LIKE A SHOOTING STAR
1、新たな出発点
一人の少年がいた。 長い時間、正義のために、数え切れないほどの努力をしてきた。 ― どうしたら、皆の役に立てるのだろう? どうしたら、宇宙を平和に保てるのだろう?
彼は、ある星に留学し多くのことを学んだ。 仲間もでき、毎日がとても楽しかった。 しかし、ある時、思いがけない困難が彼らを襲った。 ― 力を合わせるんだ! この宇宙を守るんだ!
少年は、やがて流れ星となった。 宇宙の平和を守り続けることが出来る、流れ星に・・・。
★
ミイナ「ねぇ、ママ。これ、ママがバード星に留学していたころの写真を収めたアルバムでしょう?」 一人の女の子がいた。 彼女の名は、ミイナ。母親はソフィ・アイリスという女性。夫との間に生まれた、一人娘だった。 小さな腕には、赤いカバーがかけられたアルバムが抱きしめられている。 ソフィ「まぁ、ミイナったら。それ、どこから持ってきたんですか?」 ミイナ「掃除していたら、タンスの中から出てきたんだよ。この子が、昔のママなんでしょう。」 ソフィ「・・・。」 ソフィは本を読んでいた手を休め、アルバムを覗きこんだ。 ミイナはグリーンの髪を二つに結んだ、女の子を指さしている。 ソフィ「そう。よくわかりましたね。」 ミイナ「わかるわよ。だって、今も昔もそう変わってないもの。」 ソフィはため息をつく。 ミイナ「ねぇ、お話して。ママは、どうやってバードマンになったの?」 ソフィ「あなたが気にすることじゃないわ。」 ミイナ「いいじゃない! だって、ママのことはぜぇ〜んぶ、知りたいんだもん。」 ミイナは目を細めて、そう言う。 彼女は、ソフィに似て可愛らしい女の子だった。笑顔を見せられると、どうにも断れない。 ソフィはそんなミイナを見て、軽くうなずいた。 ソフィ「わかったわ、話しましょう。そうね・・・、もう何年も昔の話になるわね・・・―。」
1、
ミツオ「終わった、終わった〜♪」 弾むような明るい声が周りに響いた。 ここは、バード星にある“バードマン養成学校”だ。 各星から選ばれた、最優秀パーマンが、バードマンになるために勉強する施設だった。 生徒はざっと、一万人を超えるであろう。 ロン「ちょっと、はしゃぎ過ぎじゃないの〜。ミツオはおっちょこちょいなんだから、気をつけないと。」 二人の男の子が、広い校舎の廊下を歩いていた。 いや、そのうち一人は、スキップを踏んでいる。 地球出身パーマン、ミツオだ。 彼は足を止めると、振り返った。グレーの制服に身をまとったその姿は、以前地球でパーマンとして活動していた頃に比べ 背も伸び、顔立ちも若干大人びていた。 もう15歳だった。 ミツオ「だって、嬉しいじゃない。もう勉強しなくても済むんだ。ついに、バードマンになれるんだよ!」 ロン「気持ちは分かる。オレだって、勉強は好きじゃないしな。」 ミツオの話し相手になっているのは、アリルネ星出身、ロン・フランクだ。 ブラウンの髪、深緑の瞳。 二人は留学初日に出会い、今や欠かすことのできない親友になっていた。 ミツオ「なら、ロンも一緒に喜ぼう! さぁ、今から食堂でパーッと盛り上がろうじゃないか!」 ロン「え〜!」 ミツオはロンの手を取ると、食堂に向って走り出した。 校舎の中に、鐘の音が響き渡る。
今日は、バードマン養成学校の終業式だった。 4年間の学業を終え、PB(見習いバードマンの略)達は、胸を躍らせている。 無理も無い。 ようやく、バードマンになれるのだ。 今まで基礎知識として、毎日早朝からバード星の歴史と平和についての勉強と、厳しいトレーニングを重ねてきた。 元々勉強も運動も苦手だったミツオは、この日をどれだけ待ち望んでいたことだろう。 今日は、学校で生活する最終日で、終業式の後は自由休暇が与えられていた。 しかし、その後のスケジュールは、まだ知らされていなかった。
ミツオとロンは食堂に入った。 大勢の人々で賑わっている。 『さよならパーティー』という看板を立て、盛り上がっているグループもあった。 ルーシャ「あっ。こっちよ、こっち!」 部屋の隅のほうで、女の子が二人に手を振っている。 ルーシャとソフィだ。 彼女達を含め、ミツオは仲良し四人組と一緒にここで生活してきた。 ミツオとロンはうなずきあい、そちらへ駆け出す。 ルーシャ「ミツオくんたちも、何か食べに来たの? 学生生活最後の夕食だものね。」 ニコリと笑うルーシャ。 二人は、同じテーブルの空いている席に腰掛る。 それぞれ好きなものを注文し、楽しいさよならパーティーは幕を開けた。 ロン「ミツオが行こうっていうから。オレは、学校の中をもう一度散歩しようと思っていたんだけどね。」 地球でいうスパゲッティに似たようなものを食べながら、ロンが言う。 彼は散歩好きだった。と、言うより外へ出るのが好きなのだ。運動神経も良い。 暇さえあれば、中庭をよく歩き回ったものだ。 ミツオ「付き合い悪いな〜、皆で食べたほうがおいしいよねぇ?」 ルーシャ「ロンにはロンなりの、楽しみ方があるのよ。」 隣で答えるルーシャ。そして、少し悲しそうにソフィが言った。 ソフィ「そうですね。でも、寂しいな・・・。これが、最後だなんて。」 ・・・・。 四人は黙り込む。 そうだ。もう、皆で一緒に食べることはないんだ・・・。 これからはバードマンとして、それぞれ個人で活動していく。 ある星でパーマンを任命し監視することが主な活動だが、時にはパーマンセットや新しいパーマン用品を開発する手助けをしたり、 時にはまだ未知の宇宙の調査に出かけたり、その仕事はさまざまなのだ。 ミツオ「お、おいしいね。」 場の空気を切り替えようとして、ミツオが言う。 三人は苦笑いを浮かべた。
その夜。 ミツオは早めにパーティーを切り上げ、自分の部屋に戻ってきた。 いつもは夜遅くまで起きていたら、ここの教師であるバードマンに叱られるのだが、今日は最終日として大目に見てくれているのだ。 学校には寮が2館ある。 大まかに、男子と女子で分けていた。 部屋は無数にあり、二人一組で使用。ミツオとロンは同じ部屋だったということもあり、仲良くなったのだ。 ランプのスイッチを入れ、ミツオは自分専用のクローゼットを開けた。 学習用具や生活に必要な物、地球から持ってきた宝物などを収納している。 ミツオ「やっと、帰れるんだ。ぼくの母星に・・・。」 実は、まだ一度も地球に帰還したことはなかった。 勉強が忙しく、それどころではなかったのだ。勿論、長期休暇もない。 しかしバードマンになれば、いつでも好きなときに地球に戻れる。ミツオは、そう思っていた。 ミツオ「コピー、元気にやってるかな。パーマン仲間には、ぼくがいないせいで大変な思いをさせちゃったかな。」
― 立派なバードマンになったら、きっと帰ってくるからね。
そう宣言して、旅立ったあの日。 まだ宇宙の広さを知らなかった、あの頃。 ミツオ(ぼくは、もうバードマンだ。宇宙の平和を守ることが出来る、バードマンになったんだ・・・。) 彼はクローゼットから一枚の写真を取り出した。 地球で撮った、集合写真だ。 パーマン1号とコピーを中心に、ミチ子、カバオ、サブ。ブービーにパー子、パーヤン・・・。 皆が懐かしい。 今すぐ、会いたい・・・。 ミツオ「焦らなくてもいいさ。もうすぐ、帰れるんだから。」 彼は写真を元に戻すと、ランプのスイッチを切って、布団に入った。
2、
翌朝。 生徒達には久々に、ゆったりとした時間を与えられていた。 バードマン養成学校では、地球時間で言う朝5時に起床しなくてはならない。だが、今日は特別だ。 ミツオとロンも、まだ眠っていた。 しかし・・・。 ― ジリリリリ・・・ 突然、大きな音が寮全体に響き渡った。慌てて飛び起きる生徒達。 ロンは、目を覚ました。 ロン「ミツオ、ミツオ。起きてくれよ。」 布団から這い出ると、彼はミツオの体を揺すった。 ミツオ「う〜ん・・・。もう少し、寝かせてよ。」 ロン「のんきなこと言ってる場合じゃない! このベルの音が聞こえないのか?」 ミツオは渋々起き上がると、莫大な音に驚いた。 ミツオ「どうなってるの!? 起床合図のベルが、どうして今鳴ってるんだよ?」 その通り。 普段、このベルは、寝坊した生徒を起こすために使われるものだ。 今日は起床時間の制限はなく、昼間でならいつ起きようが自由のはず・・・。 ロン「故障は考えられないな。システム制御万能な、このバードマン養成学校で・・・。」 ミツオ「でも、確かに今日は・・・。」 二人が焦っていると、ベルの音が消え放送が入った。 ― 生徒の皆さん、おはようございます。大至急、制服に着替え、大ホールに集まりなさい・・・ 隣の部屋からも、驚きの声が聞こえる。 ミツオ達はとりあえず、クローゼットから制服を引っ張り出して寝間着から着替えた。 ロン「よくわかんないけど、素直に従ったほうがよさそうだな。」 ミツオもうなずく。 身支度を済ませ部屋を出ると、寮の廊下にはもう大勢の生徒達が集まっていた。 皆、よくわからないまま走り出す。 途中で合流したルーシャ、ソフィと共に、四人も大ホールへ向った。
大ホール。 主に集会や、会議を行う場所だ。昨日の終業式もここで行われた。 一万人以上の人々が集まるので、暑いときには万能扇風機が自動で働く。 不機嫌そうな生徒達の前に、学園長が現われた。 学園長「お静かに。動揺する気持ちはよくわかります。貴方達は、おかしな勘違いをしているようですから。」 いつもと同じく、冷静につぶやく学園長。 一瞬として、大ホールは静まった。 ミツオ達の学園長は女性だ。名は、ネイリラ・カリッサという。 冷淡で厳しく、強大な権力を持っていると言えよう。 頭の高い位置でくくった髪の毛には、宝石の髪留めが光っている。着ている制服も、丈が長く清楚なスカートだ。 学園長「今、集まってもらったのは他でもありません。バードマンになるために受ける、実技テストについてです。」 ・・・・。 突然の出来事に、ミツオの頭が混乱する。 静かだった大ホールは、またざわめきの声に包まれた。 学園長「今まで貴方達は4年間、ここでバードマンに必要な事柄を勉強しました。しかし、知識だけでは足りないので す。実際に、それを生すことが出来なければ、意味がないのです。ですから・・・。」 生徒「ち、ちょっと待ってください!」 一人の生徒が立ち上がった。学園長は殺意をおびたような目つきで、彼を睨む。 学園長「なんでしょうか?」 一瞬戸惑ったその生徒だが、しばらく間を置くと続けた。 生徒「そんなテストがあるなんて、聞いてません。」 学園長「勿論、知らせていないからです。バードマンは何があろうと、冷静さを保たなければなりませんからね。」 生徒「で、でも! 終業式もしたし、てっきりバードマンになれるのかな・・・と。」 生徒の視線が、徐々に下がってくる。 学園長「それは、貴方達が勝手に思っているだけです。確かに終業式はしました。昨日は自由時間も与えました。し かし、もうバードマンになれるとか、今日は休みだとか、そんなことは一言も言ってません。」 確かにそうだ・・・。 ほとんどの生徒が納得する。 生徒「そ、そんなのって・・・!」 学園長「何か文句がありますか? テストが嫌なら、貴方を即刻、母星に送り返してさしあげましょう。」 ・・・鬼だ。 生徒「・・・。」 その生徒は渋々と、しゃがみ込む。 学園長「いいですか。バードマンになるということは、貴方達が思っているほど簡単なことではないのです。長年の 努力を積み重ねてこそ、立派なバードマンが生まれるのです。」 ・・・・。 生徒達は、ポカンとして見ているしかなかった。 学園長「貴方達には実技テストを受けてもらいます。どんなに成績優秀のPBでも、実際にバードマンになると、 ヘマばかりして、簡単にその星の平和を破壊してもらっては、困りますからね。」 ・・・・。 学園長「今から簡単に、テストについての説明をします。前を見なさい。」 すると突然、目の前に大スクリーンが現われた。しばらくして映し出される、細かい文字・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 【PB実技テストについて】 立派なバードマンになるためには、知識だけではなく、それを実際に生かすための能力が必要となります。 バード星東部にある“架空宇宙”で、3年間の実技テストを受けてもらいます。
●架空宇宙とは バード星が発明した、架空世界の宇宙のことです。 PBがバードマン修行をするために、開発されました。 ブルーホール(※)が入り口となり、中には数多くの架空惑星が存在します。 各グループ(※)で、一つの惑星についてもらい、そこでパーマンをつくるのです。 バード星本部からの指示は一切ありません。 自分達で考え、自分達で行動し、その架空惑星を3年間平和に保ちなさい。 尚、パーマンの死や星全体の平和を乱すなど、大変大きな過ちを犯した場合は、PB失格となり母星に送り戻されま す。 ※ブルーホール・・・バード星東部にある、ブラックホールのブルーバージョン。バード星がこのために、 後でつくったもののこと。架空宇宙の入り口となる。 ※各グループ・・・バード星に留学した初日に結成された、四人グループ。主に年齢別で分けられている。 ミツオはロン、ルーシャ、ソフィがメンバーの2045X班で、ソフィがリーダーとなっている。
●架空惑星とは 架空宇宙の中にある、生態系が生息する架空の惑星。 それぞれの星では、そこに住む住人達が固有の文化を営んでいます。 例え架空の世界の人物とはいえ、傷つけたり死なせたりしてはなりません。 その星は、本物の生命体が存在する星だと思い、全力で平和を守り抜きなさい。
●パーマンについて パーマンの人数、年齢などについての制限はありません。 パーマンとしての能力に優れた人材を選ぶこと。一歩間違えれば、世の中に悪魔を誕生させるようなものです。
(以下省略) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
全て読み終わった生徒達も、呆然としている。 やっと、バードマンになれる・・・― そんな期待が、一瞬の内に崩れ去ったのだ。 学園長「どのグループがどの星につくかは、私達のほうで選ばせてもらいました。その星と、実技テストについてさらに 詳しく書かれたプリントを、各グループのリーダーに後ほど送らせてもらいます。」 リーダー達は、しずかにうなずいた。 いや、うなずくことしかできなかったのだ・・・。 学園長「出発は正午です。それまでに、自分の荷物をまとめ離陸できる準備を整えなさい。それでは、解散!」 ・・・・。 学園長は早い足取りでホールを後にした。 ミツオは、隣にいたロンに話しかける。ロンの表情は、驚きの色で染まっていた。 ミツオ「本気・・・かな?」 ロン「冗談だと思う・・・?」 ミツオは首を振る。 ― こんな試練が待っていたなんて・・・! 生徒達は、思いもしなかった過酷な現実に肩を落とした。 “人生、そう甘くない” こんな言葉が、身にしみる・・・。
3、
それから生徒達は、フラフラとした足取りで自分達の部屋に戻った。 まだ夢を見ているような心地だ。 ミツオもボーッとしたまま、バッグに荷物をまとめる。 正午まで、あと3時間ほどしかない。 ロン「あーぁ、現実って厳しいねぇ。やっとバードマンになれると思ったのに。」 ミツオの後ろで、ロンがつぶやく。 ミツオ「でも、学園長さんが言うことも尤もだよ。知識だけじゃ、行動できないかもしれないね。 実際にバードマンになったとき、頭が混乱して、慌てちゃうんじゃないかな。」 ロン「まぁ・・・ね。慣れが必要だってことか。」 整理していた手を止め、ベッドに寝転がるロン。 ロン「昨日盛り上がった、さよならパーティーも意味のないことだったな。」 ミツオ「そんなことないさ。ぼく達はあと3年間は一緒だけど、この学校とはもうおさらばなんだから。」 ロン「・・・なぁーんか、冷静だね。ミツオなら、もっと慌てるかと思った。」 ミツオ「そうかな?」 彼はニッコリ笑うと、ベッドで寝そべっているロンを見た。 ミツオ「とにかく頑張ろうよ。今までは勉強、勉強の毎日だったけど、これからは仮にだけど、実際にパーマンをつくって指導するこ とができるんだから。楽しそうじゃない。」 テストとは言っても、バードマン体験ができるのだ。 そんな期待の気持ちがあったから、そう慌てずに済んだのかもしれない。 ロン「そうだよな、やるからには力の限り楽しんでやらなくちゃな。ミツオ〜、いいこと言うじゃないか!」 ミツオ「だけど気楽過ぎるのも、いけないよ。失敗したら、母星に送り返されちゃうんだから。」
― すいません、テストに落ちて送り戻されました。 ― え〜、かっこわるい! ― ミツ夫はんを行かせたのは、間違いやったな。
ミツオ(それだけは避けたい・・・!) コピーやパーマン達から冷たい視線を向けられている自分を想像し、ミツオは身震いした。 そのとき。 ― ピピピピピ・・・ 二人のパーマンバッチが鳴り響いた。ルーシャとソフィからだ。 ミツオ「はい、ミツオ。」 ソフィ『ソフィです。今すぐロビーに来てください。』 ミツオ「了解。」 二人は顔を見合わせると、部屋にロックをかけロビーへ向った。 生徒達の間では、異性の寮に立ち入ることが禁止されている。 だが、その中で唯一会うことが認められているのが、このロビーだ。 調度男子と女子の寮の中間にある。 ロン「オレらが受け持つ星のデータが、送られてきたのかな。」 ミツオ「たぶんね。」 二人はロビーに入った。ソフィ達を見つけると、そちらに駆け出す。 ルーシャ「行く星が決まったわ。“ミネルダ星”ですって。」 待ちくたびれたかのように、ルーシャが話した。 ミツオ「ミネルダ? どんな星なの。」 ソフィ「海洋といくつかの大陸が存在する星みたいです。空気は、バード星本部のほうで調節されています。人口、約13 億人。そこまで大きくもないですね。」 彼女は送られてきた資料を見ながら、そう答えた。 ミツオ(ふうん。人口は中国と同じくらいってことか・・・。) ソフィ「文化は、ミツオくん出身の地球と似ているようです。生息する生命体は、主に私達と同じ人間ですね。」 ロン「動物とかは?」 ソフィ「存在します。住民の知能レベルもそう高くはないですが、それなりの技術は持っているようです。」 なるほど・・・。 三人はうなずく。 ルーシャ「そうそう、私達はどこで生活すればいいの?まさか、いちいちバード星から通うなんてことは・・・。」 ソフィ「それは大丈夫です。その星のどこかに、PBが暮らすための施設があるそうなんですが・・・。」 ソフィは資料をパラパラとめくった。だいぶ分厚いので、探すのに一苦労だ。 ソフィ「あ、ありました。アロディーテと呼ばれる大陸の中ですね。」 ミツオ(どうも、日本以外の星や大陸の名前は、ややこしいんだよね〜・・・。) ミツオは心の中でつぶやく。 ルーシャ「架空の大陸にも、ちゃんと名前がついているのね。」 ロン「一応、生命体が住んでるもんな。バード星が勝手にプログラムしたとはいえ。」 三人はうなずいた。 ソフィ「皆さんの分も、コピーしておきました。出発までに、一通り目を通してくださいね。」 三人「うへぇ〜。」 ややこしい資料の山を、彼女は笑ってそれぞれに手渡した。ズシッと重い。読み終わるのに、何時間かかることやら。 ソフィはいいさ。成績優秀な、才女なんだから・・・。でも、ぼくらにとっては・・・。 そんなつぶやきが、彼らの口から漏れてきそうだ。 ソフィ「読み終わったら、ミネルダ星についてまとめたレポートを提出すること。最低でも、原稿用紙5枚分。できなかっ たら、そのときは三日間、ご飯抜きです!」 ロン「えっ。な、なんでそんなことを・・・!」 ソフィ「そうでもしなくちゃ、貴方達が資料を読むとは思えませんから。」 そう言って、ソフィはニッコリ笑った。 いつもは可愛らしい彼女の笑顔も、今は悪魔が気味悪く笑っているように見える・・・。 それに、彼女以外で料理を作れる人はいなかった。ミネルダに行ってからは、四人が自分たちだけの力で生活していかなくては ならないのだろう。 提出できなければ、確実に三日間は断食となる。 三人「・・・・。」 三人は、おずおずとその場を去った。
4、
時間がせまってきたころ。 ミツオ達は、いつでも出発できるように準備を整えた。 残った時間は、課題であるレポート作成につかっている。 こういったことが苦手なミツオとロンは、部屋でうめいていた。 ロン「えっと、ミネルダ星は食糧が豊かで自然に恵まれた星であり・・・・。」 せっせと鉛筆を動かしながら、つぶやくロン。 ミツオも、資料とにらめっこをしていた。 ミツオ「難しいなぁ・・・。何が書いてあるのか、さっぱりわかんないよ。」 ロン「とりあえず、まるごと写しとけばいいんじゃないか? ほら、あと1時間しかない・・・。」 ソフィを怒らせると怖い。 そのことは、4年間も付き合ってきた二人だからこそ、よくわかっている。 ミツオ「でもさぁ、こんなことして意味があるのかな?」 ・・・・。 少し間を置いてから、ロンは答える。 ロン「あるんじゃないかな。ミネルダのことが、よくわかるし・・・。」 ミツオ「でも学校に提出するわけじゃないんでしょ? あーぁ、やる気でないなぁ。」 ロン「ミツオは勉強になると、いつだって、やる気がないくせに。」 ロンが笑う。ミツオは不機嫌になり、素直に鉛筆を手にした。 ロン「書くの?」 ミツオ「三日間の断食という、過酷な運命を辿らないためにもね。」 苦笑するロン。 ミツオ達はなんとかレポートを提出し(と言っても、ほとんど資料の丸写しだが)、無事断食は逃れたのだった。
ついに正午。 ミツオはカバンを背負って、部屋を見渡した。 4年間という長い間、生活してきたこの部屋とも、もうお別れだ。 ロン「行こうぜ、ミツオ。」 ミツオ「うん。」 ミツオ(今までありがとう・・・。) 彼は頭を軽く下げると、静かにドアを閉めロックをかけた。
ルーシャ「ミツオ、ロン。こっちよ〜!」 寮の前には、既にルーシャとソフィの姿があった。 周りには、他のグループの人達も大勢集まっている。 ミツオ「いよいよだね。」 ロン「期待もあるけど、不安だな。」 ソフィ「大丈夫ですよ。四人一緒なら、きっと楽しくやっていけます。」 ミツオはうなずき、寮を見上げた。 今日は良い天気だ。 新たな課題に挑戦するPB達を見送っているような、すがすがしいバード星の空・・・。 しばらくすると、四人の前に一人の女性が現われた。 女性「はじめまして。2045X班ね。」 ソフィ「そうです。」 リーダーであるソフィが答える。 他の三人は、その女性の美しさにみとれていた。 きれいなロングヘアの髪を、風になびかせている。声も透き通ったソプラノだ。 身を包んでいる制服から見て、バードマンなのだろう。 ロリーナ「私はあなた達のグループを担当する、ロリーナ・カルチャーといいます。よろしくね。」 原則として各グループに一人、担当バードマンがつけられるのだ。 ミツオ達は優しそうな女性で、安心した。 ソフィ「こちらこそ、よろしくお願いします。」 ロリーナ「聞いた通り可愛らしいお子さんたちね。困ったときは、なんでも相談してね。」 ロン「も、勿論です!」 思わず叫んでしまったロンは、恥ずかしそうにうつむく。 三人は、軽く笑った。 ロリーナ「元気な子ね。じゃぁ、一人ずつ名前を名乗ってもらおうかしら。」 ソフィ「ソフィ・アイリスと申します。2045X班のリーダーです。」 ミツオ「ミツオ・スワです。」 ロン「ロン・フランクです。」 ルーシャ「ルーシャ・メィリアです。」 一通り紹介が終わると、ロリーナは満足そうにうなずいた。 ロリーナ「結構。それではこれから、ミネルダ星に向います。ワープを繰り返すから、20分ほどで着くわ。」 彼女はそう言うと、パチンと指を鳴らした。 すると、空の彼方から宇宙船が飛んできたのだ。あまり大きくもないが、五人乗るだけなら十分だ。 着陸すると、自動で扉が開いた。 ミツオ「かっこいい〜。」 ロリーナ「さぁ、どうぞ。忘れ物がないようにね。」 ミツオ達は早速、乗り込む。中は思ったよりも広かった。 ロリーナ「好きな席について。シートベルトはしっかりね。」 ロリーナは操縦席についた。レバーを引くと、エンジンが作動する。 宇宙船は、徐々に陸から離れていった。懐かしの学校が、どんどんと小さくなっていく。 ミツオ(さようなら、バード星。ありがとう、ぼくらの学校・・・。) ミツオは目を閉じる。 バード星での思い出。悲しくて苦しくて、泣きたい時もあった。 しかし、とても楽しかったこの4年間・・・。 ミツオ(また戻ってこれるよね。バードマンになったら・・・。) 周りはいつの間にか、宇宙空間になっていた。 星を間近に見るのは今回で2回目だが、やはり驚きの声が隠せない。 ロン「わぁー、きれいだなぁ。」 ルーシャ「見て、バード星があんなに小さくなったわ。」 騒ぐ二人。ソフィは、彼らが提出したレポートに目を通している。 ミツオは・・・。 胸元に輝いていたロケットを、首から外して眺めていた。 中にはパー子(星野スミレ)の写真が、収められている。 勿論、同じ物がパー子の手にも渡っていた。お揃いで、留学前にバードマンからもらったのだ。 ロン「ミツオ、何してるんだ?」 突然横からロンに話しかけられ、ミツオは慌ててロケットをしまった。 ミツオ「驚いた〜。何でもないよ。」 ロン「・・・怪しい。素直に白状しろ!」 ロンを何とかごまかすと、ミツオは窓の外を眺めた。眩しく輝く、一つ一つの惑星。 この中に、地球もあるのだろう。 しばらくすると、前方に青色のホールが見えてきた。 ロリーナ「あれが架空宇宙の入り口よ。もうすぐ、ミネルダに到着するわ。」
新たに与えられた課題。 それらを乗り越えてこそ、平和を守り抜けるバードマンが誕生するのだ。 バード星での生活も、容易なものではなかった。 だが、それ以上の困難がこれから待ちうけているのであろう。 自分で考え、自分で行動する・・・。 それがどんなに難しいことなのかは、まだわからない。 架空の宇宙とはいえ、彼らにはその星の平和を守り抜く義務がある。
― 大丈夫、ぼくは負けない。どんなことがあろうと、皆と一緒に頑張ってみせる・・・・
新たな物語が、今、幕を開けた。
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