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1、新たな出発点

 

     一人の少年がいた。
   彼は正義感、使命感が強く、常に宇宙中の人々が幸せであることを願っていた。

   長い時間、正義のために、数え切れないほどの努力をしてきた。

   ― どうしたら、皆の役に立てるのだろう? どうしたら、宇宙を平和に保てるのだろう?

   

   彼は、ある星に留学し多くのことを学んだ。

   仲間もでき、毎日がとても楽しかった。

   しかし、ある時、思いがけない困難が彼らを襲った。

   ― 力を合わせるんだ! この宇宙を守るんだ! 

   

   少年は、やがて流れ星となった。

   宇宙の平和を守り続けることが出来る、流れ星に・・・。

 

     ★

   

   ミイナ「ねぇ、ママ。これ、ママがバード星に留学していたころの写真を収めたアルバムでしょう?」

   一人の女の子がいた。

   彼女の名は、ミイナ。母親はソフィ・アイリスという女性。夫との間に生まれた、一人娘だった。

   小さな腕には、赤いカバーがかけられたアルバムが抱きしめられている。

   ソフィ「まぁ、ミイナったら。それ、どこから持ってきたんですか?」

   ミイナ「掃除していたら、タンスの中から出てきたんだよ。この子が、昔のママなんでしょう。」

   ソフィ「・・・。」

   ソフィは本を読んでいた手を休め、アルバムを覗きこんだ。

   ミイナはグリーンの髪を二つに結んだ、女の子を指さしている。

   ソフィ「そう。よくわかりましたね。」

   ミイナ「わかるわよ。だって、今も昔もそう変わってないもの。」

   ソフィはため息をつく。

   ミイナ「ねぇ、お話して。ママは、どうやってバードマンになったの?」

   ソフィ「あなたが気にすることじゃないわ。」

   ミイナ「いいじゃない! だって、ママのことはぜぇ〜んぶ、知りたいんだもん。」

   ミイナは目を細めて、そう言う。

   彼女は、ソフィに似て可愛らしい女の子だった。笑顔を見せられると、どうにも断れない。

   ソフィはそんなミイナを見て、軽くうなずいた。

   ソフィ「わかったわ、話しましょう。そうね・・・、もう何年も昔の話になるわね・・・―。」

 

 1、

   

   ミツオ「終わった、終わった〜♪」

   弾むような明るい声が周りに響いた。

   ここは、バード星にある“バードマン養成学校”だ。

   各星から選ばれた、最優秀パーマンが、バードマンになるために勉強する施設だった。

   生徒はざっと、一万人を超えるであろう。

   ロン「ちょっと、はしゃぎ過ぎじゃないの〜。ミツオはおっちょこちょいなんだから、気をつけないと。」

   二人の男の子が、広い校舎の廊下を歩いていた。

   いや、そのうち一人は、スキップを踏んでいる。

   地球出身パーマン、ミツオだ。

   彼は足を止めると、振り返った。グレーの制服に身をまとったその姿は、以前地球でパーマンとして活動していた頃に比べ

   背も伸び、顔立ちも若干大人びていた。

   もう15歳だった。

   ミツオ「だって、嬉しいじゃない。もう勉強しなくても済むんだ。ついに、バードマンになれるんだよ!」

   ロン「気持ちは分かる。オレだって、勉強は好きじゃないしな。」

   ミツオの話し相手になっているのは、アリルネ星出身、ロン・フランクだ。

   ブラウンの髪、深緑の瞳。

   二人は留学初日に出会い、今や欠かすことのできない親友になっていた。

   ミツオ「なら、ロンも一緒に喜ぼう! さぁ、今から食堂でパーッと盛り上がろうじゃないか!」

   ロン「え〜!」

   ミツオはロンの手を取ると、食堂に向って走り出した。

   校舎の中に、鐘の音が響き渡る。

   

   今日は、バードマン養成学校の終業式だった。

   4年間の学業を終え、PB(見習いバードマンの略)達は、胸を躍らせている。

   無理も無い。

   ようやく、バードマンになれるのだ。

   今まで基礎知識として、毎日早朝からバード星の歴史と平和についての勉強と、厳しいトレーニングを重ねてきた。

   元々勉強も運動も苦手だったミツオは、この日をどれだけ待ち望んでいたことだろう。

   今日は、学校で生活する最終日で、終業式の後は自由休暇が与えられていた。

   しかし、その後のスケジュールは、まだ知らされていなかった。

 

   ミツオとロンは食堂に入った。

   大勢の人々で賑わっている。

   『さよならパーティー』という看板を立て、盛り上がっているグループもあった。

   ルーシャ「あっ。こっちよ、こっち!」

   部屋の隅のほうで、女の子が二人に手を振っている。

   ルーシャとソフィだ。

   彼女達を含め、ミツオは仲良し四人組と一緒にここで生活してきた。

   ミツオとロンはうなずきあい、そちらへ駆け出す。

   ルーシャ「ミツオくんたちも、何か食べに来たの? 学生生活最後の夕食だものね。」

   ニコリと笑うルーシャ。

   二人は、同じテーブルの空いている席に腰掛る。

   それぞれ好きなものを注文し、楽しいさよならパーティーは幕を開けた。

   ロン「ミツオが行こうっていうから。オレは、学校の中をもう一度散歩しようと思っていたんだけどね。」

   地球でいうスパゲッティに似たようなものを食べながら、ロンが言う。

   彼は散歩好きだった。と、言うより外へ出るのが好きなのだ。運動神経も良い。

   暇さえあれば、中庭をよく歩き回ったものだ。

   ミツオ「付き合い悪いな〜、皆で食べたほうがおいしいよねぇ?」

   ルーシャ「ロンにはロンなりの、楽しみ方があるのよ。」

   隣で答えるルーシャ。そして、少し悲しそうにソフィが言った。

   ソフィ「そうですね。でも、寂しいな・・・。これが、最後だなんて。」

   ・・・・。

   四人は黙り込む。

   そうだ。もう、皆で一緒に食べることはないんだ・・・。

   これからはバードマンとして、それぞれ個人で活動していく。

   ある星でパーマンを任命し監視することが主な活動だが、時にはパーマンセットや新しいパーマン用品を開発する手助けをしたり、

   時にはまだ未知の宇宙の調査に出かけたり、その仕事はさまざまなのだ。

   ミツオ「お、おいしいね。」

   場の空気を切り替えようとして、ミツオが言う。

   三人は苦笑いを浮かべた。

 

   その夜。

   ミツオは早めにパーティーを切り上げ、自分の部屋に戻ってきた。

   いつもは夜遅くまで起きていたら、ここの教師であるバードマンに叱られるのだが、今日は最終日として大目に見てくれているのだ。

   学校には寮が2館ある。

   大まかに、男子と女子で分けていた。

   部屋は無数にあり、二人一組で使用。ミツオとロンは同じ部屋だったということもあり、仲良くなったのだ。

   ランプのスイッチを入れ、ミツオは自分専用のクローゼットを開けた。

   学習用具や生活に必要な物、地球から持ってきた宝物などを収納している。

   ミツオ「やっと、帰れるんだ。ぼくの母星に・・・。」

   実は、まだ一度も地球に帰還したことはなかった。

   勉強が忙しく、それどころではなかったのだ。勿論、長期休暇もない。

   しかしバードマンになれば、いつでも好きなときに地球に戻れる。ミツオは、そう思っていた。

   ミツオ「コピー、元気にやってるかな。パーマン仲間には、ぼくがいないせいで大変な思いをさせちゃったかな。」

 

   ― 立派なバードマンになったら、きっと帰ってくるからね。

 

   そう宣言して、旅立ったあの日。

   まだ宇宙の広さを知らなかった、あの頃。

   ミツオ(ぼくは、もうバードマンだ。宇宙の平和を守ることが出来る、バードマンになったんだ・・・。)

   彼はクローゼットから一枚の写真を取り出した。

   地球で撮った、集合写真だ。

   パーマン1号とコピーを中心に、ミチ子、カバオ、サブ。ブービーにパー子、パーヤン・・・。

   皆が懐かしい。

   今すぐ、会いたい・・・。

   ミツオ「焦らなくてもいいさ。もうすぐ、帰れるんだから。」

   彼は写真を元に戻すと、ランプのスイッチを切って、布団に入った。

 

  2、

 

   翌朝。

   生徒達には久々に、ゆったりとした時間を与えられていた。

   バードマン養成学校では、地球時間で言う朝5時に起床しなくてはならない。だが、今日は特別だ。

   ミツオとロンも、まだ眠っていた。

   しかし・・・。

   ― ジリリリリ・・・

   突然、大きな音が寮全体に響き渡った。慌てて飛び起きる生徒達。

   ロンは、目を覚ました。

   ロン「ミツオ、ミツオ。起きてくれよ。」

   布団から這い出ると、彼はミツオの体を揺すった。

   ミツオ「う〜ん・・・。もう少し、寝かせてよ。」

   ロン「のんきなこと言ってる場合じゃない! このベルの音が聞こえないのか?」

   ミツオは渋々起き上がると、莫大な音に驚いた。

   ミツオ「どうなってるの!? 起床合図のベルが、どうして今鳴ってるんだよ?」

   その通り。

   普段、このベルは、寝坊した生徒を起こすために使われるものだ。

   今日は起床時間の制限はなく、昼間でならいつ起きようが自由のはず・・・。

   ロン「故障は考えられないな。システム制御万能な、このバードマン養成学校で・・・。」

   ミツオ「でも、確かに今日は・・・。」

   二人が焦っていると、ベルの音が消え放送が入った。

   ― 生徒の皆さん、おはようございます。大至急、制服に着替え、大ホールに集まりなさい・・・

   隣の部屋からも、驚きの声が聞こえる。

   ミツオ達はとりあえず、クローゼットから制服を引っ張り出して寝間着から着替えた。

   ロン「よくわかんないけど、素直に従ったほうがよさそうだな。」

   ミツオもうなずく。

   身支度を済ませ部屋を出ると、寮の廊下にはもう大勢の生徒達が集まっていた。

   皆、よくわからないまま走り出す。

   途中で合流したルーシャ、ソフィと共に、四人も大ホールへ向った。

   

   大ホール。

   主に集会や、会議を行う場所だ。昨日の終業式もここで行われた。

   一万人以上の人々が集まるので、暑いときには万能扇風機が自動で働く。

   不機嫌そうな生徒達の前に、学園長が現われた。

   学園長「お静かに。動揺する気持ちはよくわかります。貴方達は、おかしな勘違いをしているようですから。」

   いつもと同じく、冷静につぶやく学園長。

   一瞬として、大ホールは静まった。

   ミツオ達の学園長は女性だ。名は、ネイリラ・カリッサという。

   冷淡で厳しく、強大な権力を持っていると言えよう。

   頭の高い位置でくくった髪の毛には、宝石の髪留めが光っている。着ている制服も、丈が長く清楚なスカートだ。

   学園長「今、集まってもらったのは他でもありません。バードマンになるために受ける、実技テストについてです。」

   ・・・・。

   突然の出来事に、ミツオの頭が混乱する。

   静かだった大ホールは、またざわめきの声に包まれた。

   学園長「今まで貴方達は4年間、ここでバードマンに必要な事柄を勉強しました。しかし、知識だけでは足りないので

         す。実際に、それを生すことが出来なければ、意味がないのです。ですから・・・。」

   生徒「ち、ちょっと待ってください!」

   一人の生徒が立ち上がった。学園長は殺意をおびたような目つきで、彼を睨む。

   学園長「なんでしょうか?」

   一瞬戸惑ったその生徒だが、しばらく間を置くと続けた。

   生徒「そんなテストがあるなんて、聞いてません。」

   学園長「勿論、知らせていないからです。バードマンは何があろうと、冷静さを保たなければなりませんからね。」

   生徒「で、でも! 終業式もしたし、てっきりバードマンになれるのかな・・・と。」

   生徒の視線が、徐々に下がってくる。

   学園長「それは、貴方達が勝手に思っているだけです。確かに終業式はしました。昨日は自由時間も与えました。し

        かし、もうバードマンになれるとか、今日は休みだとか、そんなことは一言も言ってません。」

   確かにそうだ・・・。

   ほとんどの生徒が納得する。

   生徒「そ、そんなのって・・・!」

   学園長「何か文句がありますか? テストが嫌なら、貴方を即刻、母星に送り返してさしあげましょう。」

   ・・・鬼だ。

   生徒「・・・。」

   その生徒は渋々と、しゃがみ込む。

   学園長「いいですか。バードマンになるということは、貴方達が思っているほど簡単なことではないのです。長年の

        努力を積み重ねてこそ、立派なバードマンが生まれるのです。」

   ・・・・。

   生徒達は、ポカンとして見ているしかなかった。

   学園長「貴方達には実技テストを受けてもらいます。どんなに成績優秀のPBでも、実際にバードマンになると、

         ヘマばかりして、簡単にその星の平和を破壊してもらっては、困りますからね。」

   ・・・・。

   学園長「今から簡単に、テストについての説明をします。前を見なさい。」

   すると突然、目の前に大スクリーンが現われた。しばらくして映し出される、細かい文字・・・。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   【PB実技テストについて】

   立派なバードマンになるためには、知識だけではなく、それを実際に生かすための能力が必要となります。

   バード星東部にある“架空宇宙”で、3年間の実技テストを受けてもらいます。

 

   ●架空宇宙とは

   バード星が発明した、架空世界の宇宙のことです。

   PBがバードマン修行をするために、開発されました。

   ブルーホール(※)が入り口となり、中には数多くの架空惑星が存在します。

   各グループ(※)で、一つの惑星についてもらい、そこでパーマンをつくるのです。

   バード星本部からの指示は一切ありません。

   自分達で考え、自分達で行動し、その架空惑星を3年間平和に保ちなさい。  

   尚、パーマンの死や星全体の平和を乱すなど、大変大きな過ちを犯した場合は、PB失格となり母星に送り戻されま

   す。    

   ※ブルーホール・・・バード星東部にある、ブラックホールのブルーバージョン。バード星がこのために、

               後でつくったもののこと。架空宇宙の入り口となる。

    ※各グループ・・・バード星に留学した初日に結成された、四人グループ。主に年齢別で分けられている。

              ミツオはロン、ルーシャ、ソフィがメンバーの2045X班で、ソフィがリーダーとなっている。

    

    ●架空惑星とは

   架空宇宙の中にある、生態系が生息する架空の惑星。

   それぞれの星では、そこに住む住人達が固有の文化を営んでいます。

   例え架空の世界の人物とはいえ、傷つけたり死なせたりしてはなりません。

   その星は、本物の生命体が存在する星だと思い、全力で平和を守り抜きなさい。

 

   ●パーマンについて

   パーマンの人数、年齢などについての制限はありません。

   パーマンとしての能力に優れた人材を選ぶこと。一歩間違えれば、世の中に悪魔を誕生させるようなものです。

  

   (以下省略)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

   全て読み終わった生徒達も、呆然としている。

   やっと、バードマンになれる・・・―

   そんな期待が、一瞬の内に崩れ去ったのだ。

   学園長「どのグループがどの星につくかは、私達のほうで選ばせてもらいました。その星と、実技テストについてさらに

   詳しく書かれたプリントを、各グループのリーダーに後ほど送らせてもらいます。」

   リーダー達は、しずかにうなずいた。

   いや、うなずくことしかできなかったのだ・・・。

   学園長「出発は正午です。それまでに、自分の荷物をまとめ離陸できる準備を整えなさい。それでは、解散!」

   ・・・・。

   学園長は早い足取りでホールを後にした。

   ミツオは、隣にいたロンに話しかける。ロンの表情は、驚きの色で染まっていた。

   ミツオ「本気・・・かな?」

   ロン「冗談だと思う・・・?」

   ミツオは首を振る。

   ― こんな試練が待っていたなんて・・・!

   生徒達は、思いもしなかった過酷な現実に肩を落とした。

   “人生、そう甘くない”

   こんな言葉が、身にしみる・・・。

 

  3、

   

   それから生徒達は、フラフラとした足取りで自分達の部屋に戻った。

   まだ夢を見ているような心地だ。

   ミツオもボーッとしたまま、バッグに荷物をまとめる。

   正午まで、あと3時間ほどしかない。

   ロン「あーぁ、現実って厳しいねぇ。やっとバードマンになれると思ったのに。」

   ミツオの後ろで、ロンがつぶやく。

   ミツオ「でも、学園長さんが言うことも尤もだよ。知識だけじゃ、行動できないかもしれないね。

        実際にバードマンになったとき、頭が混乱して、慌てちゃうんじゃないかな。」

   ロン「まぁ・・・ね。慣れが必要だってことか。」

   整理していた手を止め、ベッドに寝転がるロン。

   ロン「昨日盛り上がった、さよならパーティーも意味のないことだったな。」

   ミツオ「そんなことないさ。ぼく達はあと3年間は一緒だけど、この学校とはもうおさらばなんだから。」

   ロン「・・・なぁーんか、冷静だね。ミツオなら、もっと慌てるかと思った。」

   ミツオ「そうかな?」

   彼はニッコリ笑うと、ベッドで寝そべっているロンを見た。

   ミツオ「とにかく頑張ろうよ。今までは勉強、勉強の毎日だったけど、これからは仮にだけど、実際にパーマンをつくって指導するこ

        とができるんだから。楽しそうじゃない。」

   テストとは言っても、バードマン体験ができるのだ。

   そんな期待の気持ちがあったから、そう慌てずに済んだのかもしれない。

   ロン「そうだよな、やるからには力の限り楽しんでやらなくちゃな。ミツオ〜、いいこと言うじゃないか!」

   ミツオ「だけど気楽過ぎるのも、いけないよ。失敗したら、母星に送り返されちゃうんだから。」

 

   ― すいません、テストに落ちて送り戻されました。

   ― え〜、かっこわるい!

   ― ミツ夫はんを行かせたのは、間違いやったな。

   

   ミツオ(それだけは避けたい・・・!)

   コピーやパーマン達から冷たい視線を向けられている自分を想像し、ミツオは身震いした。

   そのとき。

   ― ピピピピピ・・・

   二人のパーマンバッチが鳴り響いた。ルーシャとソフィからだ。

   ミツオ「はい、ミツオ。」

   ソフィ『ソフィです。今すぐロビーに来てください。』

   ミツオ「了解。」

   二人は顔を見合わせると、部屋にロックをかけロビーへ向った。

   生徒達の間では、異性の寮に立ち入ることが禁止されている。

   だが、その中で唯一会うことが認められているのが、このロビーだ。

   調度男子と女子の寮の中間にある。

   ロン「オレらが受け持つ星のデータが、送られてきたのかな。」

   ミツオ「たぶんね。」

   二人はロビーに入った。ソフィ達を見つけると、そちらに駆け出す。

   ルーシャ「行く星が決まったわ。“ミネルダ星”ですって。」

   待ちくたびれたかのように、ルーシャが話した。

   ミツオ「ミネルダ? どんな星なの。」

   ソフィ「海洋といくつかの大陸が存在する星みたいです。空気は、バード星本部のほうで調節されています。人口、約13

       億人。そこまで大きくもないですね。」

   彼女は送られてきた資料を見ながら、そう答えた。

   ミツオ(ふうん。人口は中国と同じくらいってことか・・・。)

   ソフィ「文化は、ミツオくん出身の地球と似ているようです。生息する生命体は、主に私達と同じ人間ですね。」

   ロン「動物とかは?」

   ソフィ「存在します。住民の知能レベルもそう高くはないですが、それなりの技術は持っているようです。」

   なるほど・・・。

   三人はうなずく。

   ルーシャ「そうそう、私達はどこで生活すればいいの?まさか、いちいちバード星から通うなんてことは・・・。」

   ソフィ「それは大丈夫です。その星のどこかに、PBが暮らすための施設があるそうなんですが・・・。」

   ソフィは資料をパラパラとめくった。だいぶ分厚いので、探すのに一苦労だ。

   ソフィ「あ、ありました。アロディーテと呼ばれる大陸の中ですね。」

   ミツオ(どうも、日本以外の星や大陸の名前は、ややこしいんだよね〜・・・。)

   ミツオは心の中でつぶやく。

   ルーシャ「架空の大陸にも、ちゃんと名前がついているのね。」

   ロン「一応、生命体が住んでるもんな。バード星が勝手にプログラムしたとはいえ。」

   三人はうなずいた。

   ソフィ「皆さんの分も、コピーしておきました。出発までに、一通り目を通してくださいね。」

   三人「うへぇ〜。」

   ややこしい資料の山を、彼女は笑ってそれぞれに手渡した。ズシッと重い。読み終わるのに、何時間かかることやら。

   ソフィはいいさ。成績優秀な、才女なんだから・・・。でも、ぼくらにとっては・・・。

   そんなつぶやきが、彼らの口から漏れてきそうだ。

   ソフィ「読み終わったら、ミネルダ星についてまとめたレポートを提出すること。最低でも、原稿用紙5枚分。できなかっ

       たら、そのときは三日間、ご飯抜きです!」

   ロン「えっ。な、なんでそんなことを・・・!」

   ソフィ「そうでもしなくちゃ、貴方達が資料を読むとは思えませんから。」

   そう言って、ソフィはニッコリ笑った。

   いつもは可愛らしい彼女の笑顔も、今は悪魔が気味悪く笑っているように見える・・・。

   それに、彼女以外で料理を作れる人はいなかった。ミネルダに行ってからは、四人が自分たちだけの力で生活していかなくては

   ならないのだろう。

   提出できなければ、確実に三日間は断食となる。

   三人「・・・・。」

   三人は、おずおずとその場を去った。

   

 4、

 

   時間がせまってきたころ。

   ミツオ達は、いつでも出発できるように準備を整えた。

   残った時間は、課題であるレポート作成につかっている。

   こういったことが苦手なミツオとロンは、部屋でうめいていた。

   ロン「えっと、ミネルダ星は食糧が豊かで自然に恵まれた星であり・・・・。」

   せっせと鉛筆を動かしながら、つぶやくロン。

   ミツオも、資料とにらめっこをしていた。

   ミツオ「難しいなぁ・・・。何が書いてあるのか、さっぱりわかんないよ。」

   ロン「とりあえず、まるごと写しとけばいいんじゃないか? ほら、あと1時間しかない・・・。」

   ソフィを怒らせると怖い。

   そのことは、4年間も付き合ってきた二人だからこそ、よくわかっている。

   ミツオ「でもさぁ、こんなことして意味があるのかな?」

   ・・・・。

   少し間を置いてから、ロンは答える。

   ロン「あるんじゃないかな。ミネルダのことが、よくわかるし・・・。」

   ミツオ「でも学校に提出するわけじゃないんでしょ? あーぁ、やる気でないなぁ。」

   ロン「ミツオは勉強になると、いつだって、やる気がないくせに。」

   ロンが笑う。ミツオは不機嫌になり、素直に鉛筆を手にした。

   ロン「書くの?」

   ミツオ「三日間の断食という、過酷な運命を辿らないためにもね。」

   苦笑するロン。

   ミツオ達はなんとかレポートを提出し(と言っても、ほとんど資料の丸写しだが)、無事断食は逃れたのだった。

     

   ついに正午。

   ミツオはカバンを背負って、部屋を見渡した。

   4年間という長い間、生活してきたこの部屋とも、もうお別れだ。

   ロン「行こうぜ、ミツオ。」

   ミツオ「うん。」

   ミツオ(今までありがとう・・・。)

   彼は頭を軽く下げると、静かにドアを閉めロックをかけた。

   

   ルーシャ「ミツオ、ロン。こっちよ〜!」 

   寮の前には、既にルーシャとソフィの姿があった。

   周りには、他のグループの人達も大勢集まっている。

   ミツオ「いよいよだね。」

   ロン「期待もあるけど、不安だな。」

   ソフィ「大丈夫ですよ。四人一緒なら、きっと楽しくやっていけます。」

   ミツオはうなずき、寮を見上げた。

   今日は良い天気だ。

   新たな課題に挑戦するPB達を見送っているような、すがすがしいバード星の空・・・。

   しばらくすると、四人の前に一人の女性が現われた。

   女性「はじめまして。2045X班ね。」

   ソフィ「そうです。」

   リーダーであるソフィが答える。

   他の三人は、その女性の美しさにみとれていた。

   きれいなロングヘアの髪を、風になびかせている。声も透き通ったソプラノだ。

   身を包んでいる制服から見て、バードマンなのだろう。

   ロリーナ「私はあなた達のグループを担当する、ロリーナ・カルチャーといいます。よろしくね。」

   原則として各グループに一人、担当バードマンがつけられるのだ。

   ミツオ達は優しそうな女性で、安心した。

   ソフィ「こちらこそ、よろしくお願いします。」

   ロリーナ「聞いた通り可愛らしいお子さんたちね。困ったときは、なんでも相談してね。」

   ロン「も、勿論です!」

   思わず叫んでしまったロンは、恥ずかしそうにうつむく。

   三人は、軽く笑った。

   ロリーナ「元気な子ね。じゃぁ、一人ずつ名前を名乗ってもらおうかしら。」

   ソフィ「ソフィ・アイリスと申します。2045X班のリーダーです。」

   ミツオ「ミツオ・スワです。」

   ロン「ロン・フランクです。」

   ルーシャ「ルーシャ・メィリアです。」

   一通り紹介が終わると、ロリーナは満足そうにうなずいた。

   ロリーナ「結構。それではこれから、ミネルダ星に向います。ワープを繰り返すから、20分ほどで着くわ。」

   彼女はそう言うと、パチンと指を鳴らした。

   すると、空の彼方から宇宙船が飛んできたのだ。あまり大きくもないが、五人乗るだけなら十分だ。

   着陸すると、自動で扉が開いた。

   ミツオ「かっこいい〜。」

   ロリーナ「さぁ、どうぞ。忘れ物がないようにね。」

   ミツオ達は早速、乗り込む。中は思ったよりも広かった。

   ロリーナ「好きな席について。シートベルトはしっかりね。」

   ロリーナは操縦席についた。レバーを引くと、エンジンが作動する。

   宇宙船は、徐々に陸から離れていった。懐かしの学校が、どんどんと小さくなっていく。

   ミツオ(さようなら、バード星。ありがとう、ぼくらの学校・・・。)

   ミツオは目を閉じる。

   バード星での思い出。悲しくて苦しくて、泣きたい時もあった。

   しかし、とても楽しかったこの4年間・・・。

   ミツオ(また戻ってこれるよね。バードマンになったら・・・。)

   周りはいつの間にか、宇宙空間になっていた。

   星を間近に見るのは今回で2回目だが、やはり驚きの声が隠せない。

   ロン「わぁー、きれいだなぁ。」

   ルーシャ「見て、バード星があんなに小さくなったわ。」

   騒ぐ二人。ソフィは、彼らが提出したレポートに目を通している。

   ミツオは・・・。

   胸元に輝いていたロケットを、首から外して眺めていた。

   中にはパー子(星野スミレ)の写真が、収められている。

   勿論、同じ物がパー子の手にも渡っていた。お揃いで、留学前にバードマンからもらったのだ。

   ロン「ミツオ、何してるんだ?」

   突然横からロンに話しかけられ、ミツオは慌ててロケットをしまった。

   ミツオ「驚いた〜。何でもないよ。」

   ロン「・・・怪しい。素直に白状しろ!」

   ロンを何とかごまかすと、ミツオは窓の外を眺めた。眩しく輝く、一つ一つの惑星。

   この中に、地球もあるのだろう。

   しばらくすると、前方に青色のホールが見えてきた。

   ロリーナ「あれが架空宇宙の入り口よ。もうすぐ、ミネルダに到着するわ。」

   

   新たに与えられた課題。

   それらを乗り越えてこそ、平和を守り抜けるバードマンが誕生するのだ。

   バード星での生活も、容易なものではなかった。

   だが、それ以上の困難がこれから待ちうけているのであろう。

   自分で考え、自分で行動する・・・。

   それがどんなに難しいことなのかは、まだわからない。

   架空の宇宙とはいえ、彼らにはその星の平和を守り抜く義務がある。

 

   ― 大丈夫、ぼくは負けない。どんなことがあろうと、皆と一緒に頑張ってみせる・・・・

   

   新たな物語が、今、幕を開けた。

  

 

 

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