LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 13、ファイティング・バースディー

 

  1、

 

   『午後のニュースをお伝えします。今問題となっている、政権交代後のバスティア首相の税金引き上げ政策は、

   大衆の反感を買い、アレイスの各地で小規模なデモがおきています。

   これに対し、首相は記者会見で政策を変更する意思はないとして・・・・、』

 

   パンッパカパンッ

   「マリンカ、お誕生日おめでとうー!」

   盛大なクラッカーとともに、マリンカの手に数人の友人からの誕生日プレゼントが渡った。

   綺麗に包装されたプレゼントは、大小合わせて5つになる。

   アンドルース家のマリンカの部屋は、レースやリボンで見事に友人によって装飾されている。

   テーブルの上には、大きなバースディーケーキ。

   マリンカはプレゼントを抱えながら、嬉しさに満ちた笑顔を見せた。

   マリンカ「ありがとう、みんな・・・!これ、大事にするね!」

   「あたしのプレゼントは、手作りのぬいぐるみよ。一生懸命作ったんだから。」

   「流石、キャシー!裁縫はお手のものね。」

   マリンカ「へぇ〜、凄く楽しみ!」

   今日は年に一度のマリンカの誕生日だった。部屋に母親が6人分のジュースをコップに入れて運んでくる。

   そして、ケーキを人数分に切ってくれた。

   大好きな家族や友人に囲まれ、最高の誕生日だ。

   しかし、まだもう一つ。マリンカには楽しみが待っていた。

   彼女は部屋の隅に置かれた青いプレゼントボックスを横目で見て、クスクスと笑った。

   マリンカ(喜んでくれるといいけど・・・。)

 

 

   「お誕生日おめでとう!」

   それから、友人達との誕生日パーティが終わった後。

   アレイスの空の上で、二つの声が重なった。

   パー着したマリンカとネオは、お互いにプレゼントボックスを背中に抱えて隠している。

   マリンカ「忘れないで用意してきたのね、ネオにしては感心だわ。」

   ネオ「そっちこそ。・・・そもそもぼくの誕生日は一ヶ月前なんだけどね。」

   ネオはマスクの下で苦笑いをした。

   マリンカ「だってネオが何も言ってくれないんだもの。だからこうして、あたしがあなたから誕生日プレゼントをもらう

   かわり、ネオにも用意してきたんじゃない。」

   ネオ「まぁ、いいけどね。ほら、おめでとうマリンカ。」

   彼は背中からピンクの紙で包装されたボックスを手渡した。マリンカも、ネオに青いボックスをプレゼントする。

   マリンカ「わぁ!開けてもいい?」

   ネオ「勿論。ぼくがマリンカのために一生懸命考えて選んだんだ。きっと気に入ると思うよ。こっちも開けるね。」

   二人は胸を躍らせながら、包装を外していく。

   一体、相手は自分のためを思って何を選んでくれたのだろう。期待せずにはいられなかった。

   しかし・・・。

   その中身を確認した途端、サッとそのドキドキが引いていくのがハッキリわかった。

   かわりに何とも言えない憎悪が胸の底からこみ上げてくる・・・―

   マリンカ「ちょっと・・・これは何?」

   しばしの沈黙の後、マリンカが同じく唖然としているネオに口を開いた。

   ネオ「そっちこそ・・・!」

   マリンカはボロボロの汚れたワンピースを、ネオはペット用の首輪を高く持ち上げて、お互いに見せつけた。

   マリンカ「どういうつもり!このボロボロの服は・・・!」

   ネオ「だ、だって・・・マリンカ、いつもパーマン活動の時に服が汚れるのを気にしているだろ。だからさ、もともと

   汚れた服を着ていれば、そんなの気にならないと思って。活動に専念できるよ、ナイスアイデアでしょ。」

   マリンカ「ふざけないでっ!女の子にこんなものプレゼントするなんて・・・デリカシーが無いにも程があるわ!」

   ネオ「よく言うよ、マリンカのこれだってなんなのさ!まさか・・・。」

   すると彼女は笑みを浮かべた。

   マリンカ「そうよ。あなたのおかしなペット、プイッチの首輪。ネオったら、前にバードマンに怒られたのにも拘わらず、

   未だに時々パーマン活動に連れてくるでしょ?これで家につないでおけば、活動中も安心して・・・。」

   ネオ「そんな可哀想なことできるわけないよ!マリンカ、何にもわかってないんだからっ。」

   マリンカ「そっちだって!」

   二人はお互いをにらみ合った。そこへ。

   ピピピピピピ・・・―

   胸のパーマンバッチが空に鳴り響いた。マリンカとネオはスイッチを押す。

   ミツオ『やぁ、諸君!元気にやっとるかね。早速だけど、今から平和のためにアレイスをパトロールするから・・・。』

   マリンカ「残念だけど、あたし今そんな気分じゃないの。」

   乗り気なミツオに、彼女は冷たくあしらった。バッチの向こうから、驚いた声が聞こえる。

   ミツオ『ちょ・・・っ、マリンカ何言って・・・。』

   ネオ「何言ってるんだよ、マリンカ。そんな気まぐれで、みんなの平和を守るっていうパーマンの義務を放棄するの?」

   マリンカ「ネオのくせに何よ、その上から目線。犯人の前では怖じ気づいちゃって何もできない、臆病者に

   言われたくはないわね。」

   ネオはビクッとした。

   マリンカ「前に通り魔を追っているとき、あなた恐怖のあまり集中力を失って、逆に犯人にやられちゃったじゃないの。

   男のくせに、頼りないわね。本当に情けないったら。」

   ネオ「そういうマリンカだって、今日は見たいテレビがあるからとか言ってパトロールをさぼることなんか

   しょっちゅうじゃないか。もっと真面目になったら?」

   ミツオ『ね、ねぇどうしたの・・・?二人とも何を怒ってんの?』

   マリンカ「何もないわよ!さよならっ!」

   そう言って、二人はパーマンバッチを切った。そして、お互いを睨み付け、マリンカはアカンベーをして

   その場を飛び立った。それにカッとなったネオもマリンカの後ろ姿に拳を向け空振りさせた。

   ― 男のくせに頼りない・・・か。

   ネオは逆方向へ飛び立つ。

   二人は別々の方向に分かれていった。

   ミツオ「何だよ!折角、今日から真面目にパーマン活動しようと思ったのに!また総監に怒られるじゃないか〜。」

 

   マリンカ「全くもう・・・、これどう思う?コピー。」

   再びマリンカの部屋で。

   誕生日パーティーも終わり元通りに片付いたベッドの上に寝転がりながら、マリンカは彼女のコピーに

   ネオからもらったボロ服を見せた。

   コピー「確かに・・・、これは正直あんまりね。」

   コピーも苦笑いが隠せない。もとは可愛いワンピースだったみたいだが、今は土などでかなり汚れてしまっている。

   一体、こんなものどこから持ってきたのか。

   コピー「他の友達からのプレゼントは見ないの?さっきから、そのワンピースばかり見てるみたいだけど。」

   マリンカ「だって、こんなの許せないじゃない。あたしがあげたプイッチ用の首輪みたいに、もっと相手のことを考えて

   選んで欲しかったわ・・・。」

   コピー「でもネオなりに、あなたのことを思って選んでくれたんじゃないかしら。それにマリンカの、プイッチを首輪で

   つないでおけっていうのも・・・ネオが怒るのも最もだと思うけどな。」

   すると彼女はベッドから起き上がった。

   マリンカ「そう・・・?絶対に喜んでくれると思ったのに。」

   その時、部屋の外から二階へ階段を上ってくる足音が聞こえた。マリンカは慌てて、コピーの鼻を押して

   タンスに押し込める。ドアが開いて入ってきたのは、母親だった。

   母「マリンカ、お父さんも一緒にデパートに行かない?今日は誕生日だし、何でも好きなもの買ってあげるわよ。」

   マリンカ「本当っ?ママ、大好き!」

   彼女は母親に飛びついた。母親は満足そうに笑う。

   母「ほらほら、今すぐ出かけるから準備して。」

   マリンカ「はーい。」

   マリンカはボロ服を部屋に投げ捨てると、ドアを閉めて一階に駆け下りた。

 

   アレイスのショッピングモール。2階建てでそんなに大きくはないが、食料品、日用品、雑貨など多くの店が集まり

   ショッピングするには便利な所だ。

   連日、多くの客が訪れる。レストラン街や映画館も人気で、駐車場に車をとめるスペースを探すのも一苦労だ。

   今日は休日だけあって、かなり混雑している。

   その中を、マリンカは母親と父親に手を引かれながら歩いていた。

   母「マリンカ、あのお店可愛いわよ。新しいカバンでも筆記用具でも欲しくないの?」

   マリンカ「その前に、あたしお腹空いちゃったなぁ〜。」

   父「ははは、さっき誕生日ケーキ食べたばかりだろ。」

   マリンカ「ちょっとしたお菓子でいいわ。食品売り場で買ってきてもいい?」

   そう言うと、マリンカは父親からお金をもらってお菓子売り場に駆けだした。

   溢れるほどのお菓子が、棚に並べられている。

   そこで見付けたのが、今テレビCMで話題の、七色の味が楽しめるという『レインボーキャンディー』だ。

   マリンカはそれに手を伸ばした。

   「あっ。」

   その手が、誰か他の人の片手とぶつかった。ちょうど彼女の横で、それを取ろうとした人がいたみたいだ。

   マリンカ「すみません、どうぞ。」

   ネオ「いえいえ、あっ・・・。」

   二人は顔を見合わせて驚いた。そう、ネオだったのだ。

   しかも、ついさっき喧嘩別れしたばかりの・・・。マリンカは気まずくなって、慌てて顔を伏せた。

   ネオ「マリンカも来てたんだ。ぼくは友達とね。」

   彼女は答えない。それにネオは少しだけ腹を立てたようだ。

   ネオ「まだ怒ってるの?」

   マリンカ「当たり前じゃない。許さないんだから。」

   ネオ「でも、あれは・・・。」

 

   ガッシャーン・・・

 

   その時だ。遠くの方で、シャッターが閉まるような音がした。しかも、その音はしばらくの間立て続けに聞こえた。

   マリンカ「なに・・・?」

   そこにいた客も店員もざわつきはじめる。

   そして、いきなり目の前に武装しライフルを持った数人の男が現れたのだった。

   男は周囲の客に銃を向けて、「手を挙げろ!」と叫んだ。

   二人も慌てて言われるままに手を挙げた。恐怖で体が震える。

   何が起こっているんだ・・・―

   「いいか、そのままじっとしてろ!動くな!おかしな真似すると、その場でぶっ殺す!」

   そう言って、男はライフルを振り回した。客も店員も突然の出来事に、声が上げられない。

   マリンカ「ネオ・・・。」

   彼女は横目でネオの方を見た。マリンカの瞳が潤んでいる。

   ネオは息をのんだ。

   ― とまれ・・・とまれっ!

   彼はギュッと拳を握った。自分の手足が小刻みに震えている。

   ネオ「・・・ぅわっ。」

   ネオはバランスを崩して、尻餅をついた。犯人の男をはじめ、その場に居た全員が彼の方を見た。

   「おい、何やってる!早く立て!」

   犯人のライフルがこちらに向けられる。ネオは脅え震える足を必死におさえて、立ち上がった。

   マリンカが不安げな瞳でうつむいている。

   ― 男のくせに、頼りないわね。本当に情けないったら。

   そう彼女に言われたっけ・・・。

   ネオはさっき、マリンカと喧嘩別れしたときのことを思い出した。その言葉は、マリンカの予想以上に、

   彼の胸に深く突き刺さっていた。自分でも、薄々自覚していたからだ。

   ― もう、女の子にそんな風に思われたくない。こんな時こそ、ぼくがしっかりしなくちゃいけないんだ・・・。

   彼は顔を上げた。眉はキリッと上がり、瞳は強く光り輝いていた。

   ネオ「何だろう・・・テロかな。多分、さっきの音は店中の出入り口のシャッターや窓を閉めて、出入り

   できないようにしたんだよ。」

   手を挙げているため、ポケットからパーマンセットを取り出せない。外にいるはずのミツオに連絡したいのだが。

   「いいか、お前らは俺等の人質だ!殺されたくなかったら、黙って言うことを聞くんだ!」

   男は銃で威嚇をしながら、食品売り場にいた客を脅しつけた。

 

   「アレイスで、ショッピングモールテロ!?」

   アロデーテのPBハウスでテレビニュースを見ていたミツオ、ロン、ルーシャ、ソフィは驚いて立ち上がった。

   画面は、ショッピングモールの外の様子を映している。

   慌てて駆けつけた警官が大勢武器を持って、周囲を囲んでいる。マスコミもごった返していて、うるさいようだ。

   離れた所には、野次馬も集まっている。

   『ただいま、ショッピングモール・アレイスでテロが起こっています。客、店員含めて数百名を人質として中に

   立てこもっているようです。犯人は多数いるようですが、まだ詳細や、テロの目的などは明らかになっていません。』

   ソフィ「ミツオくん、すぐに向かって下さい。」

   ミツオ「言われなくてもわかってるよ!」

   彼はパーマンセットを取り出すと、パー着してアロデーテを飛び立ち犯行現場に向かった。

   現場ではニュースで見たとおり、人並みがごった返していたが、警察は何も出来ずにモールの前で立ち往生している

   ようだ。ただただパトカーのサイレンの音がうるさい。

   マスコミも多く集まっていて、野次馬も遠くからショッピングモールを眺めていた。

   ミツオは近くに降り立つと、警官の近くに寄った。

   ミツオ「犯人からの要求は?」

   「あぁ、君はパーマン。それがまだ・・・。」

   

   『政府に告ぐ。よく聞くがいい。』

 

   その時だった。マイクで話しているのか、太い男の声がスピーカーからショッピングモールの外まで響いた。

   警察はサッと警戒を強め、ミツオも戦闘態勢を取る。

   『我々は客、店員数百名を人質としてとらえている。ライフルも一人一つずつ所持している。もし警察がおかしな

   真似をして強行突破しようものなら、爆弾で人質諸どもぶっ飛ばすことができる。』

   マスコミも緊張の空気の中、ショッピングモールにカメラを向けている。警察は難しい表情を浮かべた。

   すると各出入り口の前に、ライフルを持った男が二人、駆け込んでくるのが見えた。

   犯人は少数ではないようだ。

   『我々はバスティア首相の政策に大いに不満を抱いている!このままでは日本は破滅だ。どうして、我ら国民の声を

   聞こうとしないのだ!あいつを政界から追い出せ!二度と国民に顔を見せるなっ!』

   マイクから、急に怒り狂い正気を失ったような叫びが響いた。

   どうやら、反政府テロらしい。それからしばらく、犯人は我を忘れて、力説を続けた。

   『・・・以上の要求が通らぬようなら、人質数百名の命はないと思えっ!』

   最後にそう言い捨てると、スピーカーのスイッチが切れて、その場は静まった。

   しばらくして警察はざわつき始める。これは、容易に手が出せない。強行突破は到底無理だ。

   「どうするんです・・・。」

   「とにかく、今できることは心理作戦だな・・・。時間を稼ぐんだ。

   ミツオも焦っていた。

   ミツオ「そうだ、ネオたちにも連絡して応援を頼まないと・・・。」

   ミツオはポケットからパーマンバッチを取りだして、スイッチを入れた。

   ピピピピピピー

   「なんだ!」

   その頃、ネオたちのいる食品売り場にバッチの音が鳴り響いた。

   ネオは犯人に気付かれないように、慌ててポケットの中に手を伸ばして、スイッチを入れ音を消した。

   男は音には反応したものの、それがネオからだとはわからなかったようだ。彼はホッと息をもらす。

   ミツオ『ネオ、今アレイスのショッピング・・・、』

   ネオ「わかってる、声を潜めてっ。今、マリンカとその中にいるんだ。ライフルを持った犯人が目の前にいるんだ

   よ・・・。」

   それをミツオは驚いた。

        ネオ「どうすればいい?ミツオくん。」

   ミツオ『と、とにかくネオたちは素顔のまま、奴らに気付かれないように人質が集められている場所とか、犯人の

   配置とかを調べてくれ。様子を見て、こっちも踏み込むから。いいかい、絶対に無茶はしないように。』

   マリンカは犯人がこちらに気付いていないか、見張っている。犯人はキョロキョロしていた。

   ネオ「わかった、任せといて。」

   ミツオ『また連絡してよ。』

   そういうとネオはスイッチを切って、バッチをポケットに押し込めた。男は気が付いていなかったようだ。

   彼はネオたちに背中を向けたまま、食品売り場にいた客に大声で呼びかけた。

   「いいか、オレの後についてこい。黙って、手を挙げたままでだ。おかしな真似をしたら・・・わかってるな。」

   その場にいた二人の犯人が、列を作った人質の前後について、どこかに誘導しはじめた。

   人質は恐ろしさ故に、黙って犯人の言う通りに歩いて行く。

   マリンカ「ねぇ、どうするの?」

   ネオ「一旦、この列から抜けなくちゃ・・・。いざというときに、パーマンになれないでしょ。」

   そう言うと、彼らは犯人に気付かれないように、サッと列を抜けインスタントラーメンのコーナーの影に隠れた。

   なんとか男たちの目を盗めたようだ。ネオは胸をなで下ろす。

   そのとき・・・突然、背後で気配がした。

   「きゃあああー!」

   ハッとネオが振り返った先には、犯人に腕をつかまれたマリンカの姿があった。

   「おい、お前たち。どこへ行こうというんだ?」

   犯人はニヤッと笑いながら、片手でマリンカの首を締め付けた。他方の手が、逃げる暇もなくネオが着ていた服の

   首元をつかんで持ち上げる。

   「おかしな真似をするなと、言ったはずだよな。お前ら、死にたいのかよ!」

   「くっ・・・。」

   すると、突然犯人の体がバランスを崩して床にたたき付けられた。ネオの首元をつかんでいた手が、パッと離れた

   ネオもマリンカも、勢いにのって床に弾き飛ばされる。

   見上げると客の男が、列を抜けて犯人に飛びかかってきたのだ。

   数人の人質は、その犯人を押さえつけると、ネオたちにむかって叫んだ。

   「逃げろ!はやく!」

   ネオは迷ったが立ち上がり、マリンカの手をつかむと、駆けだした。しかし、目の前に男が立ちふさがる。

   仲間の犯人だ。ネオはその横を走り抜けた。

   「おい!そこのガキ、待て!」

   二人は必死に食品売り場の奥の方へ走った。犯人が凄い剣幕で、後を追ってくる。

   あっという間に、突き当たりの壁まで来てしまった。後ろから足音が響く。

   ネオ「あっ・・・あそこだ!」

   彼はそこにドアを見付けた。迷っている暇もなく、二人はドアを開けてその中に駆け込む。

   『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアを開けて・・・。

   中は広い廊下が続いていた。

   再びドアが開閉する音が聞こえる。

   ネオ「し、しつこい・・・!」

       マリンカ「ネ、ネオー!」

   気が付くと、犯人はマリンカのすぐ後ろまで手を伸ばして迫ってきている。マリンカは涙目で叫んだ。

   ネオは困惑したが、少し行ったところに大きなドアを見付けた。

   何かの倉庫のようだ。ネオは考える間もなく、それ飛びついてドアを開けた。

   ネオ「マリンカ、こっち!」

   ネオはマリンカをそこに誘導して、ピシャッとドアを閉めた。犯人は部屋の外で、ここまで追ってこなかった。

   二人はほっと息を漏らすと、ドアにヘナヘナともたれかかった。

   マリンカ「はぁー、疲れた・・・。」

   ネオ「ホントに。・・・ねぇ、マリンカ?」

   彼は弾んだ息を整えながら、部屋を見回した。かなり広い部屋だ。

   ネオ「何だか、ここ寒くない?」

   その時だ。

   ドアの向こうで、ガシャッという音が響いた。まるで鍵をかけたような音だ。

   ネオは慌ててドアを押した。・・・開かない。犯人に外から鍵をかけられたのだ。

   「ハハハハハッ、お前らぁ馬鹿だなぁ。こんな所に、自分から飛び込むなんてなぁ。」

   外で犯人の笑い声がした。

   「リーダーに人質は2階のロビーに集めるよう言われてるんだが、まぁガキの一人や二人くらい死んだってかまいや

   しねぇか。」

   そう言うと、男は笑いながらそこから遠ざかっていった。足音がどんどん小さくなり、やがて聞こえなくなった。

   ネオはもう一度、辺りを見る。そこには食品類が並べられていた。

   倉庫全体が白く氷に包まれている。マリンカはブルッと体を震わせた。

   そう・・・ここは・・・―

   ネオ「食品の冷蔵倉庫・・・みたいだ。」

   ネオは険しい顔で、そう呟いた。マリンカはその場にしゃがんで腕を組んだ。

   マリンカ「・・・寒い。」

   温度計は、−20度を表示していた。鍵は中からでは開けられないようだ。広く暗い倉庫の中に、

   二人は閉じ込められた。

   マリンカ「もう・・・とんだ所に入れてくれたわね、ネオ。まぁいいわ。パーマンセットでこんなドア破ればいいのよ。」

   ネオ「そ、そうだね。」

   彼らは自分のポケットに手を入れた。

   ネオ「あれ・・・?」

   ごそごそとポケットの中を探り回す。しかし、そこに彼らが探し求めているものはなかった。ポケットは空っぽだ。

   マリンカ「ない・・・!ウソでしょ、パーマンセットが無いわ!」

   ネオ「こっちもだ・・・。もしかして、さっき突き飛ばされたときに落としたのかも・・・。」

   二人はポケットの中を探し尽くしてから、お互いの顔を見た。二人の表情がサッと青ざめる。

   マリンカ「ねぇ、どこかに助けを呼ぶものはないのっ?」

   ネオ「例えあったとしても、今は店の従業員も人質として捕まってるんだよ!誰も助けに来ないよ・・・。」

   ネオは倉庫の中を歩き回った。すると壁に、一つの光る大きなボタンを見付けた。

   『温度調整ボタン』と書かれている。

   ネオ「やった、マリンカ!これで温度を上げればいいんだ!」

   ネオはそのボタンをキュッと押した。すると、冷凍機の音が一層大きく部屋に響いた。

   マリンカ「ちょっと・・・何を押したの。」

   すると部屋は暖まるどころか、急激に冷えていった。ネオは慌てて、『温度調整ボタン』と書かれた下に

   たまっていた氷を払い除けた。そこから出てきたのは『急速冷凍』の文字だった。

   マリンカ「ばかぁー!これ以上冷やしてどうするのよ!」

   ネオ「ご、ごめん・・・見えてなかったんだ。」

   彼は慌ててそのボタンをもう一度押した。しかし、冷凍機が止まる気配は無い。

   ネオは震える体を押さえて、思わずマリンカの横にしゃがみこんだ。

   ― どうして、ぼくはこうなんだ・・・。

 

   ミツオ「ねぇ、どうするの!?このまま何もしないで黙って見てるなんて、それでも警察?」

   ショッピングモールの外では、まだ警察が突入できないまま立ち往生していた。

   ― 何でぼくには何も出来ないんだ・・・。ネオにはつながらないし。

   イライラとしたミツオに警部と思われる体格のいい男が言った。

   「だからさっきも言っただろ。とにかくここは犯人と交渉だ。」

   ミツオ「無理だよ、そんなの!とても聞くような相手には思えなかったけどっ。」

   「焦るな、パーマン。」

   警部はメガホンを手にした。

   「交渉と称した心理作戦だ。とにかく時間をかせいで、犯行グループを肉体的にも精神的にも

    消耗させるんだ。強行突破はそれからだ。」

   ミツオは黙った。

   警部はメガホンのスイッチを入れて、大声で叫んだ。

   「君達の言いたいことはよくわかる。悪いようにはしない。だからここは一つ・・・。」

   『うるせぇよ!』

   警部が言い終わらないうちに、再びショッピングモールから狂ったような声が響いた。

   『お前ら、何をグズグズしているんだ。こっちはもう、二人のガキを始末したんだ!』

   その一言で、現場が騒然とした。マスコミが動き出す。

   「なんだって!どういうことだ、銃声は聞こえなかったぞ!」

   『誰も銃で殺したとは言ってねぇだろ。まだ若い青髪の男と二つ結びの女らしい。これ以上、犠牲を出したくなければ

   早くするんだ!』

   若い男と女・・・!もしかして・・・!

   ミツオ「ネオ!マリンカ・・・っ!」

   ミツオは叫んだ。そんな・・・どうして。彼はもう一度パーマンバッチのスイッチを入れた。

   ミツオ「ネオッ!マリンカッ!聞こえるだろ、返事してくれよ!ねぇ・・・ねぇったら!」

   ・・・・・。

   応答がないパーマンバッチを手に、ミツオはヘナヘナと座り込んだ。

   「何ということだ・・・。」

   警官も困惑する。

   「とにかく聞いてくれっ!犠牲者が出た以上、こちらも下手な真似はできない。わかってるだろう、だからここは

   交渉しよう。お前の要求をのむかわりに・・・。」

   警部が必死に時間を消耗させようとする。

   しかし、ミツオの耳にはもう何も入ってこなかった・・・。

 

   その頃、冷蔵倉庫の中では。

   いつの間にか、急速冷凍のせいで、とても耐えきれない寒さになっていた。二人は季節故に厚着ではなかった。

   シーンとした空間に冷凍機の音だけが響く。

   こんな所にずっと居たら・・・―

   マリンカ「ねぇ、ネオ。あたしたち、どうなるのかな・・・。このまま助けられなかったら・・・死んじゃうじゃないの。」

   彼女はポロッと涙をこぼした。そうだった。

   今日はマリンカの年に一度の誕生日だ。友人や家族に暖かく囲まれ、幸せな日でなくてはいけない今日この日。

   ― ぼくのせいだ・・・。ぼくがこんな所にマリンカを入れたから・・・。

   マリンカの表情を見つめながら、ネオは自分を責めた。

   ― 頼りないな、情けないよ。・・・でも、こんな時しっかりしなくちゃならないのは男のぼくの方だ。そう決意しただろ。

   彼は顔を上げると、来ていたパーカーをそっとマリンカの体に被せた。

   彼女はネオを見上げる。

   ネオ「大丈夫だよ、マリンカ。心配しないで。ぼくはパーマンセットが無くても、困った人を助ける正義の味方だよ。

   きっと、なんとかしてみせる。」

   そう言うと、ネオは上を見上げた。天井に、小さな通気口がある。

   ネオくらいの体なら、何とか通ることができそうだ。彼は周りに散らばっていたカゴを重ね合わせると、

   それによじ登った。途中で体がバランスを崩してフラッとする。

   マリンカ「ネオッ!」

   ネオは慌てて、両手でカゴをしっかりつかんだ。もう一度バランスを保ち、彼はホッと息をつく。

   ネオ「大丈夫だよ。」

   マリンカ「無理しないでよ!あたしも・・・あたしも行くから!」

   すると、彼はそんな彼女に手を突き出した。来るな・・・というように。

   ネオ「これくらい平気だって。あそこを抜ければ、外に出られるかもしれない。様子を見てくるから、マリンカは

   そこで待ってて。」

   マリンカ「でも・・・。」

   ネオ「今日は、マリンカの誕生日でしょ。」

   そう笑いかけると、彼はまた登り始めた。マリンカはうろたえながら、彼を見上げる。

   ネオは天井までたどり着くと、そっと通気口の入り口を外した。入れそうだ。

   ネオ「じゃぁ、ちょっと行ってくるから。待っててね。」

   マリンカ「・・・ネオ。」

   彼は通気口の中に入った。何とかギリギリだ。体がギュウギュウと押さえつけられ苦しい。

   体の震えと手がかじかんでしまっているために、なかなか体が自分の言うことを聞かないが、それでも彼は

   そこを這うように進んでいった。

   暗くて視界がきかない。途中でネオは止まって、息を整えた。

   女の子が一人寒がって、心細い中待っている。何とかしなくては・・・。

   ― ぼくって、思えばいつも頼りなかったな。ハッキリしなくて・・・女の子よりも行動力がなくて。

   彼はそっと目を閉じた。

   ― 今回の誕生日プレゼントも怒られちゃったし。マリンカにとって、ぼくはどんな男なんだろう?

   頼りにしてほしい。かっこいいと思ってほしい。

   ― 本当はプレゼントを渡す他にも、今日は彼女の望みはできる限り叶えてあげようと思っていたんだ。

   ケンカ別れになっちゃったけど。彼女にとって、最高の誕生日にしてほしくて。

   結局、こんな最悪な状態になってしまったが・・・でも。

   ― でも、ぼくがマリンカは勿論、彼女の家族も人質みんな助けてやる。絶対にだ・・・。

   彼はキッと目を開けて、再び進んでいった。

   しばらくすると、光が見えた。出口だ。そこは食品売り場の近くだった。近くには誰もいる気配がない。

   ネオは飛び降りると、インスタントラーメンのコーナーに戻った。

   ネオ「あった!」

   そこに転がっていた、ネオとマリンカのパーマンセットを見付けた。彼はパー着してマリンカの分をポケットに突っ込む。

   そして、もう一度倉庫の前まで戻り、6600倍の力でドアを破った。

   ガッシャーン

   大きな音と共にドアの破片が飛び散り、氷で真っ白な視界の中から、女の子が飛び出してきた。

   マリンカがパー着したネオに飛びつく。

   マリンカ「よかったぁ、ありがとう、ネオッ。」

   彼女の体もネオの体もキンキンに冷えていた。頭に氷が少したまっている。

   ネオは彼女の頭を払うと、パーマンセットを渡した。

   ネオ「安心するのはまだ早いよ。これから人質を救出しないと・・・体を温めてから、さっき男が言ってた

   2階のロビーに行こう。」

   マリンカはうなずいた。

   倉庫から出ると、窓の外はもう暗くなっていた。スッカリ日が落ちたようだ。

   その時、二人のパーマンバッチが響いた。

   ネオ「はい、こちらパーマン1号。」

   ミツオ『・・・えっ!ネ、ネオ!?』

   バッチから聞こえてきたのは、驚きに満ちたミツオの声だった。

   ミツオ『よかった・・・生きてたんだね!まったく何してたんだよぉ。』

   その声が震えていた。外で何かあったのだろうか。

   ネオ「ごめん、ちょっと色々あってね。でももう大丈夫。人質は全員、2階のロビーに集められているって。」

   ミツオ『そうかっ、了解!」

   ネオ「でも・・・やっぱり強行突破は危険だよ。相手が何をしてくるかわからないし。ここは中にいるぼくらだけで

   大丈夫。」

   ネオは決心していたのだ。マリンカに自分が頼りになる存在だって思って欲しくて・・・。

   だから、この事件は全て自分が片を付けようと思っていた。

   ミツオ『なっ・・・何言っているんだよ!これだけ大がかりなテロだよ・・・無理に決まってる!』

   ネオ「ミツオくん。」

   ミツオの足が一歩前へ出た。今すぐにでも、ネオのもとに飛んでいきたいのに・・・。

   ネオ「ミツオくんは、ぼくのことをどう思う?頼りにならない奴?ぼく一人だけじゃ何もできない?」

   ・・・・。

   ネオ「そんなんじゃない。ぼくは自分を変えたいんだ・・・。みんなの憧れのヒーロー、パーマン1号になりたいんだ!」

   ミツオ『そう・・・。』

   彼は微笑んだ。

   ミツオ『がんばれ、ネオ。』

   ネオ「うん!」

   彼はバッチを切った。そしてパー着したマリンカに振り返る。

   ネオ「さぁ、行こうか。」

   マリンカ「うん!・・・何だか、今のネオさぁ。」

   ネオ「なに?」

   マリンカ「凄く・・・頼りになるわね。かっこいいわよ。」

   そう言うと、彼女は近くにあったエスカレーターを見付けて駆けだしていった。

   ネオ「き、聞いてたの・・・?」

   ― マリンカってば・・・。

   ネオはパッと思わず笑顔を浮かべると、彼女の後を追って走り出した。

 

   ミツオ「人質は2階のロビーに集められているとのことです。」

   すっかり日が落ちて、野次馬も少し数が減ってきた。

   警察からの交渉は勿論無意味なまま・・・とは言っても、これは時間消耗のためのものであるが。

   しばらく犯人からの応答も無い。

   出入り口のバリケードも長時間が経ったせいか、緊張の中、かなり疲れてきているように見えた。

   こういう大がかりな事件の場合、犯人側も長引けば長引くほど精神的に消耗してくる。

   今のところ、銃声は聞こえないが、中はどうなっているのだろう。

   「これ以上は、犯行グループが時間と共に主導権を握ってしまい難しい状況になる。

   辺りも暗くなってきたし、これから静かにバリケードを破って突入する。協力してくれるかな?」

   ミツオ「勿論です!」

   ああは言ったけど・・・。

   ― やっぱりネオだけじゃ心配だ・・・。でも大丈夫。万一の場合は除いて、君の勇士をみんなに示す姿を

   見届けてあげに行くだけだから。

   すると、警部はミツオに一つの缶を手渡した。

   「睡眠ガスだ。2階のロビーに一番近いのは南の出入り口だな。犯人にくれぐれも見付からないように、しずかにな。」

   ミツオはうなずいた。

 

   ショッピングモール、2階のロビー。

   そこには客、従業人合わせて数百名近い人が一カ所に集められていた。

   周りには犯行グループの男が15人ほど、人質がおかしな真似をしないか見張っている。人質はライフルを持つ大勢の

   男達に震えていた。もうテロが起きてから、4時間以上経っている。人質も限界なはずだ。

   ネオとマリンカは、犯人に見付からないように遠目にその様子を見ていた。

   ネオ「まだ犠牲者は出ていないみたいだね。警察側が、必死に交渉してくれているんだ。」

   マリンカ「どうするの・・・ネオ?」

   二人の頬に、緊張で汗が伝わった。

   ネオ「とりあえず様子を見よう。犯人も人質もこれだけの数だよ。下手に踏み込めば、すぐにやられる。」

   マリンカ「・・・そうね。」

   マリンカが体の力を抜いて、壁にもたれかかった。その時。

   ガチャッ・・・

   その壁にかけてあった売り物のアクセサリーが一つ、音を立てて床に落ちた。二人はギョッとする。

   「誰だっ!」

   一人の犯人の声に、その仲間も人質も皆こちらを振り返った。ネオとマリンカはそっと息を潜めるが・・・

   ネオ「駄目だ、見付かった。今やるしかない・・・っ。いいかい、マリンカ。あいつら、さっさと全員やっつけるよ。」

   マリンカ「・・・うんっ!」

   二人はさっとそこから飛び出した。マントを翻し、犯行グループに向かって駆け出す。

   犯人たちは一斉にライフルを構えた。しかし、撃つ間もなくネオとマリンカが、犯人に拳を突き出した。

   男たちは6600倍の力で、派手に飛んでいく。

   「パーマンだぞ!撃て撃て!」

   ネオはライフルの間をくぐり抜けて、背後から男を蹴り倒した。マリンカも目の前の男のライフルを、つかんで

   男ごと投げ飛ばす。しかし、その直後、後ろに気配を感じた。彼女は思わずギュッと目を閉じた。

   ネオ「危ないっ!」

   派手な音がして、ネオの蹴りで男が飛んでいった。マリンカはホッと胸をなで下ろした。

   マリンカ「ありがと、1号・・・。」

   ネオ「気を付けて。」

   いくら最新式の武器を持っていても、バード星が誇る正義のためのパーマンセットには敵わなかった。

   あっという間に、人質の見張り役の男は、床に倒れ伏せた。

   マリンカ「やったぁ!全員、倒したわ!」

   「そこまでだ!」

   二人は振り向いた。見ると、犯人の男が、一人の女性に銃をつきつけていた。

   女性の表情が恐ろしさで歪んでいる。

   マリンカ「マ・・・!あっ・・・。」

   彼女は言いかけて、慌てて口をおさえた。その女性は、マリンカの母親だった。

   マリンカ「ネオ・・・ねぇ、ママが・・・。」

   彼女はネオだけに聞こえるような小さな声で、彼にささやいた。マリンカの瞳が震える。

   すると、遠くの方から一人の男がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

   銃を手に持ち、防弾チョッキを着用している。

   「おお、リーダー・・・。」

   マリンカの母親を捕らえていた犯人が、その男を見てこう言った。ネオとマリンカは息をのむ。

   静かなロビーの中に、男の足音がやけに大きく響いた。

   彼はネオとマリンカの前に立ち、倒された仲間を見ると、顔を上げた。

   「貴様がパーマンとかいう小僧か。まさかこのショッピングモールの中に紛れ込んでいたとはな。

   それとも、いつの間にか外から侵入していたか・・・。」

   男の太くて低い声に、二人は身震いした。

   今までの相手とはまるで違う・・・!そのオーラを前にして、精神を正常に保てない・・・。思わず後ずさりした。

   「俺たちの仲間を随分可愛がってくれたようじゃないか。だが・・・残念だったな。オレが来た以上、お前らに

   勝ち目はない。」

   男は不敵な笑みを浮かべた。自分に自信があり、余裕に満ちた笑みだ。

   ― この男を倒さなければ、人質は愚か、ぼくたちの命もないな・・・。

   ネオはそっと構えた。それを見て、マリンカは慌てて彼の腕をつかむ。

   マリンカ「やめて!こいつ強いわ・・・ネオには無理よっ。」

   彼女の震えた声に、ネオはニコッと微笑んだ。

   ネオ「もう・・・本当にマリンカはぼくを頼りにしれくれてないね。さっき、かっこいいって言ってくれたでしょ。

   大丈夫。マリンカも、マリンカのお母さんも・・・みんな助けるよ。」

   彼はそう言った瞬間、マリンカの手が離し、さっと前へ駆けだした。もうこれは意地だった。

   必死で恐怖を圧し殺した。

   リーダーの男も瞬時に構える。

   マリンカは目を瞑った。

   ・・・・。

   しばしの沈黙の後、マリンカは顔を上げた。そこに飛び込んできたのは、男に床にうつ伏せ状態で押さえつけられた

   ネオの姿だった。

   マリンカ「ネオ・・・!」

   「勝負あったようだな・・・パーマン。」

   ネオ「くっ・・・。」

   「さぁ、大人しくパーマンセットを渡し・・・ぐっ!!」

   その時だ。急にネオを押さえつけていた男が吹っ飛んだ。

   「ぐわ・・・っ!」

   そしてマリンカの母親を捕らえていた男までが、大きな音と共に遠くに飛ばされていった。

   二人は驚いて顔を上げる。一人の少年が立っていた。彼らと同じ、青いマスクに赤いマント・・・―

   ミツオ「大丈夫?二人とも。」

   「ミツオくん!」

   そこにはパー着したミツオが、笑ってこちらを見ている姿があった。

   彼に続き、警察の軍がロビーに大勢突入してくる。

   「やぁやぁ、よくやったねパーマン!なんだ、犯人は全員のびちゃってるじゃないか。」

   ミツオ「凄いじゃないか、こんなに大勢。ネオ、マリンカ。」

   ネオ「・・・はぁ。」

   ネオはヘナヘナと座り込んだ。急に安心して、体の力が抜けてしまったのだ。

   それを見て、ミツオは笑みを浮かべながらネオに近寄って、耳元でささやいた。

   ミツオ「おしかったけど、まだまだだね。いいよ、これから頑張れば。」

   ネオは苦笑いをした。

   マリンカは両親の安否を確認すると、ネオに駆け寄った。

   マリンカ「大丈夫?」

   ネオ「うん・・・なんとか。ごめんね、怖い目にあわせちゃって。」

   マリンカ「どうしてネオが謝るのよ。」

   二人は笑いあった。

 

   それから犯人は無事逮捕され、人質も全員無事だった。

   パーマンには、警察からの感謝状が贈られた。

   ショッピングモールの屋上。空には綺麗な満月が出て、ネオとマリンカを照らしていた。

   マリンカ「良かったわね、無事に事件解決で。」

   ネオ「ホント。一時はどうなるかと思ったけどね。」

   アレイスの今の政治については犯行グループだけではなく、マスコミからの攻撃もあり、再び政権交代の声が

   上がっている。

   マリンカ「あたしの姿がないものだから、お母さんたちも心配してただろうなぁ。今はコピーロボットを置いてきたけど。

   ネオも友達と来てたんでしょ?」

   ネオ「あのさ・・・マリンカ。」

   彼が顔を上げてマリンカを見つめた。

   夜景と月の光で、顔が眩しい。今夜は雲も無く、星が綺麗に見える。

   ネオ「ごめんね、あんな誕生日プレゼントで・・・。ぼくとしては、色々考えたつもりだったんだけど・・・。」

   マリンカは目を二回ほど瞬きさせた。

   そして、首を振る。

   マリンカ「あたしこそ、ごめんなさいね。あなたがどれだけプイッチを大切にしているか、知っているはずだったのに。」

   ネオ「うぅん、それがさぁ。プイッチったら、あの首輪をゴロゴロ転がして遊び始めちゃって。

   使い方違うっていうのに・・・何だか変に気に入ったみたいなんだ。」

   それを聞いて、マリンカは笑った。

   マリンカ「何それ、おかしい〜。」

   ネオ「アハハハッ、ホント。そして・・・いつかは、本当に頼りにできる男になるから。」

   マリンカ「え・・・?最後の方、何て言ったの?」

   しかし、ネオはそれには答えず、ただ笑った。マリンカは不思議そうな顔をする。

   少し間を置いて、ネオが尋ねた。

   ネオ「ねぇ、マリンカ。今年の誕生日は・・・どうだった?」

   すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。

   マリンカ「最高だったわ!」

   

   ミツオ「えっと・・・それから、犯人の要求は・・・。」

   ロン「うわあああああ!」

   急に隣で聞こえた大声に、ミツオは思わず右手に持っていたペンを落とした。

   ミツオ「な、何だよ!いきなり・・・!ビックリするじゃないか、ロン。」

   怒り声でミツオは顔を上げる。

   ロン「だ、だってさぁ。静かだなぁと思ってミツオの部屋を覗いてみたら、お前勉強してるんだもん。」

   そんなに、ぼくが机に向かっているのが珍しいか・・・。

   ミツオ「今回の事件のレポートを書いてるんだ。これからは真面目にやろうって決めたんだから。」

   ロン「・・・あまり慣れないことはしない方が良いと思うが・・・。」

   ミツオ「何?」

   ロン「いや、別にぃ〜・・・。」

   彼は誤魔化すように笑った。

   ロン「で、でもさぁ!良かったな、テロが無事に解決して。」

   ミツオ「今回、ぼくは特に何もしなかったけどね。ネオとマリンカが珍しく頑張ってくれて。」

   ソフィ「ミツオさーん、ロン!夕ご飯が出来ましたよ。」

   部屋の外から、ソフィの声が響いた。

   ロン「待ってましたぁ!さぁ、ミツオ!食べに行こーぜー。」

   ミツオ「ちょっとロン、そんなに引っ張らないでよ〜。」

   

   マリンカの部屋で。

   彼女は一人、ネオにもらったワンピースを眺めていた。

   ― ぼくとしては、色々考えたつもりだったんだけど・・・

   マリンカ「なぁーんて、言ってたけどねぇ・・・。」

   彼女は大きくため息をついた。

   マリンカ「やっぱり、このプレゼンとは許せなーいっ!」

   彼女の大声が、部屋の外まで響き渡った。

   

 

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