LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 15、戦慄の人生ゲーム(前編)

 

  1、

       ピピピピピピ・・・―

   目覚ましの音が、広い部屋に鳴り響く。

   ミツオはその音に気付いたが、まだ眠かったため、さらに深く布団を被った。

   ピピピピピ・・・―

   音は鳴り止まない。それどころか、段々大きくなってくる。

   ミツオ「もーう・・・うるさいなぁ。」

   ミツオはそっと目を開けた。そして、驚いた。

   見えたのは、いつものPBハウスの天井ではなかった。輝くほど眩しいシャンデリア。

   ミツオはハッと飛び起きた。そこは豪華なホテルの一室だった。

   ― そうだ、昨日からみんなと一緒にテーマパークに来ているんだった!

   エディ「やぁ、随分遅いお目覚めだね。」

   エディはもう寝間着から着替えて、ドレッサーの椅子に座り、髪を整えていた。

   ミツオ「おはようっ。いやぁ〜、最高の寝心地だったなぁ、このベッド。エディはよく眠れた?」

   エディ「・・・まぁね。」

   眠れるわけがないじゃないか・・・自分でも、よくわからないけど。

   彼はくしを動かす手を止めた。

   ― ソフィちゃんは、初恋の相手に似ているだけで、運命の相手じゃないだって・・・?

   じゃぁ、運命の相手って何なんだよ・・・。

   ― ラナはあんなにも、お前のことを想ってくれているのに・・・。

   違う。ラナは違う。ぼくはそう思う。

   でも・・・、確かにラナにも他の女の子とは違うものを感じる。ソフィちゃんとは、全く異なるものだけど。

   それが何なのかはわからない・・・けど、運命の相手だなんて今まで考えたこともなかった。

   ― いつものエディは、ラナのアプローチもそれほど悪くないって顔してたけどな。

   なんなんだよ・・・どういうことなんだよ。

   でも、昨日は確かに言いすぎたな・・・。ラナに悪いことをしたかもしれない。

   ミツオ「あれ、まだ一人朝寝坊さんがいるようですよ。」

   彼はふと横を見た。ミツオの期待通り、ロンがまだ布団を被って眠っている。

   ミツオはニヤッと笑みを浮かべると、勢いよくその布団の上に飛び乗った。

   ロン「ぎゃあああー!」

   ミツオ「アッハハハハッ!」

   ロンの叫び声を聞いて、ミツオは大笑いした。ロンはミツオの下敷きになりながら、今自分の身に起こっている事態を

   理解した。

   エディ「はぁ・・・暢気な連中。」

   ロンはミツオを睨む。

   ロン「・・・せ、折角、最高級の羽毛布団で寝ていたって言うのに・・・お前のせいで目覚め心地最悪だぜっ。」

   ミツオ「ごめん、ごめん。」

   エディ「キミたち、早く準備しなよ。もうすぐ朝食だからね。」

   エディは呆れ声で言う。

   ミツオ「ねぇ、今度もあの天才料理人とかいうPBが作ってるの?」

   するとエディはすまし顔で答えた。

   エディ「あぁ、そうだよ。」

   

   フェリオ「よし、これでいいだろう。」

   再びホテルの厨房で。フェリオは自分の作った料理を満足げに見つめた。

   宇宙最高の食材を使った、最高傑作になった。

   フェリオ「ファラ、朝食が完成したってホテルの人に伝えてくれ。」

   ファラ「わかったわ、お兄ちゃん。ここが片付いたら、早速コンテストの会場に向かいましょうね。」

   フェリオ「そうだよ、結局家に帰れないままになっちゃったなぁ。」

   彼はため息を漏らした。

   フェリオ「昨日はマーカスとかいう少年に一日中追いかけられて、ちっとも練習できなかったし。はぁ、疲れた・・・。」

   ファラ「でも、おかげで高級な食材を使った料理を作ることができたし、この豪華なホテルにも泊まれたのよ。」

   フェリア「そうだね。そのファラの前向きなところは見習わなくちゃ。さぁ、早くホテルを出て・・・。」

   マーカス「コンテスト会場に出発するんだよね?」

   ・・・・。

   フェリオ「うああああっ!」

   再び目の前に現れた金髪の小柄な少年。今日はメモ帳、ペン、さらにはカメラもスタンバイだ。

   フェリオ「マーカス、まだいたのか!昨日、まいたと思ったのにぃ。」

   マーカス「ちょっとやそっとで引く、マーカスさんじゃないからねぇ。今日こそは取材を受けてもらうよ!」

   フェリオの頬に冷や汗がつたう。マーカスは相変わらず、余裕の笑みだ。

   フェリオ「ファラ・・・。」

   彼は妹の手を取った。

   フェリオ「逃げるぞっ!」

   マーカス「あぁっ!逃がさないよ−!」

   バタバタと足音がホテルの廊下に響き、厨房はシーンと静まった。

 

 

   ミツオ「ふぅっ、朝食もやっぱり美味しかったー!」

   昨日と同じ展望レストランを出て、6人は満足げに笑った。

   窓から見える大自然は、昨日見たものとは、また違う印象だった。雲一つない快晴、爽やかな風が森の木々を

   揺らしている。小鳥が歌うようにさえずっていた。

   ルーシャ「ねぇねぇ、今日はどこへ行くのっ?」

   皆、胸を弾ませている。これだけ大きなテーマパークだ。今まで体験したことのない、感動に出会えることだろう。

   エディ「ここには遊園地とか博物館とか楽しいものは沢山あるんだけど、この近くでやっている『スペース人生ゲーム』

   が面白いんじゃないかと思うんだ。」

   ソフィ「スペース人生ゲーム・・・ですか?」

   エディはうなずいた。

   エディ「そう。人生ゲームってやったことあるかい?ゲーム序盤のルーレット目によって「人生の筋道」が決まり、

   その後の人生が左右されていく。プレーヤーは1から8まであるルーレットを回し、人の一生になぞらえたイベントを

   こなしていくんだ。まぁ、詳しいルールは実際にそこに行けば説明してくれるよ。」

   

   そして、ホテルから少し行ったところにある大きなドーム状の建物。

   そこは沢山の人で賑わっていた。

   色とりどりな小型の宇宙ボートが、沢山レールの上に並べられている。レールは、途中までしかない短いものだ。

   6人がドームの中に入り、赤色の宇宙ボートが置かれている前まで行くと、

   一人のスタッフと思われる若い女性が近づいてきた。

   「スペース人生ゲームへようこそ。ルールをご説明しましょうか。」

   エディ「あぁ、お願いするよ。」

   女性は茶色のロングヘアを揺らし、ニコッと微笑んだ。

   「今からご案内する人生ゲームは、ただの人生ゲームではありません。宇宙を舞台とし、あの有名な宇宙海賊

   キャプテン・ガリガリバーの夢と冒険溢れる一生をモデルとしています。」

   ロン「ガリガリバー?変な名前・・・。」

   「この人生ゲームが普通と違うところは、止まった目の出来事が、実際に起こるということです。」

   「えええっ!」

   エディをのぞく5人は、思わず声を上げた。実際に我が身に起こるとは・・・。

   「毎回、多くの怪我人が出ます。このコースをお選びになったからには、それをご承諾の上で、ご参加ください。

   死にはしませんのでご安心を。」

   ルーシャ「いや・・・怪我人が出るって、かなり問題でしょ。」

   エディ「何だい、これくらいスリルがなくちゃ、つまらないだろ。」

   彼は余裕の笑みを浮かべて言った。ミツオの心臓がどきどき高鳴る。

   「皆様には、それぞれ案内ロボットを付けさせて頂きます。何かわからないことがありましたら、ロボットに

   聞いて下さい。」

   そう言うと、女性は6つの小さな豆のようなものを取り出し、パッと上へ投げた。

   するとその豆は一つ一つが、色とりどりの丸いロボットに変わり、6人の肩についた。

   両手で抱えられるような大きさで、小さな羽がついている。

   「スウィーシーと言います。」

   ルーシャ「へぇ〜!かわいいぃ!」

   ミツオ「よろしく、スウィーシー。」

   ミツオは、自分のそばをパタパタと飛んでいる、青色のスウィーシーに話しかけた。豆のような目が愛らしい。

   「見事、一着でゴールした方には、100万ボルを差し上げます。」

   ミツオ「やったぁー!何でも好きなもの買えるぞ!」

   皆がそれを聞いてはしゃいだ。

   100万ボルといえば、相当な額だ。ロケットなんて、何台買えることだろう。

   エディ「流石、宇宙に名を轟かせる、ロット社だろ。」

   「それでは、宇宙のゲーム盤に出発しましょう。手前の小型宇宙ボートにお乗り下さい。」

   女性に招かれて、6人はスウィーシーと共に赤い宇宙ボートに乗り込んだ。

   ハッチを閉めた瞬間、レールが天井を突っ切り、空高く・・・宇宙空間まで伸びていった。

   「いってらっしゃいませ。」

   係員が頭を下げると、ボートが動き出した。スピードを上げて、レールを上っていく。

   ロン「すっげぇ!」

   ボートは大気圏を飛び出し、宇宙空間に出た。そこに現れたのは、宙に浮いた人生ゲームのボード。

   それもかなりの大きさだ。

   ライトアップされており、マス目がキラキラと虹色に光っている。

   ボートは出発地点と思われる、大きなマス目の上に止まった。背後には、今まで自分たちがいた惑星が大きく見える。

   ソフィ「本当に宇宙でやるんですね!」

   ミツオ「楽しそう−!」

   ミツオがボートから降りようとしたとき、慌てて彼の青いスウィーシーが引き留めた。

   「待って下さい。宇宙は真空ですよ、そのまま外に出たら死んでしまいます。これをお飲み下さい。」

   スウィーシーはそれぞれに、小さな豆粒のようなものを渡した。

   「これで真空でも息をすることができます。さぁ、ボートの外に出てみましょう。」

   6人はゲーム盤の上に降りた。足をつくと同時にピコンッと音がして、マス目が光る。皆は目を輝かせた。

   「さぁ、早速ルーレットで順番を決めてゲームスタートしましょう。私達におっしゃってくだされば、途中でリタイアする

   こともできます。」

   ロン「リタイアなんかするもんかっ。絶対に一番でゴールしてみせるぞ!」

   「あっ、油断はいけませんよ。皆さんはこのゲームの恐ろしさをわかっていませんね。」

   スウィーシーの言葉に、誰もがビクッとした。

   「この人生のモデルとなっているのは、あの恐れ知らずで、未知の宇宙を渡り歩いたキャプテン・ガリガリバー。

   ご存じでしょ?」

   ミツオ「いや・・・知らないけど。」

   「怪獣に襲われたり、ブラックホールにのみ込まれたり、道中には危険がいっぱいです。」

   ソフィ「・・・そ、それも本当に自分の身に起こるんですか?」

   「あたりまえですよー。」

   スウィーシーはけらけら笑った。皆の頬に冷や汗がつたう。

   ミツオ「エ、エディ・・・。」

   エディ「だ、大丈夫さ。死にはしないって、言ってただろ。途中でリタイアもできるんだし。」

   ルーシャ「・・・・。」

   「さぁ、皆さんこのダーツを持って下さい。」

   スウィーシーは彼らに銀のダーツを配った。すると、空中に大きなルーレットがボワンッと現れたのだ。

   「それぞれ投げて下さい。1から8で、大きな目を出した人から順番に進みます。ダーツは、投げ終わったあと、自動で

   自分の手元に戻ってきます。」

   皆は顔を見合わせた。ここまで来たんだ・・・もう、やるしかない!ルーレットが勢いよく回り出す。

   ロン「よし、投げるぞ!」

   ロンの合図で、6人は一斉にダーツをルーレットに向かって投げた。

   しばらくして、回転が止まった。彼らは息をのむ。

   ミツオ「ええええっ!ぼ、ぼくが一番・・・。」

   「おめでとうございます。」

   止まったルーレットを見て複雑な表情を浮かべるミツオに、スウィーシーは微笑んだ。

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

   ルーレットの結果

   1番 ミツオ

   2番 ルーシャ

   3番 ソフィ

   4番 ラナ

   5番 エディ

   6番 ロン

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

   ロン「オ、オレ最後?運悪っ・・・。」

   「まあまあ、最後の人が勝つ場合も多いんですよ。」

   ロンの茶色のスウィーシーが励ます。

   ラナ「あの、エディ・・・。頑張りましょうね。」

   彼女が怖ず怖ずとエディに話しかけると、エディは思わず、ふいっと彼女に顔を背けた。

   ラナはうつむいた

   「さぁ。それでは、はじめましょう!スペース人生ゲームを!」

   今、壮絶なゲームが幕を開けた。

   この人生ゲームの、本当の恐ろしさを彼らは知らないまま・・・。

 

   2、

   ミツオ「まずは一番・・・、ミツオいきますっ。」

   彼は回転したルーレットを前に、ダーツを構えた。このルーレットはどこにいても、ダーツを投げる順番が来た

   プレーヤーの前に現れる。

   皆の視線がミツオに集中・・・緊迫した空気が流れている。

   ミツオはドキドキと高鳴る胸をおさえ、シュッとダーツを投げた。

   クルクル回るルーレットの回転が止まり・・・出た目は、「6」。

   「さぁ、6マス進んで下さい。」

   ミツオはスタート地点から、歩み出した。マス目を踏む度にピコンッという音と光。スウィーシーはプレーヤーのあとに

   ついてくる。

   ミツオ「・・・5、6。」

   マスに止まった瞬間。ミツオはそこに置いてあった石につまずいて、大きな音を立てて転んだ。

   皆の体がビクッと反応する。

   ミツオ「いっててて・・・・。な、なんなんだ。」

   彼は腰をさすりながら、そっと立ち上がった。マス目には「石につまずいて転ぶ」と書かれている。

   ミツオ「こ、転ぶ・・・?」

   ルーシャ「なんだ、思っていたより恐ろしいイベントでもないじゃないの。」

   「いいえ、これはまだゲームの序盤だからですよ。進めば進むほど、イベントは過酷なものになっていきますよ。」

   どうやら、まだ安心はできないようだ。ミツオは、次に自分の番がくるまでマスの上で待機。

   今度はルーシャの番だ。

   ルーシャ「よし・・・いくわよ。」

   彼女は深呼吸をすると、回るルーレットにダーツを投げた。出た数字は・・・「4」。

   皆が見守る中、彼女は宇宙空間に浮かんだマス目の上を進んでいく。

   ルーシャ「・・・3、4!」

   止まると、目の前に一つのフルーツのようなものが現れ、ルーシャの手の中に落ちた。

   赤々しく輝く、一見美味しそうなフルーツだ。

   ルーシャ「・・・食べろっていうの?」

   「勿論ですよ。」

   彼女は怖ず怖ずとそのフルーツを見つめた。艶があり、新鮮そうだ。しかし、このゲームでは何が起きるか

   わからない。

   ルーシャ「でも・・・後には引けないわね。」

   彼女は覚悟を決めて、そのフルーツを一口かじった。すると・・・。

   ルーシャ「えっ!お、美味しい・・・。」

   甘酸っぱい果汁が口の中で広がり、彼女の緊張が一気にほぐれた。スタート地点でそれを見ていた4人は

   少々驚きの表情を浮かべている。

   「人生、嫌なことばかりじゃありませんからね。勿論良いことだってあるのです。」

   ルーシャ「そうなの・・・良かったわ。」

   水色のスウィーシーの言葉に、彼女は胸をなで下ろした。

   それから、ソフィは7マス進んで、次の自分の番がくるまでスペーススーツを買うためのアルバイトを。

   ラナは1マス進んで、自分の番がくるまで映画「宇宙残酷物語」を見る。

   エディは5マス進んで、宇宙飛行士養成学校の入学式で、遅刻して怒られるというイベントを。

   確かに宇宙海賊の一生をモデルにしているようだ。

   最後にロンの番。彼の投げたダーツにあたった数字は「8」だった。

   ロン「親友ができる・・・?」

   すると、目の前にまたルーレットが現れた。ただ、今回は数字ではなくゲーム参加者の顔が書かれている。

   「ダーツを投げて下さい。あたった人と、あなたは友達になれます。」

   ロン「友達?」

   ロンは回転したルーレットにダーツを投げた。あたったのは・・・。

   ロン「ミツオ!」

   そう言うと、ロンの体が瞬間移動し、いつの間にか「6」の目で止まっていたミツオの隣に立っていた。

   ミツオ「うわっ、ロン!」

   ロン「えっ、なんだぁコレ!」

   「誰かと友達になると、これからはペアで行動します。一緒にマス目を進み、一緒にイベントを受けることになります。」

   そこには青色と茶色のスウィーシー。ミツオとロンは手を取り合った。

   ミツオ「何だかラッキーみたい!よろしくロン。」

   ロン「こちらこそ!」

       「それでは、次はミツオさんの番ですが、二人はペアなので、どちらでもお好きな方がダーツを投げられます。」

   ボワンッと現れたダーツに、二人は顔を見合わせた。

   ミツオ「どっちが投げる?」

   ロン「オレは、さっき投げたばかりだし、ミツオがやってよ。」

   そう言われて、ミツオはダーツを投げた。出たマスは・・・「8」。二人は一緒に進んでいく。

   仲間がいる安堵が二人にはあった。

   しかし・・・そのマスに書かれていたこととは。

   ミツオ「旅に出た先で、親友が大岩に押しつぶされる・・・?」

   ふと上を見上げると、ロンの上から大きな石が・・・。

   ロン「ぎゃあああっ!」

   ミツオ「ロンッ!?」

   ドスンッと大きな音がして、岩についていた砂で砂埃がおこった。ミツオは慌てて口を手でおさえる。

   目を開けたとき・・・、視界に入ってきたのは、ロンが岩の下敷きになっている姿だった。

   ミツオ「・・・ロン!ウソだろ・・・!大丈夫!?」

   ミツオは慌てて、その岩をどけようとする。しかし、ビクともしなかった。

   ロン「ミ・・・ミツオ・・・、重いぃ・・・。」

   ミツオ「ど、どうすればいいの・・・!?」

   「安心してください、骨が折れるような大けがはしないように出来ています。ただ、凄く重いですけどね。」

   ミツオ「岩はどうしたら、どけられるの!?」

   彼はスウィーシーに聞いた。スウィーシーは落ち着きをはらっている。

   「マス目は状況に応じて変わる仕組みになっているんです。次のターンから、ミツオさんが進むマス目に

   3マスに1つの割合で、ロンさんを助けることができるイベントが発生します。そこに止まればいいのです。」

   スウィーシーが言った。

   「ただ、時間が経過するほど親友は岩に押しつぶされていくので、はやくマス目にとまったほうがよいですね。」

   ミツオ「・・・長時間経つと、ロンはどうなるの?」

   しかし、その質問にスウィーシーは答えなかった。

   苦しい表情を浮かべたロンはうめきながら、岩の下。助けなくちゃ・・・。

   ミツオ「ぼく以外の人がそのマス目にとまった場合も助かるの?」

   「さっきも言ったでしょう、マス目はプレーヤーの状況に応じて変わるのです。よって、他のプレーヤーのマス目に

   親友を助けるイベントは発生しません。」

   ― つまり、ぼくしかロンを救い出すことはできないのか。なんて過酷な・・・。

   ルーレットで大きな数字を出せば早くゴールできるけど、その分辛いイベントが待っているんだ。

   ロン「ミツオ・・・。」

   ミツオ「ロン、大丈夫?絶対に早く助け出すから、ちょっとだけ頑張って・・・。」

   ロンは重い岩に耐えながら、こくっと小さくうなずいた。

   ルーシャ「何だか、大変なことになっているみたいだけど・・・。」

   二人の様子を気にかけながらも、他の4人は順調に(?)マスを進んでいく。

   再びミツオの番が来た。ロンに乗っている岩が痛々しい。

   ― 絶対に、最初の一発で決めなきゃ・・・。

   ミツオは大きく深呼吸して自分を落ち着けると、ルーレットにダーツを投げた。

   ロンをそのマスに残したまま、青いスウィーシーとともにマス目を進む。しかし・・・止まったところは。

   「残念、お目当てのマスではないようですね。」

   ミツオ「そ、そんなっ・・・!」

   そう言った瞬間、いきなり自分の足がマス目の中にズボッと引き込まれた。

   足下を見ると、そこには小さな沼のようなものが・・・。ゆっくりと体が沈んでいく。

   ミツオ「も、もしかして、これって!?」

   「そうです、底なし沼にはまってしまったようですね。でも、大丈夫。誰かがこのマスを通りかかってくれれば

   助けてもらうことができます。」

   ミツオ「誰かあああっ!」

   彼は叫んだ。深緑の沼が、徐々に自分の体を引きずり込んでいく。

   ルーシャ「早く助けないと!できるだけ、大きな数字を・・・!」

   しかし、ルーシャがルーレットで出した数字はミツオのもとには届かなかった。

   彼女が止まったマスは、ロンが岩の下敷きになっているマスの一つ前。

   ルーシャ「お・・・重そうね。助けてあげたいけど・・・。」

   ロン「・・・オレ、もう駄目かもしれない・・・。」

   続いて、ソフィがダーツを投げた。出た数字は・・・。

   ソフィ「8!」

   ソフィは大急ぎでマスを進んでいく。それは、ミツオが沼にはまっているマスを通りかかった。

   ソフィ「やった!ミツオさん、もう大丈夫です。」

   彼女はミツオの腕をつかむと、力いっぱい引っ張った。ミツオの足がズボッと沼から抜ける。

   ミツオ「た・・・助かった。ありがと、ソフィ。」

   ソフィ「いいえ。」

   彼女は微笑んだ。そして、自分の手が力強くミツオの腕を握っていたことに気が付いて、慌てて放して頬を染めた。

   そして、ミツオのターン。

   彼は振り返ってロンの姿を見る。確かに岩は、先ほどよりも強くロンを押しているようだ。

   ― 今度こそ・・・絶対に!

   しかし結果は・・・。

   「残念。イベントは『着ていた宇宙服の酸素が切れた。』ですね。」

   ミツオ「酸素・・・。」

   すると突然、ミツオは息苦しさに襲われた。自分の周りだけ、酸素が減っているようだ。

   ミツオ「く・・・苦しい。ロンとは別の意味で・・・。」

   「これは、次に自分の番に来たとき、自然と終わりますのでご安心を。」

   ロン「ミツオォ・・・はやくぅ・・・。」

   エディ「全く・・・こんな過酷なゲームだなんて、聞いていたのと違うよ。」

   エディは胸が高鳴る中、ルーレットにダーツを投げた。

   出た数字は「3」。進んだ先で、彼は宇宙から降ってきた小さな隕石に何度か頭をぶつけた。

   続いて、ラナの番。

   ラナ「結婚する・・・?」

   ボワンッと現れた、ゲームに参加している男性プレーヤーの顔が書かれたルーレット。

   そこにはエディの顔もあり、彼女はドキッとした。

   「さぁ、ダーツを投げて下さい。あたった男性が、あなたの結婚相手になります。」

   ラナ「結婚相手!?」

   その場にいた誰もが彼女に注目を集めた。

   結婚・・・ゲームの中でだが、ミツオ、ロン、エディ。この中の誰かと結婚することになる。

   勿論、彼女が望む相手は・・・―

   ラナは目を閉じると、再び顔を上げてダーツを投げた。

   ルーレットの回転がとまった。選ばれた相手は・・・。

   ラナ「・・・っ!」

   彼女の体が瞬間移動した。そのマスにいた男子とは・・・。

   ラナ「エディ・・・。」

   彼が振り返った。整った顔立ちに黄緑の髪。海のように青く透き通った瞳が、彼女を見た。

   エディ「・・・ラナ。」

   ラナは慌てて顔を伏せた。気まずい関係だった二人が、狭い一つのマスに収められる。

   二人の距離は近い。

   ラナ「あ・・・あの、ごめんなさい。」

   するとエディは目を閉じた。

   エディ「どうして、ラナが謝るの?その・・・。」

   彼は言いにくそうに顔を背けると、小さくこう呟いた。

   エディ「えっと・・・。ぼくの方こそ・・・ごめん。」

   ラナ「・・・エディッ。」

   彼女は顔を上げた。すると、二人の服が突然ウェディング衣装にかわった。ラナは純白のドレス、

   エディは引き締まったタキシードだ。

   「結婚おめでとうございます!」

   水色と黄緑色のスウィーシーが、二人に花吹雪とウェディングケーキを贈った。

   「これからは二人ペアで行動していただきます。」

   エディとラナは恥ずかしさに思わず、お互いから視線をそらした。ラナはこっそりと笑った。

   ― ゲームの中とはいえ、何だか幸せ・・・!

   しかし、押しつぶされたままのロンはそれどころではない。

   岩がどんどんと重くなり、もう我慢の限界だった。

   ミツオのターンがきて、彼に酸素が戻ってきた。彼は深呼吸をする。そして、キリッと顔を上げた。

   ミツオ「待ってて、ロン!次こそ・・・絶対に、次こそは!」

   ミツオはマス目を進んだ。止まったそこには・・・。

   「良かったですね、やっとロンさんを助けられますよ。」

   スウィーシーの言葉に、ミツオは安心してその場に座り込んだ。ボワンッと長くて太い木の棒が現れる。

   「さぁ、てこの原理でロンさんの岩をどけてあげましょう。」

   ミツオが棒を手に取ると、彼の体が瞬間移動して再びロンのもとに戻ってきた。

   ロンの苦しそうな顔を見て、ミツオは目的のマス目に止まるのに時間がかかったことに、申し訳なさを感じた。

   ロンはミツオの姿を確認すると、少し安心したように笑った。

   ロン「ミツオ・・・。」

   ミツオ「ごめん、ロン。もう大丈夫だから。」

   そう言うと、ミツオは持っていた棒を岩の下に入れて、力いっぱい棒を押した。

   岩はミツオが予想している以上に重かった。他のプレーヤーも、遠くのマスから二人を見ている。

   しばらくして、岩はゆっくりと持ち上がり、ミツオはロンの手を引っ張った。

   完全にロンが岩の下から出ると、ミツオは棒を放した。岩が再びドスンッと音を立てた。

   ミツオ「ロン!」

   ミツオはグッタリとしたロンの体を揺すった。ロンはうつろな瞳で、ミツオを見つめた。

   ロン「あ・・・ありがと。」

   しばらく岩に押しつぶされていたため、彼は体力的にも精神的にもかなり まいっているようだ。

   ミツオ「立てる?骨とか折れてない?」

   「最初に言ったでしょ〜。岩はただ重いだけで、彼にはどこも怪我はありませんよ。」

   ロンはふらふらと立ち上がった。

   ロン「このゲーム・・・過酷すぎる。」

   ミツオ「ガリガリバーって人は、よっぽど大変な目にあったんだね・・・。」

   ロンが無事助かり、遠くで見ていた4人も安心した。

   ルーシャ「次はあたしの番ね。どうか、いいマスに止まりますように・・・。」

   ・・・5、6、7!

   そして、ルーシャの手の中に現れた赤いフルーツ。新鮮そうに艶があるこのフルーツに、彼女は見覚えがあった。

   ルーシャ「あら、これ前にも食べたフルーツだわ。確か凄く美味しかったのよね、ラッキー!」

   彼女はためらいなく、それにかじりついた。

   しかし・・・。

   「あぁ、それは前のものとは違いますよ。形は似ていますが、それは恐ろしい宇宙のフルーツです。」

   突然体の力が抜け、視界が真っ暗になった。彼女はふらっとその場に座り込み、一瞬意識を失った。

   ミツオ「ルーシャ!?」

   見ていた彼が思わず叫んだ。しかし、彼女はすぐに顔を上げたのだ。

   ただ・・・、その表情はいつものルーシャとは違った。青ざめた顔。何もかも諦めたような、光を失った目。

   ルーシャはそっと立ち上がった。

   「それは、美味しそうな見た目とは違い、食べたものの性格を変えてしまう恐ろしいフルーツなんですよ。」

   彼女についていた水色のスウィーシーがそう言った。

   ルーシャのうつろな目な視線が宙を泳いでいる。

   ソフィ「性格を変える・・・?ルーシャ、大丈夫ですか!?」

   ソフィの叫び声に、ルーシャは気付いたようだ。そっと口を開けた。

   ルーシャ「大丈夫じゃないわ・・・。」

   その声は低く、消えそうなくらい小さく弱々しい声だった。

   ルーシャ「こんな恐ろしい人生ゲーム・・・きっとあたしは、とんでもない事件に巻き込まれて大怪我をするんだわ・・・。

   いや・・・もう帰りたい。」

   そう言って、彼女は手で顔を覆った。

   ルーシャ「どうしよう・・・、二度とパーマンとして活躍できないくらいの大怪我をしたら・・・。今までの苦労が水の泡だ

   わ。私、何のために生きてきたのかしら・・・。」

   ラナ「お、恐ろしいほどネガティブね・・・。」

   いつもの明るく元気、楽天的なルーシャとは想像がつかないくらい、暗くマイナス思考になっていた。

   ソフィ「次にルーシャのターンが来たとき、もとに戻るんですか?」

   「いいえ、これはゲームが終わるまで戻りませんよ。10マスに1マスの割合で現れる、この状況に対処するための

   マス目にとまれば、別ですけどね。」

   緑のスウィーシーが言った。

   次はソフィの番。ルーシャのことも気になるが、一刻も早くゲームをクリアしたかった。

   しかし、彼女がとまったマスは・・・。

   ソフィ「これは・・・。」

   彼女の手の中に、赤いフルーツ。そう、ルーシャと同じマスに止まってしまったのだ。

   ソフィ「・・・絶対に食べなくてはいけないのですか?」

   「あたりまえですよ。そうしないとゲームが進みませんよ。」

   ソフィ「・・・・。」

   彼女はためらったが、逃げることはできない。覚悟を決めて、一口かじった。

   すっと目の前が暗くなり、意識を失う。座り込んだソフィに、他のプレーヤーはゴクッと息をのんだ。

   ミツオ「ソフィ・・・?」

   キッと目を開けて、立ち上がったソフィ。そのオーラの違いに、彼らは呆然とした。

   つり上がった目。両手を腰にあてて、ゲーム番を鋭く睨んでいた。

   ソフィ「・・・ふざけんなよ、こんなゲームに巻き込みやがって。おい!責任者を出せっ!」

   エディ「ソ・・・、ソフィちゃん!?」

   彼女が吐いた暴言に、誰もが驚いた。普段の真面目なソフィとは180度変わっている。

   ロン「ソフィが・・・何だか信じられないな。」

   目を丸くして、ロンはミツオと二人でソフィを見ていた。ソフィは隣に立っていた、自分に脅えたルーシャを見付けた。

   ソフィ「おい、何見てんだよ。」

   ルーシャはビクッと体を震わせる。

   ソフィ「何か言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」

   ルーシャ「そ・・・そんな。あたしは何も・・・。」

   ソフィは不満そうにルーシャを睨むと、ドスッとあぐらをかいて、その場に座った。

   ロン「・・・ちょっと面白いな、あの二人。特にソフィが。なぁ、ミツオ?」

   ミツオ「ハハハ・・・そうだね。」

   だが、ミツオは早くもとのルーシャとソフィに戻って欲しいと思った。

 

   予想外に過酷なゲームに挑戦することになってしまったミツオたち。

   しかし、今までのイベントはまだまだ序盤に過ぎなかった。 

   揺れ動くエディの心。

   そんな彼に待ち受けていた試練とは・・・?

 

 

 

   

 

inserted by FC2 system