LIKE A SHOOTING STAR  

         ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

12、密林を行く先に

 

1、

      

   円盤の窓の外には、青い惑星・・・。

   そう、ミツオの母星である、太陽系第三惑星。地球だった。

   宇宙空間から地球の大気に入り、やがて小さな島国が見えてきた。

   大地が近くなる。

   円盤が着陸したのは、須羽家の屋根の上だった。

   「さぁ、着きましたよ。」

   ミツオは円盤から降りて、屋根に足をつけた。

   懐かしい町並みが、目の前に広がっている。しかし、空は灰色に深く曇っていた。

   ミツオの心も・・・。

   円盤を操縦していた見知らぬバードマンが、ミツオに声をかけた。

       落第したPBを母星に送り返し、その手続きをする係のバードマンだ。

   「そんなに落ち込むことはないですよ。落第しているPBは少なくないんですから。」

   ミツオはうつむいた。

   「PBを落第すると、同時にパーマンの資格をも失います。

       その制服や、パーマンセット。あと、コピーロボットもですね。また改めて引き取りに参ります。」

   そう言うと、彼は円盤のレバーを引いた。

   円盤は上昇し、空の彼方へ消えていってしまった。

   ミツオ「・・・地球か。」

   ミツオは屋根から降り、ベランダからこっそりと部屋の中を覗いた。

   以前見たときと、あまり変わっていない。

   制服を着たコピーが、勉強机に向かって鉛筆を動かしていた。

   ミツオ「そうか。高校生なんだっけ・・・。」

   すると、コピーが不意にこちらを見た。ミツオは慌てて身を隠そうとするが、コピーは椅子から立ち上がり

   勢いよく窓ガラスを開けた。

   コピー「ミツ夫くん・・・!」

   彼は目を大きく見開いて、こちらを見ている。ミツオは気まずかった。

   落第して帰ってきました・・・とは何とも格好悪い。

   ミツオ「やぁ・・・、こんにちは。」

   ミツオは無理矢理な笑顔を見せた。

   コピー「どうしたの!また休暇が取れたの?まぁ、とにかく入りなよ。」

   ミツオ「いや、そうじゃないんだ。実は・・・。」

 

   コピー「落第!?」

   ミツオ「しっ、大声出すなよ!」

   コピーは呆気に取られたような、軽蔑したような目つきでミツオを見た。

   ミツオは顔が上げられない。

   久しぶりに入った自分の部屋で、正座をしていた。

   コピー「全く、何てドジなんだよ、君は!ぼくはね、須羽ミツ夫として生きることを決心し、一人の人間として

   立派にやっていこうと、ささやかながら努力をしているところなんだ!なのに・・・、なのに落第して

   おめおめと帰ってくるなんて・・・。」

   彼の声は、怒りと失望で震えていた。

   コピー「君だって、立派なパーマンになって帰ってくると約束して、旅だったんじゃないか!

   本当に、もう情けないよ・・・!」

   ミツオ「わかった、悪かった。だから、落ち着いてくれよ・・・。」

   コピーは一つ、大きなため息をこぼした。

   ミツオ「ぼくだって、悔しいよ。悲しいよ。自分がドジなのが、熟々恨めしくなってくるんだ。」

   あの時、ロリーナの円盤で勝手に帰ろうなんて考えなければ。

   もっと、しっかりパトロールしていれば。

   こんなことには、ならなかったのかもしれないのに・・・。

   ミツオ「でも、落第している人は多いそうなんだ。ぼくみたいな奴がここまでこられたのも、

   奇跡と言うか・・・、それだけでもよくやったと。」

   コピー「ストップ!」

   するとコピーは突然、ミツオを机の下に押し込めた。

   すぐに窓ガラスが開く音がして、一人の女の子がベランダから部屋に入ってきた。

   ミツオ(パー子!)

   ミツオは慌てて、机の下に身を潜める。

   赤いマスク、緑のマント。パーマン3号だったのだ。

   ミツオ(パー子の奴、本当にパーマンを続けてくれているんだな・・・。)

   パー子は楽しそうに、生き生きとコピーと会話をしていた。ミツオは安心した。

   ― それに引き替えぼくはもう、パーマンであることすらできない。あのバードマン、パーマンセットも制服も・・・、

   ミツオ「・・・あっ!」

   ― コピーロボットも引き取りに来るって、言っていたっけ・・・。

   ミツオは机の下から、コピーを見上げた。

   涙が溢れて止まらなくなった。

 

 2、

 

      マーカス「ゆっくり着地するよ。」

   彼はレバーを握った。

   ロリーナの円盤はマーカスの操縦によって、無事に危険地帯に着陸した。

   窓の外は、まるでジャングルのようだ。見たこともない不気味な草木が生い茂っている。

       空はどんよりと灰色の雲が広がっている。

   静かだ・・・。

   ルーシャ「どうやって石を探すの?」

   ロン「そんなの、歩いて探すよりしょうがないだろ。早くミツオを連れ戻さなくちゃ・・・。」

   彼は一刻も早くミツオに会いたくて仕方がないようだ。ルーシャも思う。

   ― そうよ、絶対にミツオくんは取り戻すわ。ソフィだって、ロン以上にそう思っているはず。

   彼女はソフィの方を見た。

        ソフィがそう言ったロンを止める。冷静さを装っているように見えるが、ソフィは本当は今何を感じているのか・・・。

   ソフィ「待って下さい、ここは危険地帯なんですよ。不用意に行動してはいけません。すぐに道に迷ってしまいます。」

   マーカス「じゃぁ、どうする?」

   するとソフィは円盤の小さな物置の中から、一つの機器を取りだしてきた。四角くて、モニターやアンテナなどが

   付いている、手でつかめる程度の大きさのものだ。

   ソフィ「これは自分が辿った道を覚えさせ、未知の地域の地図を完成させていく道具です。これさえ持って行けば、

   迷っても円盤まで誘導してくれます。もしもの時のために、調査隊バードマンの必需品ですよ。」

   ロン「そっか、それがあれば安心じゃないか!」

   ソフィ「でも、危険生物探知機ではありませんからね。油断は禁物です。」

   この果てしないジャングル・・・。

   生きて帰った者がいない、未開の惑星。何が潜んでいるか、わからない。

   ルーシャ「恐ろしい宇宙怪物でもいるのかしら。」

   マーカス「オバケが魂を吸い取っちゃうのかもよ!」

   ソフィ「とにかく用心するに越したことはありません。武器は円盤にあったレーザー銃4丁。」

   彼女は一人一つずつ、銃を渡した。

   ロン「これだけか、何だか心細いな・・・。」

   彼らはそれをポケットにしまい、おそるおそる円盤のハッチを開けた。

   ロン「レディーファーストだよ。お先にどうぞ。」

   ルーシャ「何よ、あんた男でしょ!」

   ルーシャはロンを外に押し出した。ロンは慌てて銃を取りだし、辺りを見回す。

   近くに何もいないようだ。

   他の3人も円盤から降り、ロンを先頭に密林の中をゆっくりと進んでいく。

   マーカス「凄いジャングルだなあ。前にこんな漫画を読んだことあるよ。主人公以外、みんな宇宙怪物に・・・。」

   ルーシャ「嫌だ、今そんな話をしないでよ!」

   静かだ。

   自分たちの声以外、何も聞こえない。

   ソフィ「生きて動いているものがありませんね。この星には、動物はいないのでしょうか・・・。」

   ロン「そういえば・・・。」

   虫一匹見かけない。

   視界に入るのは、植物ばかりだ。

   しかも異様に大きかったり、刺激臭がしたり、何とも言えない不気味さを漂わせている。

   ルーシャ「でも、でも・・・気配がするの。」

   彼女は前を歩くマーカスの腕を、強く握った。

   ルーシャ「暗く冷たい気配・・・。まるで誰かが、あたしたちを襲おうとスキを狙っているような・・・。」

   マーカス「ぼ、ぼくも・・・。」

   しかし、周りを見渡しても特に何も見えない。丈の高い植物が、視界を遮っている。

   ロン「あれ・・・、何だろう。」

   彼は立ち止まった。生い茂る葉の隙間から、大きな・・・何メートルあるかわからないほど大きな植物が見えた。

   何段にも重ねた巨岩の上に、青白く不気味に輝く巨大な花が咲いている。

   刺激臭が漂い、触角のようなつるがウネウネと動く。

   それを見て、全員は寒気を感じた。

   ルーシャ「なに・・・あれ。」

   数え切れないほど多くの植物が、その花の前に一列に並んでいる。

   そして、順番に花の下へ入っていくのだった。一体、何をしているのだろう・・・。

   ルーシャ「ちょっと、この星の植物って自分で動けるの!?」

   マーカス「よくわからないけど・・・、あの真ん中のでっかいのがボスって感じだね。」

   ソフィ「むやみに近寄らない方が良いですよ・・・。」

   四人はその場から離れ、再び石を求めて歩き出した。

   進むにつれ、植物も深く深く生い茂る。

   それに伴うように、皆が感じる冷たい気配もより強くなっていくようだった。

   彼らはそっと、体を寄せ合う。

   ロン「あっ!!」

   ロンが突然、声を出した。

   ルーシャとマーカスも、叫び声を上げる。

   マーカス「何だ、何だ!どうした、どうした!」

   ロン「あれ・・・。」

   ロンが指さした茂みの奥に、何かがあった。

   ここからではよく見えないが、どうやら人工のものらしい。

   近づいてみると、それはまるで・・・。

   ソフィ「・・・円盤?」

   かなり大きなものだった。バード星のものだろう。

   しかし、所々傷がつき壊れてしまっているようだ。

   とても飛びそうもない。

   ソフィ「どうしてこんなところに・・・。そうか、バード星の調査隊のものですね。」

   調査隊は、もう全滅してしまったのだろうか。

   一体、どうして。

   ロンは円盤のすぐ近くまで来た。

   その時、突然ハッチが開いたのだ。

   ロン「ひぃっ!」

   目の前に何か影が見えた。ロンは思わず、握りしめていた銃の引き金を引いてしまった。

 

   ― チュドーン・・・!!

 

   その音に、その場にいた誰もが目を瞑った。

   ・・・しばらくして、ロンはそっと瞳を開ける。ぼやけた視界の中で、一人の女性がハッチの前で立っていた。

   ロン「にん・・・げん・・・?」

   大人の女性だった。彼女は突然のレーザー銃に驚いたのか、目を見開いて固まっている。

   どうやら銃は彼女をかすめて、幸いにも外れたようだった。

   セミロングの茶髪、くるっとした瞳。土で汚れたバード星調査隊の制服。

   小さな木の実で作った、首飾りのようなものを身につけている。

   少なくとも、敵ではなさそうだ。

   「驚いたわ・・・、急にそんなものを撃つんですもの。」

   透き通った綺麗な声だ。ロンは慌てて、頭を下げる。

   ロン「ご、ごめんなさい!つい・・・。」

   「もしかして、バード星の人?助けてきてくれたの?」

   ソフィ「いえ・・・、わたしたちは。」

   すると、女性の瞳が鋭く光った。瞬間的に腰から銃を取りだし、引き金を引く。

   皆の真後ろで、銃声が響いた。

   「逃げて!!」

   彼女が叫ぶと同時に、彼らは後ろを振り向いた。

   すぐ近くで、巨大な植物が、牙をむいていたのだ。大きな花弁を持つ、暗い紫色のその植物は、

   猛烈な勢いで彼らに迫ってくる。

   マーカス「何だ、これぇ!」

   流石のマーカスも写真など撮る暇もなく、必死に逃げ回る。

   植物は・・・五つはあるだろうか。

   ソフィ「肉食植物ですか!?」

   彼女は銃を撃った。しかし、植物の動きが素早くてなかなか当たらない。

   当たるどころか、植物は自分の方へどんどんと近づいてくる。

   「あたしに任せて、早く逃げて!」

   するとその女性がソフィの前に立ちふさがり、引き金を引いた。

   ソフィは慌てて、その場から逃げ出す。

   銃を撃ち続けるが、植物は素早い動きで見事にかわし、女性に迫る。

   それは大きな牙のある口を開き、彼女に襲いかかろうとした。

   ソフィ「危ない!」

   しかし・・・。植物はふと彼女を見て、口を閉じた。そして、ソフィの方へ向かって牙をむける。

   彼女はそれを見て走り出した。

   ソフィ「どうして・・・、あの人の攻撃をやめたの?」

   それから何故かその女性だけには、植物は興味を示さないようだった。

   ソフィ(どうして、あの人だけ襲われないの・・・?)

   ルーシャ「きゃあああ!」

   不意に叫び声がした。

   見ると、ルーシャが植物に呑み込まれていく。真っ赤で大きな果実が一つついた、2メートルくらいの植物だった。

   ロン「ルーシャ!!」

   あっという間に、ルーシャは植物の花弁の奥に消えてしまった。

   ソフィ「そんな・・・ルーシャ・・・!」

   女性はソフィの腕をつかんだ。そして、銃を放つ。

   植物の動きがひるんだスキを見て、女性はロンたちの手を引っ張った。

   「早く、逃げないと!」

   ロン「でも、ルーシャが・・・!」

   「わかってるわ。でも今は逃げないと、みんな食べられちゃうのよ!」

   4人は必死に走った。

   ジャングルの茂みをかき分け、女性と出会った円盤の中に駆け込む。

   円盤の周りには、小さな種子のようなものが、いくつか宙を彷徨っていた。

   その中の一つが、そっとマーカスに近づいた。

   マーカス「・・・っ!」

   彼は首筋に変な感覚を覚え、慌てて右手でそれを確認しようとした。

   しかし、急に頭がふらつき視界が回転したのだ。意識が遠のいていった。

 

   円盤の中は広かった。

   沢山の機械が置いてあるが、それらはほとんどバラバラに壊れていて動きそうにもない。

   ソファやテーブルもあったが、ひっくり返っている。

   何者かに荒らされたようだ。

   植物が追ってこないことを確認し、4人はホッと息をついた。

   ソフィ「何とか、助かりましたね・・・。」

   彼らは荒い息を整える。

   ロン「でも、ルーシャが・・・。助けに行かなくちゃ!」

   外へ出ようとしたロンを、女性が止める。

   「ここには、あれ以外にも肉食植物が沢山いるわ。むやみに外に出ると、呆気なく食べられてしまう。」

   ロンは顔を歪めた。そして、足を引く。

   「あなたたちは、バード星からの救助隊じゃないの?」

   ソフィ「はい。あなたは?」

   「セレナ・クレメール。バード星の第四次調査隊のバードマンよ。」

   セレナは言った。

   セレナ「この星に調査に来てすぐだったわ。仲間はあっという間に、植物に食べられ全滅。

   今までここに調査に来て、本部に連絡できた隊員はいなかったわけだから、未知のまま不意をつかれちゃったのよ

   ね。肉食植物がいるとは思わなかったもの。この円盤の連絡装置も植物に壊されて、使い物にならないわ。

   無人ロケットを送っても、何かに襲われたのか壊されてしまい、

   データを集めることができなかったのよ。今思えば、この星の植物がやったんでしょうね。」

   悲しい記憶を思い出すように、彼女の瞳が震えていた。

   セレナ「本当にこの星は肉食植物だらけ。しかも、動くための筋肉を持っているの。

   植物のほとんどがそうと言っても、いいくらいよ。ここに生き物がいないのは、みんな植物に食べ尽くされてしまった

   からよ。」

   ソフィ「それなのに、何故あなたは食べられないのですか?」

   ソフィは聞いた。

   植物は、セレナだけ襲わなかったのだ。

   セレナ「それが・・・、自分でもよくわからなくて。前も仲間が襲われていく中、自分だけ興味を示されなかったの。

   おかげで外を歩いていても、捕まることはないわ。」

   ロン「それ、おかしな首飾りですね。」

   彼はセレナの首元を指さした。

   小さな木の実を多数つなげたような、簡単な首飾りだった。

   木の実は鮮やかな赤で、独特の香りがする。

   セレナ「これは、私の母星でとれた珍しい木の実で作ったものなの。不思議な力を秘めた実だと言い伝えられていて

   ね、一つ食べただけで満腹になれるのよ。これのおかげで、今は何とか食料を確保できているわ。」

   ソフィは突然、奇妙な気配に気が付いて後ろを振り返った。マーカスが視界に入った。

   気のせいだろうか、彼の瞳が一瞬鋭く光ったような気がしたのだ。

   ロン「そういえば・・・お腹空いたなあ。」

   セレナ「食べてみる?」

   セレナは微笑んで、首飾りを外し実をいくつかとった。

   そして、ロンとソフィに渡す。

   ソフィ「ありがとうございます。」

   セレナ「ほら、君もいる?」

   彼女は、実をマーカスに向けた。

   マーカス「いっ、いらないっ!!」

   彼は激しく手を振り、叫んだ。ロンとソフィは不思議そうに顔を見合わせる。

   セレナ「そう・・・。」

   ロン「どうしたんだよ、マーカス。顔がこわばってるぞ。」

   彼らは木の実を口にした。果汁が口の中に広がる。

   しかし・・・。

   ロン「・・・うわっ、まっずい。」

   思わず声に出してしまった。その実は、お世辞にも決して美味しいとは言えなかった。

   確かに満腹になったが、後味も悪く普通ならとても食べられたものじゃない。

   セレナ「そうかしら?私はなかなか美味しいと思うけど・・・。」

   ソフィ「あ、もしかして・・・。」

   ソフィはもう一度、首飾りを見た。

   ソフィ「植物はこの木の実のせいで、セレナさんに近づかないのかも・・・。」

   ロン「そうか。こんなまずいもの、食べたくないもんなあ!」

   セレナ「まさか・・・!そういえば、覚えがあるわ。

   私も最初は、襲われたの。その時、咄嗟に手に持っていた木の実を植物の口に投げ込んだのよ。

   そうしたら、何故か植物が倒れてしまって・・・。」

   彼女は首飾りを見つめる。

   ソフィ「もしそうだとしたら、大変役に立ちますよ。一人一個ずつ、これを持っていれば。」

   セレナ「植物に襲われる心配もないわけね!」

   そのときだ。

   突然セレナの手から、首飾りが消えた。

   マーカス「そう・・・、これのせいで私らはお前を食えなかったのだ。」

   マーカスが風のような速さで、それを奪い取ったのだった。

   彼は、いつもの明るいマーカスではなかった。

   瞳が不気味に光り、こちらを冷たい笑みを浮かべながら見ている。

   ロン「マーカス・・・?」

   マーカス「私はこの星の植物だ。少年の体に乗り移って、話しているだけのこと。

   女が持っていた実には、何故かわからないが、私たちの体の働きを破壊する力を持っているらしい。

   しかし、この実がない以上、お前らには私に食われる以外に道はない。」

   乗り移る・・・―

   ソフィ「いつの間に・・・、どうやって。」

   マーカス「もうこの星に動物はいない。お前達は久しぶりのご馳走なのだ。さぁ、大人しくハッチを開けろ!」

   彼はポケットからレーザー銃を取りだし、彼らに向けた。

   黙って手を上げる。ハッチの外には、夥しい数の肉食植物が彼らをまだか、まだかと待ち望んでいるのだろう。

   葉が揺れるような音が、かすかに聞こえてくる。

   マーカス「早く開けろ!・・・死にたいのか。」

   ロンは仕方無く、ハッチのボタンに手をかける。

   ソフィ「させない!」

   ソフィが瞬時に銃を抜いた。マーカスの首元に、弾丸を放つ。

   マーカス「・・・っ!!」

   彼はその場に倒れ込んだ。

   ロン「マーカス!」

   ロンがマーカスに駆け寄り、体を揺する。しばらくして、マーカスはゆっくりと瞳を開けた。

   マーカス「あれ・・・、ぼくは・・・?何をしていたんだろう・・・。」

   ロン「良かった、戻ったな!」

   ソフィは床に落ちた、一つの種子を拾い上げた。

   銃で撃ったので、もう死んでいるはずだ。これがマーカスを操っていたのだ。

   ソフィ「良かった、ハッチを開ける前に間に合いましたね。」

   ロン「え!?それが・・・、その。」

   ハッチの辺りが騒がしくなった。

   見ると、植物たちが円盤の中に入ってきている。

   ロン「ごめん、押しちゃった!」

   ソフィ「馬鹿ーっ!」

   ロンはマーカスの手を引き、セレナたちとハッチの外に向かった。

   レーザー銃を撃ちながら、植物の中を進んでいく。

   しかし、急にマーカスの手が、ロンから離れた。

   マーカス「ロンー!」

   ロン「あっ!」

   声を上げると同時に、マーカスが植物に呑み込まれた。数メートルもの巨体に、青紫の大きな花弁が揺れている。

   ロン「マーカス!」

   セレナ「急いで!」

   彼らは必死に走った。セレナは首飾りを外し、ロンとソフィに実を手渡す。

   3人は振り返った。

   植物たちが追ってこない。距離を置き、もどかしそうにこちらを睨んでいる・・・ように見えた。

   やはり、この実を嫌がっているようだった。

 

   ロン「ルーシャ、マーカス・・・。」

   気が付けば、日が落ちて真っ暗になっていた。

   この星の自転周期は、地球よりも短いようだった。

   3人は小さな洞窟を見付け、そこに身を潜めていた。洞窟の外には、不気味な植物がやはり生い茂っている。

   しかし、実を持っているので襲われる心配はないだろう。

   ソフィ「この実のおかげで、ひとまず安心ですね。」

   彼女が低い声で言う。

   明かりもない小さな洞窟の中なので、お互いの顔がよく見えない。

   しかし、その声からは焦りは感じられなかった。

   ロン「そんな落ち着いている場合かよ。ソフィは心配じゃないのかよ!ルーシャやマーカスが!」

   ロンは立ち上がった。

   しかし狭い洞窟だ。暗闇に、ロンが頭をぶつける音が響いた。

   ロン「ぃったぁ・・・。」

   ソフィ「心配に決まっているじゃないですか・・・。」

   ― 二人は勿論、ミツオさんも・・・。ミツオさん。

   ソフィ「でも・・・もしかしたらもうって・・・思ったら・・・。」

   セレナ「それは大丈夫だと思うけれど・・・。」

   彼女が言った。

   二人はセレナを見た。

   セレナ「私がこの星に来て、仲間を食べられてしまってからしばらく経ったけれど、この星の全ての植物は

   ある大きな花に食べられる運命を持っているみたいね。」

   ロン「どういう・・・ことだ?」

   ソフィ「大きな花って、もしかしてわたし達が見たあの・・・。」

   二人は思い出した。

   セレナ「見たの?大きな大きな花があったでしょう。それがこの星を支配している植物であり、

   他の植物はいわば、そいつの食物なのよ。」

   ロン「そうか。確か多くの植物が、花の下に入っていくのを見たような。」

   この星には動物はいない。

   きっと、肉食植物に食べ尽くされてしまったのだろう。ということは、食べられるものはもう植物しか

   なくなってしまったのだ。それで・・・。

   セレナ「きっとあなた達の仲間を食べた植物も、その花に食べられに行くはずよ。」

   ソフィ「マーカスさんがそうだったように、この星の植物を種子で操っているんですね!」

       ソフィが声を上げた。

   セレナ「そうなの、あいつにはそんな不思議な力があるのよ。友達を食べた植物も、あいつに操られているなら

   彼らを呑み込んではいないと思うわ。多分、口の中に押し込めているだけだと思う。」

   ならば、その植物があの大きな花に食べられに行く前に倒せば・・・―

   ロン「ルーシャとマーカスは助かるかもな・・・。」

   しかし、どうしたら。

 

   ― 絶対に、絶対に助け出さなくちゃ・・・。

   ― ミツオも、ルーシャも、マーカスも。皆、必ず助ける・・・。

 

   ソフィ「このレーザー銃で倒すしかないでしょうね。」

   彼女は自分のレーザー銃を見た。ロンも、取り出す。ルーシャとマーカスが銃を持ったまま植物の口の中なので、

   たった二つしかない。

   しかも。

   ロン「もうこっちの銃、バッテリーが切れそうだ、ソフィ。」

   ソフィ「わたしのもです。これだけじゃ、正直、心細いですね・・・。」

   この植物には、まだ数え切れないほどの肉食植物がいるのだ。

   他にも、何か武器があれば・・・―

   ソフィはセレナのネックレスに付いた実を思い出した。

   これを利用できないだろうか。

   ソフィ「植物に操られたマーカスさんは、この実は植物の体の働きを破壊する・・・と言っていましたよね。

   ならば、これをあの花に食べさせたら・・・。」

   セレナ「可能性が無くはないと思うわ。まだ二人が食べられてから、そう時間も経っていないし大丈夫よ。

   今から少し寝て、朝になったら行動を開始しましょう。」

   ソフィとロンは静かにうなずいた。

 

 3、

 

   翌朝、まだ日が昇って間もないうちに、三人は洞窟を出て歩き始めた。

   ソフィ「とりあえず、あの大きな花の所へ行きましょう。見張っていれば、二人を食べた植物が来ると思うんです。」

   ロン「まだ食べられていなかったら、いいけどなぁ。」

   ロンは自分の後ろを歩く、ソフィの姿を時々確認しながら前へ進んだ。

   まだ朝早いからか、彼らが持っている実のことを既に多くの植物が知っているのか、肉食植物を目にすることなく

   歩いて行く。

   セレナ「あ、見て。あれよ・・・。」

   しばらく行ったところで、セレナは前方を指さした。彼らは近くにあった草の茂みに実を隠しつつ、前を見る。

   昨日見たものと同じ、大きな植物がジャングルの中に居座っている。

   周りには、種子に操られて食べられに来た多くの肉食植物が集まっていた。

   ロン「ソフィ、あれ!」

   ロンが声を上げる。その列の前の方に、二人を食べた植物が並んでいるのが見えた。

   大きな赤い果実を持った植物と、青紫の花弁の植物。

   列は前から順に、大きな花に呑み込まれていく。

   ソフィ「良かった、急げばまだ間に合いそうですね。いいですか、レーザー銃のバッテリーも残りわずかですから、とに

   かく二つの植物を倒すのが先ですよ。」

   ロン「わかってるって。セレナさんは、銃は持っていないの?」

   セレナ「持ってきたものは、皆壊れて使い物にならないのよ。」

   セレナを援護しながら、ルーシャとマーカスを食べた植物を、確実に倒さなければならない。

   あの大きな口の中に、まだ無事でいてくれると良いが・・・。

   ソフィ「時間がありません、行きますよ!」

   彼女の合図で、三人は茂みから飛び出して走り出した。

   それに気が付いた肉食植物が、彼らをも食べようと容赦無く襲いかかってくる。

   ロンはセレナを背中にかばいながら、レーザー銃を撃った。

   ロン「ソフィ、オレはあの赤い方を狙う!ソフィは青紫のでっかい花の方を頼む!」

   ソフィ「わかりました!」

   列に並んでいた肉食植物は、相当な数だ。大きな口が、彼らを呑み込もうとして近づいてくる。

   周りを囲まれ、思うように前へ進めないどころか、無我夢中でレーザー銃を撃ち続けてしまう。

   ロンはセレナを守りながら、時々ソフィの無事も確認した。

   いつの間にか、二人とも目的の植物との距離が置かれる。それどころか、その二つの植物は今にも大きな花に

   呑み込まれようとしていた。

   ロン「まずい・・・っ!」

   そう思った瞬間、赤い果実と青紫の花弁は、その花の口の中へと消えていった。

   ソフィもロンも、そしてセレナもさっと顔が青ざめる。

   ソフィ「ロン・・・!」

   ロン「くっそぉ・・・!」

   しかし、彼らの周りを囲んでいる植物たちの攻撃は止まない。ここでスキを見せたら、今度は自分が口の中へ消える。

   それなのに・・・。

   ソフィ「ど、どうしよう。そんな、ここまで来て・・・。」

   ソフィは焦りが隠しきれなかった。涙目で、大きな花の方を見上げる。彼女にスキが出来た。

   その瞬間を逃さず、目の前に立ちふさがっていた巨体が、牙をむいてソフィに襲いかかる。

   ソフィ「・・・っ!」

   ロン「ソフィ!」

   彼女はギュッと目を瞑った。しかし、自分の身には何事もない。おそるおそる目を開けると、

   ソフィをかばって思わず飛び出してきたロンが、その植物のつるに巻かれて、高く持ち上げられていた。

   ソフィ「ロン!」

   セレナもハッと上を見上げる。彼は強く体を締められ、弱く呻き声を上げていた。

   ソフィ「ロ、ロン・・・ごめんなさい。わたし・・・。」

   するとロンは締められたまま、持っていたレーザー銃を周りの植物にむかって撃ち放った。

   ロン「ソフィ、お前は早くあの大きな花の所へ行って銃を撃つんだ!今なら、まだ助かるかもしれない。早く!」

   ソフィ「で、でも・・・ロンが!」

   ロン「オレのことはいいから!オレは、ここから銃を撃ってソフィを援護する。ルーシャとマーカスを・・・助けるんだ!」

   銃を持ったソフィの手が震えた。

   彼の苦しそうな顔から、目を背けることができない。でも・・・。

   ロン「大丈夫、ソフィなら・・・。」

   その時ロンが見せた精一杯の笑顔を見て、また胸が熱くなった。

   ― ロンのためにも・・・行かなくちゃ。

   彼女はその場から駆けだし、襲ってくる植物の間を走り抜けながら大きな花のもとへと向かった。

   そばで見ると、その巨大さは圧倒させられるものだった。

   不気味な香りが鼻にくる。大きな花弁が、風に揺れて不気味に光っていた。 

   その大きな口には、鋭い牙が向いている。彼女は辺りを見回し、種子に注意しながらレーザー銃を撃った。

   ソフィ「ルーシャを、マーカスを!わたしの大切な仲間を・・・返して!」

   しかし・・・。

   何度銃を撃っても、その花はまるで動じない。「こんなの、痛くもかゆくもない」と嘲笑するように、口が歪む。

   ソフィ「そんな・・・!」

   セレナ「ソフィちゃん、これを!」

   すると後に付いてきたセレナが、首飾りを外してソフィに投げた。ジャラジャラッという音がして、ソフィの手の中に

   受け止められる。

   セレナ「これを、あの口の中に投げ込むのよ!丸ごとね!」

   セレナが息を切らしてソフィに指示する。

   ソフィ「ありがとうございます、ではこれを持っていてもらえますか!」

   彼女は自分が持っていたレーザー銃をセレナに渡した。しかし、さっき花に向かってむやみに打ち続けていたので、

   もうバッテリーが上がってしまっていた。

       ロン「ソフィ、こっちの銃ももう撃てない!大丈夫か!?」

   後ろからロンの声が響く。襲いかかろうとする肉食植物の気配は消えない。

   これに・・・賭けるしかない。

   絶対に外せない!

   ソフィ「二人は、わたしが助ける!」

   ソフィはもう一歩前へ駆けだし、口の至近距離まで近づいた。動けない巨大な花を守ろうと、周りの肉食植物が

   全力で近づいてくる足音が大きくなる。

   彼女はそれに構わず、手に持っていた多数の実が付いた首飾りを、力強く口に投げ込んだ。

   ソフィ「あなたの負けよ・・・!」

 

   巨大な花が、気味の悪い呻き声を上げる。花弁が妙な動きをする。

   ソフィもロンも、セレナもそれをじっと見つめていた。

   首飾りは丸ごと、確かに口の中へ投げ込み呑み込ませたはずだ。大きな口は今は閉じられ、

   牙を食いしばっているような音がかすかに響く。

   ソフィ「・・・。」

   しばらく静かな時が流れた後、花が大きく暴れ出し、そして勢いよく爆発するように体が飛び散った。

   思わず三人は顔を伏せる。

   彼らを囲って並んでいた植物たちも、種子からの支配を逃れ、静止していた。

   つるが緩んだ隙に、ロンはそれを振りほどき跳んで地面に着地する。

   バタバタと飛び上がった体の一部が地面に落ち、大量の密と共に最近食べられて消化しきれてない肉食植物たちが

   飛び出してきた。

   そして。

   ロン「ルーシャ、マーカス!」

   その中から、二人の体が宙を舞って現れた。

   ロンもソフィも慌てて、手を伸ばす。まず、ロンが落ちてくるルーシャを抱えた。

   ソフィもマーカスを何とか受け止めようとするが、思わず手がすくんで、彼はそのまま地面に墜落した・・・。

   マーカス「ったたたた・・・!」

   ソフィ「ごごごご、ごめんなさいっ!」

   彼女は慌てて、マーカスの体を抱き起こした。花の蜜で体がべたべたになっているが、何とか無事のようだった。

   彼はうつろな瞳を開けて、周りを見回す。

   マーカス「あ・・・れ・・・。ぼくはどうなったの・・・。」

   ソフィ「それ、2回目ですよマーカスさん。でも良かった・・・!」

   ソフィは目に溜まった涙をふいた。

   ロン「ルーシャ、ルーシャってば。大丈夫か?」

   彼に抱えられたルーシャも、そっと瞳を開ける。蜜の香りが強く漂っている。

   ルーシャ「あれ・・・ロン。良かった、助けてくれたの・・・。」

   ロン「ソフィのおかげだよ。ソフィが二人を助けてくれたんだ、ありがと。」

   ソフィ「ロンがあの時、わたしを勇気づけてくれたからですよ。お礼を言うのはこっちです。」

   ルーシャはロンの腕の中からそっと降りた。

   ソフィ「かっこよかったですよ、ロン。」

   ロン「あ・・・う、うん。」

   彼は頭をかいた。

   セレナ「良かったわ、ギリギリ間に合ったみたいね。あたしの実が、あんなに効果抜群なんて思わなかったわ。」

   そう言うと、彼女は飛び散った花のカケラを何個か拾い上げた。

   セレナ「あの実は、私の星で邪悪なものから実を守るお守りとして語り継がれているの。どうやら、本当だったみたい。

   まだまだ、あたしが知らないことが沢山あるのね。」

   ロン「えっ、セレナさん。その花のカケラ持って行くんですか?」

   セレナ「あたしはバード星の生態学者よ。星に帰ったら研究しなくちゃ。それが、目的だったわけだしね。」

   マーカスとルーシャは、自分の体にかかった花の蜜を払おうとする。

   マーカス「うっへぇー、べっとべとだよ。嫌な感じ・・・!」

   ルーシャ「何はともあれ、助かったんだから良かったわ。皆、ありがとう。」

   ホッと安心した空気が流れたその次の瞬間。

   我に返った肉食植物たちが、今度は自らの意思で彼らを食べようと動き始めたのだ。

   もうレーザー銃はない。

   ロン「逃げろ!」

   5人は一目散に駆けだした。ジャングルの中、草をかき分けて進むが、植物はどこまでもしつこく追ってくる。

   ソフィ「もうすぐ、わたしたちが乗ってきた円盤があるはずです!」

   ソフィが出てくる時に持ってき機械を手に声を上げた。しかし、そこにあったのは・・・。

   ルーシャ「な、何よこれ!」

   なんと目の前には、何者かに破壊された無残な円盤の姿があった。きっと、植物たちがやったのだろう。

   とても飛びそうにない。

   ロン「ど、どうする・・・!」

   そうこうしている間に、追ってきた植物が近づいてくる。今度こそ、食べられたら即丸呑みだ。

   「みんな、こっちよ!」

   その時、空の上から声がした。皆が見上げてみると、そこにはロリーナが操縦する円盤の姿があった。

   円盤は地面すれすれに近づき、ハッチが開いた。

   彼らは素早くその中に乗り込む。それを確認すると、ロリーナはハッチを閉めて上に高く飛び上がった。

   円盤の窓から外を見ると、逃すまいとして、植物の長いつるが空に伸びてくる。

   ロリーナ「しつこいわね!」

   ロリーナは無理矢理つるを払うと、そのまま急上昇した。

   大気圏を抜け、宇宙空間に出たとき、彼らはホッと息をついた。

   マーカス「はぁ・・・、何とか助かった。」

   ルーシャ「良かったわ・・・。」

   皆は円盤の中のソファに腰をかける。しかし・・・何かを忘れているような。

   ・・・・。

   ロン「・・・良くない!」

   ロンが勢いよく、立ち上がった。

   ロン「あの石だよ、ミツオを助けに石を探しに来たのに、すっかり忘れていたじゃないか・・・!!」

   他の3人もハッと気が付く。

   ソフィ「そうでした・・・黄色に光る石を探してくるのが目的だったのに。」

   セレナ「石って・・・もしかして、これのこと?」

   彼らは振り返る。見ると、セレナが神秘的な光を放つあの石を手にしていたのだ。

   ロン「それだ・・・。」

   セレナ「ジャングルの中に落ちていたのを拾ったのよ。これ、よくわからないけど凄い力を秘めているわね。」

   ルーシャ「とにかく本当に良かったぁ。これで、ミツオくんを呼び戻せるわね。」

   窓の外に広がる宇宙を見ながら、彼女が嬉しそうな声を出した。

   これで本当に一安心だ。

   ロリーナ「あなたは、もしかしてバード星調査隊のメンバーだった方?」

   円盤を操縦するロリーナが背後から話しかけた。

   セレナ「セレナ・クレメールと言います。調査隊の中で、生き残ったのは私だけです。でも、ようやくあの星の秘密が

   明かされると思います。」

   彼女は拾ってきた花や、あの星の植物の一部のことを言っているのだ。

   ロリーナ「生態学者さんよね。どうやら、助かったのはロンくんたちのおかげみたいね。」

   笑っていたが、急に厳しい声を出した。

   ロリーナ「それにしても、皆。よくこんな危険なことに乗り出したわね。バードマンとして、本当はきつ〜く叱らなくちゃ

   いけないところだけど。」

   彼らは息をのんだ。

   ロリーナ「今回はその勇気に感動したわ。石も無事に帰ったことだし、褒めることはできないけど怒れないわね。」

   ロン「ミツオは・・・。」

   彼は尋ねた。

   ロン「ミツオは戻ってくることができますよね・・・?」

   ロリーナ「それは総監次第・・・よ。」

   気が付くと、目の前にはブルーホールが広がっていた。ロリーナは振り返って彼らに合図すると、円盤は

   ブルーホールの隣のバード星に向かった。

 

   総監「ほう・・・確かに、本物のあの石だな。」

   バード星本部の総監室。

   ロン、ルーシャ、ソフィ、マーカス。そして、ロリーナとセレナはすぐに石を総監に届け、緊張した空気の中

   部屋のドアの前に並んで立っている。

   総監は椅子に深く腰掛けながら、石を手に取ってじっと見つめていた。

   総監「それにしても、無事にあの星から帰ってくるとは思わなかったよ。しかも、第四次調査隊のクレメールくんまで

   一緒とはね。」

   セレナ「自分でも気が付かないうちに、持っていたアクセサリーが身を守ってくれていたようで、私だけは生き残る

   ことができました。興味もありますし、これからはあの星や植物について研究してみようと思います。」

   総監「まぁ、後で詳しく話を聞かせてもらおう。何より、石が無事で良かった。」

   石は今もなお・・・いや、むしろ以前よりも神秘的な力を強く放っている。

   何か、想像もつかないような不思議な力を持っているような気もするが・・・。

   ロン「あの、総監・・・。」

   彼が口を開いた。総監は顔を上げる。

   ロン「石は戻ってきたし、これでミツオは戻ってくることができますよね・・・?」

   総監は何もこたえなかった。ただ、ロンの方に厳しい視線をぶつけるだけだ。

   他の皆も、黙って総監の言葉を待っている。

   総監「・・・これは、スワくんが以前提出してくれたSPBのレポートだ。」

   すると、彼は机の引き出しの奥から、そのレポートを取りだして彼らに見せた。

   総監「君たちも読んでみるか・・・?」

 

 4、

 

   3号「まったく、本当にドジねぇミツ夫さん・・・。」

   それから隠れていたミツオは、コピーの失言によりパー子に発見された。

   幸いにもパーマン仲間でパー子だけだったが、いきさつを全て知られてしまった。

   ミツオの部屋の勉強椅子に腰掛けて、正座するミツオを見下ろしている。

   彼は顔を上げられない。コピーも眉を歪ませて、二人を見ている。

   ミツオ「ぼく、PBを辞めたくない。本当はバード星に戻りたいよ・・・。」

   コピー「ミツオくん・・・。」

   ミツオ「でも、もうパーマンであることもできないね。さよなら、『ミツオ』・・・。」

   

   「おかえり、ミツオッ!」

   

   突然、窓の外からそんな声がした。三人は驚いて、振り向く。

   見ると、ベランダにロン、ルーシャ、ソフィ、マーカス、ロリーナ、セレナが立っていたのだ。

   皆、笑っている。

   どういうこと・・・?ミツオ達はキョトンとした目で、彼らを見ていた。

   ミツオ「みんな・・・?」

   するとロンが窓を開けて部屋に入り、ミツオをギュッと抱きしめた。

   ロン「良かったなぁ、戻れるぞミツオ!またミネルダに戻って、オレたちと一緒に・・・!」

   ミツオ「えっ、ど・・・どういうことっ?」

   皆もロンの後に続いて、部屋に入ってミツオを囲む。コピーとパー子も驚いている。

   ロリーナ「ミツオくん、ロンくんたちのおかげで石は無事にバード星に戻ったわ。彼らが君のために、命がけで

   危険地帯まで行ってくれたのよ。」

   彼女の説明に、ミツオはしばらく言葉が出なくなった。

   ― みんなが?ぼくの・・・ために?

   マーカス「ごめんね、ミツオくん・・・。ぼくが、あんな新聞記事を書いたせいで。本当に反省してるよ・・・。」

   ミツオ「マーカス!ううん、君のせいなんかじゃないよ。君もぼくのために、頑張ってくれたんだよね。

   みんな・・・ありがとう。」

   彼の胸に嬉しさがこみ上げた。コピーもパー子も、そっと胸をなで下ろす。

   仲間が温かかった。自分のためにここまでしてくれるなんて嬉しかった。

   いつだっただろう。筆で『友情』という字を紙に書き殴って、真の友達を求めようとした頃は。

   今はこんなに・・・。

   ミツオ「で、でも・・・総監は許してくれたんですか?」

   ロリーナ「ミツオくんが提出したSPBのレポート、総監が褒めていたわよ。確かに誤字脱字がみっともないけど、

   何より平和と正義を愛する心が伝わってくるって。次期バードマン候補の中でも、特にね。

   どんなバードマンになるか楽しみだって、言っていたわよ。」

   総監・・・そんな風に思ってくれていたなんて。

   コピー「良かったね、ミツ夫くん。」

   ミツオ「うん、心配かけてゴメン。」

   ロン「さぁ、早速帰ろうぜ!ミネルダへさ!」

   ロリーナは姿を隠しておいた円盤を操縦して、ベランダの前でハッチを開けた。ミツオは仲間に囲まれて、

   円盤に乗り込んでいく。

   ― 帰れる、また宇宙の平和のためにバードマンを目指すことができる!みんなのおかげで・・・。

   ミツオ「コピー、パー子。また頑張ってくるよ、今度はドジ踏まないように。」

   パー子「当たり前でしょ、いつまでも待ってるわ!」

   コピー「頑張れ、ミツ夫くん!」

   ミツオはうなずいた。

   ソフィは振り返った。ミツオに向かって笑顔で手を振るパー子を見る。

   マスクで顔は見えないが、その綺麗なロングヘアはサラサラで輝いてさえ思えた。

   しかしすぐに足を踏み出し、ミツオ達と一緒に円盤に乗り込む。それを確認したロリーナは、ハッチを閉めた。

   円盤が音を立てて、急上昇する。

   空に消えていく円盤を見上げながら、コピーとパー子はいつまでもベランダから手を振り続けた。

   3号「ミツ夫さん、素敵なお友達が沢山できて良かったわね。」

   コピー「きっと、むこうで楽しくやっているんだよ。」

   二人は笑いあった。

 

   ロン「そんなわけで、オレは肉食植物を前に脅えもせず、ソフィとセレナさんを必死に援護し・・・。」

   ミツオ「へぇ、そんな大変だったんだ・・・。」

   宇宙空間を飛んで架空宇宙を目指す円盤の中、ロンは危険地帯での冒険を語る。

   セレナ「ロンくん、あなたのために必死だったのよ。」

   ロン「あはは・・・、まぁね。」

   ミツオ「そういえば、あなたは・・・?」

   セレナはミツオにも自己紹介をする。その隣で、マーカスがどこからかカメラとメモ帳を取りだし、ロンに近づく。

   マーカス「この冒険は是非とも特集を組まなくては!ねぇ、ロン。ぼくが植物の口の中だった時の事も詳しく話してよ。」

   ルーシャ「マーカスったら、全然反省していないじゃないー!」

   皆は笑いあう。

   マーカス「ところでロリーナさん、あの星の名前はなんというんですか?」

   彼女は円盤を操縦しながらこたえた。

   ロリーナ「そうねぇ、確かゴゴ・・・何とかっていう変な名前だったと思うけど。危険地帯星でいいんじゃない?」

   笑い声が一層大きく響いた。

 

   総監「さて、この石は一体どれだけの力を秘めているのか・・・。」

   彼は一人、総監室で石を眺めていた。

   金色に輝きを放つ石。じっと見ていると、圧迫されそうな何か強いものを感じる。

   今は手の平にのるような小さいものだが。

   総監「調べてみなくちゃならんな。バード星の技術の向上に貢献し、宇宙の平和を守ることに繋がれば良いのだが。」 

   

 

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