、もうすぐ終わる・・・やっと、この恐ろしいゲームから解放される!

   そう思うだけで、彼らの心は軽くなった。

   しかし・・・。

   エディ「待った!みんな、一つ前のマスを見てよ・・・。」

   突然、エディが声を上げた。目の前のマス・・・ゴールと、今彼らが止まっているマスの間に、

   ぼんやりと文字が浮き出てきた。そこに書かれている言葉に、誰もが呆然とした。

   

   『ふりだしに戻る』

 

   ミツオ「つ・・・つまり、今までの恐ろしい出来事をもう一回繰り返すってこと・・・?」

   彼の頬に冷や汗が流れた。

   ― そ・・・そんな!考えるだけでも恐ろしい・・・!

   ロン「い、いや・・・でも、1を出さなければいいんだろ?」

   「3も駄目ですよ。」

   スウィーシーが言った。

   「3以上の数字が出た場合は、ゴールから折り返して進むルールなんです。」

   ラナ「う、うそでしょー!?」

   すると、ロンが手に持っていたダーツをミツオに押しつけるようにして渡した。

   ロン「オ、オレさっき投げたからさ・・・今度はミツオがやってよ。」

   ミツオ「えぇっ?な、何言ってるのさ・・・。こ、ここは、このゲームに詳しいエディに任せるよ。」

   ミツオはエディにダーツをさっと手渡した。

   エディ「だから、このゲームは初めてだって言っただろっ!えっと、誰か・・・。」

   ソフィ「いい加減にしろよっ!」

   唐突に彼女が叫んだ。ダーツを譲り合っていた男たちが凍り付く。

   ソフィ「ったく、ゴチャゴチャ言いやがって面倒くせぇ。もっと勇気を出せよ、情けねぇな!」

   ミツオ「じゃぁ、ソフィがやってくれるんだねっ。」

   しかし、彼女は首を振った。

   ソフィ「ミツオ、お前やれ。」

   ミツオ「なんで!?」

   彼は思わず叫ぶ。だが、ロンは嬉しそうに笑いながら、ミツオの肩をたたいた。

   ロン「やっぱり、ミツオ以外に相応しい奴はいないって。ここは一つ、みんなの英雄になってみろよ。」

   ミツオ「ひ、人事だと思って・・・。」

   ― でも、誰かはやらなくちゃいけないんだ・・・。みんな、ぼくを信用してくれている。だから、ぼくを選んだんだ。

   皆、ただ自分が責任を被りたくないだけだが。

   ミツオは決心して、ギュッとダーツを右手で握りしめた。息をのみ、ルーレットの正面に歩み出た。

   今までで、最も緊張している。

   ドクッ ドクッ ドクッ・・・心臓の音がやかましいくらいだ。

   エディ「おい、絶対に外すんじゃないぞ。絶対にっ!」

   背後でエディの声が上がった。ミツオの汗が、頬をつたって流れ落ちた。

   ソフィ「男を見せろ!ミツオッ!」   

   ルーシャ「で、でも・・・もし失敗したら・・・。また岩に押しつぶされたり、底なし沼にはまったり、

   怪獣に食べられたり・・・。」

   彼女のネガティブスイッチが入った。皆の気持ちが、つられて落ち込んでくる。

   ロン「だ、大丈夫だよミツオ。お前なら、絶対にできる・・・!オレは信じてるよ。」

   ― ・・・ロン。

   彼は振り返った。ロンがこちらに向かって、ガッツポーズをしている。

   それを見て、ミツオの緊張が少し和らいだ。

   ― 大丈夫。ぼくなら・・・大丈夫。絶対にできるっ!

   彼は顔を上げた。ミツオの顔は自信に満ちていた。頬は緩み、口角が上がっている。

   ミツオの体が振りかぶった。

   シュッと、彼の右手からダーツが、回っているルーレットに向かって飛び出した。

   皆、ルーレットに注目を集めている。それは段々とスピードが落ち、ゆっくりと停止した。

   ミツオは思わず目を瞑った。

   シーンと静まった空間・・・。まるで時が止まったかのようだ。

   ロン「・・・やった。」

   彼が沈黙をやぶった。ミツオの背後が騒がしくなった。

   ロン「やったぁー!ミツオォッ!」

   ロンが、後ろからミツオの背中を押した。ミツオはバランスを崩して、その場に倒れた。

   そんな中、彼の視界に見えたものとは・・・。

   ミツオ「・・・2。」

   確かに彼の投げたダーツは、ルーレットの「2」の数字にあたっていたのだ。

   ミツオは思わず飛び上がり、歓声を上げる皆の中に飛び込んだ。

   ミツオ「良かったぁ・・・!」

   ロン「流石ミツオ!オレはきっと、やってくれると信じてたぜ!」

   ソフィ「フッ。やるじゃねぇか、あんたも。見直したぜ。」

   エディ「まぁ、これくらいは当然だね。」

   ラナ「やったー!エディ!」

   ルーシャ「あたった・・・信じられないわ。まさか・・・。」

   6人はうなずきあうと、足をそろえて、マスを進んだ。

   「1・・・2っ!」

   『ゴオォォォォォォルッ!』

   パンパパンッとクラッカーが鳴り、紙吹雪が飛び散った。盛大なラッパの音。

   彼らは安心し、たまりにたまった疲労もあって、その場にしゃがみこんだ。

   確かに過酷なゲームだったが、今では達成感に満たされていた。

   ルーシャ「あっ、あれ・・・。あたし、もとに戻ったみたい。」

   ソフィ「もう・・・あんなことを言ってしまうなんて、女としての恥です・・・。」

   ゲームをクリアし、二人の性格を変えてしまったフルーツの効き目も切れたようだ。

   皆は笑った。

   ミツオ「何はともわれ、みんな一等でゴールできて良かったね。」

   ロン「そうだよ!じゃぁさ、全員に景品がもらえるってこと!?」

   ラナ「エディ!100万ボルで、今度はあたしと二人だけで宇宙旅行しましょう!」

   エディ「え、遠慮しておこうかな・・・。」

   彼は苦笑いした。

   「あのぉ・・・、大変申し訳ないのですが。」

   すると、スウィーシーが小声で首をはさんだ。

   「普通なら、一着でゴールした方には、ゴールと同時に賞金が出てくる仕組みなのですが・・・。

   実はゲームの不具合が生じたときに、そのシステムが故障したみたいでして。火花が賞金について、燃え尽きて

   しまいましたと、こういう訳でして・・・。」

   ・・・・・。

   ルーシャ「冗談は顔だけにしなさいよー!じゃぁ、あたしたちは何のために、こんな苦労してきたのよっ!」

   彼女が青色のスウィーシーをつかみ、勢いよく上下に振った。

   「ま、まことに申し訳ありません〜!でも、エディ様にとってはこんな賞金なんて、必要ないですよねぇー?」

   エディ「えっ、あぁ。まあ、これ以上お金が増えても、置き場に困るけどね。」

   ロン「オレたちはどうなるんだよっ!うわぁ〜、もう嫌だぁ。」

   ミツオ「つ、疲れたぁ・・・。」

   宇宙空間に浮かぶ、虹色に輝くスペース人生ゲーム盤。6人はゴールのマス。

   賞金100万ボルという夢は、音を立てて崩れ落ちた。

 

 

   「見て下さい、ロリーナ先輩。この石から、今まで見たこともないくらい、膨大なエネルギー反応が・・・。」

   光を一切遮った、暗い部屋の中。

   ロリーナはその石の輝きを見て、深刻そうにうなずいた。

   「ここまでとはね・・・。ロンくん達があそこまでの危険を冒して、取り戻してきたかいがあったということかしら。

   あなたも拾ったときから、薄々と気が付いていたんでしょ?」

   「はい・・・。私、予感がするんです。

   この石は、将来私達の宇宙にさらなる繁栄か、滅亡をもたらす・・・そんな気が。」

   

 3、

 

   ロン「もう帰らなきゃいけないなんて、疲れるために旅行に来たようなものじゃねぇかぁ・・・。」

   ホテルの部屋で。

   ロケットの移動時間もあり、そろそろこのテーマパークを去らなければいけない時間になった。

   男たち三人は荷物をまとめている。

   ミツオ「でも、ちょっと楽しかったよね。」

   ロン「それは終わってから言えることだよなぁ。それにしても、どうしてよりによって、あんなゲームにオレたちを

   誘ったんだよ、エディ。」

   エディ「あぁ・・・それがさ。」

   彼は鏡で自分の髪を整えながら、答えた。

   エディ「楽しいゲームだって聞いていたから行ったんだけど・・・、どうも、あのゲームには色々なコースがあったみたい

   で。偶然、ぼくたちが立っていた場所は、『宇宙海賊冒険コース 〜超上級編〜』の目の前だったみたいなんだ。」

   ロン「な・・・な・・・。」

   彼は持っていた歯磨きセットを思わず手から落とした。

   ロン「なんだってー!?じゃぁ、コース次第では、この旅行充分に楽しめたはずじゃないか!」

   ミツオ「あぁ〜!折角の休暇がぁ!エディ!」

   エディ「ぼ、ぼくのせいじゃないさ・・・!」

   ルーシャ「バタバタとうるさいわね、隣の部屋。」

   女子の部屋で。こちらも、ホテルを出るために部屋を整えていた。

   ソフィ「それにしても、超上級編とは・・・どうして、始める前に気が付かなかったんでしょう。」

   ラナ「エディにしては珍しいわねー。」

   ラナは、すっかりいつも通り、明るい彼女に戻っていた。

   ルーシャ「それにしても、今回のエディはかっこよかったじゃない。恋のエンジェルのカンとしては、

   彼はラナのこと、何とも思っていないわけではないらしいわね。」

   彼女がいたずらっぽく笑う。ラナは頬を染めた。

   ラナ「流石はあたしのエディだわ。あたし、絶対に諦めないわよ。ソフィも、頑張りなさいよね。」

   ソフィ「な、何をどう頑張るんですか・・・。」

   ルーシャとラナは笑いあった。

 

 

        「まただわ!」

   空の上で。少女はサッと振り向いて、下界を見下ろした。周りには自分達の他、誰も見当たらない。

   しかし、人の気配がするのだ。

   赤いパーマンマスクを被った彼女は、怯えたようにパーマン仲間に言う。

   3号「ね、ね!確かに視線を感じるでしょう。コソコソと怪しい視線・・・。」

   4号「わかりますねん。それも、ここんとこ毎日や。誰か悪い奴が、わいらのこと見張っとるんちゃいますか。」

   2号「ウイ〜。」

   パー子は警戒心を強めて、辺りを見回す。

   3号「捕まえようとしても、なかなか正体を現さないのよね。まぁ、こんなに美人なあたしがいたら、ストーカーの

   一人や二人、出たって不思議じゃないけど・・・。」

   4号「ハッハッハッハ!それは有り得な・・・いや、充分有り得るわ。」

   パー子に睨まれて、パーヤンは小声で訂正する。

   彼女は一つため息をついて、真剣な表情を浮かべた。

   3号「落ち着いていられないわ。本当に誰なのかしら・・・、

   怪しい視線の正体は・・・。」

 

 

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