LIKE A SHOOTING STAR ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。
14、センチメンタル・ミュージック
1、 ミツオ「見てみて、ロン!すっごーい良い眺め!」 ミツオはロケットを飛び出すと、芝生の上を駆け回った。 ロン「待てよ、ミツオ!うわぁー、すっげぇ。」 ロンを先頭にソフィとルーシャも、ロケットから出てきた。 空が夕焼けで赤く染まっている。艶やかな緑色に輝く山々、鏡のように透き通る大きな湖は、夕日によって ルビーを鏤めたように光っていた。それはまるでキャンバスに描いたような絶景だ。 エディ「あまり、はしゃぎすぎないでくれよ。」 続いて、エディがラナに腕をつかまれたままロケットから降りてきた。 ミツオ「空気は美味しいし、感動しちゃったんだ。地球では、なかなかこんな景観は拝められないなぁ。」 エディ「キミの星と一緒にしないでくれよ。何て言ったって、ここはロット社が宇宙に誇るテーマパークだよ。」 それは今朝のことだった。 今日から三日間、PB達が試験を受けている架空宇宙の点検のために、彼らに特別休暇が与えられた。 ミツオ『どうする?やっぱり、それぞれ母星に帰る?』 ルーシャ『それもいいけど、あたしの星はバード星から遠いのよね。ワープしても三日じゃ往復できないわ。』 そんなことを話し合っているときに、突然エディが自家用円盤に乗ってミネルダに現れたのだ。 エディ『ソフィちゃん、この三日間、ぼくと一緒に宇宙のテーマパークで遊ばないかっ?』 ラナ『ちょっとぉ、ソフィと二人なんて許さないんだからっ!』 ロン『テーマパーク?なんだよソレ、面白そうだな!』 結局、全員揃って行くことになってしまった。 このスペースランドは、宇宙的大企業ロット社が運営している、有名なテーマパークだ。 そう、エディはロット社の一人息子でもある。 エディの自家用ロケットで、何回かワープを重ねてこの惑星までやってきたのだ。 この惑星はロット社の名に因んで「ロット」と名付けられ、それの衛星も含めて、全てがスペースランドの敷地だ。 今は中央星となる惑星ロットに来ている。 ルーシャ「ねぇねぇ、遊園地はここからどう行けばいいの?早く、遊びましょうよ!」 彼女もテーマパークの予想以上の広さに興奮している。 ロケットの窓から、ジェットコースターや観覧車・・・遊園地が見えたのだ。しかし、エディは首を振った。 エディ「空を見てよ、もう日が暮れる。遊ぶのは明日からにして、今日はホテルで休もう。 ソフィちゃんも長時間ロケットに乗っていたせいで疲れているだろ。」 ソフィ「いえ、ロケットは広いのに全く揺れなくて、とても快適でしたよ・・・。」 彼の差し出された手を振り払いながら、ソフィは苦笑いする。 そして、いちいちラナの視線が痛い。ソフィはため息をついた。 ロン「なぁ、ホテルってもしかして、あのでっかい建物のことか!?」 ロンは少し先に見える建物を指した。 エディ「そうだよ、行ってみようか。荷物は全部、ロケットから出したね。」 特別休暇が終わるまでここに泊まるつもりだったので、6人は着替えやら何やらで大荷物だった。 そして、皆久々に私服を着ている。ミツオたちは長い間一緒にいるが、思えば私服を見るのは初めてだ。 6人はホテルに向かって歩き出した。背後でロケットが飛び上がる。駐ロケット場に移動させるのだ。 ルーシャ「こ、高級〜・・・。」 目の前にハッキリと見えてきたホテルを前に、ルーシャは思わず声を漏らした。 それは今まで見たことのないくらい、大きく高級感溢れるホテルだったのだ。いや、ホテルというより城と言った方が しっくりくるかもしれない。まるでお姫様が住んでいそうだ。 広い庭には花が咲き乱れ、空高く噴き出す噴水は水の芸術だ。エディ以外の5人は、目を見開いた。 エディ「宇宙有数の5つ星ホテルさ。キミたち、ぼくがいなかったら、こんなホテル来る機会なんて無いだろうね。」 悔しいが、その通りだ。 ミツオ(どれだけお金持っているんだよ、エディの家って・・・。) ミツオは驚嘆した。 庭を通り抜けると、ホテルの大きなドアがゆっくりと開いた。大きな、というのは生やさしい表現だ。 ドアの先端は、先がかすんで見えない。 そこから現れたのは、赤いカーペットが敷かれた大理石の床に、全てが眩しく高級感溢れるロビー。 広すぎて、ロビーだけでも仲間とはぐれると迷子になりそうだ。 ロン「もう・・・驚きすぎて、言葉が見付からないな。」 エディ「このホテルの一泊の宿泊費は、キミたちが一生働いたって返せないよ。ぼくのおかげで、無料で泊まれるん だから、本当に感謝してほしいね。」 一生働いても返せない・・・。 ― ぼく、エディと友達で良かったって、ちょっとだけど思ったような気がする・・・。 それにしても、ここに泊まれる人とは、どんな人なのだろう。ホテルは人で溢れているが、騒がしい雰囲気は全くなく 客、全員が上品で高貴なオーラを漂わせていた。 ラナ「なんだか、場違いな感じね・・・。」 ソフィ「ラナさんも、ここに来るのははじめてなのですか?」 ラナはうなずいた。 ミツオ「きっと、料理も超豪華なんだろーね!楽しみだー!」 ロン「全く、ミツオは食べ物のことしか興味ないのかよぉ。」 そう言うロンの瞳も、期待で光り輝いていた。 エディ「今夜はぼくたちだけ特別に、有名な超一流シェフが、夕食を作ってくれるよう御願いしてあるんだ。 本当はソフィちゃんと二人きりで食べるつもりだったのに・・・。」 超一流シェフと聞いて、ミツオとロンは二人で喜びの舞を舞った。 ソフィは二人きりと聞いて、ゾクッとする。 ソフィ(ミツオさんたち、一緒にきてくださって感謝・・・。) ミツオ「夕食にしよう、今すぐっ。ぼく、お腹ペコペコだよ〜。」 エディ「勿論。部屋に入って荷物を置いたら、すぐに108階の展望レストランに集合だ。今回は貸し切りだけどね。」 ロン「お前、社長の息子だからってホテルに我が儘放題言ってるなぁ。」 ロンは笑った。 「エディさま、お部屋に案内致しましょうか。」 そこに何体かのボーイロボットが現れた。 ルーシャ「ハンサム・・・。」 彼女が思わず呟く。 エディ「いいよ、ぼくがみんなを案内するから。荷物さえ持ってくれれば。さぁ、行くよ。迷子になりたくなかったら、 ちゃんとぼくの後についてくるんだね。」 荷物をボーイロボットに持たせて、皆はぞろぞろとエディの後についていった。 エディはこの広いホテルの構造を、全て覚えているらしい。社長の息子だけあって、スタッフの態度も一層丁重だ。 エディ「ホテルは広いから、一番遠くの部屋にたどり着くには歩いて1時間以上かかる。 ぼくたちは特別に、入り口から近い部屋にしてもらったから。」 ロン「本当に特別扱い好きだなぁ!」 しばらく歩いて、エディは二つの部屋のドアの前で立ち止まった。 ミツオ「へぇ、この部屋かぁ。」 ソフィ「部屋割りはどうするんですか?二つと言うことは、勿論、男と女ですよね?」 エディ「違うよ。一つはぼくとソフィちゃんで、もう一つは残りの・・・。」 ラナ「そんなわけないでしょっ!」 ラナは言葉を遮った。 ― そうですよ、わたしとエディさんだなんてとんでもない・・・!男女に決まってます。 ラナ「一つはあたしとエディ。もう一つは残りの奴らよ。」 ・・・・。 結局、男女で分けることに決まった。エディはブツブツ文句を言っていたが、ソフィに怒られて沈黙した。 部屋も言葉に出来ないほど素晴らしかった。 広い広い空間に置かれた黄金に輝く家具、天井からさがったシャンデリア、窓からの眺めも絶景だった。 ボーイロボットは荷物を置いて、深く頭を下げ、部屋を後にする。 ミツオは三つ置かれたベッドの一つに、飛び乗った。ふわぁ・・・と何ともいえない、柔らかさと心地よさが広がる。 ミツオ「わぁー、幸せだぁ・・・。ずっとここに住みたいくらいだよ。」 エディ「冗談じゃないよ、休暇が終わったら出て行ってもらうからね。だいたい、ソフィちゃんの優しさがなかったら、 キミたち、ここには来られなかったんだから。」 ロン「オレたちが行かなかったら、ソフィも来てないと思うけどなぁ。」 ロンもミツオと一緒にベッドに飛び乗った。今までPBハウスのかたいベッドの上で寝ていたため、 感動は尋常じゃない。 エディ「おいおい、ベッドと遊んでないで、夕食を食べに行かないのかい?高速エレベーターがあるとは言え、 108階はここから遠いんだ。」 ロン「このホテルって、何階まであるんだ・・・!」
108階の展望レストラン。 もう広いという言葉は聞き飽きただろうが、そこもとにかく広かった。 高級感溢れるという言葉は聞き飽きただろうが、そこもとにかく高級感が溢れていた。 貸し切りだったため、手前のテーブルに女の子3人だけが座っている眺めは、少し寂しい。 男子も急いで、席についた。BGMに優雅な音楽が流れる。 ミツオ「早く、早く!料理はまだ?」 エディ「そう焦らないでくれるかな。宇宙の絶品料理フルコースだ。テーブルマナーをきちんとわきまえて・・・。」 ロン「そんなうるさいことは無し!オレたちだけしかいないんだから、気楽にいこうぜ!」 ルーシャとラナも嬉しそうにうなずく。 エディ「全く、これだから庶民は困るんだよな・・・。」 しばらくして、ホテルの従業員の女性が、料理をテーブルに運んできた。 黄金の皿には、色鮮やかな前菜が盛られていた。 エディ「フルコースの順番としては、まず前菜によって食欲を駆り立て、次に口にしやすいスープ類を・・・。」 ロン「ねぇお姉さーん!何でもいいから、どんどん持ってきてよ!」 エディ「お、おいちょっと!順番が大切なんだから!」 ルーシャ「あたしお腹空いちゃったんだもん。あっ、最初にデザート食べたいなぁ。」 テーブルが段々と賑やかになっていく。 美味しそうな香りが、食欲を引き立てる。ミツオたちは、その料理に飛びついた。 どれも口にしたことがない、絶品だった。 ミツオ「お、美味しいっ・・・!こ、こんな美味しい料理初めて食べたっ。」 思わず目に涙が溢れる。 ラナ「ほんとにっ。あたし、エディの恋人で良かったわぁ。」 エディ「勝手に恋人にしないでくれよ!」 ラナ「もうっ、エディったら照れちゃって可愛いわねっ。」 彼女がこちらに近寄ってきて、エディの隣に座った。エディはムッと顔を背ける。 大量にテーブルに運ばれてきた皿が、目にもとまらぬ速さで空になっていく。 ソフィ「こんな美味しい料理・・・一体、誰が作ったんでしょう。」 エディ「あぁ、それはぼくたちと同じ、バードマンの実技テストを受けている真っ最中のPBだよ。」 その言葉に、せかせかと動いていた皆の右手が止まった。 ソフィ「え・・・?同じPB?」 エディ「歳もそう変わらないよ。でも、宇宙では若き天才シェフと呼ばれている双子でね。この前もバード星料理コンテ ストで優勝した実力の持ち主だよ。」 ミツオ「ま、まさか!ぼくたちと同じ年齢の子が、こんなに美味しい料理を作るなんて・・・。」 エディ「本当はキミたちにも、彼らを紹介したかったんだけど、忙しいらしくてね。残念だよ。」
「ああーぁ・・・!一仕事おわり。」 少年は大きく伸びをした。黒茶色のまとまった髪に、青いリボンを巻いて、横でとめている。 クリッとした鮮紅の瞳が印象的だ。 ホテルの厨房で、水が流れる音が響く。 彼は部屋の隅に置かれた椅子に深く腰掛けた。 「ファラは偉いね。後片付けなんて、ホテルのスタッフに任せればいいのに。」 「でも、もうすぐ終わるわ。あっ、デザートが少し残ってるから、お兄ちゃん食べない?」 少女は食器を洗いながら振り返った。 黒茶色のまとまった髪に、青いリボンを左右につけている。クルクルとした鮮紅の瞳が、優しく微笑んだ。 この少年少女は瓜二つ・・・そう、双子なのだ。 しかもただの双子ではない。宇宙をまたにかける天才料理人と呼ばれている。 家がレストランであったため、二人も幼い頃から、父親に料理を仕込まれたのだ。 最近ではバード星の料理コンテストでも優勝した、実力者だ。 レストランの手伝いは勿論、時々ホテルやどこかに頼まれては、料理を作りに出かけている。 「このデザート、ファラが作ったんだよね。この甘すぎない旨み、素材の味をよく引き立ててるね。 流石だよ。」 「良かったわ。レインボーフルーツの果汁を入れてみたのよ。」 兄のフェリオと妹のファラ。 二人は料理人であると同時に、バード星で実技テストを受けるPBでもある。 ファラは洗った皿を片付けると、フェリオの横の椅子に座った。 ファラ「お兄ちゃん、明後日はいよいよ宇宙料理コンテストね。」 フェリオ「うん。これに優勝すれば、お父さんの店にもっとお客が押し寄せるよ。 本当は今日もそのために家に帰ってお父さんのアドバイスをもらいたかったんだけど、ロット社一人息子の頼みなら断 れないや。」 ファラ「大丈夫、絶対に勝てるわ!」 彼女は立ち上がった。 ファラ「この前のコンテストでも優勝できたんだもの。大丈夫!」 「何が大丈夫なんですかー?」 ・・・・。 フェリオ「うわぁっ!」 しばしの沈黙のあと、フェリオが突然二人の間を割って現れた少年に声を上げた。 一体、いつどこから、この二人しかいない厨房に入ってきたのだろう。 金髪に青いバンダナを巻いた小柄な少年には、二人とも見覚えがあった。 フェリオ「キミ・・・確かマーカスとかいったっけ。突然現れたら、ビックリするだろっ。」 するとマーカスはいたずらっぽく微笑んだ。手にはメモ帳とボールペン。 フェリオは嫌な予感がした。 マーカス「フェリオとファラ、双子の天才料理人でしょ。今日はちょっと取材したくてお邪魔したんだけど。ねぇねぇ、 料理はいつからやってたの!バード星料理コンテストに優勝した感想は!?」 フェリオは思わず耳をふさいだ。なるほど、噂に聞いた通りの、もの凄い機関銃だ・・・。 だいたい、何故二人がここにいるのを知っていて、どうやって、この警戒厳重なはずのホテルに入ってきたのだろう。 ― バード星の学校にいた頃も、おかしなデマを新聞に載せて振りまいては問題になっていたっけ。 まずい・・・ぼくらについて何か書かれて、変な噂が広まるのは・・・。コンテストが迫っているのに。 マーカスは相変わらず機関銃攻撃を続けてくる。勢いが止む様子はない。 マーカス「ぼくにも一度、キミたちが作った料理を試食させてくれないかなぁ。キミの家もレストランをやっているんだっ け。今度連れてってよ。お父さんはどんな人?やっぱり、料理に関しては厳しいの?」 ・・・・考えている余裕はない。 フェリオはファラの手をつかんだ。 フェリオ「・・・ファラ。」 ファラ「お兄ちゃん?」 フェリオ「・・・逃げるぞっ!」 彼は妹の手を引っ張って、厨房の外へ駆けだした。それに気付いたマーカスも、慌てて後を追いかける。 マーカス「あっ、ねぇ!どこに行くの−!」 二人は敵から逃げるべく、広いホテルの中をわけもわからずに走り回った。
ミツオ「ふぅ〜、もうお腹いっぱい。美味しかったなぁ。」 展望レストランを出て、6人は帰りのエレベーターの中。ミツオのお腹は満足げに膨れていた。 外は日がスッカリ落ちて暗くなっていた。 エレベーターの窓から、綺麗な星空が見える。流石、大自然の中だけあって、宝石箱をひっくり返したように 空一面がキラキラと光り輝いていた。 エディ「この後、大浴場へ行こう。大きな露天風呂もあるんだ。1時間30分だけ、ぼくたちで貸し切った。」 ロン「・・・ホテルの他の客に迷惑がかからないだろうか・・・。」 ミツオ「それより、西洋のお城っぽい外見のホテルなのに、露天風呂なんかがあるの?」 するとエディは不思議そうに振り向いた。 エディ「何かおかしいのかい?」 あぁ・・・ここは宇宙だ。地球とは常識が多少、違うもんね・・・― ミツオは思った。 ソフィは大浴場と聞いただけで、今回の旅で唯一救われたような気がした。 エディ「ねぇ、良かったらソフィちゃん、ぼくと一緒に・・・。」 ラナ「な、な、何言ってるのよ!エディ!」 ・・・やっぱり救われていなかった。 ラナ「エディと一緒に入るのは、あたしなんだから!」 ソフィ「・・・・。」 そう言って、ラナはギュッとエディの手を握った。エディはそれを振り払う。 エディ「ラナ、いい加減にぼくとソフィちゃんのラブラブな時間を邪魔するのはやめてくれよ。 最近ちょっと、しつこくないかい?」 ソフィ「誰もラブラブな時間なんて過ごしてません。」 彼女の冷たい声がエレベーターの中に響く。 ラナ「もう、ソフィのどこがいいのよ。エディはあたしだけのものなんだからぁ。」 エディ「ラナ・・・。」 ラナ「嫌、絶対に放さないわよ。」 エディ「ねぇ・・・あのさ。」 ラナ「今回の旅行は、エディにソフィを近づけないんだからっ。だって、あたしとエディは運命の・・・。」 エディ「ラナッ!!」 バッと握っていた手が振りほどかれた。ラナは勿論、その場にいた皆がエディの方に顔を向けた。 彼の表情は今まで見たことがないくらい強ばっていた。 眉がつり上がり、唇が怒りで震えている。 エディ「いい加減にしろって言ってるだろっ!いつもいつも、しつこく付きまとって、ぼくの邪魔をして・・・! 今まで何も言わなかったけど・・・、もう、うんざりだよ!やめてくれよっ!」 ラナ「あ・・・あたし・・・、そんな・・・。」 思いもよらないことに、ラナの瞳が震えた。言いたいことがあるが、言葉にならない。 彼女もこんなエディを見るのは初めてだった。ミツオたちも、ズンッと重くなった空気の中、そんな彼らに 驚き、何も言えないまま見ていた。 ラナ「・・・・。」 ラナは必死に謝ろうと口を開く。しかし、声が震えて、どうしても言えなかった。 エディはまだラナのことを嫌悪に満ちたような冷たい目で見ていた。 怖い・・・嫌だ・・・。 ラナの瞳に涙が溢れた。 しばらくして、エレベーターが停止し、ドアが開いた。部屋がある階に戻ってきたようだ。 エディは黙って一人降りていった。少し間を置いて、彼らも続く。ルーシャはラナの背中をそっとなでた。 ラナ「ねぇ・・・あたし、嫌われちゃったかな。」 ルーシャは何も言えなかった。
大浴場。 大理石の浴槽に、天井から床まで黄金に照らされたリッチな空間。自分たち以外に誰もいない状況が、何とも贅沢だ。 『ミルク風呂』から『石風呂』、『花風呂』まで色々な湯が楽しめそうだ。 露天風呂も含めて、大変大きな浴場は、全て入るのに1時間30分で足りるだろうか。 今日は星も綺麗で、この惑星の気温は調節されているため、外でも凍えるほど寒くはない。 ミツオは一番乗りで、男湯に駆け込んだ。 ミツオ「いやぁー、ここでは何から何まで驚くことばかりだねぇ。ねぇ、ロン!どのお湯から入ろうか?」 入ってきたロンの手を取り、ミツオは駆け回る。 ロン「ちょ、ちょっと走るなって!転ぶぞ・・・っと。」 急にロンの体がバランスを失った。そのまま大きな音を立てて、床に尻餅をつく。 ロン「ったたたぁ・・・。」 ミツオ「ご、ごめん。滑った。」 一緒に派手に転んだミツオが、笑いながら舌を出した。ロンは「もうっ、だから言っただろ。」と、ゆっくり立ち上がった。 ロン「でも本当に色々な湯があるんだなぁ。なぁ、エディ。どれがオススメ?」 遅れて入ってきたエディにロンは尋ねる。しかし、エディからの返事はなかった。 彼はうつむいて、入り口に立っている。 ミツオ「・・・大丈夫、エディ?何だか元気ないみたいだけど。」 エディ「・・・・。」 彼は顔を上げると、ミツオとロンに近寄った。 エディ「別に、何でもないよ。」
ルーシャ「ねぇ、このお湯凄くいいわ!何だかお肌が艶々になってきたみたい。」 ソフィ「へぇ、いい香りですねぇ。疲れがとれます。」 露天風呂で、二人はゆっくりとお湯に浸かった。体の芯まで温められていくようだ。 湯気が星空の中へ昇っていく。 ルーシャ「ラナも、早くこっちへおいでよ。」 ラナ「うん・・・。」 ルーシャはうつむいて歩いてくるラナを手招きした。ラナもそのお湯の中にそっと浸かる。 3人の他、誰もいない広い露天風呂。ラナは思わず、顔の半分までお湯に潜った。 ルーシャ「まだ気にしているの?・・・さっきのこと。」 ラナ「・・・あたりまえでしょ。」 目の前に見える大自然。湖は、美しい満月を映し出していた。 ラナ「あたし、必死だったの。ソフィにエディをとられないようにって・・・うぅん、ずっと前からそうだわ。バードマン養成 学校にいたころから、あたしは他の女の子をエディに近づけまいとして、我が儘ばかり言ってたの。」 ルーシャとソフィは黙って、彼女の話を聞いている。 ラナ「そんなあたしに愛想をつかしたのかしら・・・。でも・・・でも、あたしは諦めない。ソフィにだって負けない! ソフィが運命の相手なんて言ってるけど・・・!あたしの方がエディを愛してるもの。」 ルーシャ「ねぇ、それなんだけど、ラナは、どうしてエディがソフィのことを運命の相手だって思っているか知ってるの?」 すると、ラナは首を振った。 ラナ「知らないわ。どうせ、ただの一目惚れなんじゃないの。」 ソフィは顔を伏せた。ラナは急に立ち上がると、ソフィの肩をつかんだ。ソフィはビクッとする。 ラナ「ねぇ、お願いソフィ。エディをとらないって、約束して・・・。今ここで、あたしからエディを奪わないって 約束してっ!」 ソフィ「ラ・・・ラナさん。」 ラナの勢いに震えるソフィを見て、ルーシャは二人の間に割って入った。 ルーシャ「大丈夫よ、ラナ。ソフィは絶対にエディを選んだりしないから。」 ラナ「ど、どうして、そんなこと言えるのよ・・・。」 するとルーシャはソフィの方を見た。ソフィは上目遣いでこちらを見ている。ルーシャは口を開いた。 ルーシャ「だって、ソフィはミツオくんのことが好きなんだもの。」 ・・・・。 ラナがみるみるうちに驚きの表情に染まっていく。そして、しばらく間を置いた後、思わず吹き出した。 ラナ「えっ・・・ウ、ウソでしょ!よりによって、あのミツオくん!?ドジで食いしん坊なミツオくん?」 それを聞いて、ソフィは思わず立ち上がった。 ソフィ「ミ、ミツオさんを馬鹿にしないでください!彼はいざとなると、頼りになるし、かっこいいんです!」 ラナ「えぇ〜、とてもそうは見えないけどなぁ。エディとは月とスッポンじゃない。」 ルーシャ「あたしにとっては、エディも、ただのナルシストで嫌なやつにしか見えないけどなぁ。」 ラナはルーシャをキッと睨んだ。 ソフィ「と、とにかく・・・そういうわけですので、あたしはエディさんを選びません。・・・わかりましたか?」 するとラナは安心したように微笑んだ。 ラナ「よぉーく、わかったわ。」 女湯に、三人の笑い声が響いた。 ― でも、どうしたら、エディはあたしを許してくれるのかしら・・・。 ラナは自分に対して初めて怒った、エディの険しい表情を思い出した。 エディのソフィに対する想いは、生半可なものではないような気がした。 ソフィもまた、ミツオのことで胸がいっぱいになっていた。その時、ソフィの頭にふとよぎった一人の女の子。 赤いマスクに緑のマント・・・いつか、地球で見たパーマン3号のことだった。
その頃、男湯の露天風呂では。 ミツオ「なんだか、女の子たちの楽しそうな笑い声が聞こえるね。パーマンセット持ってこればよかったなぁ。」 ロン「ホント、ホント!」 エディ「キミたち・・・、それで何をするつもりだい・・・?」
ロン「ふぅ〜、やっぱり風呂上がりの一杯は最高だなぁ!」 ロンが男子の更衣室で、飲み物の入ったビンを飲み干した。 ここからは、ホテルのガウンに着替える。その時、サウナから汗だくになったミツオが出てきた。 ミツオ「はぁ・・・も、もう限界だ。ロン、記録は?」 ロン「うーん、15分ってところかな。」 彼は時計を見ながら笑った。 ロン「全然駄目じゃないかミツオ。オレは最低でも30分だと思ってたぜ。」 ミツオ「じゃぁ、ロンも入ってみなよ・・・。ここのサウナ、凄く暑いよ。」 そんな馬鹿げた会話をしている横で、着替え終わったエディがドライヤーを置いて、更衣室を後にした。 エディ「先に部屋に帰ってるよ。後はもう寝るだけだし、ゆっくり来なよ。あっ、更衣室を、荒らさないように。」 ロン「りょーかいっ。」
エディは部屋に戻ると、持ってきた自分のカバンの中から、音楽プレーヤーとヘッドホンを取りだした。 ピンクの音楽プレーヤーは随分旧式のもので、少し角が削れ、汚れてしまっている。 しかし、まだなんとか音楽は再生されるのだ。 エディはそれを持って、部屋のベランダに出た。大自然はとても静かだ。爽やかな風が吹いている。 彼はヘッドホンをそっと耳にあてた。 一曲の音楽が再生される。それは、少し昔のメロディーだったが、とても優しく聴き心地が良かった。 これを聴いていると安心する。 そして・・・一人の少女の姿が思い浮かぶ。 緑髪のツインテール。優しく可愛らしい、小さな女の子。 目を閉じると、彼女と一緒に芝生の上で、この音楽を聴いている自分の姿が甦った。 エディ「・・・ベル。」 彼の瞳が少し濡れたような気がした。 ミツオ「エディ、ベランダにいたの?」 ふいに後ろから声がした。エディは慌ててヘッドホンを耳から外すと振り返る。 ガウンに着替えて部屋の入り口で立っている、ミツオとロンを見付けた。 エディ「なんだ、もう帰ってきたの。」 ロン「本当はホテルのゲームコーナーに寄っていこうかと思ったけど、お金無いし眠いし。」 ミツオ「ぼくも。明日たっぷり遊ぶために、早めに寝ようかなって思ってさぁ。」 そう言うと、ミツオは再びベッドに飛び乗った。 ミツオ「ふぅ〜、このベッドお持ち帰りしたいなぁ。」 ロン「エディももう寝るか?歯は更衣室で磨いてきたし、もう何もすることないだろ。」 エディはうなずいた。パッと部屋の電気が消えた。 星空が明るいため、真っ暗ではない。ロンとエディもそれぞれのベッドの中に入った。 ミツオ「なんだか、こんなに部屋が広いと落ち着かないね。」 エディは手に持っていた音楽プレーヤーを、枕元に置いた。それを見付けた、ロンが言う。 ロン「お前も何か音楽聴くの?まぁ、オレたち庶民には理解出来ない高級で難しい曲なんでしょ〜ね〜。」 エディ「フッ、そんなことはないよ。なんだ、キミたちも自分が庶民ってこと自覚してたのか。」 ミツオ「ね、ねぇ、何の曲聴いてたの?」 二人が喧嘩にならないよう、慌ててミツオが口をはさむ。暗闇の中、お互いの顔がぼんやりと見えるだけだ。 大きなベッド、ふかふかの枕は頭をうずめていてとても心地良い。 エディ「・・・別に関係ないだろ。」 ミツオ「そんなこと言わずにさぁ。ソフィにも聴かせてあげたら。ソフィ、音楽が好きだって言ってたし。」 するとエディは顔を上げた。 エディ「そうなのかい?じゃぁ今度、コンサートにでも誘ってみようかな。」 ロン「あっ、オレも行く!」 エディ「言っておくけどクラシックだからね。キミには難しくて、理解できないよ。」 ミツオ「どうして、いつも喧嘩腰になるのかねぇ〜。」 彼がふぅっとため息をつく。 ミツオ「でも、本当にエディはソフィが好きだね。」 エディ「まぁね。何て言ったって、ぼくにとってソフィちゃんは運命の相手だから。」 ロン「何でそんなことわかるんだよぉ。何か根拠でもあるわけ?」 するとエディは黙り込んだ。ミツオとロンは顔を見合わせる。 エディ「教える必要はないよ。」 ロン「何だよ、気になるだろ!いい加減な気持ちでソフィを困らせてるんなら、黙ってらんないぞ。」 ・・・・。 エディ「・・・ベルが・・・。」 ミツオ「・・・え?」 エディ「ぼくの昔のガールフレンドとの約束なんだ・・・。」
ぼくがまだ6歳の頃。 お父さんの仕事の都合で、「ディスローク」という惑星の都市に家族で来ていた。 ロット社の支社を、この星にも作るためさ。部下と共に、計画がまとまるまでディスロークのホテルに 泊まることになった。 その当時、ディスロークはすぐ隣の惑星「フォーティニー」との間の緊張が高まっていて、平和協定を結んでいながらも いつ、フォーティニーが攻撃をしかけてくるか、わからない状況だった。 お父さんもお母さんも仕事で出かけていて、ぼくはホテルで一人残されていた。 それがつまらなくて、時々外に遊びに行った。 その時に出会ったんだ。ベルという女の子に。緑髪のツインテール。優しくおっとりした雰囲気は・・・そう、 ソフィちゃんに似ていた。 ベルは都心から少し離れた郊外に住んでいた。芝生の丘の上に建っている一軒家だ。 ホテルから、そう遠くはなかった。 ぼくは彼女に出会ってからというもの、毎日ホテルを飛び出して、ベルに会いに行った。彼女といるのが楽しかった。 ベルは音楽が好きで、いつもお気に入りのピンクの音楽プレーヤーを持ち歩いていた。 ベル「エディも聴いてみない?凄くいい曲なの。」 彼女はツインテールを風に揺らしながら、微笑んだ。 エディ「でも、お父さんが言ってた。クラシック音楽以外は聴く価値がないって。」 ベル「あら、そんなことないわ。この曲なら、あなたも、お父さんも、きっと気に入ると思うわよ。」 ぼくたちはベルの家の近くの芝生に座り、ぼんやりと過ごすのが好きだった。 ベルは彼女の耳から片方のヘッドホンを取ると、ぼくの耳にそっとあてた。 クラシックとは全く感じが違う音楽が、ぼくの耳に伝わってきた。 ベル「サビが印象的なの。運命の相手を見付けて、幸せになるっていうストーリーがあるのよ。 ステキでしょ?」 ぼくは自分でも思いがけず、その音楽にあっという間に魅せられた。 優しく甘い歌声・・・耳に残るメロディー。 ベル「あたしもいつか、運命の相手に出会えたらいいなぁ。」 彼女は明るく笑った。 そんな幸せな日々を送っていたある朝。 突然、けたたましいサイレンの音が街全体に響き渡った。ぼくはホテルのベッドで、慌てて飛び起きた。 まだ日が昇ってそう時間が経っていない頃だ。 お父さんとお母さんが、窓の外を険しい表情で見ていた。空が赤い。 エディ「・・・お父さん、何があったの?」 そう聞いた瞬間、窓の外がピカッと光って、鼓膜が破れるような爆発音が響いた。衝撃で、窓ガラスにひびが入った。 ぼくは怖くなって、体を震わせた。 「・・・すぐこの星を出るぞ、エディ。」 お父さんが静かな声でこう告げた。 「フォーティニーが平和協定を破って、攻撃してきたらしい。ここはディスロークの中でも主要都市だ。 狙い撃ちにされる。はやく・・・逃げないと!」 攻撃・・・?戦争がはじまったの・・・? 警報の音は鳴り止まない。飛行機の飛ぶような音が、段々大きくなってくる。 逃げなきゃ・・・!早く! そう思ったけど、ぼくの頭にふとベルの姿が浮かんだ。 ベル・・・っ! ぼくは慌ててホテルを飛び出した。お父さんが背後で何か叫んでいたが、全く耳に入ってこなかった。 外に出ると、何台かの戦闘機が真っ赤な空を飛んでいるのが見えた。 街の遠くの方では、煙も上がっている。 ぼくは必死に丘の上に駆けだした。まだこっちの方は無事らしい。 丘を登ると、ベルの家の前にヘリコプターがとまっているのが見えた。そして、ベルとその家族の姿も。 エディ「ベルッ!」 ぼくの大声に、ベルは振り返った。 ベル「エディ!」 ぼくはベルのところまで駆け上がると、咄嗟に彼女の手を取った。 エディ「ベル、戦争がはじまる!早く逃げよう。ぼくと一緒に宇宙に逃げようよ。」 彼女は驚いた顔をした。ぼくは真剣だった。 だって・・・気が付いていたんだ。ぼくは、ベルが好きになっていたことに。初恋の相手になっていたことに。 ベルは顔を伏せたが、やがて驚きの言葉を口にした。 ベル「あたし・・・行けないよ。」 なっ・・・!? エディ「ど、どうして!」 するとベルは、家の前にとまっているヘリコプターを見た。そして、彼女の両親の姿も。 ベルのお父さんは、軍服を身にまとっていた。 ベル「わたしのお父さんね、軍人なんだ。今度、ディスロークの第一軍事基地に行くことになったの。 そこにはフォーティニーに攻め込まれたときの最終兵器がある。絶対に守らなくちゃいけない場所なの。・・・でもね。」 彼女はこう続けた。 ベル「そこに秘密兵器があることは、情報が漏れたせいで、フォーティニーも知っているの。 当然、狙い撃ちにされて激しい戦闘がおこる。 ・・・あのね、そこにかり出された軍人は、助からないって言われてるの。・・・正直言って、 フォーティニーには技術上ディスロークは敵わない。・・・良くて相打ちよ。」 ぼくは息をのんだ。そんな・・・そんなところに、ベルのお父さんは・・・。 ベル「でもね、誰かは行かなくちゃいけない。ディスロークの未来のためにも。そこに派遣されるなんて、名誉なこと だわ。ただ、お父さん一人で死んでいくなんて可哀想・・・だから。」
ベル「だから、家族全員でお父さんについていくことにしたの。」
ぼくは言葉を失った。 ベル「最期は愛する家族と一緒に、幸せに死んでいきたいでしょ。わたしだって、美しいディスロークが崩れていく姿は 見たくないし・・・。」 エディ「待ってよ!ベルは死ぬとわかっていて、そんなところに行くの!?やめてよ!ベルの家族も一緒に逃げよう よ!ぼくのロケットに乗って!ねぇ・・・!」 でも、ベルは泣き叫ぶぼくの口にそっと手を押し当てた。 ベル「それは駄目よエディ。戦争を前にして、戦わないなんて軍人の名折れよ。わたしだって、 ディスロークに住むものとして、この星を見捨てて逃げることなんてできないわ。 わたし・・・ちっとも怖くないのよ。」 エディ「じゃぁ・・・じゃぁ、ぼくも残るよ!ベルが死ぬくらいなら・・・ぼくも!」 ベル「エディッ!・・・お願い、わたしを困らせないで。」 そういう彼女の瞳は、涙に濡れながらも優しく笑っていた。 エディ「・・・ベル。」 ベル「あなたは、すぐにこの星から逃げて。今のうちなら、敵の攻撃のどさくさに紛れて、大気圏を脱出できるわ。」 彼女はポケットの中から、音楽プレーヤーを取りだした。 いつも肌身離さず持っていた、あのピンク色の音楽プレーヤーとヘッドホンだ。 それをそっと、ぼくの手に渡した。 ベル「これを持っていて・・・。あの曲を聴いて、わたしのことを思い出してほしい。 ・・・あの日、二人で一緒に聴いたメロディーを忘れないでほしいの。」 ぼくは何も言えずに、音楽プレーヤーを見つめていた。 ベル「そして、エディもいつか運命の相手を見付けて。その人と幸せになって。 わたしとの約束よ・・・。」 そう言って、ベルは右手の薬指をぼくの手の薬指にからませた。背後で、ベルのお父さんの声がする。 「おーい、ベル!行くぞ!」 ベル「・・・じゃぁ、エディ。元気でね。」 彼女はヘリコプターに向かって駆けだした。ぼくは慌てて手を伸ばす。 でも届かなかった。足が震えて動かなかった。 ベルの乗ったヘリコプターは、大きな音を立てて真っ赤な空に上昇していった。 「エディ!おい、エディ!」 ハッと振り返ると、そこにはぼくの家の小型ロケット。お父さんがハッチから、ぼくに向かって手を伸ばしていた。 「早く乗るんだ!」 ぼくはもう一度、空を見あげた。ベルの乗ったヘリコプターはまだ上空に。その姿は段々と小さくなる。 「エディ!」 ぼくはお父さんに腕を引っ張られて、ロケットに乗せられた。ロケットは上昇していく。 空から眺めると、今まで泊まっていたホテルのあった街は、所々から煙が上がり、炎で燃え上がっていた。 あっという間に、街をここまで・・・。 ロケットは大気圏を抜けようと、スピードを上げていく。ぼくは窓の外に、一台のヘリコプターを見付けた。 ベルのものだ。近くに敵の戦闘機・・・。 エディ「あっ・・・!」 爆発音と共に、ヘリコプターが炎の中に消えてしまった。ぼくの体が震えている。 でも、しばらくすると煙の中から、そのヘリコプターが現れた。 ヘリコプターは空の彼方に消えていく。 エディ「・・・ベル!・・・ベルーッッ!」 ぼくはロケットの中、窓越しに大声で叫んだ。これからベルたちを待ち受けている運命を思って。 怖かった。震えが止まらなかった。 崩れていくディスロークの街並み。けたたましいサイレンの音。爆発音。 ぼくは音楽プレーヤーを握りしめた。そして、ヘッドホンをそっと耳にあてた。 あの音楽が聴こえてくる。あの日、ベルと一緒に聴いたメロディー・・・。 エディ「・・・ずっと、ずっと大切にするよ。ベル・・・。」 ぼくは戦争が許せなかった。 何の罪もない人をまきぞえにして・・・、美しかった星を一瞬で灰と化す。 もし変えられるなら、ぼくがこんな世界を変えてやる。 宇宙から戦いなんてなくしてやる。宇宙を平和に守ってみせる。 そう誓ったんだ。
エディ「そして・・・ソフィちゃんに初めて会ったとき、ぼくはベルと同じようなものを感じたんだ。 初恋の相手にそっくりな女の子・・・。まさに、この子こそ、ベルが言っていた運命の相手だと思った。」 静かな部屋の中で、エディの感慨深い声だけが聞こえた。 ミツオは黙って、その話を聞いていた。 ロンは突然、ガバッと被っていた布団から飛び出し、ギュッとエディの手を取った。彼はギョッとする。 ロン「わかる・・・!わかるよ、エディ・・・!今はもういない、大切な人との約束を果たそうっていう気持ち。 痛いほどわかる・・・。」 エディは目をパチパチと瞬きさせた。暗くて、ロンの表情はよく見えないが、言葉が震えている。 ロン「・・・オレもお兄ちゃん亡くしてるし。バードマンになって、宇宙の平和を守ることが、お兄ちゃんとの約束 なんだ。」 エディ「あ・・・あぁ、そう・・・なんだ。」 エディはロンが自分のことを理解しようとしていることが驚きだった。 そして、自分が以前、そのロンの約束のことを馬鹿にしたのを思い出して、少し心が痛んだ。 ミツオ「なるほどね〜・・・エディにそんな過去があったんだ・・・。」 ― ロンもエディも、みんな辛い過去を持っているんだ。 それなのにぼくは・・・。確かに、宇宙を平和にしたいっていう気持ちは強いはずだけど、 二人がパーマンになったのは、まるで運命だというのと違って、ぼくは偶然という他ない。 もしかしたら、バードマンになりたいなんていう夢は、二人の方がぼくよりも強く望んでいることなのかも・・・。 ロン「でも・・・でもさ、エディ。」 彼が言いにくそうに口を開いた。 ロン「やっぱりさ、ソフィが運命の相手なんていうのはオレ納得いかないよ。だって、ソフィはただ初恋の相手に 似ているというだけだろう。エディはまだソフィについて知らないことが多いし、一目見ただけで、 運命の相手なんてわかるものじゃないと思う。」 エディ「わ、わかるさ・・・!今まで会った女の子とは、違うものをソフィちゃんに感じたんだ!」 彼もベッドから飛び起きた。 ロン「だから、それはただベルって子に似ているからだって。それにエディは、ソフィよりもラナの方が付き合いが 長いだろ?ラナはあんなにも、お前のことを想ってくれているのに・・・。」 ミツオは二人の真剣な会話を見ていることしかできない。 エディ「でも・・・でも、ラナは運命の相手じゃないよ。あんな我が儘な・・・。」 ロン「そうかな?いつものエディは、ラナのアプローチもそれほど悪くないって顔してたけどな。」 それを聞いて、エディはビクッとした。 ― そんなはずないのに・・・! エディ「もういいよ。ぼくは寝る。キミたちも、明日に備えて眠った方がいいよ。」 ミツオ「アハハッ、そうだよね!楽しみだなぁ〜、ねぇ、ロン!」 ミツオはわざと大声で言った。 ロン「えっ、うん・・・。」 エディはもう布団に潜っている。枕もとに置かれた音楽プレーヤーから、 あの優しいメロディーが漏れていた。
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