LIKE A SHOOTING STAR                    

          ミツオ留学後の世界を描いた、連載ストーリーです。

 

 10、雪山を彷徨う声

 

  1、

 

   ロン「青空にポッカリ浮かぶ白い雲・・・、君たちはどこへ向かっているのか・・・。」

   なーんちゃって。

   芝生の上で寝転がっていたロンは、起き上がった。優しい風が頬をなでた。

   透き通るような青空が、どこまでもどこまでも続いている。

   ロン「こんな良い天気の日に、パーマンの管理なんて面倒くさいよなぁ。」

      彼は振り返った。白を基調とした建物、PBハウスが視界に入る。

   ロン「だいたい、ずーっと行動を見張っていなくてもいいじゃないか。パーマン1号が昼寝している姿を見て、何が

      面白い。」

   ルーシャ「ちょっと、ロン!」

   彼は突然の大声に、ビクッとする。PBハウスから、一人の女の子が出てきた。ルーシャだ。

   ルーシャ「パーマンの管理をすっぽかして、暢気に遊んでるんじゃないわよ!早く、戻りなさいよ!」

   ロン「はいはい、わかりましたぁ〜。」

   彼は、パーマンの監視が嫌になってハウスの外の芝生に寝転がっていたが、

       おとなしく管理室に戻ることにした。抵抗しても、すぐに取り押さえられることはわかっているのだ。

   その様子を見て、ルーシャはため息をこぼした。

   ロンが、ハウスのドアを開けようとした時だ。彼はハッと振り返った。

   ルーシャ「どうしたの?」

   ロン「あの円盤・・・、ロリーナさんの物じゃないな。」

   ルーシャ「え?」

   彼女も空を見上げる。確かに円盤のようなものが、こちらに近づいている。

   その姿はみるみるうちに大きくなり、やがて静かにアロディーテのPBハウス前に着陸した。

   近くで見ると、かなり大きい。高性能な円盤のようだ。

   ロリーナが持っている物なんか、比べものにならない。

   二人は唖然としながら、それを見ていた。

   ルーシャ「ロリーナさん・・・、円盤を買い換えたのかしら?」

   ロン「さぁ・・・?」

   しばらくすると、円盤のハッチが開いた。二人は、目を見開く。

   すると、中から出てきたのは・・・。

   ロン「あっ、お前・・・。」

   その少年は、顔を上げた。彼の緑の髪が風に揺れ、青い瞳が二人の姿をとらえた。

   エディ「やぁ、ロンとルーシャ・・・だったかな。」

   ルーシャ「エディじゃないの。ラナも・・・。」

   ルーシャは、エディの隣の少女に視線を移した。

   ラナは不機嫌そうな表情で、こちらを見下ろしていた。

   二人は、大地に足をつける。

   エディ「ソフィちゃんは?」

   ロン「早速ソレかよ。どうして、ミネルダに来たんだよ。その円盤は?」

   エディ「あぁ、コレ?最新型の最高級品さ。宇宙的超一流デザイナーがデザインした、特注の・・・。」

   ロン「いや、そういうことじゃなくて!」

   ルーシャ「その円盤、エディのものなの?」

   ルーシャが言った。

   エディ「そうだよ。これに乗って、ミカリスから来たんだ。勿論、ぼくの操縦でね。」

   ラナ「エディの家は、星を何個も持っているお金持ちさんなの。この円盤は母星から、取り寄せたのよ。」

   ロン「子供が円盤を操縦して、いいのかよ!」

   エディ「あれ、君の星では駄目なのかい?かなりの発展途上星だね。」

   ロンは、溢れる怒りを何とか抑えた。

   ルーシャ「でも、PBが勝手に架空惑星を行き来してもいいの?怒られない?」

   エディ「調べてみたけど、そんな決まりは無かったよ。」

   今まで自家用円盤で、惑星を行き来しようなんて考える人がいなかったからじゃないのか・・・?

   ロンは思った。

   エディ「この円盤は、ソフィちゃんに会いに行くために母星のロケット会社に

   つくらせたんだ。それで、ソフィちゃんは?」

   ラナ「そんなにソフィ、ソフィ言わないでよ!あたしがいるでしょ!」

   ラナはエディの腕を引っ張った。

   ルーシャは、そっとロンに耳打ちする。

   ルーシャ「それにしても、ラナはよく許したわね。ミネルダに来ること。」

   ロン「許してるのか?エディが行こうとするのを見て、慌ててついてきただけなんじゃないか?」

   ルーシャは納得した。

   エディ「ね、それでソフィちゃんは?ハウスの中だろ?」

   するとエディは、ラナの腕を振り払って、PBハウスの入り口に向かい走り出した。

   ラナもその後を追う。続いて、ロンも慌てて駆け寄る。

   ― バンッ!

   エディ「ソフィちゃん!」

   彼は、入り口のドアを勢いよく開けた。中で掃除していたソフィは、驚いて持っていたクッションを床に落とした。

   ソファーを整えていたのだ。彼女は、恐る恐る振り向く。

   ソフィは引きつった笑顔を見せる。

   ソフィ「エディさん・・・。」

   するとエディは、ソフィのそばに駆け寄った。

   エディ「やっと会えたね。嬉しいよ。」

   彼はソフィの手を取った。

   ソフィ「・・・?」

   後れて入ってきたラナは、そんな二人の間を割る。

   ラナ「ちょっと。やっと会えたねって、つい最近PB倶楽部で会ったばかりじゃないの!」

   エディ「ラナ、どいてくれよ。ぼくとソフィちゃんは再会を喜んでいる最中なんだ。」

   ソフィ「いえ、わたしは別に喜んでなんか・・・。」

   彼女は軽く否定する。しかし、エディは何も気にしていないようだった。

   エディ「これから、ぼくと二人でデートをしないか?円盤に乗って、宇宙一周旅行がしたいなぁ。」

   ソフィ「でも長い間留守にしたら、みんなが困りますから・・・。遠慮しておきます。」

   すると、話を聞いていたロンが口を挟んだ。

   ロン「そうだ!ソフィがいなくなったら、我々は大いに困る!餓死する!」

   ルーシャ「そうよねぇ、家事は全てソフィに任せてあるから・・・。」

   それを聞いて、エディは嘲笑った。

   エディ「へぇ・・・。じゃぁ君たちはソフィちゃんがいなくちゃ、何もできないってことか。」

   ロン「うっ・・・。」

   頭にくるが、本当のことなので言い返せない。それを見て、ラナは自慢げに言った。

     ラナ「エディは、料理も得意なのよ。」

   エディ「そうだ、今からぼくが料理の手本を見せてあげようか?ソフィちゃん、キッチンを借りてもいいかな?」

   ロン「いや、結構。それよりエディ、もう帰ってくれ。お前と話していると、ムカムカしてくる。」

   そう言ってロンは、PBハウスのドアをわざと大きな音を立てて開けた。

   すると、その前に立っていた一人の少年の姿が視界に入った。

   ミツオ「わっ!」

    ロン「ぅわぁっ・・・ってミツオか。驚いたな。」

   ミツオ「驚いたのはこっちだよ。いきなりドアが開いて・・・。」

   ミツオは中に入った。そして、エディとラナを見付ける。

   ミツオ「あ、君達は・・・。」

      すると、彼は気が付いたようにパー着を外した。それを見て、エディとラナは顔を見合わせる。

   エディ「君・・・、えっと名前は何だっけ。」

   ミツオ「あぁ、ぼくはミツオ。君達は、エディとラナだったよね。」

   エディ「どうして、パー着していたんだ?まさか・・・。」

   ミツオ「どうしてって・・・。だって、ぼくSPBだから。」

   彼がそう言うと、エディは嘲笑した。

   エディ「君がSPB?だって、君はダンスパーティーの時に、必死で料理を食い漁っていた子だろう。」

   食い漁るって・・・。

   ルーシャが心の中でつぶやく。

   エディ「君のような子がSPBなんて、信じられないな。本当に?」

   ロン「随分、失礼な言い分だな。言っておくけどな、SPBを生み出したのはミツオだぞ!」

   エディとラナは、まだ信じられないという目でミツオを見ている。

   エディ「まぁ、まだ君のことをよく知らないんだけどね。SPBというのは、ぼくみたいな人が相応しいんだ。」

   ソフィ「もしかして、エディさんもSPBなんですか?」

   エディ「あぁ、そうだよ。」

   それを聞いて、四人は驚いた。

   ルーシャ「うっそぉ・・・。」

   ラナ「本当なんだから。あたしが証人よ。」

   ロン「ラナの言うことも、いまいちアテにならないからな。」

   すると、エディはミツオに近づき、彼に向かって人差し指を突き出した。

   エディ「それで、SPBとしては何をやってるの?」

   ミツオ「え、何って・・・。」

   エディ「まさか、ただパーマンになって飛び回っているだけ・・・何てことは無いだろうね。」

   ミツオは息をのむ。

   ミツオ「えっと、それは・・・。」

   エディ「例えば、報告書を書いて提出したり・・・。」

   ミツオ「あぁ、それねぇ・・・。うん、まぁ。たまには。」

   ハッキリしない言葉を聞いて、エディは手をおろした。ミツオの身体から力が抜けた。

   エディ「まぁ、いいさ。お互い頑張ろう。SPBの名に恥じないように。」

   彼は最後を強調した。冷たい視線が、ミツオを襲う。ミツオはぎこちなくうなずいた。

   エディ「まぁまぁ、みんなも寛ぎなよ。遠慮しずに。」

   エディはソファーに腰を掛けた。

   ロン「誰が遠慮なんかするか。オレ達のPBハウスだぞ。」

   ルーシャ「そっちが遠慮しなさいよ。」

   ルーシャも最初に比べて、言葉がきつくなっている。

   ソフィはため息を一つつくと、テレビのスイッチを入れた。

   ラナ「何か見るの?」

   ソフィ「ニュースの時間ですから。毎日、事件をチェックしているんです。」

   エディ「さすがソフィちゃんだね。」

   ミツオは棚からお菓子を出そうとしたが、エディに言われた言葉を思い出して、手を引っ込めた。

   ロンは部屋の隅でふくれている。

   ルーシャは黙って、ソフィ達の方を見ていた。ソフィはメモを用意して、テレビの前に並べてあるソファに座る。

   無論、エディとの距離を置いて。

   ラナはエディの腕を取り、二人の様子を監視していた。

   『ニュースをお伝えします。遭難事故がありました。一週間ほど前から、○○山探検隊との連絡がつかず、安否も確認

    できていません。激しい吹雪のため、捜索隊も出すことができず・・・。』

   ミツオ「アレイスで!?」

   突然、ミツオのパーマンバッチが鳴り出した。彼は慌てて、バッチをポケットから取り出す。

   ミツオ「はい、こちらパーマン3号。」

   ネオ『ミツオくん?こちら、ネオ。遭難事故だって。』

   ミツオ「知ってるよ。今、テレビで見た。マリンカも呼んで、早く助けに行こう。」

   ネオ『それが・・・、ぼくとマリンカは別の事件で手がいっぱいなんだ。悪いけど、ミツオくん一人で先に行ってよ。』

   ミツオは驚いた。

   それを聞いた他のPB達も、彼の周りに集まってくる。

   ネオ『ぼくもこっちが終わったら、すぐに行くからさ。』

   ミツオ「だって、吹雪が激しいんだろ。とても一人じゃ無理だよ。」

   ロン「ミツオ。」

   すると、ロンがミツオの肩をたたいた。ミツオは振り返る。

   ロン「オレも一緒に行くよ。」

   ミツオ「でも・・・、いいの?」

   ソフィ「そういうことなら、わたしも行きますよ。三人で探した方が、早いじゃないですか。」

   エディ「ソフィちゃんが行くなら、ぼくも行くよ!」

   ラナ「エディも?じゃぁ、あたしも。」

   ルーシャ「あたし一人で留守番は、嫌だからね。勿論、行くわよ。」

   ミツオ「えーっ!!」

   全員じゃないか・・・。

   ネオ『ミツオくん、どうしたの?』

   ミツオ「あ、別に。何でもないんだ。こっちは任せといて。」

   ネオ『本当に大丈夫?やっぱり、三人で行った方がいいかな・・・。』

   ミツオ「今更何を言ってるんだよ。大丈夫だって。じゃぁ、また。」

   そう言って、ミツオはバッチのスイッチを切った。

   そして、もう一度確認する。

   ミツオ「本当に・・・、みんなで行くの?」

   ロン「勿論!パーマン活動なんて久しぶりだからな、ワクワクするぜ。あ、エディとラナは来なくてもいい。」

   エディ「そんな訳にはいかないさ。ぼくの担当惑星じゃないとはいえ、困っている人を放っておけないからね。」

   ラナ「エディってば、素敵!」

   それを聞いて、ミツオは頬が緩んだ。

   ミツオ「よし、じゃぁシュッパーツ!」

 

 2、

 

   警察「吹雪が激しいんですよ。おさまってから、捜した方が・・・。」

   ミツオ「ぼくらはパーマンですよ。普通の人間とは違うんですから、大丈夫です。」

   山の麓で。そう言って、ミツオは振り返った。

   彼らの前には、雪山が険しくそびえている。大雪と突風せいで、今にも吹き飛ばされそうなパーマンマントを押さえ、

   パー着した六人はその山を見ていた。

   この山は、遭難者が多いことで有名だ。下手をすれば、生死を彷徨う危険を伴う。

   吹雪の日には、尚更だ。

   ミツオ「それに、もう一週間も連絡が無いんでしょう。一刻も早く、助け出す必要があります。」

   ソフィ「そうですよ。この吹雪も、いつおさまるかわからないじゃないですか。」

   警察「しかし・・・、ねぇ。」

   探検隊は、全員で10人余り。その中の二人が途中ではぐれ、未だ連絡が取れないという。

   いくら雪山に慣れているとは言え、この吹雪の中で一週間も生き延びるのは至難の業だ。

   ロン「手遅れにならないうちに、オレたちが捜し出しますから。」

   警察はしばらく悩んでいたが、やがて顔を上げた。

   警察「わかった。くれぐれも、気を付けて。」

   ミツオ「はい!」

   警察から見送りを受けた六人は、慎重に山の奥へ進んでいった。

   ミツオ「大勢で固まって捜していても駄目だ。いくつかのグループに分かれよう。」

   ロン「じゃぁ、オレはミツオと行くよ。偶数だから、二人ずつで分けられるんじゃないか。」

   話し合った結果、ミツオとロン、ルーシャとソフィ、エディとラナのペアでチーム行動をすることにした。

   エディ「ぼくはソフィちゃんとが良かったのにな。」

   ルーシャ「お互いに信頼している相手とじゃなきゃ駄目よ。エディはラナと組むのが、一番よ。」

   ラナ「そういうこと。」

   そう言うラナは、嬉しそうだ。

   ミツオ「二時間経ったら、見つかっても見付けられなくても、さっきの麓に集合しよう。何かあったら、バッチで連絡を

        取ること。」

   ロン「わっ、何かミツオかっこいいなぁー!」

   ミツオ「じゃぁ、分かれるよ。みんな、気を付けてね。」

   五人はそれぞれ返事をすると、チームごとに各方向に分かれて飛んでいった。

   ミツオとロンは、北を目指す。

   吹雪は、容赦なく二人に襲いかかる。

   飛んでも飛んでも、同じ景色が広がるばかりで、全く何も見えてこない。雪のせいで、視界も開けない。

   ロン「この制服は保温効果があるから寒くはないけど、雪山で半袖っていうのも変だよな。」

   ミツオ「ブツブツ言ってないで、ちゃんと捜してよ。」

   パーマンの最高時速は119キロ。だが、突風のせいで、なかなか前に進めない。

   二人は手を取り合った。

   ミツオ「パータッチをしても、スピードが出ないな。」

   ロン「なぁミツオ、探検隊は生きているのかよ?普通の人間がこんな環境で、長い間耐えられるのか?

      もしかしたら、もう・・・。」

   ミツオは言葉を遮った。

   ミツオ「そんなこと、言うなよ!きっと生きているさ・・・。」

   自分自身に言い聞かせるように、ミツオは言った。ロンは、うなずいた。

   ロン「そうだよなぁ・・・。」

   彼はミツオの横顔を見てから、再び捜し始めた。

 

   ルーシャ「ねぇ、こんなことで本当に見つかるの?」

   西。

   ルーシャはパータッチをしながら、ソフィに聞いた。彼女は、自信のない返事を返す。

   ソフィ「さぁ・・・、どうなんでしょうね。」

   ルーシャ「こんなに吹雪が激しいなんてね。それに雪山は広いのよ、見つかるかしら。」

   雪の勢いは、さっきから増しているようだった。

   ソフィも不安になる。

   ルーシャ「だいたいミツオくん、後先を考えずに行動する癖があるのよね。まぁ、そこが彼の良いところでもあるけど。」

   ソフィ「おしゃべりしていないで、捜して下さいよ。し・ん・け・ん・に!」

   そう言いながら、ソフィの視線は探検隊を捜していた。ルーシャはソフィの方をじっと見ていたが、

   ルーシャ「わかってますよ。」

   と、言い顔を伏せた。

   

   東。

   ラナ「ねぇ、空を飛んで捜すより、歩いた方が良いと思わない?」

   そう言って、ラナとエディは地面に足をつけた。

   エディ「もういいだろ、その手を放してくれよ。」

   ラナ「あら、どうして。はぐれたら大変でしょ。」

   ラナは、益々強くエディの腕を抱え込んだ。エディはそっと息をこぼす。

   二人は空を見あげた。

   ラナ「どこまで行っても、景色がちっとも変わらないわ。見えるのは、天と地だけ。」

   雪は白と言うより、もう灰色に近い。ラナの髪が、突風に揺れている。

   エディ「それが雪山というものさ。」

   エディは腕時計を見た。あれから30分経っている。

   エディ「とてもじゃないけど、見つかる見込みがないなぁ・・・。」

   ラナ「弱気になっちゃ駄目よ。ソフィちゃんに、かっこいい姿を見せたいんでしょ。」

   エディ「まぁ、そうだけど。」

   二人は、歩き始めた。

 

   ロン「なぁ、ミツオ。そろそろ、疲れてこないか?」

   ミツオ「うん・・・、まぁ。」

   勢いを増す風に、二人は今にも吹き飛ばされそうだ。少しでも油断をしたら、どうなるかわからない。

   マントの留め金が、嫌な音をたてている。

   ロン「留め金が吹っ飛びそうだぞ。休憩しないか?」

   ミツオ「駄目だよ。探検隊の二人は、ぼくたちが来るのを待っているんだぞ!」

   ロン「そうだけど・・・。」

   ロンが仕方なく前を向き直したとき、急な突風が二人を襲った。

   ミツオはロンの右手を強く握り直す。

   すると、パチンという音がして、身体が突然急降下し始めた。

   ミツオ「マントが外れた!」

   ロン「ぅわわわわわわぁぁぁー・・・!ミツオォォーッ!」

   二人は互いを抱きしめた。

 

   ソフィ「ルーシャ、風が強くなってきたので下に降りましょう。」

   そう言うと、ソフィとルーシャは降下する。

   着地すると、雪に靴が深くめり込んだ。

   ルーシャ「うわぁ、随分積もっているわね。雪だるまが何個くらい作れるかしら。」

   ソフィ「暢気に作ってる場合ですか。遭難者に、呪い殺されますよ。」

   ルーシャ「・・・案外、恐ろしいこと言うのね。」

 

 3、

   

   ミツオ「・・・・、あれ・・・。」

   ミツオはゆっくりと起き上がった。気が付いたら、雪の上でうつ伏せになっていたのだ。

   彼は目をこする。

   相変わらず強い吹雪のせいで、視界がハッキリしない。

   ミツオ「そうだ。マントが飛んでいって・・・。ロンは?」

   ロン「ったたたぁ・・・。」

   ミツオは、少し離れた所にいるロンに気が付いた。ロンは呻き声を上げながら、起き上がった。

   ミツオ「良かった、無事だったんだ。」

   彼は立ち上がり、ロンのもとへ走った。

   ミツオ「大丈夫、怪我はしていない?」

   ロン「・・・お前、誰?」

 

   ミツオ「・・・え?」

 

   ミツオはポッカリ口を開けた。ロンはうつろな目でミツオを見ていたが、しばらくすると笑い始めた。

   ロン「冗談だよ!ミツオってば本気にしちゃって、単純な奴!」

   ミツオ「な、何だ・・・。良かった。・・・って、良くない!こういう時に、よくふざけられるな!」

   ロン「ゴメン、ゴメン。悪かったよ。」

   そう言って、ロンも立ち上がった。

   そして自分にパーマンマントが付いていないことを、確認する。

   ミツオ「パーマンマスクで骨の硬さがダイヤモンド以上になっているから、助かったけど・・・。」

   ロン「マント、飛んでいっちゃったんだな・・・。」

   突風のせいで、留め金が外れてしまったのだ。歩いて麓まで帰ることは難しい。

   ミツオ「他の仲間に助けを求めよう。バッチで連絡して、来てもらうんだ。」

   ロン「そうする以外、無いよな・・・。」

   ミツオは胸のパーマンバッチを取ろうとした・・・が。

   ミツオ「あれ?あれ、おかしい・・・。無い・・・。」

   ロン「え?」

   驚いて、ロンも胸のあたりを手探りする・・・が。

   ロン「無い・・・。」

   二人は顔を見合わせた。

    ミツオ「きっと、さっきの突風で飛ばされたんだよ・・・。」

   もう捜索どころではない。自分自身が、生きるか死ぬかの問題なのだ。

   ミツオとロンは、その場にひざをついた。

   全身の力が抜けていった・・・。

 

      あれから二時間後。

   ルーシャ、ソフィ、エディ、ラナの四人は山の麓でまだ戻ってこない二人を待っていた。

   ルーシャ「おかしいわね・・・。もう約束の時間なのに、ミツオくんとロンは何をやっているのかしら。」

   ラナ「どこかで遊んでいるんじゃないの〜。」

   吹雪の勢いはおさまらない。

   ソフィは二人にバッチで呼びかけてみたが、全く応答がない。

   ソフィ「駄目です。風の音で、気が付かないんでしょうか。」

   エディ「ソフィちゃんの呼びかけを無視するなんて、礼儀知らずにも程かあるよ。」

   ソフィは苦笑いをした。

   ルーシャ「何かあったのかしら。マントがあれば、戻ってこられるはずなのに。」

   ソフィ「方向音痴なんでしょうね。まぁ、しばらく待ってみましょう。」

   三人はうなずいた。

   

   ロン「疲れた〜、もう歩けない〜。何か食べたい〜・・・。」

   ミツオの後について歩きながら、ロンは弱音を吐く。ミツオは振り向きもせずに、応えた。

   ミツオ「しっかりしてよ。このまま死にたいの?」

   ロン「でもさ、アテもなく歩いたって無駄だろ。こういう時は、どこか洞穴でも見付けてジッとしているのが良いんじゃな

       いか?」

   ミツオ「うん・・・。」

   しかし、どれだけ探しても洞穴など無い。この景色に終わりなどないような気がしてきた。

   いつの間にか、どこか別の世界に迷い込んでしまったのではないだろうか。

   二人から、希望が消えていく。

   ミツオは地面に膝をついた。

   ロン「ミツオ・・・。」

   ミツオ「情けないけど・・・、ぼくももう歩けないよ。もともと体力が無いんだから。」

   ロン「・・・。」

   ロンも座り込んだ。二人はしばらく沈黙した。

   

   ロン「・・・?」

   突然、ロンが立ち上がった。ミツオは顔を上げる。

   ミツオ「どうしたの?」

   ロン「何か・・・、聞こえないか?」

   ミツオ「え?」

   二人は耳を澄ませる。

   

   ― オレたち、ここで死ぬのかなぁ。

    ― 馬鹿、希望を持て。そんなことを言っていると、本当に助からないぞ。

 

    ミツオ「聞こえる・・・。誰かの、話し声が・・・。」

   小さく弱々しい声だったが、確かに二人の耳に届いた。

   二人は立ち上がり、視界の悪い吹雪の中を進んでいく。

   

   ― 死ぬ前に一度、田舎のおふくろに会いたかった・・・。

    ― 死ぬもんか。今にきっと、捜索隊の人が・・・。

 

    ミツオ「誰かいるの?探検隊の人・・・?」

   しばらく行くと、二つの人影が見えた。ミツオとロンは顔を見合わせる。

   確かにそうだ。

   ミツオ「見ー付けた!」

   その声に気が付き、遭難者二人は振り返った。そしてパーマンの姿を見て、驚く。

   「パーマン!パーマンじゃないか。良かった、助けに来てくれたんだな!

   「生きて帰れるなんて、夢みたいだ!」

   ミツオとロンはホッとした。だが、安心するのはまだ早い。

   遭難者は見付けたが、帰る手段が無いのだ。二人は、そのことを遭難者に話した。

   「えー、マントをなくした?それでもパーマンかよぉ。」

   ロン「そんなこと言ったってなぁ。仕方ないじゃないか。」

   ミツオ「仲間に連絡を取ろうにも、パーマンバッチまでどこかに行っちゃったんだ。あーぁ、あれさえあれば・・・。」

   すると、遭難者は顔を見合わせた。

   「もしかして・・・、さっきお前が拾ったアレじゃないか?」

   「あの赤いバッチか?」

   ミツオ「赤!?それ、見せて下さい!」

   遭難者はポケットから、バッチを取りだしてミツオに渡した。

   P型の赤いバッチ・・・。確かにミツオのパーマンバッチだった。

   「風に乗って飛んできたんだよ。パーマンのだったのか。」

   ロン「オレのは?コレの青は拾わなかったのか?」

   「え・・・、さぁ。知らないなぁ。」

   ロンは、ガックリ肩を落とした。

   ミツオ「まぁ、いいじゃないか。一つあれば十分だ。これで仲間が呼べる!」

   ミツオとロンは抱き合った。

 

 4、

 

   ソフィ「全くもう、マントとバッチをなくすなんて・・・。」

   PBハウスで。

   ミツオとロンは、ソフィの前で正座をしている。その様子をルーシャ、エディ、ラナの三人はこっそり伺っていた。

   ミツオ「でもまぁ、遭難者を発見出来たんだから、良かったんじゃなぁ〜い?」

   ミツオのバッチからの発信音を辿り、ソフィ達は四人を無事発見することができた。

   遭難者達も病院に送られ、すぐに回復するそうだ。

   さっきネオからも通信があったが、ミツ夫は得意げに事件の解決を伝えた。

      ロン「オレはちょっと楽しかったけどな〜。あんなにハラハラドキドキしたのは、久しぶりだ。」

   ミツオ「あれ〜?疲れたとかお腹空いたとか、弱音を吐いてばっかりいたのは誰だっけ〜?」

   ロン「え?さぁ、心当たりがありませんね・・・。」

   ソフィ「お静かに!」

   二人は姿勢を正した。

   ソフィ「今回はなんとか助かったから良かったものの、もしものことがあったらPBとして失格ですよ!

        今後はしっかりと気を引き締めてくださいね。」

   ミツオ「はぁ〜い。」

   

   エディ「ソフィちゃん、こんな面もあるんだよね。」

   部屋の片隅で、三人の様子を見ていたエディはつぶやいた。

   ルーシャ「本当はもっと恐ろしいわよ。」

   エディ「益々、好きになっちゃうね。」

   ラナ「エディ!もう帰るからねっ。それじゃ、お邪魔しました!」

   ラナはエディを引きずって、PBハウスの外に出ようとした。

   すると、ソフィから解放されたロンが二人に駆け寄る。

   ロン「どうだ、エディ。少しはミツ夫のこと、見直したか?」

   エディ「どうして。」

   ロン「だって、遭難者を見付けて無事に帰らせたのはミツ夫とオレだぜ。」

   エディは鼻で笑った。

   エディ「マントとバッチをなくしたくせに?見付けたのは確かに君達だけど、遭難者を運んだのはぼく達だ。」

   ロン「まぁ・・・、そうだけど。」

   ロンは悔しそうな表情を浮かべる。

   ロン「でもっ、でもミツオは本当に凄い奴なんだ!オレが諦めそうになっても、励ましてくれて・・・。

      SPBとしての正義感は十分あると思うし。」

       エディはしばらくロンの顔をじっと見ていたが、目を閉じて静かにうなずいた。

   エディ「・・・わかったよ。」

   そう言うと、彼はハウスのドアを開けた。

   エディ「ミツ夫くん、同じSPBとして頑張ろう。」

   二人の会話を聞いていたミツオは、慌ててうなずいた。

   ミツオ「あ、うん・・・。」

   エディは「ソフィちゃん、また来るね。」と言ってから、ラナと一緒に外へ出て行った。

   円盤はゆっくりと、音を立てて上昇した。

   ルーシャ「今日はありがとうね〜!さよなら〜。」

   彼女は円盤に向かって、手を振った。それはやがて飛び上がり、空の彼方へ消えていった。

   

 

   ロン「あ〜ぁ、やっぱりパーマンっていいなぁ。オレもSPBになりたいよ。」

   ミツオ「ロン、さっきはありがとう。ロンって、ぼくのこと尊敬してるの?」

   ロン「えっ、別にそういう訳じゃないけどさぁ!エディなんかに負けないよう、頑張れってこと!」

   ルーシャ「あの二人、また来るんじゃないの〜。」

   ソフィ「もう来なくても結構です・・・。」

   ロン「チャンチャン♪」

     

   

inserted by FC2 system