LIKE A SHOOTING STAR  

         ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

11、重なる自責

 

1、

 

   ミツオ「あーぁ、つまんないなぁ。」

   ミツオは手に持っていた本を、本棚に戻した。

   ロン「同感。字は細かいし、絵はないし。こんな物見ていたって時間の無駄だよ。」

   彼は高い高い本棚を見上げ、ため息をもらした。

   PB倶楽部が開催される、惑星ルーバで。

   会場に設けられた図書館の中で、ミツオとロンは退屈そうに本棚の前で立っていた。

   ルーシャ「二人とも、何か本を読まないの?折角のPB倶楽部なんだから。」

   ロン「こんなの倶楽部なんて言うのかよ〜。何のために会場の中に図書館を・・・。」

   するとルーシャは呆れたような声を出す。

   ルーシャ「聞いてなかったの?このPB倶楽部会場に設けられた図書館には、さまざまな惑星で書かれた本が

   集められているのよ。それぞれの星の文化を学ぶのに、とっても役立つでしょう。」

   ミツオ「へぇ、そうだったの。じゃぁ、地球のもあるのかな。」

   ルーシャ「ソフィが会議で提案したんですって。例えば、ほら。その星の神話や伝説が書かれた本を読んでみると

   面白いし、PBたちの仲もそれによって一層深まるでしょ。」

   彼女は高い本棚から、神話の本を取り出して二人に見せた。

   それにしても、この部屋には随分多くの本が集められている。一時的な物にしては、十分過ぎる。

   沢山のPB達が熱心に本を借りては読んでいるので、ロンたちにとっては苦手な静かな空間だ。

   ルーシャ「ほら、ソフィなんて真剣に読んでるでしょ。」

   ミツオとロンはソフィの方を見た。

   椅子に座り、分厚い本を読んでいる。ソフィの他にも、部屋の中は本棚と本を読むPBで溢れていた。

   ロン「でもさ、立派なことを言うようなルーシャも、こんな本しか借りていないじゃないか。」

   彼はからかうように、ルーシャの本を指した。

   さまざまの星の料理文化の本だ。ルーシャは舌を出す。

   ルーシャ「エヘッ、ソフィに作ってもらおうかと思って。」

   ミツオ「ルーシャだって、難しい本は苦手だもんね。」

   ミツオも笑う。すると誰かが彼の肩を、突然叩いた。

   ミツオは驚いて振り返る。

   そこには、エディとラナがいた。

   ミツオ「エディ!」

   エディ「君達も読書なんてするんだね、意外だったよ。ソフィちゃんはどこ?」

   ラナ「もうっ、ソフィが何よ!」

   この二人は相変わらずだった。

   ルーシャはソフィの方を見る。彼女は部屋の一角に置かれたソファに腰掛けて、何か分厚い本を読んでいる。

        彼女はエディに気が付いていないようだ。

   ロン「失礼だな。オレたちだって、・・・哲学なんかに興味があるんだぞ。なぁ、ミツオ。」

   ミツオ「ロンが好きな本は流れ星のナッちゃんでしょ。」

   ロン「えっ・・・!」

   するとルーシャが興味津々にロンの顔を覗き込む。エディもラナも、こちらをジッと見た。

   ルーシャ「流れ星のナッちゃん?何よ、それ。」

   ミツオ「ロンが小さい時に、お兄ちゃんからもらった絵本だよ。ナッちゃんという流れ星が幸福の石で、宇宙の人々を

   幸せにするお話しなんだ。ロンは流れ星のように、宇宙を幸せで平和にすることが夢なんだよね。」

   ロン「おい、ミツオッ・・・!」

   ロンは慌ててミツオの口をふさいだ。

   ルーシャたちは、二人の様子を黙って見ている。

   ソフィ「そんな夢があったんですか。」

   そこへ、突然そんな声がした。

   ルーシャ「ソフィ!いつからいたの!?」

   気が付けば、ルーシャの隣にソフィが立っていたのだ。さっきまで読んでいた分厚い本を脇に抱えて。

   ソフィ「面白そうな話をしていたので、聞きに来たんですよ。素敵な夢じゃないですか。

   流れ星になって、人々に幸運を与えようなんて。」

   ラナ「案外、可愛いところがあるじゃない。」

   ロン「もう、ミツオはぁ〜・・・。」

   ミツオは小さく笑った。

   ロン「お兄ちゃんとの約束なんだ。流れ星になるって。バードマンになって、宇宙の全ての人々を幸せにして、

   平和を守るって。」

   エディ「そう簡単にいくかな。」

   冷たい声で。

   エディは腕を組んで、ロンに鋭い視線をぶつけた。

   エディ「宇宙中の平和を守るなんて、そう容易に出来るものじゃないんだ。

   ロン「それは・・・そうだけど。お前、口を開けば憎まれ口ばかりだな。」

   エディ「その何とか・・・いう絵本のように、石をあげただけで人が幸せになると思うのかい?君一人だけの力で、この

   広い宇宙の全ての人々に手をさしのべられるとでも考えているのかい?そんなようじゃ、まだまだお子ちゃまだね。」

   彼は痛々しい態度でロンをあしらう。

   ロンの胸の奥から、怒りが溢れ出した。

   ロン「お前なんかに何がわかるんだよ!勿論、そう簡単にいくとは思っていないし、オレ一人だけじゃどうにもならない

   ことは知っている。だから、皆で頑張るんだろ!PBの協調性を育ませるために、PB倶楽部やってるんだろ!」

   彼は図書館の中にいた他のPBたちを指さした。

   大声を出したからか。

   皆、本から顔を上げ、こちらの様子を伺っていた。

   ロン「オレはただ、お兄ちゃんとの約束を守りたいだけ!多くの人に、笑顔でいてほしいだけだ!

   それは・・・、それはエディだって同じだろ?だから、パーマンやってきたんだろ・・・。」

   エディは厳しい表情を崩さずに、ロンの方をただ見ていた。

   ミツオ「あの・・・ゴメン、ロン。」

   ロン「あ、いや。ミツオは悪くないよ。」

   ソフィ「エディさん・・・。」

   

   その時だった。

   突然、シャッターが切れるような音がして、視界が眩しく光った。

   ミツオたちは反射的に目を閉じる。

   「はーい、スクープ!スクープ!」

   すると本棚の影から、カメラを持った小柄な少年が飛び出してきた。

   金髪に、青いバンダナのようなものを巻いている。

   エディ「わっ!」

   彼を見て、エディが突然ラナの背後に身を隠した。体が小刻みに震えているが、ラナ以外は気が付かない。

   「PBの友好を深めるためのPB倶楽部で、なんと喧嘩をしている人がいる!これは、困ったことだ!」

   その少年は、メモ帳を取り出すと素早くミツオに駆け寄る。

   「何が原因?今の心境は?」

   ミツオ「え?ぼく・・・!?」

   「ねぇねぇ、どうして喧嘩になったの?最初に始めたのは誰?」

   ミツオ「あの・・・、ぼくじゃないんですけど。」

   ロン「ちょっと待てよ、マーカス。」

   ロンが、少年の腕をつかんだ。皆の視線に気が付き、マーカスと呼ばれた少年は頭をかく。

   マーカス「いやぁ、すみませんねぇ。いつもの癖が出て。」

   ルーシャ「あなた、まだそんなことやってるの?物好きねぇ。」

   マーカス「まぁ、写真を撮ることと、新聞を作ることはぼくの趣味であり、生きがいだからね。」

   ミツオはキョトンとして、彼らのやりとりを見ている。

   彼には、この少年に見覚えがなかった。

   ミツオ「ねぇ。みんな、この子のこと知ってるの?」

   ロン「えぇ!ミツオ、知らないのか!」

   その会話に気が付き、マーカスはミツオに向かって微笑んだ。

   明るくて、感じの良い笑みだ。

   マーカス「では、そんな彼のために自己紹介。ぼくはマーカス・ブラウニング。趣味はさっきも言った通り、写真撮影、

   新聞製作!ぼくの両親と同じく、母星にいた頃は、新聞記者を目指していたんだ。」

   ルーシャ「マーカスって、バード星の学校にいた時も度々新聞を自作しては、

   好き勝手にみんなに配り散らかしていたわよね。その内容も、強引なインタビューとか取材とかで・・・。」

   ロン「迷惑な奴ってことで、有名だったな。」

   マーカス「強引じゃないよ。あくまで、新聞作りのために協力してもらっているだけさ。」

   そう言って、彼はラナの方に視線を移した。

   その背後にいたエディは、驚いたような表情でマーカスを見る。

   マーカス「やぁ、エディさん!いたんですか〜!」

   エディ「ぅわぁっ、来ないでくれよ!」

   その異様な反応に、ロンたちは不思議そうに彼を見つめた。

   マーカス「また取材させてくださいよ。今度は何をテーマにしようかな?そうだ、どんな本を借りましたか!?」

   エディ「何も借りてない!早く帰ってくれよ。」

   ソフィ「あの・・・、エディさんどうしたんですか?」

   すると、ラナは困ったような顔でこたえた。

   ラナ「エディは以前、マーカスに何回も記事にされたことがあるのよ。それも、本人にとってあまり好ましくないような

   内容で。例えば・・・。」

   エディ「ラナ!その先は言わないでくれよ!」

   ラナ「・・・まぁ、こんな訳でエディにとってはマーカスはかなり苦手な存在なのよね。」

   確かにそのようだ。

    しかし、マーカス本人は迷惑がられていることなど全く気が付いていない。

   ソフィ「でもどうして、そんなに何回も記事にされたんです?」

   ラナ「それは勿論、エディはイケメンで優しくて、家が大金持ちだからよ。ロットと言えば、宇宙的に有名な大企業

   でもあるのよ。おまけに、こんなに可愛い彼女もいてもう、エディの幸せ者!」

   ソフィは引きつった表情で笑った。

   ソフィ(エディさんがわたしに好意を寄せていると知ったら、マーカスさんは何が何でも取材して記事にするんでしょう

   ね・・・。そんなの駄目です!絶対に、させるものですか!)

   ソフィもマーカスの方を睨む。

   無論、彼は気が付かない。

   マーカス「エディさんは、どんな本に興味があるの!やっぱり、さまざまな星の文化とかかな。そうそう、地球という星

   を知ってる?その辺境の星には、野蛮人がうようよと・・・。」

   ミツオ「ちょっと。野蛮人って、誰のことさ!」

   マーカスはよく動く口を止めて、ミツオの方を見た。

   ルーシャ「ミツオくんは地球人なのよ。」

   マーカス「えぇ、地球人!?ぼくが噂に聞いた地球人は、猿みたいに野蛮で凶暴で・・・。」

   ミツオ「ウキーッ!!」

   怒り狂うミツオを見て、マーカスは瞳を輝かせた。

   マーカス「ごめん、ごめん!ねぇ、取材させてよ。今度のトップは、地球人であるミツオくんのことに決まりだね。

   地球出身のPBなんて、君が初めてじゃないかな。記事のためにも、君たちの担当惑星に行かせてよ!」

   ロン「えぇっ、でもな・・・!」

   マーカス「お願いしますよ、イケメン・ロンさん。迷惑はかけないから。」

   イケメン・ロンさん・・・。

   ロン「いいだろう。」

   ミツオ「ヘコーッ!!」

   彼はヘコる。迷惑をかけないと言う言葉も、アテになるのかどうか・・・。

   しかし、もうロンは乗り気だった。

   ソフィ「ちょっと、ロン!」

   ロン「まぁ、いいじゃないか。ちょっと取材するだけなんだからさ。」

   ロンは嬉しそうにこたえる。マーカスも、カメラを手に楽しそうに微笑んだ。

   マーカス「では、よろしくお願いしまーす!」

   エディはターゲットが自分からミツオに変わったので、ホッと息を漏らした。

 

 2、

 

   ミツオたちはマーカスと一緒に、ルーバからミネルダに帰った。PBハウスの前で。

   マーカスは、何かと写真を撮っている。

   マーカス「このカメラは、バード星の最新型なんだ。凄く高性能で、さまざまな機能が・・・。」

   アロデーテの前で、彼がカメラについて自慢し始めたとき、

   ミツオのパーマンバッチが音をたてた。

   ミツオ「やぁ、ネオか。あっ、今日はぼくがパトロールする番だったっけ。ごめん、すぐ行くよ。」

   彼はバッチを切ると、ポケットからパーマンセットを出して、パー着した。

   ミツオ「じゃぁ、ちょっと行ってくるよ。」

   ロン「頑張れよー。」

   ミツオは空へ飛び立った。ロンはそんな彼に手を振る。

   マーカス「ねぇ・・・、ミツオくんはもしかして?」

   ルーシャ「そう、SPBよ。」

   彼女は自慢げに答えた。

   またマーカスの瞳が光り輝く。

   マーカス「ぼく、以前からSPBの密着取材をしてみたかったんだ!行ってくるよ!」

   ロン「おいっ、待てよ!」

   マーカス「大丈夫!こっそりと撮るだけで、活動の邪魔はしないから。」

   そう言うと、マーカスもパーマンセットを取り出し、

   カメラを大事そうに抱えながら、ミツオの後を追い飛んで行ってしまった。

   三人は唖然と、見つめる。

   ロン「・・・いいのか?」

   ソフィ「まぁ、写真を撮るくらいなら。ミツオくんが何かドジをしなければ・・・。」

   ルーシャ「ロン、ミツオくんがドジをする可能性としない可能性、どっちが高いと思う?」

   ロンは間を置かずに瞬時に答えた。

   ロン「する可能性の方が高い!」

   ソフィは不安そうな表情を浮かべた。

 

   一方、ミツオはマーカスに盗撮されているとも知らず、のんびりとアロデーテの空を飛んでいた。

   マーカスは彼に気付かれないよう細心の注意を払いながら、その後をつけている。

   アロデーテは特に問題も無く、平和な時間がゆったりと流れていた。

   ミツオ「どこかに強盗、空き巣、かっぱらいはいませんか〜。いませんよね、アハハハ。」

   彼は一人、空の上で笑う。

   子供達が楽しそうに、野球をして遊んでいる姿が見えた。

   ミツオ「懐かしいな・・・、野球か。ぼくも昔、カバオたちとよくやったっけ。」

   ミツオは空き地に降りた。子供達がパーマンに気付き、手を止める。

   ミツオ「みんな、面白そうだね。ぼくも仲間に入れてよ。」

   彼は少年からバットを借りると、ピッチャーの投げるボールをそれで思い切り叩いた。

   ボールは空き地の塀を越え、隣の家の庭に飛び込んだ。

   「あっ!!」

   子供達が声を上げると同時に、

   ― ガッシャーン

   と、何かが割れる音が響いた。

   「こらー!」

   「あーぁ。パーマン、どうしてくれるんだよ!あそこの家のじいさん、怒ると怖いんだから。」

   一人の少年が、ミツオを睨む。

   彼は「ご、ごめんなさぁい!」とだけ言うと、バットを放り出し、慌てて空へ逃げ出した。

   その時、

   ミツオ「あれ?何かシャッターの切れるような音がしたけど・・・。気のせいかな。」

   ミツオは深く考えず、パトロールを続行した。

   

   マーカス「スクープ、スクープ!SPBがあんなことで、いいのかねえ。ようし、もっと沢山

   面白い写真を撮ってやるぞ!」

 

   それからしばらくして。

   PBハウスの中で待っていたロンたちは、ドアが開いた音がしたので

   玄関に視線を移した。

   マーカスが足取り軽げに、カメラを持って戻ってきたのだ。

   ロン「おかえり。随分、楽しそうだな。」

   マーカス「いやぁ、面白い写真が沢山撮れたよ!早速帰って、記事を書くんだ!ミツオくんにお礼を言っといて。

   じゃぁね!」

   言いたいことだけ勝手にしゃべると、マーカスは勢いよく扉を開けてPBハウスを出て行ってしまった。

   入れ違いで、パトロールを終えたミツオが入ってきた。

   ミツオ「あれ?マーカスはもう帰るの?ぼくに取材させてくれって、言っていたのに・・・。」

   ルーシャ「ハハハハ・・・。」

   彼女は視線をそらして笑う。

   ソフィ「それより、ミツオさん。しっかりパトロールしてきたんですか?」

   ミツオ「勿論だよ。グルーッと回って、問題が起きていないか調べてきたよ。」

   

   「それだけでいいと思ってるの?」

 

   不意に後ろで声がした。

   ミツオは振り返った。玄関に、ロリーナが立っていた。何時になく、険しい表情だ。

   ミツオ「ロリーナさん・・・?」

   ロリーナ「あなたはSPBが何のためにあるのか、忘れちゃったの?ただ、一緒にパーマン活動していればいいと

   いうものじゃないわ。」

   ミツオはクエスチョンマークを浮かべる。

   ロリーナ「体験して得た結果などを本部に連絡しないといけないでしょ。例えば報告書を書いて提出するとか。

   ただパーマンになって飛び回っているだけじゃ、遊んでいるとしか思えないわ。」

   ミツオは今までのパトロールのことを振り返る。

   実は野球のことをはじめ、とんでもない失敗をいくつかやらかしてしまったのだ。

   いねむりしかけていて、電柱にぶつかったこと。

   降りようとしたときに、よそ見をしていて犬のしっぽを踏んでしまい追いかけられたこと。

   まだ沢山あった気がする。

   ロリーナ「総監に怒られちゃったわ。ミツオくんを叱っといてくれって。今日はそれを言いに来たのよ。」

   ミツオ「・・・すみません。」

   ミツオは反省する。するとロリーナは、表情を緩めた。

   ロリーナ「わかったら、それでいいのよ。じゃぁ、今から5分以内に報告書を書いてもらいましょうか。」

   ミツオ「えっ?」

   彼は耳を疑った。

   ミツオ「今何と?」

   ロリーナ「5分以内に、報告書を書いて。私の円盤で、総監のもとへ送ってあげるから。」

   ミツオ「冗談でしょう?」

   ロリーナ「本気です。」

   彼女の笑顔には、底知れない迫力があった。ミツオは慌てて部屋に飛び込み、ペンを握った。

 

 3、

 

   ミツオ「あの・・・どうでしょうか。」

   ミツオは総監に向かって聞いた。総監は険しい表情のまま、ミツオの報告書を読んでいる。

   あれから必死で報告書を完成させ、

   ロリーナの円盤でバード星本部にまで送ってもらったのだ。

   そして、今、それを総監に見せている。彼はレポートをしばらくの間、黙ってじっと見つめていた。

   その後、総監は報告書を音を立てて机の上に置いた。

   総監「字は間違いだらけ、文法も滅茶苦茶・・・。よく、ここまで落第せずにこられたものだ。」

   ミツオは苦笑いをする。

   総監「まぁ、良いだろう。そう・・・ロットくんを知っているかい?」

   ミツオ「ロット・・・?あぁ!」

   エディのことか。

   総監「彼なんて、頻繁に報告書を出しに来てくれるんだよ。君も見習いなさい。」

   ミツオ「はい・・・。」

   総監「よし、もう帰っていいよ。」

      ミツオは部屋のドアを開けた。すると、総監に呼び止められる。

   総監「あっ、ちょっと待ってくれ。」

   ミツオは足を止めた。

   総監「君は、ロリーナくんと一緒に来たんだろう。だったらこれを彼女に渡し・・・いや。」

   そこで、彼は言葉を濁らせた。

   総監「君のことだからなぁ、こんな大事な物を預けるには心配だ・・・。」

   ミツオ「ちょっと、馬鹿にしないでくださいよ。届け物くらい、できますよ。」

   彼は馬鹿にされたような態度に腹が立ち、思わずそう言ってしまった。

   総監は迷ったようだが、「まぁ届け物くらいならな。」と言い、ミツオに箱を渡した。

   ガラスで出来た箱だ。中には、イエローに輝く、綺麗な石が入っている。

   その石の光が・・・神秘的というのだろうか。何か、秘めたる力を持っているようなオーラを感じる。

   ミツオは圧倒された。

   ミツオ「これを・・・?」

   総監「そう、ロリーナくんに渡してくれ。絶対に渡すんだぞ。絶対に。」

   ミツオは石を持って部屋を出た。

   総監はやけに念を押していたが、これはそんなにも大事なものなのだろうか。

   ミツオ「とにかく、ロリーナさんに渡そう。」

   彼は円盤が止めてある駐ロケット場に来た。しかし、待っているはずのロリーナがいない。

   円盤には紙が貼ってあった。

   『ミツオくん 急用が出来たので、少しの間出かけます。すぐに戻るから、悪いけど待っててね。』

   ミツオ「ふうん・・・そうなんだ。」

   

   待つこと約2時間あまり。

   ミツオ「すぐに戻るって、言ったくせに・・・。」

   彼は周りを見渡した。見えるのは沢山のロケットや円盤だけ。ロリーナの姿は見当たらない。

   ミツオは焦れったくなり、円盤を覗き込み、中に入った。

   ミツオ「操縦の仕方は大体覚えたんだ。大丈夫だよ、先にミネルダに帰ったって。」

   彼は操縦席に座り、記憶を探りながらレバーを押した。

   円盤がゆっくりと上昇する。

   ミツオ「やった、動いたぞ!」

   そのまま宇宙空間に飛び立つ。

   自分で円盤を操縦するとは、何と気持ちの良いことだろうか。

   そういえば、昔、船の船長に少しだが憧れたことがあった。

   ミツオ「このまま帰るのもつまらないな・・・。ようし、ちょっとだけ。」

   ミツオはワープのスイッチを押した。少しの間だけ超空間に入り、その後は見たこともない宇宙が視界に

   飛び込んできた。

   彼は思わず声を上げた。

   ミツオ「凄いなあ!この制服は、宇宙空間に出ても大丈夫なつくりになっているんだっけ。」

   ミツオは円盤のハッチを開けた。近くに、惑星が見えた。

   何と言う名前の星だろう?

   そこで、ハッチの近くに置いておいた、あの箱に気が付いた。

   ミツオ「そうそう。ロリーナさんに渡さなくちゃいけなかったんだ。」  

   ミツオはその箱を手に取る。石は、やはり神秘的な光を放っていた。

   ミツオ「これ・・・、一体なんだろう。」

   ガラスの箱は簡単に開いた。ミツオは石に手を伸ばした。

   ミツオ「わっ!」

   しかし、手を滑らせ石を落としてしまったのだ。

   石はミツオの近くに見えた惑星の引力に引かれて、真っ逆さまに落ちていく。

   ミツオ「ど・・・、どうしよう!追いかけなくちゃ!」

   彼は円盤に飛び乗り、レバーを引いた。

   すると、機内が赤い光に包まれ、ブザーのような音が響いた。

   『危険地帯、危険地帯、立ち入り禁止、立ち入り禁止。』

   機械のような声がミツオに訴えかける。しかし、彼は構わずレバーを引き続けた。

   ミツオ「あれ・・・、どうしたんだよ。」

   何故か、円盤がこれ以上あの惑星に近づけない。

   危険地帯には入れないように、円盤を設定してあるのだろうか。

   ミツオ「どうしよう・・・。」

   しかし、ミツオにはどうすることもできなかった。ただ、目の前の惑星を見ているだけだった。  

   その惑星は、危険地帯というには十分な怪しげな気配に満ちている。

   ミツオは仕方無くコース履歴を辿り、ミネルダに向かった。

 

 

   マーカス「こんにちは〜。」

   PBハウスに、マーカスが笑顔で飛び込んできた。そして、紙を三枚ばらまいた。

   ソフィ「マーカスさん!」

   マーカス「それを見てよ。たった今、刷り上がった新聞だよ。」

   ロンとルーシャはその内容に、ギョッとした。

   ミツオの写真が、トップに大きく載せられていたのだ。しかも、その内容が・・・。

   ルーシャ「ミツオくん・・・。」

   彼女は思わず、ため息をついた。

   野球をしていてガラスを割り、逃げ帰るミツオ。

   犬に追いかけられるミツオ。

   いねむりをして、電柱にぶつかつミツオ・・・。

   マーカス「いやぁ、なかなか面白い記事に仕上がったよ!バード星でも、好評だったんだ。」

   ロン「バード星にまで行って、配ってきたのか!これを!?」

   マーカス「そうだよ。ぼくは、円盤をレンタルしてバード星や担当惑星を度々行き来してるんだ。」

   ハウスの外にある小さな円盤は、マーカスがバード星のロケット屋で借りているものらしい。

   ソフィ「もう、ミツオさんは・・・。」

   彼女は頬を赤く染めた。

   その時、ドアが開く音がした。

   ロリーナ「ねぇ、ミツオくんは?ミツオくんは帰ってきていない?」

   ロリーナが突然、入ってきた。今日は人の出入りが多い日だ。

   ソフィ「いえ、まだですけど・・・。」

   ロリーナ「あの子ったら、私の円盤を勝手に乗っていっちゃったのよ!仕方無いから、借り物でここへ来たけど。

   しかも、総監から大切なあの石を預かったみたいで・・・。もう、どこへ行ったのかしら!」

 

   総監「ったく、何てことをしてくれたんだ!」

   彼は机を叩き、モニターの前を立ち上がった。

   画面は、ミツオがあの石を落としてしまった場面を、しっかりと映し出していたのだ。

   総監「よりによって、あんな星に・・・。」

   険しい表情のまま、部屋の外へ駆け出た。

 

 4、

 

   ミツオはミネルダまで戻ってきた。

   ハウスの前に見慣れない円盤が二つある。

   ミツオも近くに円盤を置き、PBハウスのドアを開けた。そして、床に散らばっている新聞に目が付く。

   その一枚を拾い上げた。

   ミツオ「わっ、何だよこれ・・・!」

   新聞の内容に仰天する。気が付くと、マーカスがいて、こちらを見て笑っていた。

   手に持っていた新聞が、クシャッと音を立てる。

   ロリーナ「あ、ミツオくん。駄目じゃないの、円盤を勝手に・・・。」

   すると、ロリーナさんが駆け寄ってきた。ミツオはハッとして、咄嗟に頭を下げる。

   ミツオ「あの、その・・・すみません!」

   ロリーナ「仕方無いから、私もレンタルのロケットで飛んできたのよ。総監から聞いたけど、石を預かったんですって。

   ほら、箱に入った綺麗な石。あれはどこ?」

   ミツオ「そ、それは・・・!えっと・・・。」

   謝らなくちゃ。

   ミツオが「ごめんなさい!」と言うと同時に、ドアが勢いよく開いた。

   総監が入ってくる。

   総監「ミツオくん。やはり君に頼んだのは、間違いだったみたいだね。」

   冷たい目で、彼を見る。ミツオは頭が上げられなかった。

   総監「どうも心配になって、モニターで様子を見ていたんだ。すると君は円盤をおもちゃにするし、預けておいた

   石は落としてしまうし・・・。」

   ロンたちはわけのわからないまま、ミツオを見ている。

   しかし、ここまで態々来た総監やロリーナの様子を見て、ただ事ではないことだけはわかった。

   総監「あれは、何の石か知っているかい?・・・と言っても知らないよな、まだ名前も決まっていない。

   あれは最近新しく発見された新種の石なんだよ。たった一つしかないね。

   しかも、秘めたる偉大な力を持っているらしい。

   あれがあれば、バード星の科学技術は、宇宙の平和を守るために、さらに飛躍的な発展を遂げられたはずなんだ。」

   ミツオはロリーナを見る。彼女は黙って、小さくうなずいた。

   ミツオ「すみません・・・。」

   総監「すみませんじゃ、済みませんよ。普通の星に落としたのなら、拾いに行けるよ。しかし、あの星はとんでもない

   危険地帯なんだ。今まで何人か調査隊を出したが、生きて帰ったものは一人もいない。

   だから、もう調査は中止し、立ち入ることを禁止された星なのさ。」

   ソフィは考えた。

   ミツオさんは多分、総監からロリーナさんに渡してくれと、ある石を預かり、

   一人でミネルダに帰ろうと円盤を勝手に操縦した結果、どこかの星に石を落としてしまったのですね。

   大切な石を、大変な危険地帯に。

   本当にドジなんですから・・・。

   総監「探しに行きたくても、これ以上の犠牲者は出せない。よって、あの石はもう手に入らない。

   あれ一つしかないんだ・・・。」

   そこで、総監は床に置かれた一枚の新聞に目が留まった。

   彼はそれを拾い上げる。マーカスがハッとした表情で、総監を見た。

   総監「これをバード星で見たよ。君はSPBとしての自覚を持っているのか。報告書も言われなくては出さないとなると

   君をSPBにしたのは・・・いや。」

   そこで、彼は少し間を置き、こう告げた。

   総監「PBとして、こうして実技テストを受けさせているのは間違いだったようだね。」

   ミツオは顔を上げた。

   ロンたちも、驚きと焦りの表情を浮かべる。

   総監「よって、ミツオ・スワの落第を言い渡す。」

   ミツオの目が大きく見開いた。

   部屋に沈黙が流れる。ロリーナも、これには驚いたようで目を丸くして総監を見ていた。

   ― らく・・・だい?

   何も言えないまま、彼らはそこに立っていた。

   しばらくして、ドアが閉まる音が静かに聞こえた。総監は出て行った。

   ロリーナ「じゃぁ、荷物を整えて。すぐに出発するから。」

   彼女が沈黙を遮った。

   ロリーナ「今、係のバードマンを呼ぶわね。彼が、あなたを地球まで送ってくれるから。」

   ロン「ちょっと、待って下さいよ!どうして・・・、ロリーナさんまで!」

   彼が必死に叫んだが、ロリーナは静かに首を振った。

   ロリーナ「ごめんなさい。上の命令には、逆らえないのよ。」

   ミツオはロリーナを見た。

   彼女の瞳は、悲しそうに光っていた。ミツオは黙って、自分の部屋に入る。

   ロンが慌てて追いかけた。

   ロン「ミツオ!」

   ミツオ「ごめん・・・ぼくのせいだ。ぼく、本当にドジでおっちょこちょいで、駄目な奴で。

   みんなにも、迷惑ばかりかけたよね。」

   彼の後を追い、ソフィとルーシャも駆け寄ってきた。

   ミツオ「ぼくの分まで、立派なバードマンになってよ。地球から、応援してる。君たちのことは、絶対に忘れない。」

   ロン「ミツオ・・・。」

   しばらくして、迎えのバードマンが来た。皆で、ハウスの外に出る。

   ミツオは円盤に乗り込んだ。

   ミツオ「今まで、ありがとう。もう二度と会うことはないと思うけど・・・、ぼくのこと忘れないでよね。」

   ロンたちも何も言えなかった。ロリーナも黙って、上昇していく円盤を見上げている。

   円盤はみるみるうちに空の彼方へ消え、見えなくなってしまった。

   ロン「ロリーナさん・・・、こんな突然なことって・・・。」

   ロリーナ「・・・。」

   

   マーカス「ごめん・・・。」

   気が付くと、横にマーカスが立っていた。目に涙を浮かべている。

   マーカス「ぼくがあんな記事を書いたからだ。あれを見て、総監はミツオくんの落第を決定づけたんだよ・・・。

   ぼくせいで、ぼくのせいでミツオくんは・・・!」

   そのまま地面に崩れ落ちた。ルーシャは彼の背中をさする。

   ルーシャ「マーカスのせいじゃないわよ。大丈夫。」

   マーカス「でも・・・。」

   ソフィも静かに空を見あげていた。頬に涙が伝う。

   ロン「オレは・・・認めない。」

   彼が力強く言った。

   ロン「ロリーナさん。その石が何だか知らないが、そんなに必要なら、オレが取ってきてやるよ。」

   ロリーナは驚いた。ソフィたちも彼を見る。

   ロン「それだけでミツオを落第させるなんて、絶対に認めない。ミツオは誰よりも、正義感が強くて平和を愛しているん

   だ。それはオレが一番よくわかっている。だから、何が何でもミツオを取り返してみせる。」

   そう言って、ロンはミツオが乗ってきたロリーナの円盤に乗り込んだ。

   ソフィ「ロン!」

   ロン「その石を持ってこればいいんだろう。そうしたら、きっと総監も許してくれるはずだ。」

   ソフィ「聞いていたでしょう!ミツオくんが石を落とした星は、生きて帰った者がいない、危険地帯なんですよ!

   そんなところに行ったら、あなただって・・・。」

   ロン「そうだけど・・・、だけどミツオを取り返すには、行くしかしようがないじゃないか!」

   すると、ルーシャとマーカスも円盤に乗り込んだ。

   ルーシャ「あたしも行く。」

   マーカス「ぼくも。ミツオくんに、謝りたいんだ・・・。」

   それを見て、ソフィも円盤に上がった。

   ロン「ソフィ・・・。」

   ソフィ「今回だけですよ。」

   そう言うソフィの顔は笑っていた。ロンは嬉しさがこみ上げた。

   ロリーナ「本当に行く気なのね・・・。」

   彼女に、ロンはうなずく。

   ロン「すみません、ロリーナさん。この円盤、貸してもらいますね。」

   ロリーナ「ミツオくんが行った星には、コース履歴を辿れば着けると思うわ。今のままだと危険地帯に近づけないように

   設定されているから、レバー左上の小さな赤いスイッチを二回押して。

   黄色く神秘的に光る石を探してね、手の平に乗るような小さなものよ。」

   彼女は、ロンたちが行くことを許してくれたのだ。

   ロリーナ「あたしもついていきたいところだけど、これから外せない重要な仕事があるの。

   でも大丈夫。ミツオくんを想う気持ちが強ければ、きっと成功するから。」

   マーカス「操縦はぼくに任せてよ。」

   彼は操縦席についた。

   ルーシャ「大丈夫なの?」

   マーカス「いつもレンタルで借りた円盤を乗り回しているんだよ。慣れたもんさ。」

   マーカスは得意げに言う。

   そして、手前のレバーを引く。円盤は静かに上昇を始めた。

   ロリーナ「しっかりね!」

   ロン「はい!許可してくれて、ありがとうございます。絶対に石を持って帰ります!」

   ロリーナは円盤に向かって手を振った。

   円盤はマーカスの操縦で、危険地帯を目指し空へ消えてゆく。

   そこで、ロリーナの通信機のスイッチが入った。

   総監『どういうつもりかね。これ以上、犠牲者を出すのか。』

   ロリーナ「違いますよ。私は、彼らを信じているんです。絶対に彼らは、石を探し出してきてくれますよ。」

   

   ロン「みんな、本当にいいのか?命の保証がない星へ・・・。」

   円盤の中で。

   彼らは順調にコース履歴を頼りに、超空間の中を飛んでいた。

   ルーシャ「だって、ロンは行くんでしょう。あたしだって、ミツオくんに戻ってきてほしいもの。」

   他の二人も笑顔でうなずいた。

   ロン「ありがと・・・。」

   しばらくして、超空間を抜けた。

   視界に入った、一つの惑星。危険地帯というのに相応しい、不気味なオーラを漂わせている。

   今まで何人もの調査隊が乗り込み、消息を絶ったこの星で。

   ロンたちのようなPBが、石を探しだし、無事に帰ることができるのだろうか。

   しかし・・・、やらなくてはならないのだ。ミツオのために。

   

   ミツオ、安心しろ。すぐにまた、会えるから・・・―

 

   マーカスは左上の小さなスイッチを押し、円盤は危険地帯の大気圏内に入っていった。

   

   

 

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